魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第18話 【魔法少女の迷走】2

「セレナちゃん!」

 

 怪人の奇襲を予期していた私は迎え撃つように素早く跳躍、鉈取り出しながら空中でゴリラ怪人の首を撥ね飛ばす。

 更にちょん切られたゴリラ怪人の体を蹴って向きを変え、蝶怪人の首を撥ね飛ばす。

 悠長に着地しようとしてた怪人二人を出オチさせると、着地の前にひょいと鉈を投げて、部屋に擬態して機会を窺っていたカメレオン怪人の眉間をかち割った。

 

「こりす、残りは対処しておきました。と、言っても一人しか居ませんでしたが」

 

 私が振り返ってセレナちゃんの様子を確認すれば、セレナちゃんから切り替わったラブリナさんが杖剣で怪人を真っ二つに両断していた。

 怪人は既にほとんど黒い煙になっていて、なんの怪人だったのかはわからない。

 

「ほほう。よく切れる懐刀をお持ちだとは聞いておりましたが、これほどまでとは……」

 

 私達がさっくりと怪人を倒す姿を目の当たりにして、白鳥さんは呼び鈴を手にしたまま、驚きに目を丸くしていた。

 

「そんなものは持っていませんよ。さっき言った通り、私とこりすちゃんは主従や利害関係の一切ないお友達で親友です。ね、こりすちゃん」

「うん、そうだね」

 

 私はセレナちゃんの言葉に頷く。

 私達は少し特殊な関係ではあるけれど親友なのは間違いない。普通のお友達や親友は、こんな危険な修羅場に案内しちゃいけないし。

 

「なるほど、利害関係のない親友ですか。私にはついぞ縁のなかったものですな」

 

 そんな私とセレナちゃんを見て、白鳥さんが寂しげな顔をする。

 

「え、ええと……。白鳥さん、最初から私達に怪人を処分させるつもりでしたよね? 監視の目を消して話したいことってなんですか」

「ふむ、流石はセレナ様のご友人。いい目をしている」

 

 白鳥さんは感心した顔で私を凝視すると、胸ポケットから取り出した分厚い手帳を机の上に置いた。

 

「セレナ様、私が黒薔薇の鍵守やクロノス社に援助をしていたのは事実。天空樹でダン特に密告したのも私です。……そこで彼等の情報を対価に、私の頼みを一つ聞いていただきたい」

「内容によります」

「当然ですな」

 

 白鳥さんは小さく頷いて、机の上に置かれた手帳を開く。

 

「この少女、名をファンヌと言います。彼女を止めていただきたい」

 

 開かれた手帳には写真が挟まっていて、白鳥さんと赤茶色の髪をした女の子がテーマパークでピースしていた。

 あっ、白鳥さんネズ耳のカチューシャ着けてる……。って、そこじゃない! この女の子、昨日天空樹で戦った黒晶石の魔王!

 

「怪人達と一緒に居た黒晶石の魔王ですね」

「ほう、そこまでご存知ならば話は早い。彼女は白鳥ファンヌ。名義上は私の養子となっている少女で、魔法少女に変身できる素質を持っています。……十年前、鍵守からの技術提供の対価として預かりました。黒晶石の魔王とやらに育てるためだそうです」

 

 十年前なんて私が魔法少女として活動し始めたばかりの頃だ。鍵守達はかなり昔から遠大な計画を立てていたらしい。

 

「魔王を育てる……。俄かには信じがたい言葉ですね」

「私は特別なことはせず、普通に娘として接していただけです。彼等曰く、光に生じた影ほど深い闇となるそうですから」

「つまり、後で歪めるために普通の子として育てたってこと?」

 

 最低だ。思わず敬語も忘れ、不快感が顔に出る。

 憤る私を見た白鳥さんは何故か少し微笑み、話を続けていく。

 

「昔の私は白鴎院を越えたくて足掻いていました。それが多少非合法的であったとしても気にもしない。そんな私としては非常に利益のある話に見えたものです」

「よくある話ですね」

「ええ。今になって思えば、そんなもので白鴎院本家を越えられるはずもなかろうに」

 

 二人はさも当然のように語ってるけど、白鴎院家界隈じゃない私的にはドン引きな会話だ。

 

「ファンヌはやんちゃな子でしてな。最初は執事達に面倒を任せようとしたのですが、結局私も大いに手を焼く羽目になった。実に困った子でしたよ」

「え、ええと、廊下にあった魔法少女グッズもファンヌちゃんの?」

「あの子は魔法少女の素質もあるが、それ以上に魔法少女に憧れていてね。私まで巻き込んであれやこれやと大騒ぎ、私の家も世界も好き放題されてしまった」

 

 心なしか楽しそうに語る白鳥さん。きっと、白鳥さんにとってファンヌは大切な存在だったんだろう。

 この人が本当に頼みたいこと、ようやく理解できた気がする。

 

「皮肉なものですね。魔法少女に憧れたファンヌさんは、魔法少女の敵になるべく育てられていただなんて」

「全くです。約束通りファンヌは鍵守に連れ去られ、静か過ぎる家に残された私は、己がした選択の意味をようやく理解し、後悔した。私はファンヌを逃がすために盾となり、好きに生きなさいと言ってやるべきだったのではないか、今もそう思い続けているよ」

 

 遠い目をしながら語る白鳥さん。

 その声音には、嘘偽りのない悔恨が含まれていた。

 

「だから、せめてもの代わりとして、ファンヌちゃんを止めて欲しいんですね」

 

 私の言葉に白鳥さんが頷く。

 

「若い君達にはわからないかもしれんがね。この年になるとしばしば過去を振り返り、今両手に抱えているものと零れてしまったものを比べてしまうんだよ。私にとって、今この手に残っているものは、彼女の存在と等価値ではなかったんだ。……もう後の祭りだがね」

「……なら、なんで止めて欲しいなんて言うんですか?」

 

 寂しげな顔で語る白鳥さんを見て、私は思わずそう言った。

 

「それはつまり……?」

「白鳥さんが頼みたいのは"止めて欲しい"じゃなくて"助けて欲しい"、ですよね?」

 

 白鳥さんはファンヌに会うため、わざわざモンスターが闊歩する天空樹まで赴いていた。

 それなのにどうして止めて欲しいなんて諦めた言い方をするんだろう。どう考えたって助けて欲しいが正しいに決まってる。

 

「だが……。そんなことを誰かに頼めるはずが」

「そこはなりふり構わず頼む場面だと思います。ね、こりすちゃん」

「うん。そもそも、後の祭りかどうかはまだわからないんだから」

 

 微笑むセレナちゃんに、私は力強く頷く。

 こんな時、私は絶対に助ける。セレナちゃんはそんなこと百も承知なのだ。

 

「そうか、そうですな……。独りで思いつめていると、そんな当然のことすら思い至れなくなる。あの子と一緒にいた時間が長くて、すっかり忘れてしまっていたよ」

 

 白鳥さんは少し自嘲した後、覚悟を決めた顔になって

 

「お願いだ、どうかファンヌを助けてやって欲しい」

 

 私達に深々と頭を下げた。

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