魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
その後、白鳥さんから知る限りの情報を聞いた私達は、ダンジョン庁の緊急対策本部が設置された天空樹付近のビルへと向かっていた。
丁度、天空樹前を通りかかった時、私達は空からモンスターに襲撃された。
「セレナちゃん、上!」
私はセレナちゃんに危険を促しながら臨戦態勢を取ると、そのまま空から降って来た大入道みたいなモンスターの首を撥ね、続いて降って来たかまいたちみたいなモンスターを輪切りにする。
「……このモンスター、飛行する種ではないですよね」
「うん、そうだと思う。妖怪系だから絶対にとは言えないけど……」
妖怪系怪人は妖力的なものでビュンビュン飛び回るから断言し難いけれど、このモンスターは落下してきた感じだった。多分、飛ばないタイプだと思う。
黒い煙をあげるモンスターの横、私は足を止めて周囲を警戒する。でも、付近に他のモンスターが潜んでいる気配はなかった。
「天空樹付近のビルに昨日のモンスターが逃げ込んでいたんでしょうか?」
「違うわ。そのモンスターは天空樹の黒晶門から出てきたばかりよ」
揃って首を傾げる私達の前、青い髪の女の子がやってくる。ダン特兼任の魔法少女ナナミちゃんだ。
「あ、ナナミちゃん、お仕事お疲れ様。なんだかお疲れモードみたいだね」
「ええ、見ての通りの惨状だもの、昨日から休みなしよ。アンタ達はタフよね、昨日の今日で平常運転じゃない」
お疲れのナナミちゃんが、呆れた顔でエナジードリンクを手渡してくれる。
あ、嬉しい。ありがたくいただいちゃう。
「ナナミさん、天空樹の黒晶門からとはどういう意味ですか?」
「そのままの意味よ。悪いのだけれど、鳳仙長官の所へ行く前に少し手を貸してちょうだい。ダンジョン庁の観測通りだと一波くるはずだから」
言いながら、ナナミちゃんが私達を先導し、天空樹の方を指差す。
その言葉通り、空に入った黒い縦線が揺れ、そこから何体ものモンスターが降ってきた。
『ガハハハ! む……グゲェア!?』
降ってきた青鬼の首筋に宿り木の黒晶石があることを確認し、私は黒晶石諸共に鬼の首を撥ね飛ばす。
『おい、貴様ッ! せめて話ぐらい……』
自分の隣で首が跳ね飛んだことに動揺する赤鬼。
このモンスターにも後付け黒晶石が着いている、宿り木怪人だ。
「どうせ、ろくなこと言わないでしょ」
そこまでわかっていればもう十分。
私は尻尾を巻いて逃げ出そうとする赤鬼の首を容赦なく斬り飛ばした。
「アンタ、容赦なさに磨きがかかってるわね。ねねみたいで正直ドン引きよ……」
私が近くに降ってきたモンスターを倒し終えると、他のモンスターを受け持っていたナナミちゃんが、少し引きつった顔で言う。
「宿り木達のやり口は十分知ってるし、万が一にも逃がしたくないから」
「アンタね、もういいわ……」
「うーん、なんと言うか……。私は気にしませんよ、こりすちゃんらしいですから」
更にドン引きするナナミちゃんに、言葉を選んでフォローしてくれるセレナちゃん。
私だって好き好んでこの戦闘スタイルをしているわけじゃない。変身していない私は弱いから、相手の隙を衝いて、さっさと弱点を一撃必殺するしかないのだ。
「こんこ、こんこ。見惚れるような動きの者が居ると思えば、やはりネジがイカれた小娘か。白鴎院の用事は済んだようじゃな」
私がちょっぴり不服に思っていると、今度はリオちゃんとミコトちゃんを引きつれたカレンがやってくる。
「鳳仙長官! この辺りはまだ危険地帯です、黒晶門の再破壊が済むまで近づかないでください!」
「大丈夫だって、ナナミ。この人、この場に放置しても死なないから。どう見てもそう言うタイプじゃん」
「無論じゃとも。妾とてダンジョン長官として最低限のレベルは持っておる。お主達の足を引っ張るような愚鈍な真似はせぬぞ」
ナナミちゃんの苦言を、カレンがそう言って笑い飛ばす。
普段は正体を隠しているけれど、カレンは強い妖狐怪人なんだから当然だよね。そこは今更として、私が今気になるのは黒晶門の方だ。
「ねえ、ナナミちゃん。黒晶門って昨日エリュシオンが破壊したんじゃなかったの?」
「確かに破壊されたわ、でも既に再生しているの。流石に今回は昨日ほどの大規模侵攻じゃなかったから、私達だけで十分対処可能な範囲だったけれど」
そう言うナナミちゃんの後ろ、ビルの上から特大の火球や雷撃が次々と打ち込まれ、黒晶石であろう空に入った黒い線が破壊されて消えていく。
「うむ、ダン特の魔法攻撃による破壊を確認した。これで暫くは大丈夫じゃろう」
「全く大丈夫ではありませんわ。これでは毎日一方的に攻められるだけですわよ」
私達が揃って空を見上げていると、身の丈程もある大鎌を担いだクライネが、ビルの上からひょいひょいと軽やかに飛び降りてくる。
「あ、クライネも来てたんだね」
「ええ。こりす達が出かけた後、リオとミコトに連れてこられましたの。これは扉守の管轄ですから仕方ありませんけれど、寝不足になってしまいそうですわぁ」
束の間の平穏を取り戻した天空樹を見上げ、クライネはふあと小さくあくびをした。
「ということは、かなり早い段階で再生が開始していたんですね」
「私達がここに到着した頃には、既に目に見えるほど再生していたのです!」
バンザイみたいなポーズで一大事アピールするミコトちゃん。
その動きに合わせて、取り返した宝珠の入った巾着が揺れる。
二度と盗られないように肌身離さず持ち歩いているんだろうけれど、元々ミコトちゃん自体が狙われやすい存在。これって、葱を背負った鴨さんが自分でだし汁を作ってる状態ではなかろうか。
私がミコトちゃんの安全に目を光らせておかないと危なそう。気をつけなきゃ。
「そうなんだ……。深層"怪人達の巡礼道"にある黒晶門も、こんなに早く再生していたの?」
「いいえ、今までの再生速度はこんなに早くなかったわ。ルミカ達がエリュシオンと黒晶門を破壊した時、付近にライブカメラを設置していたの。だからその情報を基に対策をしていたのだけれど……」
「今回の黒晶門は想定よりも早く再生しているんだね」
私の言葉にナナミちゃんが頷く。
「昨日、巡礼道から出てきた怪人達を迎え撃ったが、どうやらそちらの黒晶門も活性化しておるらしい。門の繋がる先、裏界とやらで何かが起こっているであろうな」
「そのことですが、鍵守に協力していた人間のリストと一緒に、計画の内容もわかる限りで聞いてきました。鍵守が人間に計画の全貌を教えているとは思えませんが、指針を立てるのには役立つと思います」
そう言って、セレナちゃんが白鳥さんから聞いた事情と情報を話していく。
ただ、その内容は鍵守の協力者は誰なのかがメインで、肝心の企みついてはひどく曖昧だ。裏界に魔王となったファンヌを連れ込んで、天空樹に干渉するための何かを作っている。その程度のことしかわからない。
セレナちゃんが言っていた通り、鍵守にとって協力者は使い捨ての道具扱いだったんだろう。
「なるほどの。協力者連中は後で始末をつけるとして、妾の遊び場から楽しそうな玩具を奪ったのは心底許しがたい」
「つまり、ファンヌは鍵守連中に利用されるために育てられてたってわけね。はっ、連中最低なことしてくんじゃん」
話を聞き終えたカレンが不愉快そうに鼻を鳴らし、リオちゃんも苛立った顔になる。
「クライネ、天空樹に居たファンヌは魔王の体だから本体じゃないよね」
「そうだと思いますわ。本体の場所に心当たりはありますの?」
「白鳥さんの話を聞く限り、アンジェラがクライネの本体を乗っ取っていた間に、裏界へと搬入されている可能性が高い。私はそう考えてるよ」
「はい、私とラブリナさんもこりすちゃんと同意見です。天空樹に魔王ファンヌが現れたことからも、本体があるのは裏界。それも天空樹の黒晶門に干渉しやすい付近にある可能性が高いと思います」
「まあ、面倒ですこと」
私とセレナちゃんの言葉を聞いて、クライネの尻尾がぱったんぱったんと激しく揺れる。猫の不機嫌モードだ。
「白鳥の言葉が真実なら、天空樹に干渉するための何かは楽園の扉の近くにあると思うのです!」
「天空樹の裂け目からラブリナさんの一部も出てきていたし、きっとそうだね。クライネ、場所はわかる?」
魔王クライネは深層"怪人達の巡礼道"にある黒晶門から出てきたことがある。
少なくとも巡礼道へと通じる黒晶門の場所は知っているはずだ。
「ええ、わかりますわよ。流石にわたくし一人で止めて来いと言われても困りますけれど」
「つまり……裏界への扉を開いて、私達が行くしかないってことだね」
「そうなりますわ。ただし、封じられた扉を開ける以上、場凌ぎでは許されません。こりす、貴方はちゃんとその覚悟ができていますの?」
「当然だよ。ラブリナさんも覚悟はできているよね」
私は迷いなく頷き、ラブリナさんの覚悟を確認する。
裏界の扉を封じている白い輝石がなくなってしまえば、近いうちに怪人やモンスター達を封じきれなくなる。
その前に宿り木、そしてラブリナさん、全ての決着をつけなければならない。そんなことは百も承知だ。
「はい。私とセレナも覚悟はできています」
ラブリナさんは胸に手を当て、神妙な面持ちで頷いた。
「那由多会の宝物でエリュシオン様に仇なすことは許されないのです! 天誅なのです! 皆で行って、最高戦力で一気にカタをつけるのです!」
相変わらず危なっかしいことを口走って、むふーと意気込むミコトちゃん。
「ところが、話はそう容易くいかぬ。ねねやルミカ、セブンカラーズの魔法少女は街から動かせん。見ての通り黒晶門の再生が早い、対応できる戦力を常駐させねば連中の進行を押さえきれぬ」
「相手は二方向から攻めてくるし、魔法少女は一度変身したら魔力が回復するまで再変身できないもんね」
「それに裏界って怪人の跋扈する未知エリアなんでしょ? あまり大勢で行ったら、パレードのように黒晶石を引き寄せるんじゃないかしら」
「むむー、確かにそうなのです……。そう上手くはいかないのです」
意気込んで早々に出鼻を挫かれ、ミコトちゃんがしょんぼりとうな垂れる。
「大丈夫だよ、ミコトちゃん。私達は最初から少数突破するつもりだったから。カレン、私達の突入にルミカちゃんとねねちゃんのスタンバイを合わせて欲しいんだけど、最速のタイミングはいつになる?」
裏界での戦闘が激化した時、黒晶門のある天空樹周辺に影響を及ぼす可能性は高い。
ねねちゃんやルミカちゃんには即応できる状態でいて欲しい。
「くふふ、お主はこの状況でも冷静に物を見ておるの。明日の朝にはシフトを調整しておけるぞ」
「わかった。私達が裏界に行くのは明日の朝、それでいいね?」
「はい、それが最善だと思います。黒晶門の再生速度もそうですが、怪人達が再び大規模侵攻を始める前に決着をつけないといけませんから」
「私もそれで大丈夫なのです!」
私達は裏界への冒険準備をするために解散し、ナナミちゃんは黒晶門の防衛監視に戻っていく。
けれど、リオちゃんだけはその場に残っていた。
「あれ、リオちゃんは準備に行かないの?」
「んー、こりっちゃん達は先に帰ってて、ウチはちょっと鳳仙長官と話あるからさ。んで、多分後でこりっちゃん家行く」
真剣な顔をしたリオちゃんが、手をひらひら振って、先に帰ってくれと促してくる。
「こりす、放置しても大丈夫なのです。あれは思いつめているのではなくて、覚悟を決めただけなのです」
なんだろうって私が首を傾げていると、ミコトちゃんが私の手を引っ張ってそう教えてくれる。
「そうなの?」
「そうなのです。むしろ、気にかけておくのはラブリナの方なのです。こりすもちゃんと気にかけておくのですよ」
神秘的な微笑みを浮かべ、諭すように言うミコトちゃん。
以前からそうだったけれど、ミコトちゃんは人をよく見ていて機微に敏い。
「うん、そうだね。これから先の戦いは、ラブリナさんにとって思うところが多分にあるだろうから」
「それがいいのです。きっと、それはこりすにとっても必要なことなのです」
人の心を見透かすような瞳を向けるミコトちゃんに、私はその通りだと頷いて感謝する。
そう、これは私達にとって一つの決着となるはずの冒険。私もちゃんと気持ちの整理をしておかなければいけない。
……でも、これだけ人の気持ちがわかるミコトちゃんなのに、どうして毎度毎度人の心がない行動が出力されてしまうんだろう。
それが逆に恐ろしいなって思いながら、私は家へと帰るのだった。