魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
「なんじゃ、リオ。妾も忙しい故、そう時間を割いてはやれぬのじゃが」
こりす達が立ち去り、リオと二人残されたカレンは、真剣な顔をしたリオを見て愉快そうに笑う。
既に話の内容を察しているような態度のカレンを見て、リオはバツが悪そうに自分の赤い髪を弄んだ後、意を決して口を開く。
「あーと、なんて言うか、滅茶苦茶都合のいい話ではあるんですけど。……魔法少女の変身用ペンダント、ウチに貸してくれませんか」
「ほう。してその理由は? やはり裏界が危険地帯と伝え聞くからかの?」
その言葉を聞いたカレンは口の端を僅かに吊り上げ、その決意を試すようにリオに問う。
「まあ、それもあるんですけれど……セブンカラーズルビーとしてやり残したことがあったみたいなんで」
「ふむ、やり残したこととはなんじゃ?」
「学園長代理が言ってたファンヌって子、昔ウチが助けたことがあったらしいんです。けど、ファンヌは今黒晶石の魔王になってる。ウチ、結局助けられなかったようなもんなんで、だから魔法少女として助けに行きたいんです、今度こそ」
リオは値踏みするようなカレンの視線を受け止め、真っすぐに言う。
「……くふふ、それを助けられなんだと表現するか。お主は助けた相手を正しき道へ導けてこそ魔法少女と考える訳じゃ。中々に強欲よの」
「いや、まあ、ウチはそんな大した魔法少女じゃないすけど。少なくともエリュシオンならそうするし、そうできる。なら、ウチだって一度助けたはずの相手ぐらい、ちゃんと助けたい。そう思うんです」
カレンに笑われ、リオは少し恥ずかしがりながらもそう言い切った。
「なるほど、エリュシオンならばできる、か。最近のお主達は成長著しい、やはり人が正しく成長するには隣に良き手本があってこそじゃの。よかろう、ならば己が思い描く最高の魔法少女を体現してみせよ」
リオの回答を聞いたカレンは満足げに頷くと、スーツのポケットから変身用のペンダントを取り出し、リオへと手渡した。
「ありがとうございます、長官。って……いやいや、なんで今持ってんですか」
リオはペンダントを手渡されたことに感謝しつつも、この場でペンダントを手渡された事実に困惑する。
「くふふ、常々持っていたまでのことよ。妾に無茶振りされたお主が、代わりにペンダントを寄こせと言ってくる時を待っておった」
「はあぁ? マジか。いや、長官ってかなり面倒なタイプすね」
カレンの告げた思わぬ事実に、リオが苦笑する。
「こんこ、これは期待の裏返しじゃぞ。妾はつまらぬ輩に興味を持たぬ。しかし、無茶振りする度に今か今かと楽しみに待っておったが、このタイミングで言ってくるとはのう」
「いやいや、このタイミングしかないでしょ。無茶振りされたからって、魔法少女が自分の為に力を使ってどうすんですか」
リオの言葉にカレンは得心がいった顔になり、
「こんこ、こんこ。確かにお主の言う通りじゃ、至極単純、至極明快な話であったの」
くふふとより愉しそうに笑った。
「いや、ホント面倒な性格してますよね、長官」
「よいかリオ、必ず無事に帰って来るのじゃぞ。宿り木のようなつまらぬ連中のために、愉快なお主達を失うことなど許されぬ」
「そう思うんなら、たまには雑面みたいな顔隠しのアレ被って、ウチ等の手助けしてくれればいいじゃないですか。長官だってあの連中に対してムカついてんでしょ?」
「おお、それも一理あるの。宴は見るよりも参加する方が面白いに決まっておろうな」
「あ、ウチ余計なこと言ったわ。……んじゃ長官、ウチこりっちゃん達待たせてるんで失礼します」
邪悪な笑みを浮かべるカレンを見て、自分の失言に気が付いたリオは、早足で逃げるようにその場を立ち去るのだった。
***
翌日、壊都の拠点まで転移装置で来た私達は、いつものメンバーにクライネを加え、裏界へと突入するために壊都深界域にある裏界の扉を目指していた。
「なるほど。リオさんが残ったのは、カレンさんに変身用ペンダントを貰うためだったんですね」
「うん。あの後家に来て、にゃん吉さんにペンダントを色々調整して貰ってた」
その道中、私はセレナちゃんに我が家で起こった出来事を教えていた。
魔法少女変身用のペンダントを貰ったリオちゃんは、猫缶片手に私のお家へとやってきて、にゃん吉さんにあれやこれやと注文を付けながらペンダントを調整をして貰っていた。
急な注文もしっかり対応してくれちゃう辺り、にゃん吉さんも伊達に魔法少女の相棒猫を名乗っていない。後はダイエットしてくれれば完璧なんだけど。
「一度ペンダントぶっ壊したウチがまたペンダント貰うのは、順番飛ばしみたいで申し訳ないけどさ。魔法少女としてのやり残しがあって、どうしても欲しかったんよ」
「やり残し、ですか。未練なく何かを終えるのはやはり難しいものですね。私は晴れやかな顔で別れを告げることができるのでしょうか」
バツが悪そうに笑うリオちゃんの言葉に、ラブリナさんがしんみりとした顔で言う。
セレナちゃんとラブリナさん、両方が幸せになれる手段を探してダンジョンを潜ってきた私達の冒険。まだどんな形を迎えるのかはわからないけれど、それはこの先で一つの結末を迎える。
そのことをラブリナさんも理解しているのだ。
「え、ええと、ラブリナさん、頑張ろうね!」
だから、私も努めて明るく振る舞う。
ちょっと普段とキャラが違うから逆に気を遣わせちゃってない、よね?
「はい、こりす。お気遣いありがとうございます」
そんな私を見て、ラブリナさんがくすりと笑う。
あ、気を遣わせちゃったっぽい……。こんな場面、コミュ力の低い私がムードメーカーになろうなんて愚かだった。悲しい。
「こりすー、変なドームが見えてきたのです! 裏界の扉が覆われているのです!」
私がちょっぴり後悔していると、先頭を歩くミコトちゃんが興奮した様子で声をあげる。
だだっ広い壊都深界域のど真ん中、裏界の扉は重厚な金属製のドームで覆われていて、その前に悪路も走れる車が止まっていた。車体にはダンジョン特別戦闘部隊の文字、つまりダン特の車だ。
「あのドーム、ダン特が作ったんだよね?」
「ええ、ダンジョン庁が臨時の防波堤として作ってくれましたの」
元々人為的に作られたものだからなのか、裏界の扉は他の次元の裂け目よりも小さい。
だから、扉を封じる白い輝石の盗掘避けと万が一の場合の最終防壁を兼ね、ダン特があのドームを作ったのだという。
「やあ、久しぶりだね。君達」
そんなドームの前ではダン特の人達が待っていた。魔力の海拠点でクライネに助けられていた人達だ。
「ごきげんよう。扉周辺の管理、感謝いたしますわ」
「あ、こんにちは。"魔力の海"拠点から配置転換されたんですね」
クライネが優雅な仕草で挨拶し、慌てて私も挨拶する。
「ここにはまだ一般人が入れないからね、ダン特で管理しているんだ。大昔の警備用ゴーレムも健在で、このエリアの危険度はかなり低いから管理自体は楽なものだよ」
ダン特の人はドームの外壁をパシパシと叩くと、冒険に役立てて欲しいと、車に積んでいたコンテナを開けてくれる。
「でも……君達の実力は知っているけれど、君達だけに危険領域の突入を任せるのは正直心苦しいよ」
私がコンテナの中身で冒険の準備を整えていると、ダン特の人がしんみりとした顔でそうつぶやく。
「いやいや、そこは気にする所じゃないですって。危険エリアを大勢で歩く方が遭遇率上がって危険度高くなりますし、ウチ等こう見えて修羅場くぐってるんで」
リオちゃんが作った力こぶをぽんぽんと叩いて、安心しろアピールをしてみせる。
「そうですわ。このこりすを見て御覧なさい。これが悲壮な戦いに赴く人間の姿に見えますの?」
「く、クライネ!」
クライネがそう語る私の姿は、味を吟味しならコンテナの携帯食を力の限り鞄に詰め込んでいる姿。
やめて、やめて! 恥ずかしい! 確かにどう見ても悲壮な戦いに赴く人間の姿じゃないけど! 人様に注目してもらう姿でもない!
あわあわと大慌てでクライネを止めようとする私の口に、ミコトちゃんがひょいと携帯食のシリアルバーを突っ込んでくる。
ミコトちゃん、なんてことするの!? 美味しいチョコレート風味で私の苦情は封殺され、口の中はハムスター状態だ。酷い!
「くくっ……。いや、君達は本当に強いな……。確かに暗い気分は吹き飛んだよ、ありがとう。君達が今みたいに笑顔で戻ってこられるよう、自分達はここの防衛に専念するよ」
そんな私達を見て、ダン特の人は笑いを押し殺しながらそう言ってくれる。
「はい。ただし、裏界の扉が開けば、裏界側から敵が逆侵攻してくる可能性もあります。決して無理な防衛はせず、必要とあらば後退してください」
「わかっている。君達も気をつけて、お互い生きて会おう」
セレナちゃんの言葉にリーダーの人が頷き、ドームの電子ロックが解除される。
なんだかいい感じに話がまとまったけれど、一人シリアルバーを咀嚼し続ける私だけは、恥ずかしさで顔が真っ赤だった。