魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第18話 【魔法少女の迷走】5

 ダン特の人達に見送られて入ったドームの中、灯りに照らされた裏界の扉があった。

 裏界の扉は魔王クライネを倒した日から変わらず、巨大な白い輝石に覆われ封印されていた。

 

「おおー、白い輝石がいっぱいなのです!」

「あー、ダン特がドーム作ったのも納得だわ。こんなの見せられたら、絶対資源として狙う輩が出てくるし」

「無事に全てが終わったのなら好きに使いなさい。その方が魔王クライネも喜ぶはずですわ」

 

 言いながら、クライネが扉の前に立つ。

 

「さあ、覚悟はよろしくて? この扉が開けば容易には閉じられない、後戻りはできませんわよ」

「大丈夫。覚悟はできているよ」

 

 私が迷いなく頷くと、クライネが頷き返す。

 

「ええ、貴方の輝きならばそう言うでしょうとも。さあ、貴方が待ち望んた瞬間の訪れですわよ。もう一人のわたくし」

 

 クライネは鍵の形をした自らの変身用ペンダントを手に取ると、裏界の扉の鍵穴部分に突き刺す。

 魔王クライネの白い輝石が嵌め込まれたペンダントが刺さったことにより、裏界の扉を封じる白い輝石に細かな幾つもの亀裂が入っていく。

 そして、砕けた白い輝石が扉から剥がれ落ち、裏界の扉が開かれた。

 

「……とりあえず、いきなり先制攻撃される心配はなさそうなのです?」

「そのようですわね、付近に宿り木達の気配はありませんわ。恐らく地上への進行に注力しているのですわね」

 

 奇襲を警戒して少し身構えた後、クライネがほんの少しだけ扉を開いて裏界の様子を確認して言う。

 

「んじゃ、行こうか。ウチとクーちゃんが先頭で、ラブさんが殿って感じかね?」

「うん、そうだね。ラブリナさんもそれでいい?」

 

 私がラブリナさんに話しかけても、ラブリナさんの返答はない。

 ラブリナさんは白い輝石の剥がれた裏界への扉をずっと見上げて何かを考えていた。

 

「どうしたの、ラブリナさん」

「少し考えていました、魔王クライネのように私は何を遺せるのだろうかと。心残りがないように」

 

 ラブリナさんは紫に輝く瞳を少し細め、一抹の寂寥感を含んだ顔で言う。

 

「あら、センチメンタルですわね。わたくしと魔王クライネは別の存在とは言え、記憶や想いはある程度引き継がれていますわよ」

「はい、それでもです。すみません、少し先に行っていてくれませんか。セレナとこりす、二人と少しだけ話をしたいので」

「いやいや、先って裏界じゃん……」

 

 扉とラブリナさんを見比べ、困った顔をするリオちゃん。

 

「リオ、これも大事なことなのです!」

 

 ミコトちゃんが迷うリオちゃんの背中をぎゅうぎゅう押して、クライネと一緒に先に行ってくれる。

 傍迷惑な行動も多いミコトちゃんだけど、基本的に行動は全て善意なので、こんな時はしっかりと気を利かせてくれる。ありがとう、ミコトちゃん。

 

「ラブリナさん、大丈夫? ……どんな結末でもここで一つの終わりになるんだもんね」

 

 三人が扉をくぐったのを確認して、私はラブリナさんに話しかける。

 

「はい、覚悟はできています。正直に言えば、私というラブリナが築き上げたこの記憶、自分だけのものにしておきたい気持ちも少しありますけれど。……ですが、ただ消えて失われるよりは、本体に還してでも残って欲しい気持ちの方が強いですから」

 

 そう言って、悪戯っぽく笑うラブリナさん。

 

「ラブリナさん、やっぱりここで消える覚悟をしてるんだね」

「はい、クライネが扉を開ける姿を見て確信しました。エリュシオンが使うエリュシウムの鍵、その失われた核になっていたものは白い輝石……私の欠片です」

「言われてみれば、そうかも……」

 

 あり得る。と言うか、改めて考えてみればそれ以外に心当たりがない。

 魔王が変じた白い輝石ですら、私の変身負荷に耐えられない。魔王の輝石より強い力を持つエリュシウムの鍵の核、そんなものはラブリナさんの欠片しか考えられないだろう。

 

「はい。私本体の封じられた楽園の扉は、私が己が身を賭して開く。それが宿命なのでしょう」

 

 自らの胸に手を当て、確かな覚悟を持って言うラブリナさん。

 

「……セレナちゃんの気持ちは?」

「私も同じ気持ちですよ、こりすちゃん」

 

 私がそう尋ねると、妖しく紫に輝いていた瞳の輝きが消え、ラブリナさんがセレナちゃんに戻ってそう答えた。

 二人とも覚悟ができているのなら、これ以上私が言えることはない。だって、私にとって二人共大切な友達なんだから。

 

「わかった。その時が来たらエリュシウムの鍵を二人に渡すよ」

「ありがとうございます、こりす。……それと、最後に教えてくれませんか? エリュシオンと言う魔法少女が、どうして歪まず真っ直ぐに在れるのか」

「えっ?」

「その答えを聞けるような時間は、この後の私にはないでしょうから」

 

 言って、寂しそうに微笑むラブリナさん。違う、私のえっはそう言う意味じゃない!

 不意打ちでそう言う重い問いは困る! 凄く困る! 嫌な汗出る!

 

「取り戻した記憶、戦った他の欠片達、そして昨日ファンヌの体を使った私、今の私から見てどのラブリナも歪んでいました。私もかつては貴方やリオのような魔法少女であったはずなのに、どこで道を違えてしまったのか。私はそれを知る必要があります」

 

 でも何を勘違いしたのか、ラブリナさんは真剣な顔でそう言葉を続けてくる。

 ああ、もうダメだ。恥ずかしがって誤魔化す訳にはいかない……。

 

「わ、私の場合は……セレナちゃんが居たからだと思う」

「セレナ、ですか?」

「うん。私もセレナちゃんのためを思って魔法少女を引退して、それが間違ってたって気づいたりしたし。人は知らずのうちに歪んでいくんだと思う。そんな時に間違ってるって言ってくれる人や、今の自分と比べられる目標があって、その都度歪みを正せるかどうかじゃないかな」

 

 それが私の答え。

 セレナちゃんの目の前で直に言うのはちょっと恥ずかしいけれど、あの表情で聞かれたら誤魔化す訳にもいかない。

 

「なるほど、腑に落ちました。だから私はセレナの体に入っているのですね……」

 

 少し遠い目をして納得しているラブリナさんの動きが、不意にピタリと止まって、

 

「ああ、もう! こりすちゃんったら! 嬉しいんですから、可愛いんですから!」

 

 セレナちゃんに戻って、私を正面から思いっきり抱きしめてくる。

 

「せ、セレナちゃん!?」

「そんなこと面と向かって言われたら、辛抱堪らないに決まってます! ああ、もう! こんな状況でなければケースに詰め込んで、拉致監禁して、永遠に可愛がり続けるのに!」

 

 お互いの胸を押し付け合うようにぎゅむぎゅむと私を強く抱きしめ、私の黒い髪をなでなでして、頬ずりして、大興奮するセレナちゃん。

 あまりに予想通りの展開。何とか抜け出そうとする私だったけれど、セレナちゃんはラブリナさんと一緒にパワーレベリングされている。

 結局、私は圧倒的レベル差に力負けし、セレナちゃんが落ち着くまで好き放題されてしまうのだった。

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