魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第18話 【魔法少女の迷走】6

 黒晶石が風景を塗り潰す裏界の中心、楽園の扉を飲み込むように作られた黒晶石の尖塔があった。

 宿り木達が【鍵の塔】と呼ぶこの尖塔こそ、彼等が楽園の扉を越えて地上侵攻するための経路であり、楽園の扉を開くための切り札。

 

「レギーナ、どういうことだ! 地上侵攻は失敗ではないか!」

 

 そんな悪巧みの中心で、モンスター化した怪人達がレギーナへと詰め寄っていた。

 彼等の体はモンスター化こそしているが、宿り木の黒晶石は刺さっていない。

 巡礼怪人と呼ばれる彼等は、かつてエリュシオンに滅ぼされた組織の残党であり、自らの意識を宿り木達と同じように黒晶石の大樹へと保存する対価として、宿り木達の手足となって動く存在だった。

 

『くすくすくす、なんて早計な方々なのでしょう。鍵の塔と天空樹はか細いながらも未だ接続されている。楽園の扉さえ開けばどうとでもなるではありませんか』

 

 白狐怪人の体を使っているレギーナが怪人達を見下すような笑みを浮かべ、詰め寄っていた怪人達がより一層苛立ちを露わにする。

 

「だが、魔王の体を使って降臨した大樹の守護者とやらも、結局エリュシオンに負けている! 前提が違ってくるぞ!」

『それは魔王の体が想定以上に弱かったからでしょう。所詮、ファンヌは我らが作った即席の魔王。負の輝きが足りなくとも不思議はないのです』

 

 言いながら、レギーナは鍵の塔を見上げる。

 そこには黒晶石に取り込まれたファンヌの本体が組み込まれていた。

 鍵の塔とは宿り木渾身の複製品。起動に強い力を持つ核が必要となる【エリュシウムの鍵】は、宿り木達の技術をもってしても容易には再現できない。

 代わりに楽園の扉から漏れ出た黒晶石に多くの黒晶石を取り込ませ、質を数で補うことで同様の効果を持たせようとしたものだ。

 

「今回は派手にやり過ぎた。連中も血眼になって裏界にやってくるだろう。楽園区域に白い輝石でも持ち込まれたら大事だぞ」

『その程度で黒晶石の大樹は揺るぎませんが、楽園に白い輝石が持ち込まれるのは避けたい。それは肯定してあげましょう』

「いくら最強のエリュシオンといえど、百年先には生きていまい。ここは一度楽園区域に戻り、時を待つべきではないのか」

 

 タコ怪人の言葉に、見下した笑みを浮かべていたレギーナの表情が歪む。

 

『黒晶石に自らの記憶を写した我等鍵守は、本来世界の王となるはずの存在でした。それが、古の魔法少女達によって千年を越える雌伏を余儀なくされたのです。その我等に更なる雌伏の時を強いろと言うのですか?』

「滅ぼされてしまえば、今まで過ごした時間は全て無意味になるだろう。我等が全身全霊を注ぎ込んだ野望も、エリュシオンによって一瞬で砕かれたのだぞ」

 

 レギーナの向ける視線に怯まず、毅然と言い返すタコ怪人。

 その言葉を聞いたレギーナはタコ怪人に冷酷な眼差しを向けると、

 

『エリュシオンを打倒すると意気込むから、走狗として便利だと思って招き入れて差しあげたというのに……本当に使えない』

 

 貫手でタコ怪人を貫き、その体から核となる黒晶石を引き抜いた。

 

「貴様ぁ! 何をする!」

 

 黒い煙をあげて消えていくタコ怪人を見て、仲間の怪人達が怒りの声をあげる。

 

『くすくすくす、我等はこれ以上雌伏の時など過ごしたくないのですよ。覇気のない方はその運用を変えるまでのこと、鍵の塔の燃料にでもおなりなさい。どうせ記憶は大樹に保存されているのです、百年もすれば再び体を持てるでしょう』

 

 憤慨する怪人達に対し、レギーナはタコ怪人の核を鍵の塔へと押し込むと、両手を広げてニタリと笑う。

 

『さあ、そちらの方々はどうするのですか? 大人しく我等の考えに従うのならばよし、そうでないのなら……』

「ふ、ふざけるなよ! 我等とて地上征服を狙っていた者としての矜持がある! 飼い犬になどなれるか!」

 

 レギーナの不遜な態度に我慢ならぬと、怪人達がレギーナを取り囲んで一斉に飛び掛かる。

 

『愚かな。やはり貴方達の運用は鍵の塔の燃料が相応しい』

 

 それを迎え撃つレギーナは次々と怪人の喉笛を掻き切り、胸を貫き核を回収していく。

 

「う……。ひ、わ、悪かった俺は従うから……」

『ああ、なんて素晴らしい負の感情なのでしょう! やはり貴方達は燃料として扱うのが相応しかったのです!』

 

 最後に一人残され怯える犬怪人の胸から核を毟り取ると、レギーナはようやくほうと小さく息を吐いて動きを止めた。

 

『まあ、私としたことがやり過ぎてしまったようです。外敵を迎え撃つための走狗が足りなくなってしまいました。仕方ありません、ファンヌに再び働いて貰うとしましょう』

 

 レギーナは怪人の居なくなった鍵の塔前を見回し、くすくすと愉快そうに笑うと、鍵の塔に手を当てて黒晶石を操作する。

 先程取り込まれた怪人達の核がファンヌの黒晶石へと吸収され、鍵の塔の前で黒晶花を巻き込んだ黒い風が人型を形作った。

 

「あれあれぇー? アタシどうなっちゃったのかなっ?」

 

 再び体を得たファンヌが、きょとんとした顔で周囲を見回す。

 

『ファンヌ。鍵の塔を壊すため、間もなく人類が来ることでしょう。貴方にはそれを阻止するために働いて貰います』

「そっかぁ……アタシ、まだ魔王なんだねぇ」

 

 レギーナの言葉を聞いて、ファンヌが残念そうな顔をする。

 

『くすくすくす、まさか嫌とはいいませんよね? ファンヌ、貴方はそのために育てられたのですよ』

 

 そんなファンヌの意思を縛るように、レギーナが邪な笑みを浮かべて言う。

 ファンヌは少し表情を曇らせたが、小さく頷いてレギーナの指示を了承するのだった。




敵の悪巧みパートだけになってしまうので、続けてもう一話投稿します。
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