魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第18話 【魔法少女の迷走】7

 その後、セレナちゃんにわちゃわちゃされ続けた私は、ちょっぴり涙目で服の乱れを直し、三人に遅れて裏界の扉をくぐった。

 

「こりすー、ラブリナとの話は終わったのですか?」

「う、うん、おかげさまで終わったよ。ありがとう、ミコトちゃん」

 

 扉から少し離れた所で待っていたミコトちゃん達に、私は感謝を告げて合流する。

 なんか大部分はセレナちゃんに好き放題されていた感じだった気がするけれど、気を利かせてくれた三人にそんなことを言えるはずもない。

 

「こりすも、ラブリナも、どっちもお友達だから当然なのです! それよりも気をつけるのです、ここはかなり空間の乱れた地のようなのです」

 

 えへんと胸を張るミコトちゃんに注意を促され、さっきの衝撃抜けきらない私もようやく周囲の様子を確認する。

 そこは、例えるのなら宇宙空間に浮かんだ黒い都。闇に浮かんだ無数の光が星輝く空間に、影で作られた高層建築が立ち並んだ世界。今までに見てきたどの深層とも全く違う異質な場所だ。

 

「なんと言うか……凄い場所ですね」

「だね、ウチ等も待ってる間びっくりしっぱなし。今まで行ったどのダンジョンエリアとも違うよ」

「クライネ、ここが裏界なんだね」

「ええ、ここが裏界の地。世界から隔離された楽園区域と壊都の狭間に設けられた緩衝地帯であり、今もなお壊都在りし日の姿を焼き付ける落ち影。自らが既に滅んでいると気付かぬ亡者達の住まう影の都ですわ」

 

 じっと前を向いたままクライネが言う。

 クライネにとって、千年以上昔に失われた故郷の名残だ。色々と思う所があるんだろう。

 

「かつての壊都はこんなにも栄えていたんだね……」

 

 道路も建物も黒く塗りつぶされているけれど、その街並み自体は私達の住んでいる街にも劣らない。

 それがあの壊都みたいになっちゃうって思うと、諸行無常を感じてしまう。

 

「裏界が壊都の在りし日の姿を写しているのなら、楽園(エリュシウム)の扉がある場所は、壊都で裏界の扉があった地点ですね」

「あ、そうか、流石学園長代理! ここが壊れる前の壊都なら、大まかな場所は同じはずじゃん!」

「私達の現在位置は魔力の海との境界になるのです。そして、黒晶門の原因となる次元の揺らぎが発生するのは魔力集結地点。つまり、壊都拠点と裏界の扉がある場所に違いないのです! まずは壊都拠点を目指すのです!」

 

 ドヤ顔のミコトちゃんがそう解説し、ビシッと壊都拠点のある方角を指さす。

 

「そうだね。ここからだと、裏界の扉のある場所よりも壊都拠点の方が近いもんね」

「わたくしも賛同しますわ。あの得体のしれない塔を目指す前に、可能な限りのリスクは排除しておくべきでしょう」

 

 言いながら、クライネは黒い風景の果てにある黒い巨塔を見上げる。

 

「クライネ、あの大きな塔は?」

「あそこが楽園の扉がある場所。ただし、あの塔はかつての壊都にも裏界にもなく、魔王クライネも知らないものですわ」

 

 クライネが静かに影の街を歩き出し、それを合図として私達も裏界の冒険を開始する。

 

「ほーん。つまり、あの塔が白鳥氏の言ってた天空樹に干渉するための代物で、悪巧みの要ってわけね。そういや、天空樹のセレモニーで、洗脳された魔法省の人が起動せよ鍵の塔とか言ってたんだけど……あれが鍵の塔なんかね?」

「鍵の塔……。あの塔で楽園の扉をこじ開けるつもりなのかな?」

 

 昨日、天空樹に生じた次元の裂け目からは、ラブリナさんの一部であろう触手が出現していた。

 でも、ラブリナさん本体は未だ楽園区域に封じられ続けているはず。天空樹と裏界を繋げる用途は勿論だけど、それ以外の仕掛けもありそうだ。

 

「こりすちゃん、あの塔が気になる気持ちはわかりますけれど、まずは深層と繋がる黒晶門を破壊すべきだと思いますよ」

「うん、わかってる。無視したら挟み撃ちされちゃうかもしれないし、侵攻経路が絞られれば地上も守り易くなるもんね。そうすれば、地上から助っ人が来れるかもしれないし」

「……わたくしとしては、それよりも早く助っ人に来て欲しいものですけれど」

 

 クライネは物憂げなため息をつくと、自分のものではない二つの変身用ペンダントをつつく。あのペンダントはテラーニアとラフィールのものだ。

 クライネに本体があったのと同じように、あの二人にも本体はあるらしい。けれど無事かどうかはクライネにもわからない。魔王としての二人を倒した私としては、是非とも無事であって欲しい。

 私が魔王を倒したタイミングで解放されて裏界で餓死しているとか、そういう最悪の展開は絶対にないと思いたい。なってたら困る。

 

 そんなことを考えながら、私達は宇宙空間に浮かんだような裏界の道を順調に進んでいく。

 影の街並みにはなんの音もなく、影の道路は踏みしめても足音すらしない。襲ってくるモンスターも、怪人の姿も見当たらない。

 静か、あまりに静か、不気味な静けさだ。

 

「クーちゃん、これ地面も建物も全部黒晶石なんだよね? ウチ等が奥に入り込んだタイミングを狙って、一気に牙を剥いてくるとかはあり得るん?」

 

 警戒した面持ちのリオちゃんがそう尋ねる。

 リオちゃんはベテラン冒険者だけあって、未知エリアでは緊張を切らさない。普段とは大違いだ。

 

「安心なさい、あり得ませんわ。あれは世界に焼き付いた影のようなもの、逆に気をつけるべきは黒晶石以外の箇所ですの。あの宇宙空間のような場所は全て次元の狭間ですの。わたくしやミコトのように空間に干渉できないと進退窮まりますわよ」

 

 論より証拠と、クライネが私の鞄からシリアルバーを取り出して道の外へと放り投げる。

 黒い道から外れた途端、シリアルバーは空中で伸びながらねじれてピタリと停止してしまった。

 

「う、うへぇ、体の一部がはみ出ただけでも大惨事になっちゃうね……」

「こりす、安心するのです。その時は私が癒しの権能でなんとかしてあげるのです! 次元の狭間で進退窮まった部分を切り落として、そこの部分だけまた再生させればいいのです!」

「み、ミコトちゃん、平然と部位欠損を戦略に組み込むのは絶対悪癖だよぉ!?」

 

 さも当然と言った顔で、とんでもないことをのたまうミコトちゃん。

 初手から最終手段並みに酷い! 良かれと思ってその提案ができる精神性が恐ろしい。

 さっきの気遣いとの落差で風邪をひきそう。

 

「ふぅ、相変わらず怖い方。そんな痛そうな思いをせずとも、手近ならわたくしが回収して差しあげますわよ」

 

 黒い猫耳をぺたんとさせて、私同様にドン引きしているクライネが言う。

 そんな会話をしながら更に進むことしばし、私達は巡礼道に繋がる黒晶門へと辿り着く。

 その道中に怪人達の襲撃はなく、モンスターすら襲ってこなかった。怪人達の体に黒晶石が使われている分、モンスターが居ないと仮定はできるけれど、両方居ないのはあまりに不自然だ。

 

「なんというか……。こう問題なく進んでいくと逆に心配になりますね」

「問題なく進んでいると言うことは、こちらにとって大問題なのです!」

 

 なんだか禅問答みたいになっちゃってるけど、ミコトちゃんの言う通りだ。

 流石に私達が侵入したことには気付いているだろうし、唯一の侵入経路である裏界の扉を無警戒にしていたのも怪しい。

 前回の地上侵攻で手痛いダメージを受けているのを差し引いても異常だ。

 

「流石のウチでも罠を疑うね。このまま壊しちゃっていいもんかな、これ?」

 

 無防備にその姿を晒している黒晶門を見上げ、槍を手にしたままリオちゃんが訝しむ。

 

「ラブリナ、付近に黒晶石の気配はありますの? 生身のわたくしでは、黒晶石の気配なるものが感じ取れませんの」

「……そうですね、強い黒晶石の気配が付近に潜んでいます。罠である可能性は極めて高いでしょう」

「でも、これが黒晶門で間違いないなら、罠でも壊さない訳にはいかないよね」

 

 この後、どんな状況になるか全く想像がつかない。

 地上の安全確保という観点からも、不確定要素を減らすという観点からも、相手だけ通り抜けられる経路を残しておくのは絶対に避けたい。

 

「はっ、選択肢はなしってことね。んじゃやりますか、ラブさんとクライネは壊すの手伝って! こりっちゃんとミコっちゃんは周囲警戒して!」

「わかったのです!」

 

 リオちゃん達が黒晶門を破壊するにつれ、周囲にある影の建物から敵意が漏れ出してくる。

 どうやら、敵は私達が黒晶門を破壊するのを待っているらしい。……どうして待つ必要があるんだろう?

 

「よし、黒晶門壊れた!」

「リオちゃん、黒晶門が壊れたなら急いで離れて! 敵の気配が強くなってる!」

『ククク、どうして離れる必要があるのだ。お前達の墓標はここではないか』

 

 黒晶門が崩れ落ちて周囲に黒晶石をまき散らす中、どこからかそんな声が響く。

 

「なんなんこの声、一体どこから……」

「リオ、飛び退いてください! 声の主は崩れ落ちた黒晶門の黒晶石そのものです!」

 

 周囲を見回すリオちゃんに、ラブリナさんがそう警告する。

 慌ててリオちゃんが飛び退けば、瓦礫の山みたいになっていた黒晶石が、ガシャリガシャリと骨格標本みたいに組み上がっていく。

 

「あの形……竜、かな」

『その通り! これこそが我等の切り札!』

 

 組み上げられた黒晶石の骨竜が黒い炎で燃え上がり、纏う炎が血となり肉となり、やがてモンスターの肉体を形作っていく。

 完全に受肉したその姿は、超巨大な白い竜……

 

「むむっ、あの竜! 昔エリュシオン様が倒した白い竜とそっくりなのです!」

 

 ミコトちゃんの言う通り、私にもあの竜には見覚えがあった。

 セレナちゃんの中にラブリナさんが入るきっかけとなった戦い、その時私が倒した竜と同じ奴だ。そんなの忘れられるはずがない。

 

『ククク、この竜こそはグランドカイザードラゴン! 貴様等お得意のレベルでは測れぬ超絶種! 愚かなる貴様等を屠る我等の処刑人よ!』

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