魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第18話 【魔法少女の迷走】8

 裂けた口を大きく開けて嘲笑う白竜。

 その額には黒晶石の柱が突き刺さっている。つまり、こいつも中身は宿り木だ。

 

「あの白竜、レベル計測限界越え!? そんな代物、気安く出てこないで欲しいんだけど!?」

「冷静になるのですわ、リオ。レベルで測れないのは黒晶石の魔王も一緒ですわよ」

 

 白竜が振り回す尾撃を優雅に躱しながら、クライネがそう諭す。

 

「いやいや、魔王を倒したのはエリュシオンで、ウチ等じゃ基本手も足も出なかったんだけど!?」

 

 リオちゃんはクライネに言い返しながら、隙を衝いて竜の足に槍を突き刺す。でも、大したダメージは与えられない。

 なにしろあの巨体だ。小指に針が刺さった程度のダメージなのかもしれない。

 

「ほれみ! ほぼ効果なしじゃん!」

「強敵だね……。ラブリナさん、勝てそう?」

「かつてと違い、あの白い竜にはテラーニアも私の欠片も入っていません。勝つことはできると思います……ただし、少なからず消耗してしまうのは確実ですね」

「そっか……」

 

 以前倒した相手の劣化品、私がエリュシオンに変身すれば難なく勝てるのは間違いない。

 でも、後に本番が控えている状況で消耗したくないのもまた事実。悩ましい所だ。

 

「こりすー! 周りに怪人がいっぱい出てきたのです!」

 

 迷う私達を追い詰めるように、影の建物の上に多数の怪人が姿を現す。

 さっき感じた敵意はコイツ等だ。白竜に苦戦する私達を逃がさないよう、周囲を固めていたのだ。

 

『フハハハハ! 前門の竜か後門の怪人か、貴様等の死に様を決めるがいい!』

 

 白竜が壊した影の建物を掴んで、逃げる私達へと振り下ろし、周りからは沢山の怪人達が襲いかかってくる。

 流石にこれは消耗を気にしている場合じゃない。私が覚悟を決めて迎え撃とうとすると、クライネがそれを手で制止して小さく首を横に振る。

 

「こりす、今無茶をする必要はありませんわよ。寝坊助さん達が間に合ったようですの」

 

 クライネがそう言うと同時、裏界の上空から流星群みたいに白い輝石が降り注ぎ、

 

『なんだ!?』

『うごっ!?』

 

 私達へと迫っていた怪人達が、叫び声をあげて次々と吹き飛んでいく。

 

「ケッ。なんだよ、根性のねー野郎どもだぜ」

 

 怪人達を蹴散らしたのは白い輝石と一緒に降ってきた一人の少女。

 ダークブロンドの髪を持ち、鋭い目つきをした彼女は、瞬く間に周囲の怪人達をなぎ倒していく。

 その正体を知っている私は、その光景を目の当たりにしても驚きはしなかった。

 

「テラーニア、貴方でしたか」

「よぉ、ラブリナ、苦戦してるじゃねーか。魔王テラーニアの奴に叩き起こされて来たぜ。テメーが恐怖をぶち壊して戦うべきは今だろ、ってな」

 

 今が好機と援護に入るラブリナさんを見て、テラーニアがニッと不敵に笑う。

 

「いやいや、あれ誰なん? ラブさん達の知り合い?」

「怪獣王テラーニア、元黒晶石の魔王だよ」

 

 知らない助っ人がご登場して首を傾げているリオちゃんに、私はこっそりと教えてあげる。

 以前倒した白竜の中身だったはずのテラーニアは、エリュシオンの正体である私を気にしていない。どうやら、あのとき変身前の私を襲ってきた白竜の中身はラブリナさんだけであって、テラーニアは含まれていなかったらしい。

 だとすると、私もテラーニアと面識がない設定になっちゃうけれど……まあ、今は緊急時だしうやむやにできるだろう。多分。

 

「後に余力を残そうと苦慮しています。テラーニア、手を貸してくれませんか?」

「手を貸すぅ? キシシ、なんだよ少しみねー間に殊勝になってんじゃねーか。いいぜ、任せろよ! そのためにオレは目覚めたんだからな!」

 

 襲ってくる怪人の顔面を勢いよく殴り飛ばし、テラーニアが笑みを浮かべて快諾する。

 

「オレが、魔王テラーニアが強さを求めたのは……お前と並び立つため。お前の強さにビビっちまったオレは、もう一度お前と対等な仲間に戻りたかった!」

 

 怪人を殴り飛ばした拳を強く握りしめ、テラーニアが決意の眼差しで怪人を睨みつける。

 その眼力に気圧され、取り囲む怪人達が後ずさった。

 

「手間をかけましたね、テラーニア」

 

 並び立つラブリナさんとテラーニア。

 その威圧感に怯みつつも、優先して倒すべきはこの二人と、怪人達が総力を挙げて二人へと押し寄せる。

 

「やれやれ、吾輩を差し置いて感動の再会とは薄情ではないかね、我が友よ!」

 

 そこにまたしても白い輝石が降り注ぎ、怪人達が手品のように次々と吹き飛んでいく。

 芝居がかった口調と共に姿を現したのは、緑色の髪に紫紺の瞳を持つ女の子。

 

「あおおー、あれはラフィールなのです!」

「やあやあ諸君、今宵は生身で失礼するよ。喜劇王ラフィールとの約束、果たしてくれて感謝する」

 

 私達を狙ってきた怪人をステッキで弾き飛ばし、ラフィールが大仰に一礼してみせる。

 黒いビル街の中心で白い輝石のスポットライトを浴びたその姿は、まるでナイトシアターの支配人みたいだった。

 

「時にクライネ、エリュシオンはもう来ているのかね?」

「いいえ、まだですわ。あの魔法少女は大一番にしか来ませんもの」

 

 言いながら、クライネがラフィールとテラーニアへとペンダントを投げ渡す。

 その背後には、ビルをなぎ倒しながら追いかけてくる白竜の姿があった。

 

「なるほど、なるほど、主役は遅れてやって来ると言うことかね。よろしい! ならばここは吾輩とテラーニアが引き受けよう! クライネとラブリナは力を温存しておきたまえよ!」

「感謝します、ラフィール」

「くつくつくつ、なんと悲しいことを言ってくれる我が友よ! 他人行儀はいただけない、我等とキミの間にそのような気遣いは無用だとも! キミと再び共に歩む、それこそが魔王に堕ちてなお求めた我が悲願なれば!」

 

 言いながら、ラフィールとテラーニアがペンダントを構える。

 

「堕ちない、折れない、零さない。エリュシオン曰く、それが魔法少女と言う舞台に上がる者の覚悟。ならば今一度、吾輩の覚悟をお見せしよう! イクリプスチェンバー、イグニッション!」

「恐怖は向き合ってぶち壊すもの。そうだろ、エリュシオン! イクリプスチェンバー、イグニッション!」

 

 瞬間、ラフィールがバニーガールのような魔法少女に変身し、テラーニアが蝙蝠のような翼を持つ吸血鬼みたいな魔法少女へと変身する。

 その姿は黒晶石の魔王だった二人に近い。ルミカちゃんと同じ魔王変身だ。

 

「さて、竜退治は英雄譚の定番なれど、吾輩達は吟遊詩人の糧を作りに来たわけではないのでね! 友の行く手を阻む傍迷惑な竜は、一方的かつ速やかに消えてもらうとしよう!」

 

 ラフィールが手にしたステッキを竜に向け、ウサギ人形型ミサイルを次々と発射。

 

「さあ、竜だろうが、怪獣だろうが関係ねぇ! オレが全部ぶっ潰す!」

 

 それに続いて、テラーニアが竜の足を引き裂くように腕を振るう。 

 

「ラブリナさんとクライネは変身した二人と一緒に白竜を相手取って! 私はリオちゃんと一緒に怪人達を引き付けるから! ミコトちゃん、リオちゃんについていてあげて!」

 

 変身した二人が戦い始めたのを確認し、私は素早く指示を出し、影の街から続々と参戦してくる怪人達を鉈で斬り飛ばしていく。

 一瞬で戦力差がひっくり返った今こそが、一気呵成に押しつぶすチャンス。体勢を立て直すことなんてさせやしない。

 

『クソッ! なんだ、あの乳牛怪人は!? 魔法少女でもない癖に強いぞ!?』

「乳牛怪人じゃ、ないから」

 

 ムッとした顔でそう言い返して怪人の首を撥ね飛ばし、三方向から攻めてくる怪人の攻撃を掻い潜り、リオちゃん達の様子を確認する。

 ミコトちゃんを引きつれたリオちゃんは、ダメージ覚悟で怪人の攻撃を受けては反撃し、囲まれないように立ち回っている。あれならまだフォローは要らない。私もかく乱に専念できる。

 

『おのれぇ!? ちょこまかと!』

 

 私達が怪人の相手を引き受けている間に、ラブリナさん達は華麗な連携で白竜を翻弄していた。

 

「いやいや、実にノスタルジーを感じるで戦いではないかね!」

 

 ラフィールがウサギ人形を雨のように降らせて、白竜と周囲の怪人をまとめて爆撃。

 

「全くだぜ、テメーの雑な攻撃を躱しながら戦うのはよ!」

 

 その合間を縫って、テラーニアが白竜の足を殴って態勢を崩すと、

 

「ええ、爆風で勝手に体が浮き上がりますわぁ」

 

 くるくるっと錐揉みしながら飛び上がったクライネが、大鎌で白竜の腕を斬りつける。

 

『グウォアアア、小癪なァぁ!』

 

 腕を切り落とされた白竜が絶叫をあげ、態勢を崩しながらも怒り任せに尻尾を叩きつけようとする。

 でも、その攻撃は悪手。今、大きな隙が生まれた。

 

「ラブリナ、今ですわよ」

「任せてください!」

 

 私が指示を出すまでもなく、ラブリナさんが白竜の尻尾を黒晶石で地面に縫い付け、白竜に打ち込んだ黒晶石を足場にしてその体を駆けあがっていく。

 その間にも魔法少女二人の攻撃が次々と襲いかかり、マグロの解体ショーみたいに白竜の体がそぎ落とされていく。

 

『馬鹿な!? 馬鹿なァ! レベル測定限界を超えたグランドカイザードラゴンがこんな簡単に……!』

「はい。残念ながらその体を使いこなせていませんね。ですが、明暗を分けたのはそこではありません。人は仲間と共に戦うと相乗効果で強くなるものです、貴方に勝ち目はありませんでしたよ」

 

 頭まで駆け上ったラブリナさんは、黒晶石を纏わせて杖剣を大剣に作り変えると、白竜の額についていた黒晶石を白竜の顔ごと一刀両断した。

 

『グアアアアアアアアア!』

 

 ラブリナさん達の猛攻を受け、黒い煙を噴き上げた白竜が黒い大地へと沈む。

 

「マジか、こんなにあっさり倒せるなんて流石じゃん!」

 

 予想外の快勝に喜びの声をあげるリオちゃん。

 それと対照的に、予想外の敗北を見た怪人達には動揺が広がっていた。

 

 ……違う! この気配は!? 私の危機感知スキルが危険だって告げている!

 

「皆気をつけて! 向こうの方から何かの気配が近づいてる!」

「リオ! 建物の上に逃げるのです、禍々しいのです!」

 

 どうやら気配を察知したのは、ミコトちゃんも同じだったらしい。

 丁度怪人を倒し終えたリオちゃんの腕を掴むと、必死にゆさゆさと揺さぶって警告する。

 

「こりす、掴まってください!」

 

 ラブリナさんに抱えられて私が建物の上へと避難し、テラーニア達に助けられたリオちゃん達も建物の上に飛び退いた。

 直後、黒い塔のある方向から無数の黒い手が伸び、

 

『うおおおお、嫌だぁ!』

『やめろォ! 俺達はまだ戦える! 鍵の塔の燃料なんかにされたくねぇ!!』

 

 黒い煙をあげる白竜の残骸と、叫ぶ怪人達を掴んで、黒い塔の方へと連れ去ってしまった。

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