魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
「おい、クライネ! テメーは裏界の管理人だろ、なんなんだよあの黒い手は!?」
「知りませんわ、テラーニア。あの鍵の塔とやらは宿り木達が最近作ったものですの。苦情はあの方々に言ってくださいまし」
クライネは不機嫌そうに尻尾を揺らしてそう言い返すと、怪人達を連れ去っていく黒い手を半目で睨みつける。
「天空樹で見たラブリナさんの一部に似ていたけれど……。怪人達の口ぶりからすると、味方を何かのエネルギー源にしてるのかもしれないね」
「はい、私にもそう聞こえました。黒晶石は負の感情で育つと聞きます。人も生物も居ないこの空間、地上侵攻の為のエネルギーを味方から得ているのかもしれません」
セレナちゃんの言葉に頷き、ビルの屋上で影の街並みを見下ろす私達は、怪人達が連れて行かれた先であろう黒い塔の様子を窺う。
連れ去られた怪人達の叫びは次第に小さくなり、一瞬の静寂が訪れる。そして、一際大きく響く怪人達の絶叫。
直後、餌の到来に喜ぶかのように、黒い塔周辺の地面から、何本もの巨大な黒い手が吹き上がった。
「餌か、燃料か、宿り木達が怪人を使って何かを起こしているのは間違いなさそうなのです」
「うげぇ、マジで怖いんだけど。あんなんホラー映画に出てくる奴じゃん」
「大丈夫だよ、リオちゃん。ホラー映画と違って正体は明瞭だから。楽園をこじ開けて出てこようとしているラブリナさん本体の一部だよ」
「ウチ、一番怖いのは冷静に分析してるこりっちゃんな気がしてきた……」
呆れ顔のリオちゃんが私に酷いことを言う中、塔の方から裏界全域に響くようなゴゥンゴゥンと言う鐘の音が聞こえ、真っ黒だった鍵の塔に一本の光の亀裂が入っていく。
「むむーっ! あの光、また天空樹前と繋がったようなのです! あれが黒晶門高速復活のカラクリなのです!」
「なるほど、なるほど。では推測した通り、塔は怪人達を使ってエネルギーを補給し、地上への扉を開いていると言うことかね。くつくつくつ、いやはや悪趣味ここに極まれり。吾輩、彼等の愚行に開いた口が塞がらないとも」
「本当にそうだったら、そろそろ外の誰かから連絡がくるんじゃないかな?」
黒い塔の様子を見終えた私達は、警戒しつつも影の建物から降りる。
ちょうどそのタイミングを見計らったかのように、リオちゃんのスマホが振動して宙に浮かび上がり、
『リオ、天空樹の黒晶門が再生を始めたわ! いつもみたいに配信してないみたいだけれど、そっちの様子はどうなってるの!?』
慌ただしい様子のナナミちゃんがそう尋ねてきた。
「ナナミ、丁度そっちから連絡来そうだって話してたとこ。配信は鍵守連中に居場所悟られないためにしてないだけ。裏界に天空樹みたいな塔があって、ほぼ間違いなくそこが天空樹前の黒晶門と連動してる」
大慌ての様子のナナミちゃんにそう言って、リオちゃんが浮かんだスマホを動かし、光の縦筋が入った鍵の塔を見せる。
『確かに天空樹の明暗を逆にしたものに見えるわね。……そっちでなんとか制圧できないかしら。一時的にでも黒晶門前を制圧できたのなら、天空樹を警備している戦力を送り込めるのだけれど』
「いや……どうなんだろ、頼もしい仲間は揃ってるけどできそう?」
リオちゃんは困ったような顔で私とセレナちゃんの顔を見る。
「できそうじゃなくて、やるしかないよ。だって……このままじゃ退路、なくなっちゃうから!」
私はそう言うと同時に、ミコトちゃんをセレナちゃんに投げ渡し、リオちゃんの手を引いて急ぎその場から離れる。
直後、私達が立っていた居た地面が盛り上がり、黒い道路を砕き割って、巨大な黒い手が突き出してくる。
私達の足元だけじゃない。黒い塔付近から這い出ていたのと同じ手が、裏界のあちこちから無数に現れ、まるで黒い手の森みたくなっていた。
「ふぅむ、多勢に無勢……これはのっぴきならない状況ではないかね。テラーニア、既に変身している吾輩とキミで食い止める他なさそうだ」
「ケッ、同感だな。ラブリナ、あの黒い手はオレ達でぶっ壊しておく、テメー等は元凶をぶっ壊せ」
「はい。引き受けました」
「ではまた生きて会おう、我が友よ! ボンヴォヤージュ!」
ラフィールとテラーニアは片手をあげて挨拶すると、黒い手を倒す為に影の街並みの上を駆け飛んでいく。
『ねえ、リオ! 今ラフィールの声が聞こえたんだけど!?』
「大丈夫、今味方だから! ただ、ウチ等はこれから余裕なくなる!」
言いながら、リオちゃんは近づいてくる黒い手に視線を滑らせる。
ラフィールとテラーニアが黒い手を素早く撃破してくれているけれど、いかんせん数が多い。もたもたしていたらすぐに取り囲まれてしまいそう。相手はご飯を食べて元気ハツラツのご様子だ。
『余裕がなくなるのはこっちも同じみたいだわ! アンタの方に映ってた黒い手が黒晶門から出現してきたわ! 既に変身済みのねねが対処してくれてるけど、私も今から援護に入るから!』
スマホの後ろで暴れる黒い手と、スマホの画面に映る黒い手。地上の状況は裏界の状況と完全に連動している。
この状況を打破するには、一刻も早くあの塔を壊す必要がありそうだ。
「了解。んじゃナナミ、そっちは任せた! お互い無事なよう祈っとく!」
リオちゃんが通話を切り上げたのを合図として、私達はこの元凶であるはずの鍵の塔を急ぎ目指す。
「こりすー! 昨日回収して貰った宝珠、持ってきているのです! 塔の前で時間を稼げれば、ナナミ達をこっちに引っ張ってこれるのです!」
ミコトちゃんが走りながら手足をジタバタとさせて言う。
「ああ、暗黒神召喚用の宝珠! やっぱり道具は使い方次第だね!」
「なのです! 破壊されなくてよかったのです」
ドヤ顔で言うミコトちゃん。私が壊すって言ったのを当て擦っているんだろうけれど、今はそれ所じゃないからスルーだ。
「けどさ、ミコっちゃん。まずその塔まで辿り着くのが難題なんだけど!? ラフィール達がかなりの数削ってくれてんのに、まだ黒い手が山ほど押し寄せてきてるからさ!」
黒い手に壊され、砕け散る建物の破片を避けながら、リオちゃんが迫る黒い手の群れを見て引きつった顔をする。
黒い手は裏界の建造物群と同じ扱いなのか、次元の狭間部分を平気で通り抜けてくる。あまりにもこっちが不利な鬼ごっこだ。
「ふぅ、仕方ありませんわね。わたくしも足止めに回りますわ、貴方達は先行なさい」
このままでは全員まとめて追いつかれると、クライネが足を止めて振り返り、次元の狭間を跳び渡って大鎌で黒い手を斬り裂いていく。
「クーちゃん、悪い! その分、ウチ等がなんとしても止めるから!」
「はい、任されました。こりす、可能な限りは私とリオで対処します」
セレナちゃんから切り替わったラブリナさんが私を一瞥し、私がそれに頷く。私の変身は待ってくれってサインだ。
そう、切り札であるエリュシオンへの変身はまだ切れない。この後は魔王ファンヌが控えていて、更にラブリナさん本体である黒晶石の大樹を相手取る可能性が高い。
今変身していたら途中で変身時間が切れかねない。
「ウチもそろそろ変身する! こりっちゃん、いいね!?」
「うん、お願い!」
ミコトちゃんの手を引っ張って、襲ってくる黒い手を避けながら私が頷く。
「うし! マナチェンバー、イグニッション!」
先頭を走るリオちゃんが魔法少女へと変身し、私達の横から迫る黒い手を槍で薙ぎ払って破壊してくれる。
「黒い手、思ったよりは弱い! 変身すればウチでもいけそう! こりっちゃん、ミコっちゃん、後ろついてきな!」
「わかったのです!」
広い窪地へと続く斜面を駆け下りて、私達は壊都深界域に相当する黒い平原を一気に駆け抜ける。
遠くに見えていた黒い塔がどんどんと大きくなり、そこに入っている光の縦筋がより鮮明になっていく。
光の縦筋には黒い手が群がり、こじ開けるように光の筋へと潜り込んでいた。黒い手はああやって天空樹前に出現しているんだろう。
そして、黒い手は塔の下から次々生えてきている。予想通り、楽園の扉があるのは鍵の塔の真下で間違いない。
「やっぱあの光の筋が天空樹と繋がってる入り口で確定ぽいね!」
「ラブリナさん、あそこの黒い手を倒して! それで天空樹前に敵が出てくるのを止められるはずだから!」
「わかりました!」
ラブリナさんが走る足を速め、一気に踏み込んで跳躍、得物の杖剣に黒晶石を纏わせて塔と黒い手へと斬りかかる。
でも、それは禍々しい黒晶石の長剣を持った女の子によって防がれてしまう。黒い衣装を身に着け、赤茶色の髪をした女の子、魔王ファンヌだ。