魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
第三話 魔法少女の再起
天空樹と繋がる鍵の塔の前、ラブリナさんの斬撃を止めたファンヌがにへらと笑う。
「うふふ、ダメだよぉ? この鍵の塔はね、レギーナが作ったもう一つのエリュシウムの鍵。宿り木達が地上へと戻るための計画の要なんだって」
「もう一つのエリュシウムの鍵……。つまり、この塔の力で楽園の扉をこじ開けるつもりなんだね」
言いながら、私は胸元に着けているエリュシウムの鍵を強く握る。
つまり、あの鍵の塔は前回奪われたスペアキーを基に作られた代物。だとすれば、地上に悪影響を及ぼすそれを壊すのは、エリュシウムの鍵の使用者である魔法少女エリュシオンの責務だ。
楽園の扉を開けるつもりで冒険してきた私達だけど、あくまでそれは地上の安全を確保した上での話。ここで全ての決着をつける覚悟だからこそ、他の誰かを危険に晒したまま扉を開くことは許されない。
「くすくすくす、その通りです。これこそが鍵の塔。莫大な力を必要とする鍵の核の代わりとするため、黒晶石の魔王と無数の怪人を取り込み、同等の力を得るための器なのです」
そう言ってファンヌの陰から姿を現したのは、モンスター化した白狐の怪人。
その胸元には見覚えある形状の黒晶石が刺さっている。宿り木がモンスター化した怪人の体を使っているパターンだろう。
「……胸元に刺さった黒晶石、宿り木ですね」
「くすくすくす、これは申し遅れました。私はレギーナ、あなた方が倒したワイズやアンジェラ同様、鍵守の幹部をしている者です」
レギーナは目を細め薄い笑みを浮かべる。
その後ろ、鍵の塔の中に黒晶石に飲み込まれたファンヌの姿が薄っすら見えた。
要するに、あの塔は白い輝石を核とする変身ペンダントの真逆。魔王や怪人を黒晶石の力でかき集めて核代わりとする負のマジックアイテムなのだ。
「うふふ、レギーナはね、ラブリナ様の欠片を使ってアタシを魔王にしてくれたんだよぉ」
ファンヌの言葉に、私とリオちゃんがレギーナを鋭く睨みつける。
つまり、あいつが魔法少女に憧れていたファンヌを歪め、魔王に堕とした張本人だ。
「ファンヌ、ウチや魔法少女に憧れてくれてたんだよね? なのに魔王になってどうすんの」
「うわぁ、リオちゃんが真剣な顔で睨んでる! うふふ、推しの魔法少女に倒される悪者なら、それもありかなぁ☆」
「ほーん、自分を悪者呼ばわりする訳ね。洒落てんじゃん」
「……あのね、あたしはこの計画を達成するために鍵守がパパに預けたんだって。そのおかげで私は幸せだったから、その対価はちゃんと支払わないといけないよねぇ」
両頬に手を当ててにへらと笑うファンヌ。
一見すると無邪気で楽しそうな明るい表情。だけど、その表情に陰があることを私は見逃さない。
当然だ。白鳥さんとの暮らしを幸せって言ってる人間が、こんな所で悪党の真似事して楽しいわけがない。
「そんなの理由になってない、そんな対価は支払う必要なんてない。私達は白鳥さんに頼まれて来たんだよ、ファンヌを助けてあげて欲しいって」
そう確信した、私がムッとした顔でそう言い返すと、ファンヌが寂しそうな顔になる。
「んーん、そんなことないと思うなぁ。……アタシね、鍵守達に連れていかれる時に決めてたんだ。パパがここに居ていいよって言ってくれたなら、行きたくないってワガママを言おうって。でも、パパは見送るだけだった。だからアタシは魔王でいいんだ」
そっか、やっぱり本当はファンヌも待ってたんだ。
魔王としてのファンヌはラフィール達とは大分違って見える。当然だろう、強い願いを果たせなかったラフィール達と違い、ファンヌは無理やり取り上げられて歪められた被害者なんだから。
どことなく自暴自棄に見えるのも、白鳥さんっていう寄る辺を失ってしまったからなのかもしれない。
「ってかさ、鍵守連中極悪怪人じゃん。居ていいなんて言ったら最悪殺されてたでしょ」
「うん、そうだと思う。それでもアタシは言って欲しかった、でもパパには死んで欲しくないなぁ。あれれ、おかしいなぁ、それじゃあアタシは魔王になるしかなかったねぇ」
「あのね、ファンヌちゃん。白鳥さん、ファンヌちゃんを助けるために天空樹に一人で乗り込んで、モンスターに襲われてエリュシオンに助けられたんだよ?」
「えーっ! パパったら! なんでそんなことしちゃうかなっ!?」
私の言葉に驚き目を丸くするファンヌ。
「貴方が居なくなった後、白鳥さんは自分の選択を後悔したんです。だから自らの手で過ちを正そうとしたんですよ」
「そうだよ。ファンヌちゃん、魔王なんてやめて白鳥さんの所に帰ろうよ」
「…………」
私達の説得を受けるファンヌは困ったような顔をしていたけれど、
「くすくすくす。ファンヌ、まさか今更日和るわけではありませんよね? 貴方は我等宿り木の悲願を背負っているのですよ。貴方の憧れる魔法少女達は、恩人である他者の願いを踏みにじったりしないでしょう?」
レギーナがファンヌの横でそう囁くと、ファンヌは再び翳りのある表情になって、小さく首を横に振った。
「そうだね……。レギーナ達宿り木はみんな魔王になれなかった。なのに魔王になったアタシがレギーナ達を裏切っちゃダメなんだ」
「くすくすくす、その通りです。我々は望めども魔王になれず、ファンヌは魔法少女に憧れ、されどその敵である魔王となる宿命を背負った。願いを叶えられなかった私達は互いに理解者同士なのです」
寂しそうな顔をするファンヌに、レギーナが邪悪な笑みを浮かべてそう囁く。
なんだコイツ、私は心底頭にきた! 同類みたいな言い方してる癖に、レギーナのしていることはファンヌの心に呪いをかけているようなものだ。許せない。
「なにそれ、バカじゃないの? 自分が望みを叶えられなかった分、相手にも望みを我慢させるの? 普通逆でしょ。その宿命、背負わせたのは貴方だよ」
「よく言った、こりっちゃん。ウチも全くの同感。ファンヌ、昔ウチに助けられたことあるって言ってたよね」
「え、そ、そうだよぅ。昔怪人に襲われた時、リオちゃんが助けてくれたんだ」
「けど、今のファンヌを見たらホントの意味では助けられてなかったじゃん。だからさ……ウチが今ここで鍵の塔壊して、足引っ張ってくる奴等から助けるから。それがセブンカラーズルビーのやり残したこと、覚悟しな!」
言って、リオちゃんが槍の切っ先をレギーナに向ける。
その表情からは抑えきれない怒りが伝わってくる。当然だ、私が助けた相手がこんな風にされてたら、私だって絶対に許せない。
「リオちゃん……」
「くすくすくす、変な気を起こさないでくださいね。ファンヌ、魔王である今の貴方は私達鍵守の願いも背負っているのですから」
「う、うん、わかってるよぉ……。リオちゃん、アタシに遠慮は要らないからねぇっ☆」
釘を刺すレギーナに頷き、ファンヌはリオちゃんに向けて明るく言う。
あれはどう見たって虚勢だ。レギーナの言葉はファンヌの心を抉って意志を縛ってくる。なら、まずはレギーナをコテンパンにしてやる!
「はっ、ふざんけんなだし! こりっちゃん、ミコっちゃん! ウチがファンヌの相手する、一人じゃ力足りんから手を貸して!」
リオちゃんは眉根を寄せて渋い顔をすると、長剣を構えて襲ってくるファンヌを迎え撃つ。
「わかったのです!」
「うん! セレナちゃん、ラブリナさん、地上の侵攻を阻止するために鍵の塔をお願い! 私はミコトちゃんと一緒にリオちゃんのサポートに回るから!」
「わかりました!」
セレナちゃんが鍵の塔へと駆け出し、私はリオちゃんのサポートをすべくファンヌの前に立ちはだかる。
ファンヌは見るからに渋々戦っている。あの鍵の塔が破壊され、言葉巧みに縛り付けてくるレギーナが居なくなれば、戦う理由がなくなって説得しやすくなるはずだ。
「ああ、なんて不届き者なのでしょう。私が長年温め育てた計画とファンヌ、その両方を奪おうとするなど!」
動き出した私達を見たレギーナが嫌悪感を露わにし、鍵の塔に触れながらリオちゃんを指差す。
瞬間、リオちゃんの真下から黒い手が出現した。