魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第19話 【魔法少女の再起】2

「っ!? ウチの真下!?」

 

 突如足元から噴き出した黒い手の群れ。

 リオちゃんは咄嗟に槍で黒い手を弾くけれど、その隙にファンヌが攻撃態勢に入ってしまう。

 

「リオちゃん、ファンヌは任せて!」

 

 割って入った私は、手にした鉈でファンヌが振るう長剣を受け流し更に足払いをかけて体勢を崩す。

 

「あれぇっ!?」

 

 綺麗に足払いの入ったファンヌがたたらを踏み、その隙にリオちゃんが黒い手を倒して体勢を立て直し、ミコトちゃんがリオちゃんの怪我をささっと癒した。

 

「こりっちゃん、無茶しなくていいから! 相手は黒晶石の魔王だよ!?」

「うん、そうなんだけど……」

 

 変身していないのに通用してる。正直、自分でも予想外過ぎて驚いている。

 なんとか軌道だけでも逸らせればと思ってたのに、足払いを決めちゃう余裕すらあった。

 

「わわぁ、おかしいなぁ。なんかアタシの想像してたのと違うよぉ。こんな弱さじゃボス敵になれなくないかな?」

 

 対するファンヌも不思議そうに首を傾げ、再度長剣を構えてリオちゃんへと斬りかかる。

 私はすかさずそれをインターセプト。さっきと同じように受け流して足払いを入れた。

 

「あれれれれ?」

 

 盛大にでんぐり返しをしたファンヌが、今度は私の顔を見て不思議そうに首を傾げる。

 そして、今度は私に狙いを定めて斬りかかってきた。

 

「わけわかんないから、赤頭巾ちゃんから狙っちゃうよぉ! ごめんねぇっ!」

「気にしなくていいよ。その位は捌けるから」

 

 私は緩い剣筋の一撃を悠々と鉈で受け流し、腕を掴みながら足払いをかけて、ファンヌをその場に転がした。

 

「あれれー。なんで、なんでなのかなぁ!? こんなのアタシの予定になかったねぇ!?」

 

 受け身も取れずにビタンとその場に転がって倒れるファンヌ。

 さっきのは相手を傷つけるのを恐れてる剣筋だ。これで確信できた。

 

「こりっちゃんが魔王相手に押してる……? いやいやいやいや、どうなってんの!?」

「なんて言うか……ファンヌちゃんは完璧に素人だから」

 

 そう、ファンヌは今まで戦った魔王達と違って完全に素人さんなのだ。

 白鳥さん曰く、ファンヌは魔王となってラブリナさんの器にされる予定だったらしい。現に天空樹で戦ったファンヌの中身はラブリナさんの欠片だった。本人の戦闘力は元々度外視だったんだろう。

 ファンヌは白鳥さんとの暮らしを幸せだって言っていた。多分、普通の女の子として育てられていたはずだ。そんな子が急に力を持ったって、いきなり他人をズバズバ斬り裂ける訳がない。

 

 それに、ファンヌからは魔王となる資質であるらしい強い未練を感じられない。

 私が見てわかるのは今までの日常や魔法少女に対する未練だけ、それは宿り木達に無理やり作られたものだ。だから、魔王としての力も他の魔王より弱いんだろう。

 

「はぁ、なんて使えない……。ファンヌ、こちらに戻ってきなさい」

 

 そんなファンヌの惨状を見て、無数の黒い手でラブリナさんの行く手を阻んでいたレギーナが呆れ顔でため息をつく。

 

「うん。レギーナ、ごめんねぇ」

「いいのですよ、ファンヌ。貴方本来の用途は器、器に違う運用を求める方が酷だったのです」

 

 言って、レギーナは戻ってきたファンヌの傍に歩み寄ると、自らの体に刺さっていた黒晶石を変身用マジックアイテムに付け替え、ファンヌの首筋へと突き刺した。

 

「あぐっ!?」

 

 黒晶石付きのマジックアイテムを突き刺され、鈍いうめきをあげて項垂れるファンヌ。

 

「こりす! あいつ、自分の黒晶石を突き刺したのです! クライネの時と同じパターンなのです!」

「うん、見てた! 最低だよ!」

 

 クズ! とんでもないクズ!

 これが自分を裏切れないって言っていた相手にする仕打ちなの!? もう本気で頭にきた、衝動的に変身して全力パンチしそう!

 

『くすくすくすくす、何を仰るのです。先程、力強く語っていたではありませんか。望みを我慢させるのではなく、叶える手助けをしろ。貴方はそう言いたかったのですよね?』

 

 さっきまでレギーナだった白狐の怪人が灰になる中、ファンヌの体を乗っ取ったレギーナがいけしゃあしゃあと言ってくる。

 

「その恣意的解釈マジで腹立つんだけど。ま、おかげで容赦なくやれるようになったけど、さっ!」

 

 中身がファンヌじゃないなら情けは無用と、リオちゃんが大きく踏み込んでレギーナの黒晶石を狙って突きを繰り出す。

 だが、それはレギーナの持った長剣によって軽くいなされてしまう。

 

『くすくすくす、素人であるファンヌとは違うのですよ。そのような甘い手が通じるはずがないでしょう』

 

 レギーナはそのまま返しの刃でリオちゃんの首筋を狙うけど、

 

「それは私がやらせません」

 

 その前にラブリナさんの杖剣がひらめき、レギーナが慌てて後ろに飛び退いた。

 

「あんがと、ラブさん!」

「いえ、助け合うのは当然です。それに、レギーナを無視して鍵の塔を破壊できるとは到底思えませんから」

「つまり、脅威がひとまとめになったのです! まとめてけちょんけちょんにするのです!」

 

 黒い手に追いかけ回されているミコトちゃんが言う。

 ラブリナさんの足止めに専念していた黒い手は今や私達全員を狙っている。こっちも向こうも狙いがひとまとめになった形だ。

 

「ただし、相乗効果で脅威度は倍増だけどね」

 

 飛び退いたレギーナの周囲で黒い手が蠢き、次々と私達に襲いかかる。

 私は追いかけられていたミコトちゃんの手を引いて、襲ってくる黒い手を次々と躱していく。

 

『くすくすくす。そこの方、先程はよくもファンヌを転がしてくださいましたね?」

 

 そこに剣を振りかぶったレギーナが追い打ちをかけてくる。

 私一人なら躱せるけれど、流石にミコトちゃんは避けられないだろう。

 

「ラブリナさん!」

「はい! 任せてください!」

 

 私はラブリナさんに援護を頼み、フォローに入ったラブリナさんがレギーナと鍔迫り合う。

 その最中、両脇から出現した二つの黒い手がラブリナさんへと襲いかかった。

 

「はっ、ラブさんにかまけて隙だらけだし!」

『くすくすくす、それは貴方ではありませんか?』

 

 その隙を衝いてリオちゃんがレギーナへと槍を薙ぐけれど、ラブリナさんを狙っていた手の片方がリオちゃんへと急旋回した。

 

「がっ!?」

 

 黒い手の掌底をくらったリオちゃんが、槍を落として黒い地面を跳ね転がる。

 

「ミコトちゃん!」

「任せるのです!」

 

 私はミコトちゃんの手を離し、代わりにリオちゃんが落した槍を使って黒い手を突き崩し、更に手首部分を叩き潰して一本撃破。

 その間にミコトちゃんがリオちゃんをレスキューし、即座に怪我を治して引っ張り起こした。

 

「リオ、起きるのです! 寝転んでいると危ないのです!」

「ありがと!」

 

 私が返した槍を受け取り、リオちゃんが次々と襲いかかってくる黒い手を倒していく。

 

「ああ、もう、クッソ! ウチが不甲斐ないせいでラブさんも攻めらんないじゃん!」

 

 黒い手を倒しながらリオちゃんがぼやく。

 レギーナと鍔迫り合っていたラブリナさんは、援護がなくなったことで黒い手の猛攻を受け、飛び退いて間合いを取ることを余儀なくされていた。

 

「むむー、クライネが合流しないと厳しそうなのです」

「いや、この黒い手の量じゃ来れるかどうかすら怪しいでしょ、最悪ジリ貧になるよ。……ってことで、こりっちゃん、ウチはここでほぼ戦力外になるから」

 

 このままでは埒が明かないことを悟ったリオちゃんが、覚悟を決めた目で私に言う。

 

「うん、にゃん吉さんが変身用ペンダント調整するの見てたから知ってる。魔王であるファンヌを自分で止めるため、元からそれを視野に入れてたよね」

「ああそっか。にゃん吉っさん、思いっきりリビングでペンダント調整してたもんね」

「自壊再変身はイグニッションじゃなくてオーバーリロードが正規手順だから。にゃん吉さんがそう言ってた」

 

 リオちゃんがペンダントを犠牲にする再変身を使おうとしていると察し、私はにゃん吉さんから聞いた風を装って正規の手順を教えてあげる。

 そうするつもりだったのは最初からわかってた。エリュシオンの回答を聞いたリオちゃん、凄く真剣な目をしてたから。

 

「あんがと! 流石にゃん吉っさん、お見通しじゃん!」

「ラブリナさん、リオちゃんとポジションチェンジして! ここからのリオちゃんはレギーナに届くから!」

 

 リオちゃんがレギーナに向けて疾走し、ラブリナさんが黒い手を斬り裂いて援護に回る。

 

「マナチェンバー、オーバーリロード!」

 

 槍を構えたリオちゃんがそう叫んで駆ける。

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