魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第19話 【魔法少女の再起】5

「うはぁ……。危なかったね」

 

 あふれ出た黒晶石で穴だらけになったドームを見て、私達は冷や汗を流す。

 危機一髪だ。あれに巻き込まれていたら間違いなくズタズタ、皆揃って破裂した風船みたいになっていた。

 

「こりす、安心するのはまだ早いのです。深界域の様子が全く違っているのです!」

 

 じたばたするミコトちゃんの言う通り、今私達が居るドーム周辺"壊都深界域"の風景は裏界突入前とは全く違っていた。

 瓦礫すらない真っ平だった突入前と違い、今は真新しい廃ビルがわんさか立ち並んでいる。裏界の崩壊により、次元の狭間に切り離されていたエリアが戻ってきたのだ。

 

「ウチ、イマイチわかってないんだけどさ。つまり、これってこの廃ビルエリア分だけ壊都深界域がデカくなってんの?」

 

 顎に指を当てながら、怪訝そうな顔で周囲を見回すリオちゃん。

 

「うん、ここが隔離されてた領域の一部ならそうなるはず」

 

 ドーム周辺は廃ビルが立ち並んでいて、あまり遠くまで見通せないけれど、さっきまでの説明通りならそうであるはずだ。

 

「クライネさん、楽園(エリュシウム)の扉は開かれて壊都と接続したんですか?」

「いいえ、貴方達が頑張ったおかげで、再接続されたのは楽園区域周辺だけのようですわ。楽園区域は不安定ながら隔離されたまま、相手にとっても苦し紛れの一手だったのですわね」

 

 言って、クライネが壊都の空を見上げる。丁度ドームの真上、夕焼け空の中に一部だけ青空があり、青空から黒晶石の大樹が逆さに生えていた。恐らくあれが楽園区域なんだろう。

 蜃気楼のように揺らめく大樹の幹は根本部分が見えないけれど、茂った黒晶石の枝葉はくっきりとしていて、こちら側から触れることさえできそうだ。

 

「むむむ、依然予断許さぬ状況なのです。見るからに空間が不安定で、一方的に干渉されかねない危機的状況なのです」

「枝先があれだけ明瞭だと、黒晶門みたいに怪人やモンスターが通り抜けてくる可能性がありそうだもんね」

 

 避けられない激戦の予感。

 天空樹前と繋がった次元の狭間は大丈夫なのかなって、廃ビルの隙間から覗いてみれば、視界の果てに見慣れた街の風景が僅かに見えた。

 あの距離感なら、ここからはそれなりに距離がある。途中に真っ平なエリアを挟んで地上防衛線が張れそうなのは不幸中の幸いだ。

 

「お、行く時見送ってくれたダン特パーティからスマホに連絡入ってる。繋がった地上境界付近の防衛に回ってくれてるってさ、ウチ等も一度戻ろか」

「そうだね。どう見てもあの大樹は危ないし、まずはファンヌちゃんを送り届けて態勢を整えよう」

 

 裏界で襲ってきた黒い手みたいな枝葉を蠢かせている黒い大樹はどう見ても危険。今までのパターンから考えるに、あれはモンスターと怪人の群れに他ならない。近いうちに襲ってくるはずだ。

 案の定、空を見上げて警戒する私達の前、黒い大樹の枝先から幾つもの黒い塊が滴り落ちてきた。

 

「リオちゃん、上からモンスター! 右に飛んで!」

 

 いち早く気づいた私が声を掛け、リオちゃんが咄嗟に右に飛ぶ。

 

「げっ!? 悪い、今ウチはファンヌ担いでるからちょっと手かして!」

 

 突如目の前に振って来た巨大ワニに慄くリオちゃん。

 

「任せて!」

 

 私はすかさずリオちゃんの前に躍り出て、大口を開いたワニの口を引き裂くようにちょん切った。

 でも、それで終わりじゃない。廃ビルの間に次々と黒い塊の雨が降り、地面に落ちた黒い塊が捏ね上げられて怪人へと変化していく。危惧していた通りの展開だ。

 

『クハハハッ! レギーナの奴め、口ほどにもない。だが、期せずして理想の状況になった……グエェッ!?』

『これで我々が一方的に攻められる……グハァ!!』

 

 ピンクゴリラ怪人の首を刎ね、返す刃で蝶怪人の首を斬り飛ばす。

 

『さしものエリュシオンも一方的に攻め続けられては埒が明くまい……ゴパァ!」

『楽園の扉を開くのは、地上を制圧してから悠々と行えばいい……ギャアアア!?』

 

 次いで出てきたタコ怪人もちょん斬って、唐笠お化け怪人を唐竹割りする。

 私は変化し終えた瞬間を見計らい、怪人の首を矢継ぎ早に刎ねていく。

 

「あおおおー! こりす、まだ来るのです! 黒い雨が降ってくるのです!」

 

 一波凌いでほっと一息つく暇もなく、大慌てのミコトちゃんが上を指してあわあわと叫ぶ。

 黒晶石の大樹からタールのような黒晶石の塊がぽたぽたと次々と滴り、地面に落ちると同時に捏ね上げられ、今度はモンスターへと変化していく。

 その中身はゴブリンから深層モンスターまで様々、まさに手あたり次第って感じだ。

 

「はっ、バリエーション豊富でありがたいね。やってられんし」

「あの塔を起動させるため、楽園の大樹に多くの怪人やモンスターを取り込んでいたみたいですわね。この分だと楽園区域は怪人達とモンスターパラダイスですわぁ」

 

 クライネはふあと面倒くさそうにあくびをすると、廃ビルの壁を器用に跳ね飛んで、上から襲ってくるモンスターを大鎌で迎撃していく。

 でも、絶え間なく現れる敵の数は多い。私達の周りは瞬く間にモンスターまみれになってしまった。

 

「試しに上空へ魔法を打ち込んでみましたけれど、効果がありませんね」

「癪だけど、さっき倒した怪人達の言ってた通りだね。敵の姿は見えても反転攻勢がかけられない。普通に楽園の扉が開いたパターンよりも厄介だよ」

 

 セレナちゃんが放った炎の魔法は、蜃気楼のような大樹をすり抜け、空の彼方へと消えて行ってしまった。

 単純に数で押してくる相手なら、エリュシオンに変身すればいいだけの話だけれど、この状況で変身しても敵の本拠地まで攻撃が届く保証がない。

 私達は雨のように降り注ぐ敵の群れを迎え撃ち続けることしかできないのだ。もう、この場に留まることさえ危険だ。

 

「ラブリナとクライネに愉快な仲間諸君! 無事でいるかね!? ここは吾輩とテラーニアで食い止める! キミ達は一度態勢を立て直したまえよ!」

 

 私が一時撤退を視野に入れ始めた頃、廃ビルの壁面からウサギ人形の絨毯爆撃をしながらラフィールが言い、

 

「クライネ、テメーはまだ変身温存しとけ! オレ達の残り変身時間は長くねーぞ!」

 

 毛むくじゃらのイエティみたいなモンスターの群れを蹴散らしながらテラーニアが叫ぶ。

 

「あの二人も私と同意見みたいだね。ここは私達が殿になるから一時撤退して立て直そう。ファンヌちゃん抱えてると戦えないよね、リオちゃんは先行して地上との境界目指して!」

「こりっちゃん、けどさ……」

「大丈夫。私とセレナちゃん、白鳥さんからファンヌのこと頼まれてるから」

 

 迷うリオちゃんに向け、私は力強く頷く。

 さっきはリオちゃんが奮戦してくれたけれど、私が白鳥さんに頼まれていることは変わらない。

 リオちゃんが頑張った分、ここは私が踏ん張るべき場所だ。

 

「はい、こりすちゃんの言う通りです。リオさんは先に行ってください」

「ああ、もう、悪い! ファンヌはウチが責任もって送り届けるから!」

「ミコトちゃんも先に行って! この感じだと地上との次元の裂け目も危険な状態だろうから、ダン特の人達を援護してあげて!」

「任せるのです!」

 

 リオちゃんとミコトちゃんを先行させ、私達は二人の少し後ろの位置で、迫り来るモンスターと怪人を迎え撃ちながら境界を目指す。

 

「クライネ、これってこっちから楽園の扉は通れるのかな!?」

 

 でも、次から次へ敵の出現スピードが速すぎる。

 どう考えてもこのままではジリ貧。エリュシオンに変身して楽園の扉から敵の本丸に突入したい。

 

「……魔王クライネが体を奪われていた時の裏界の扉と同じですわ。黒晶石の身ならば通れても、人の身では通れませんわね」

 

 セレナちゃんとクライネが、朽ちたビルの裏から現れた巨大トゲクジラを相手取り、私がその下をウロチョロしている怪人達の首を刎ねる。

 

「やっぱり、そう言うこと……!?」

「でも、クライネさんの時と同じと言う割に、封じられた扉があるようには見えませんけれど……」

 

 クライネの言葉を不思議に思ったセレナちゃんが、一度壊れたドームの方へと視線を滑らせる。

 

「楽園の扉があったのは鍵の塔の丁度真下。塔が裏界ごと楽園へと落ちた際に、一緒に扉のあった空間まで落ちてしまったのですわね」

 

 くるくると踊るように大鎌を振り回しながら、クライネが渋い顔をする。

 

「……クライネ、それってつまり、手出しできないってことになっちゃわないかな!?」

「こりすちゃん、本当にそう思っていますか?」

 

 私の援護をしてくれているセレナちゃんが、私の内心を見透かしたように尋ねる。

 

「それは……」

 

 正直な所、打開できる一手に心辺りはある。

 けれど、それはかなりハイリスクな手だ。可能な限り選びたくない。

 

「あら、何やら難しいお顔をしておりますけれど、それは後になさいな。どんな策を講じるにしろ、まずは合流して態勢を立て直してからの話ですわ。地上の防衛体勢が整うまで、わたくしもテラーニア達と共に足止めをしてきますわ」

 

 後ろから迫るカニタワーを転がしながら、クライネが撤退する足を止めて振り返る。

 

「わかってる。セレナちゃん、話は地上との次元の裂け目近くまで離脱してからにしよう」

「そうですね。その方がよさそうです」

 

 転がったカニタワーに雷の矢を連射しながら、セレナちゃんが同意する。

 幸いなことに、この近辺はドーム前よりも僅かに敵の質が下がってる。空に映る大樹の幹はドームの丁度真上にある。多分、ドーム周辺が最も黒晶石の影響を色濃く受けているんだろう。

 黒晶石の侵食を妨げてくれるであろう白い輝石は、廃ビルエリアが出現したことで、裏界の扉前から遠くに押しやられてしまったんだろう。

 

『イカハハハハッ! そう簡単に逃げられると思うなよォ!?』

 

 私達の後ろで感電死したカニタワーがようやく黒い煙をあげ、今度は私の目の前にふざけた笑い方のイカ怪人が落ちてくる。

 けれど、私達は既に廃ビルエリアを抜け、真っ平エリアも終わりに近い。つまり、地上境界はもう目と鼻の先だ。

 

「逃げる必要があるのはそっちだと思うよ」

『なにィ?』

「おおっと、こんな所に怪人さん発見でございましょ。ほいさっさ」

 

 地上と繋がる次元の裂け目から援軍に現れたねねちゃんが、二本の刀でイカ怪人を切り刻み、さっくりイカリングにしてしまった。

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