魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第2話 魔法少女の迷走9

 その後、ミコトちゃんを連れた私は、沢ルートにあった緊急避難用の山小屋に隠れていた。

 二層境界付近でリオちゃんが倒れているなんてこともなく、セレナちゃんことラブリナさんの姿も見えなかった。もしかすると、ラブリナさんがリオちゃんを保護してくれたのかもしれない。

 

「ちゃんと両方助けられてよかった……」

 

 私は気を失っているミコトちゃんを起こす前に、三角座りして大きく息を吐く。

 二人とも助けられて本当によかった。変身しないと言っておきながら、こんなに短いスパンで二度も変身してしまった罪悪感よりも、無事助けられた安堵の方が遥かに勝る。

 そして、その事実に少し自己嫌悪する。結局、私は魔法少女であることを捨てられない。きっと次も目の前にピンチの人が居れば迷いなく変身してしまうんだろう。

 

「弱気になりそう、疲れてる時にこういうことを考えるのは止めないと」

 

 魔力の大量消費で今一つ回らない頭を軽く振って、私は気持ちを切り替える。

 流石の私でも今日の魔力消費量はキツかった。ただでさえ魔力効率の悪い緊急変身で変身しているのに、燃費最悪の切り札"認識時間制御"まで使ってしまったのだ。

 

 効率悪い×効率悪いは伊達ではなく、相乗効果で魔力消費量は激増。あの後、エリュシオンとして活動できる時間を一気に持って行かれてしまった。緊急変身での認識時間制御は実質使用禁止だ、ここに来るまでの道中で変身が解けなくて本当に良かった。

 

「認識時間制御以外の大技も、緊急変身では控えた方がよさそう」

 

 私は鞄の中にまだ残っているはずのお菓子を探しつつ、もう変身しないんじゃなかったの? って、心の中で自分にツッコむ。

 二度と変身しないと言っておきながら、誰かが窮地に陥れば平気でその禁を破ってしまう私。そんな私を見て、セレナちゃんはどう思うんだろうか。とてもじゃないけど怖くて聞けない。

 

「うん……」

 

 と、そこで聞こえた悩ましい声。

 そうだ、まずはミコトちゃんを起こさないと。ずっと変な調子だったし大丈夫なのかな?

 

「ミコトちゃん、ミコトちゃん。起きて」

 

 変な呪いとか魔法とかがかかってたらどうしよう、私に何とかできるんだろうか。なんてことを考えつつ、ミコトちゃんを揺する私、

 

「こりす? ここは一体どこなのです?」

 

 とろんとした寝ぼけまなこで、不思議そうに周囲を見回すミコトちゃん。

 ミコトちゃんが体を動かす度、ふわりと頭の奥が痺れるような変なお香の匂いがする。

 

「第一層の沢エリアにある山小屋だよ。変な人達に攫われそうになっていた所を、親切な人が助けてくれたんだよ」

 

 私はエリュシオンの名前を出さずに事情を説明する。色々と話を聴きたいのに、変なスイッチが入って対話不能になったら困るし。

 

「変な人達ですか」

「うん、黒装束の人達」

 

 その言葉を聞いて、ミコトちゃんは口元を隠してくすくすと笑う。

 見た目には相応しい典雅な仕草だけれど、どことなく私の知っているミコトちゃんっぽくなかった。

 

「それは私と同じ、テラーニア様にお仕えする神官達なのです」

「え? ミコトちゃんの神ってエリュシオンじゃなかったの?」

 

 朝と設定が違うことに私は首を傾げる。エリュシオンはどこに行ったの? 昼夜で信仰する神が変わるとかそう言う奴なんだろうか。

 

「どうしてそんな輩を信奉する必要があるのです。私達はテラーニア様が現世に降り立てるよう、黒晶石の侵食域を広げる使命を担っているのです」

 

 陶酔したような顔で嬉々として語るミコトちゃん。間違いない、今のミコトちゃんは正気じゃない。

 でも、怪我の功名と言うべきか、結構重要な情報を聞き出せている気がする。恐らくそれは正気のミコトちゃんからは聞き出せない情報だ。

 

「お花を使ってモンスターを呼び出したりするのもその一環?」

 

 なら申し訳ないけれど、ギリギリまで粘って情報を聞き出させてもらう。

 でも、そんな私をあざ笑うかのように、ミコトちゃんがした対応は突拍子もないものだった。

 

「そんな些細なこと、こりすが別に気にかける必要はないのです」

 

 どことなく色っぽい微笑みをたたえ、ミコトちゃんがおもむろに服を脱ぎだす。

 

「ふぇ、へ? え、み、ミコトちゃん?」

 

 突然の超展開に困惑する私。なにこれ? なにこれ?

 黒い首輪以外裸になってしまったミコトちゃんは、普段からは想像できない妖艶な笑みを浮かべると、そのまま私を床に押し倒した。後頭部がちょっと痛い。

 

「私はこりすが好きなのです。だから、こりすにも私を大好きになってもらって……一緒にテラーニア様へお仕えするのです」

 

 ミコトちゃんはそのまま私に馬乗りになるように覆いかぶさり、視界がミコトちゃんの白い肌とおっぱいに埋め尽くされる。

 

「ひっ! や、止めよう。そういうのよくないよ!?」

「大丈夫なのです。すぐに病みつきになるのです」

 

 ミコトちゃんの手がすすっと私の服の中へと滑り込み、すべすべとしたお手てで私のおへそを撫でてくる。間違いない、エッチなことされそうになってる!

 このままじゃ私、大人の階段を上って、骨抜きにされて、暗黒教団に入信させられちゃう!

 失敗した。読み違えた。純潔は守らないといけない設定とかも全部吹き飛んでる!

 

「い、いい加減にしてくれないと払いのけるよ!」

 

 そう言って威嚇する私。

 対するミコトちゃんはくすりと笑うと、よりいやらしい手つきで私を撫でてくる。

 

「うひゃっ!?」

 

 このままじゃ色々と危険だ。早急に手を打たないと! 昼と夜で別々の友達に脱がされるなんて笑えない。

 私が体に力を入れて抵抗を試みようとすると、ミコトちゃんは私の顔に顔を近づけ、絶妙なタイミングでふっと耳元に息を吹きかけて気勢を削いでくる。

 なにこの技術、自前なの? 洗脳による後付けなの?

 

「無駄な抵抗はやめるのですよ。こ・り・す」

 

 くすりと笑って、甘ったるい声で囁いてくるミコトちゃん。悔しい、操られちゃって裸になってる癖に!

 もはや我慢ならないと、覚悟を決めて反撃に転じようとする私の視界の端、ゆさゆさと揺れるお胸と一緒に、首輪についた黒晶石のアクセサリーが揺れていることに気が付いた。

 昨日今日と黒晶石の危険性を見てきた私は、これがミコトちゃんをおかしくしている原因であると確信する。

 素早く迷いなく留め金を引きちぎり、ミコトちゃんの首輪から黒晶石を取り外す。

 

「あ……」

 

 瞬間、私を撫でさすっていた手が止まり、気を失って倒れ込むミコトちゃんのおっぱいが私の顔に覆いかぶさる。

 そして、私にのしかかったままミコトちゃんの動きが完全に止まった。

 

「やっぱりそうだったんだ」

 

 胸に顔を埋める形となっている私は、胸に頬ずりするようになりながらも必死に顔を動かし、手に握っているだろう黒晶石へと視線を移す。

 私の手の中で黒晶石は黒く妖しく輝いていた。もう間違いない、絶対これのせいだ。

 他人の体を操って、していいことと、悪いことがある。ミコトちゃんになんてことをしてくれるんだ、この変態水晶。

 危うく自身が大人の階段を上りかけたことと、ミコトちゃんにそんなことをさせたこと、その両方に憤る私。

 

「よくも!」

 

 私はえっちらおっちらとミコトちゃんの下から這い出すと、怒りをぶつけるように黒晶石を床に叩きつける。だが、黒晶石は頑丈で壊れない。

 怒りの収まらない私は外から大きめの石を二つ拾ってくると、黒晶石を一つの石の上に置き、もう一つの石を両手で持って、飢えたラッコのように黒晶石を石で叩き割った。

 砕けた黒晶石が石の上で灰色に染まり、そのままサラサラと灰色の砂となって消え去った。

 

「ふーっ」

 

 危なかった。過去最大級のピンチだった。私は冷や汗を拭って安堵する。

 思えば私が魔法少女として自然と無効化していただけで、ミコトちゃんから漂っていた変なお香も、催眠系の奴だったのかもしれない。

 

 この時、最大の危機が去って私は少し油断していた。まだ危機は全部過ぎ去ってなどいなかったのに。

 

「こりすちゃーん。物音が聞こえましたけど、ここに居るんですか?」

 

 不意に聞き慣れた声が聞こえ、見慣れたピンク髪の女の子が山小屋にやって来る。

 

「せ、セレナちゃん!?」

 

 な、なんでこんな所に? いや、ラブリナさんはセレナちゃんの体を借りているんだから、当然この近辺に居るだろうけど! セレナちゃんの性格なら当然待っていてくれるだろうけど!

 服を脱ぎ棄て全裸で倒れるミコトちゃんに、ラッコみたいに石を手にしてへたり込む私。この光景、客観的に見たらどういう状況に見えるの!? 絵面が酷くて全く想像できない!

 

「くんくん、なんだか変な匂いがします。この匂い、祈祷師がトランス状態にさせる為に使うお香ですね」

 

 魔物の襲撃に耐えられる作りとは言え、転移装置のある拠点でもない山小屋はそんなに大きくない。

 取り繕う暇もなくやってきたセレナちゃんは、ミコトちゃんから漂う匂いを嗅いで顔をしかめる。これ、そういうお香だったんだ……セレナちゃん、なんでそんなもの知ってるの?

 

「あ、あのね、セレナちゃん。これには色々な事情があるんだよ」

「はい、知ってますよ。事情なんてありませんって言われた方が困ります」

 

 訊かれてもいないのに勝手に弁明を始めてしまった私に、セレナちゃんがにっこりと微笑む。怖い、笑顔が凄く怖い。

 

「なので、まずは後ろで倒れている人がどうして裸なのか、そこから事情を教えて貰えますか?」

 

 そして、セレナちゃんは真っ先に一番言い訳できない場所を突っ込んできた。この無慈悲さこそ、昔から変わらない怒ったセレナちゃんスタイル。ああ、やっぱり怒ってるんだ。

 どうしよう、正直に説明しても理解してもらえる気がしない。少なくとも私だったら嘘つくなって怒る。

 

「うん……?」

 

 と、そこでミコトちゃんが目を覚ましてしまう。更なる混乱の予感に私は天を仰いだ。

 

「なんだか知らない場所に居るのです」

 

 そう言って裸のまま無防備に伸びをする姿は、私が知ってるミコトちゃんそのもの。

 情けないことに、正気に戻って良かったねって気持ちよりも、洗脳状態だったら申し開きできてよかったのにって気持ちの方が強い。ごめん、でも本当にピンチなんだよ。

 

「こりすちゃんの同級生の宵月さんですよね。こんな所でなにをしていたんですか」

 

 私が言い訳を探していることを察したのか、セレナちゃんは未だ状況の掴めていないミコトちゃんへと声をかける。容赦ない。

 ミコトちゃんは裸のままぺたぺたと自分の体を触ると、私の顔をじっと見つめてきた。凄く嫌な予感がする。

 

「こりすにエッチなことをされていたようなのです」

「ぶふぁ!?」

 

 とんでもない勘違いをしているミコトちゃん。違う! 冤罪、冤罪!

 そりゃあ、今裸だし、操られていたミコトちゃん視点ではそうかもしれないけど、本当に違う!

 

「本当ですか、こりすちゃん?」

 

 セレナちゃんからどす黒いオーラが滲む。

 勿論、モンスターの奴ではなく威圧感でそう見えるだけだ。

 

「ち、違うよ! 逆だからっ!」

 

 私は必死に首を横に振って否定する。

 でも否定し終えた瞬間、私は自分が失言したことに気づいてしまった。

 

「逆……? 詳しく説明してください、こりすちゃん。事と次第によっては、私はこりすちゃんでエッチエッチパーティします」

 

 そんな己の失敗を悔いる間もなく、セレナちゃんが私の前で仁王立ちする。

 発言の意味は理解不能だけれど、大層ご立腹であることだけは十分わかった。

 

「せ、セレナちゃん。今日はもう遅いから……!」

 

 焦る私がなんとか絞り出せたのは、あまりに情けないその場凌ぎの遅延行為だった。

 

「じゃあ、帰り道で聞きますね。ついでに今日はこりすちゃんのお家に三人でお泊りしちゃいましょうか」

「えっ……?」

「二層拠点から学園に転移しましょう。そこに私の家の者が居ますから、こりすちゃんのお家まで車を出しますね」

「で、でも、それならお泊りする必要はないよね……」

「仕方ないですよ。今日はもう遅いですから」

 

 当然、そんな遅延行為が通じるほどセレナちゃんは甘くはない。私はセレナちゃんの提案を不承不承頷いて承諾するしかなかった。

 私達のやりとりを観察しているミコトちゃんに服を着せ、三人揃って夜のダンジョンを歩いて家路を急ぐ。

 その道中は私にとって地獄の一言。途中で一度もモンスターに出会わなかったのは、モンスター達も怒ったセレナちゃんに怯えていたからだと思う。

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