魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第19話 【魔法少女の再起】6

『ギョベエエ!』

 

 イカリングになった怪人が断末魔の叫びをあげ、黒い煙となっていく。

 

「こりす! リオから話は聞いたわ、無事なの!?」

「ねねちゃん、ナナミちゃん! 助かったよ!」

「任せなさい。ここはねねと一緒に私が凌ぐわ、アンタ達は一旦体勢を立て直して!」

「と言うことでございます。乳頭巾ちゃんさん達は一休みするといいでございますよ」

 

 ねねちゃんとナナミちゃんは、私達とすれ違うように前に出て、中心部から絶えず寄せる怪人とモンスターを迎え撃つ。

 この土壇場で二人が来てくれて凄く頼もしい。

 

「ナナミ、ねね、クライネがラフィールとテラーニアと協力して深層モンスターを食い止めています。上手く連携してください」

「テラーニアってのも元黒晶石の魔王よね? 頼もしいじゃない!」

「それは愉しそうでございましょ。おねねさんも負けていられないでございますねぇ」

 

 二刀で刃の嵐を吹き荒らすねねちゃんが、黒いトロルの群れを瞬く間に切り刻み、ナナミちゃんが別方向から襲って来るリザードマン達を処理していく。

 

「二人とも気をつけて、深層モンスターが混ざってるから。って言うか、結構居る!」

「あれま! それは大変さんでございますねぇ。ナナミ、行けそうでございますか?」

「行くしかないでしょ! ねね、アンタの方こそ大丈夫なの!? 変身時間、あんまり残ってないのよね!?」

 

 黒トロルの残骸を踏みつぶして現れた巨大クジラを迎撃しながら、ナナミちゃんがねねちゃんの残り変身時間を心配する。

 私達が裏界へ突入してすぐ、ねねちゃんは天空樹前の防衛で変身していたはず。残り変身時間はかなり少ないはずだ。

 

「多少でございますけれど、心配無用でございますよ。おねねさんは変身解除してもそこそこでございますからね。流石に変身抜きで深層モンスターの相手は辛いさんでございますけれど」

 

 いつも通り、大して困った風もなくそう言うと、ねねちゃんはナナミちゃんとの連携プレーで深層モンスターを次々と捌いていく。

 でも、壊都深界域のモンスター数は増える一方、空に浮かんだ蜃気楼の大樹からは絶えずモンスターと怪人が送り込まれてきている。

 

「際限がないわね、本当に……! 強弱問わないこのモンスター量、この前の平原エリア以上よ!」

「ナナミ、もう少し前で食い止めた方がいいでございますよ。深層モンスターさんは攻撃が派手でございますからね、流れ弾で後ろが大惨事になりかねないでございます」

「そうね……! こりす、私達は変身時間まで前で食い止めるわ! 境界付近のことは頼んだわよ!」

 

 無尽蔵に押し寄せる強力モンスターの群れに辟易しつつも、ナナミちゃんとねねちゃんはモンスターを食い止めるため、廃ビルエリアの方へと突撃していく。

 二人が突撃していったことで、襲ってくるモンスターの質は下がったけれど、その数は一向に減る気配を見せない。

 

「二人が前に行っても押し寄せるモンスターの数は減りそうもありませんね」

「むしろ増えてるよ。どれだけの数が出てくるんだろう」

 

 大量に蓄えているだけなら倒しきればいいだけの話だけれど、黒晶石は怪人のコピーを作ってくる。

 以前、街を脅かしていた量産怪人のことを考えれば、打ち止めがあるなんて希望的観測はやめておくべきだろう。

 このままでは捌ききれなくなるのはほぼ確定。しかも、衝撃で裂けたからなのか、地上との裂け目は普通の次元の裂け目よりも大きい。危機的状況だ。

 

「この状況を打破する手、多分一つしかないけど……」

「同感です。こりすちゃん、そろそろ覚悟を決めてくれませんか?」

 

 街との境界で怪人を倒している私の呟きを聞いて、どことなく不機嫌そうにセレナちゃんが言う。

 言いたいことはわかってる。けれ、この手はセレナちゃんをとんでもなく危険に晒す。できる限り選びたくない。

 

「なになに、どんな手なん? ウチにも聞かせてみ!」

「遠慮なく私達に聞かせるのです!」

 

 そこに、リオちゃんとミコトちゃんが戻ってくる。

 

「二人とも戻ってきて大丈夫なの? 特にリオちゃんは変身時間使い切ってるんだから、危ないよ」

 

「いやいや、その言葉そっくりそのまま返すし。それにパーティは一連托生、初心者冒険者だって知ってる常識でしょ」

「危ない橋を一人で渡ろうとするのはこりすの悪癖、また再発しそうになっているのです」

 

 むっふと意気込んで胸を張るミコトちゃん。

 私、そんな悪癖持ってる扱いされちゃってるんだ……。

 

「そうですね。それでは私やルミカのことを言えなくなってしまいますよ。貴方が天秤に乗せているもう一つの選択、その果てが楽園(エリュシウム)の扉の先に居る私なのですから」

 

 困っている私の顔を見て、ラブリナさんがくすりと微笑む。

 そう言われてしまったら、私の負けを認めるしかない。あまりに危険な状況だから、つい私が自分で何とかしようと考えてしまった。

 エリュシオンは頑張る皆の背中を押す魔法少女であって、皆の代わりに戦う魔法少女じゃない。在り方の根底をまた忘れそうになってしまっていた。

 そして、ラブリナさんが自分で言っている通り、楽園の扉の先に居るラブリナさんの本体は、自分がやると言う回答を選び続けてしまった果てなんだろう。

 

「……私の考えている唯一の打開策。それはラブリナさんに黒晶石の中を通って楽園区域側に到達して貰って、楽園の扉を開けて貰うことだよ」

 

 覚悟を決めた私は、モンスターを斬り裂いた鉈の切っ先を、深界域の中心へと向ける。

 裏界を食い破ったあの黒晶石の塊は大樹の一部であり、宿り木達の通り道。つまり、楽園区域に接続されているはずなのだ。

 

「いやいや、ラブさんってつまり学園長代理じゃん! 黒晶石の中を通れるん!?」

「可能なはずです。ファンヌの本体は黒晶石によって封じられた裏界の扉を通って、裏界にあった鍵の塔へと組み込まれました。そして、今目の前に見える黒晶石は空に映る大樹の一部。つまり、魔王ラブリナと同質の存在……私が通れない理由がありません」

「それに、失われたエリュシウムの鍵の核、その正体はラブリナさんの欠片だから」

「封印された楽園区域の扉を開けられるとしたら、エリュシウムの鍵を持った私とラブリナさん以外にありません」

 

 そう説明を付け足すセレナちゃんに、私は重々しい表情で頷く。

 本当はもっと安全な状態で開きたかったけれど、こうなってしまったら一刻も早く扉をあけるしかない。

 そして、それはセレナちゃんとラブリナさんのコンビしか成しえない。結局、今の私には迷う権利すらないのだ。

 

「なら、ラブリナに宝珠を貸してあげるのです! 封を解いた宝珠を持って行けば、セレナの体が次元の歪みで立ち往生することはなくなるのです!」

「ありがとうございます、ミコト」

「任せるのです。ラブリナもセレナも仲間だから当然なのです!」

 

 宝珠の入った巾着を手にドヤ顔をするミコトちゃん。

 

「他に手がない以上、ウチ等はそれに全賭けするっきゃないけどさ。ささっと入って開けられるものなん? 裏界の扉があった場所、今やヤバいモンスターと怪人に占拠されてんだけど」

 

 リオちゃんは計画に納得しつつも、それが実現可能なのかと訝しむ。

 それは当然の疑問だった。ねねちゃんとナナミちゃんが廃ビル群の手前辺りで奮戦しているものの、押し寄せる怪人とモンスターの数は刻一刻と増えている。

 脱出が後少し遅れていたら、私が変身しないといけなかったであろう状態だ。街と繋がる境界の防衛は大前提である以上、反転攻勢を仕掛けるための戦力は不足していると言わざるを得ない。

 

「リオの懸念は正しいです。現状では地上境界前の防衛とトレードオフになるのは間違いありません」

「次元が歪んでいる可能性もあるし、ラブリナが素早く黒晶石に入れるかもわからないのです。私が補助する場合、廃ビルエリアでの安全確保をお願いしたいのです」

「わかってる。なら……配信、緊急レイド発令して助けを求められないかな?」

 

 この壊都は一応平原エリア管轄、セレナちゃんなら海岸丘陵と同じように緊急レイド発令ができるはず。

 しかも今や壊都は地上直通、援軍はそのまま直に来れる。セレナちゃんが危険な橋を渡るのだ、もはや私に恥も外聞もない。事前に出来る手は全部打つ。

 

「確かに境界付近に出現してくるモンスターなら、普通の冒険者達でも対応できますね。……ですが、今の壊都はどの深層よりも危険なエリア。緊急レイドを発令した所で冒険者が自主的に来てくれるでしょうか?」

「緊急レイドなんてダン特やウチ等魔法少女以外は任意参加だしね。修羅場に無理矢理来いとは言えんよね……」

「大丈夫なのです、私ならできるのです!」

 

 重苦しい雰囲気が漂う私達の前、ミコトちゃんがはいっと大きく手をあげた。

 

「あっ…………」

 

 うん、できる。確実にできてしまう、ミコトちゃんならいとも容易く。

 なにしろ、一声かけるだけで、天空樹から逃げだした人達を、戦うために逆走させることができるのだ。

 でも、それってしていい奴? 恥も外聞も投げ捨てたつもりの私でも、流石にちょっと躊躇せざるを得ない。

 

「あ、あのね、ミコトちゃん。皆がドカドカ押し寄せる感じじゃなくて、ちょっと皆の背中を押すだけコースとか……ないかな?」

「何故なのです? 平和とは与えられるものではなく勝ち取るものなのです。自らの街を守るために戦うのは当然だと思うのです」

 

 心底不思議そうな顔で小首を傾げるミコトちゃん。

 

「そ、それはその通りなんだけどぉ!? そう言うのは皆が自発的にするべきだから!」

「私ならそれを引き出せるのです」

 

 怖い! 天性のテロリストメーカーの才能と、それを平然と行使できる暗黒教団のメンタルが!

 今そのまま配信を始めたら、即席バーサーカーになった一般人が山ほど押し寄せてきちゃう!

 

「れ、レベルとかない人達が来ても意味がないし! かえって邪魔になっちゃうから、適材適所だよ!」

「むむー、それは確かに。ねねやナナミ達の邪魔になるだけなのです。迷う背中を押す程度にしておくのです」

 

 私の説明で一応の納得してくれるミコトちゃん。

 無事にこの件が終わったのなら、ミコトちゃんにモラルって概念を教えてあげよう。私はそう心に誓った。

 

「結論は出ましたね。街が危機的状況な以上、緊急レイドの発令は早急に必要です。リオさん、レイドの指示役はお願いします」

「うぃ、任せとき。学園長代理とラブさんには大一番が待ってるんだからさ、突入タイミングを逃さないことに全力傾けてなー」

 

 セレナちゃんから緊急レイド権限を受け取ったリオちゃんが、スマホを浮かせながら大きく頷く。

 

「ナナミ、今から学園長代理が緊急レイド発令する。援軍来るはずだから、そのつもりの動きしといて!」

『助かるわ! ねねにも伝えておく!』

 

 リオちゃんは先にナナミちゃん達に連絡を入れると、慣れた手つきで配信の準備を整えていく。

 

「よし、準備完了。さ、ミコっちゃん、出番だよ」

「任せるのです!」

 

 リオちゃんがミコトちゃんへとスマホを向け、姫巫女モードの表情になったミコトちゃんが、カリスマ垂れ流しで視聴者へ参戦を呼びかける。

 

「今こそ皆の力で街を守る時。戦える者は武器を持つのです。街を、自分の大切な人を守るのは自分自身。他の誰かが助けてくれるのを願うだけではダメなのです」

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