魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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最終話 楽園のエリュシオン3

「皆、いいなぁ……。どうしてアタシはあそこに居れないんだろ」

 

 天空樹の前、ダン特隊員に保護されているファンヌは、次元の裂け目の向こうで奮戦する人々に羨望の眼差し向けていた。

 

「やはり、あちらに行きたいのかね。ファンヌ」

 

 そこにやってきた白鳥が、ファンヌの肩にぽんと手を置いて語りかける。

 

「パパぁ!? どうしてこんな所にいるのかなー! ここ危ないよーっ!?」

「ははは、大丈夫だよ。前線で冒険者やダン特が戦っているし、若い頃は体を鍛えていたからね」

 

 白鳥を揺すって心配するファンヌに、白鳥は人のいい笑顔を向ける。

 

「嘘ぉ!? リオちゃんパーティの乳頭巾ちゃんが言ってたよぉ、パパが私を探して天空樹で死にかけてたって!」

「……お前を送り出した後、私は後悔していたんだ。怪人達に連れて行かれる時、私は身を挺してお前を逃がし、好きなように生きなさいと言ってやるべきだったと」

「そんなの困るよー! パパが死んじゃったらアタシが悲しむよぉ!」

「そうか……ああ、すまなかったね。だが、この後悔は、私がどうしても取り戻さなければならないものなんだ」

 

 顔を膨らめて不服そうな顔をするファンヌを見て、白鳥は少し微笑んだ後、表情を真剣なものに変える。

 

「だから……ファンヌ、お前はなりたい自分になりなさい。私は自分の全てを賭してその手助けをしよう、それが私の望みなのだから」

 

 それはレギーナがファンヌを縛ろうとする言葉とは全く違う、ファンヌの背中を押すためだけの言葉。

 白鳥の真剣な顔をじっと見つめ、ファンヌはリオから託されたペンダントと、自らの歪んだ片割れであった白い輝石を握りしめる。

 

「パパ……。アタシね、魔法少女になりたい! アタシね、リオちゃんにペンダント貰ったんだよぉ。戦闘はへっぽこだけど、それでもできることがあると思うんだー!」

「ああ、知っていたよ。ならば……」

「おやおや、その調整が不完全なペンダントでかい? そこはちょっと待つべきだと思うね、ボク」

 

 そんな二人の決意に横槍を入れる声一つ。

 その声の主は、セレナに仕える老執事が持っているキャットケージ、その中に居る黒いメタボ猫だった。

 

「君は……セレナ様の執事だったね」

「はい、白鳥様。この喋る黒猫は、お嬢様のご友人が飼っておられる猫でございます。貴方様が白鴎院の鳥籠から出られた折に必要となるだろうと、お嬢様から仰せつかっております」

「そうか、セレナ様が……。なるほど、確かにその通りだ。私は白鴎院本家への対抗心だけで長年生きてきたが、そんなものに縛られていた時点で、鳥籠の中だったのだ。ファンヌが私を籠の外へと連れ出してくれたのだな」

 

 感慨深げに呟きながらファンヌを見やる白鳥の前、老執事がキャットケージを静かに置いた。

 

「やあやあ。キミ、ちょっとペンダントと白い輝石を貸してごらんよ」

 

 キャットケージを開けたにゃん吉が、ファンヌを見上げて手招きする。

 

「わわぁっ、喋るネコちゃんだーっ☆」

「ファンヌ様、お静かに。この猫の存在は内密にございます」

 

 興奮するファンヌを、老執事が静かにとジェスチャーで制する。

 ペンダントを受け取ったにゃん吉は、キャットケージの中でペンダントを大急ぎで調整していく。

 

「ほら、できたよ。これでペンダントはその白い輝石に最適化されたはずさ」

「ありがとー、ネコちゃん☆」

「時に黒猫殿、どうやら貴殿は魔法少女やマジックアイテムに詳しい存在だとお見受けするが……」

 

 その一部始終を見て、白鳥が恐る恐るにゃん吉へと話しかける。

 

「どちらかと言えば詳しいね。リオちゃんにもアドバイスしたことがあるよ」

「そうか……では申し訳ないが、ファンヌを導いてやってはくれないだろうか。無論、白鳥の名にかけて貴殿のことは内密にすると約束する」

 

 白鳥の言葉に、にゃん吉がファンヌと白鳥の顔を交互に見つめる。

 

「……うーん、仕方なさそうだね。キミの肩に乗って小声でアドバイスしてあげるよ。ボクを落とさないように安全運転でお願いできるかい」

「わかった☆ わあっ、黒猫さんを肩に乗せて戦うなんて、大昔のエリュシオンちゃんみたいだねぇ! このネコさんはあの相棒猫さんに比べてちょっぴり丸いけどっ!」

「うん、悪意がない言葉ってのが一番傷つくね。いいや、とりあえず時間がないから急ごうか」

 

 大喜びするファンヌのクリティカルな一言にしょんぼりと項垂れつつ、にゃん吉はファンヌに変身方法を教えていく。

 

「よーし、やるぞーっ! イクリプスチェンバー、イグニッション☆」

 

 

  ***

 

 楽園の扉を開けるべく走る私達が廃ビルエリアに差し掛かると、ビルから飛び降り現れた無数の怪人達が行く手を阻んでくる。

 

『フハハハハッ! お前達を行かせはしないぞ! このまま数で押し潰してくれるわ!』

『どうせ楽園の扉は我々が開いてやるのだ。お前達は無駄な抵抗をせず、大人しくしているがいい!』

『ただし! 扉が開くのは、貴様らの住まう地上が我々に支配された後だがなァ!』

「ほーん、やっぱ簡単には通してくれんね! こりっちゃん、どうする!?」

「倒す!」

 

 槍を構えるリオちゃんと並走しながら、私は素早く周囲を見回して即決する。

 敵の数は多い、辿り着くだけなら無視したい。でも、ラブリナさんが扉を開けてくれるまで、私達は中心部付近に留まる必要があるはずだ。

 全方位からの襲撃に備え続けるのは流石に避けたい。

 

「安心せよ! こりす達が足を止める必要はないぞ! あの連中の相手は余達がしよう!」

 

 迎え撃とうとした私の後ろからそう声が聞こえ、声の主である金髪幼女の怪人クロノシアが、勢いよく目の前の敵の群れに向かって飛んでいく。

 そして、そのまま怪人諸共に大爆発した。

 

「う、うえええっ!?」

 

 "幼女が弾けた!?"

 "幼女人間爆弾!?"

 

「ふん、モンスター化した怪人と言えどこの程度か。ミレイが新しく覚えた時限爆破魔法は効果覿面だな」

 

 爆発の巻き添えを受けた怪人達が爆散し、抉れた地面の上で怪人だったものが黒い煙をあげる中、クロノシアだけが一人悠々と無傷で立ち上がる。

 

 "うっそぉ、あれ無傷ぅ!?"

 "しゃあっ! タフな幼女だ!"

 "ってかダンジョン庁の制服じゃん。あの幼女ダンジョン庁の職員なの!?"

 

「あ、相変わらずの耐久力だね……」

「うむ、余の守りはこんな連中の攻撃など歯牙にもかけぬ。お前達は安心して先へいくがよい」

 

 走る私達の前、ドヤ顔のクロノシアが中心部を指差す。

 

「そうにゃ。お前達が今回の要なんだから、心配するならさっさと決着つけてこいにゃ」

 

 私達に追いついたミレイが、風魔法で周囲の怪人をビルにめり込ませながら言う。

 

「この場はお願いします。ミレイ、クロノシア」

 

 ラブリナさんがビルにめり込んだ怪人に向けて黒晶石を放って止めを刺し、私達はミレイたちに見送られながら更に足を進める。

 防衛線から離れたことで、ラブリナさんも黒晶石を使った戦い方を解禁したらしい。……あるいは裏界の扉があった場所から、黒晶石の侵食が急速に進んでいるのかもしれない。

 そんな疑念を肯定するかのように、空から巨大な骨竜に乗った骸骨騎士が降ってくる。

 

「むむむー、あれは強めの深層モンスターだったはずなのです! 中心部に近いから敵も強くなっているのです!」

「ウチ、あんなん相手しながらこの近辺に留まれる自信ないんだけど!?」

 

 身構える私達に向けて大きく口を開ける骨竜。

 間違いない、空中からブレス攻撃を仕掛けてくるつもりだ。

 

「安心しろ、そこでボク様のご登場だっ!」

 

 その口に飛び込むように、ランスを構えたルミカちゃんが突撃。

 口から後頭部まで骨竜を一気に貫通した。

 

「ルミカ、助かる!」

「遅くなったな。この辺りの大物はボク様達に任せとけ!」

「あれ、達ってことは他にも誰か居るん……?」

 

 首を傾げるリオちゃんに、ルミカが小さく頷く。

 ルミカちゃんの視線の先、倒された骨竜から落ちた骸骨騎士が、別の魔法少女の槍によって貫かれていた。

 

「やったー☆」

「うんうん、そこで油断するのは悪癖だね。あの手のアンデッドタイプは再生力が高いんだ、消えるまで絶対に油断しちゃダメさ」

「はーい!」

 

 きゃいきゃいと素人さん丸出しな動きをする、見知らぬ魔法少女。

 そして、その肩に乗っているのは、よく知る我が家のメタボ猫。これ何事?

 

「にゃん吉さん、これってどういう状況なの? この人、誰?」

「ふっふっふっ……。輝く闇を身にまとい、正義の心で戦場を駆ける。アタシは謎の魔法少女ブラックルビー……」

「お、ファンヌじゃん!」

 

 レイド配信の映像を境界前カメラに切り替えながら、リオちゃんが驚きの声をあげる。

 あ、ファンヌなんだ。私は認識阻害が効いててわからなかったけど、リオちゃんは正体知ってたんだね。

 

「あー、ひっどーい! 元魔王で追加戦士枠なんだから、謎の味方キャラで売りたかったのにー!」

 

 ぷんすかと怒るファンヌの肩、しがみついたにゃん吉さんが呆れた顔をしている。

 うん、わかっちゃった。にゃん吉さんは保護者枠なんだね……。

 

「にゃん吉さん、ファンヌさんはその……大丈夫なんですか?」

 

 ファンヌの危なっかしい感じに、セレナちゃんが思わず心配そうな顔で尋ねる。私も同感だ。

 

「うーん、なんとかしてみるよ。彼女自身のスペックはかなり高いし、今回はルミカちゃんのサポートに専念する予定だからさ。って言うか、一人で無茶し始める前にボクがある程度レクチャーしなくちゃ心配過ぎるよね、この子」

 

 言いながら、にゃん吉さんがファンヌの頬を肉球でぷにと押す。

 にゃん吉さん、ご苦労様。無事家に帰ったら猫用煮干しをあげるね。

 

「あのね、リオちゃん……。アタシ、リオちゃんにペンダント貰った分、皆の為に頑張るから!」

 

 にゃん吉さんにほっぺを押されたまま、リオちゃんに感謝と決意の言葉を告げるファンヌ。

 やっぱり隣で正してくれる人の存在って大切だね。そう思いながら、私は隣にいるセレナちゃんの顔をチラリとみる。

 見られていることに気づいたセレナちゃんが微笑み返してくれた。ちょっと恥ずかしい……。

 

「あー、はいはい。気持ちは嬉しいけど新米はそんな気張らんようにしときなー。自分もちゃんと無事に帰る、それが魔法少女の鉄則だかんね」

「魔法少女だけじゃないぞ、誰でもだ! 戦ってるお前の帰りを後ろで待ってる奴だって居るんだ。傷つくのは自分じゃなきゃいけないなんて高慢だぞ!」

 

 照れたリオちゃんの注意に、イルカ星人みたいなモンスターを粉砕していたルミカちゃんがそう付け足す。

 お姉ちゃんを心配して魔法少女になったルミカちゃんとしては、絶対言っておきたい言葉だろう。

 

「さあ、あと一息なのです!」

 

 既に視界の先には黒晶石で砕けたドームの残骸がある。裏界の扉があった場所まであと一息だ。

 

『そうはいかん、いかんぞおおおっ!』

 

 そうはさせないと、一際大きな黒い塊が降ってきた。

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