魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
セレナちゃんとラブリナさんが楽園区域に旅立ってから、どれだけの時間戦っただろうか。
蜃気楼のように揺らめく大樹周辺は青空のままだけど、それ以外の空は既に夕焼けから夜空に変わり、空から降ってくる敵の数は一向に減らない。
でも私達は押し負けていない。大丈夫、まだいける。
「ふぅむ、流石に吾輩とテラーニアも限界か。クライネ、入れ替わりで変身を頼めるかね」
「任せなさいな。イクリプスチェンバー、イグニッション」
裏界から変身していたラフィールとテラーニアが、ついに変身時間の限界を迎え、代わりにクライネが魔法少女へと変身する。
「さて、そこの赤頭巾クン。これで魔法少女の総数は一人分減った。少々苛酷になるが耐えられるかね?」
「大丈夫だよ。皆が頑張ってるのに、私が最初に弱音を吐くわけがないよ」
私と一緒に虎モンスターを相手取るラフィールに即答し、私は虎モンスターの首を斬り落とす。
エリュシオンの状態だろうと、天狼こりすの状態だろうと、私は皆の頑張りを無駄にするようなことはしない。絶対に。
「ハッ、いい根性してんじゃねぇか。あの感じ、今から激しい襲撃がくるからな。口だけになんじゃねーぞ」
鉄鎧のアルマジロを殴って吹き飛ばしながら、テラーニアがニヤリと笑う。
テラーニアの言葉通り、黒い大樹から降ってくる黒晶花の数が増えている。
チラリとスマホの画面を一瞥すれば、地上との境界で奮戦する人達が相手取っているモンスターの数も増えていた。正念場だ。
「敵の数、マジで多いんだけど……。これさ、いい感じなん? それともヤバ目な感じなん?」
「多分……いい方、だと思う」
クライネが体を取り戻す時、裏界の扉に詰まっていたモンスターや怪人達が次々飛び出してきた。
それと同じなら、セレナちゃん達が何かをしているってことになる、はず。
「こりすー! 黒晶石に次元の裂け目ができたのです!」
どうやらその推測は正解だったらしく、ミコトちゃんが大きな声で私を呼んだ。
「本当だ、光の線が入ってる!」
裏界の扉があったドーム跡地、裏界で鍵の塔に入っていた次元の揺らぎみたいに、突き出した黒晶石を斬り裂く光の縦線が入っていた。
「……でも、流石にこれには入っていけないね。もう少し待てば開くのかな?」
「それは難しいと思うのです。楽園の扉が向こう側に落ちた影響か、どうやら空間が元々不安定なのです」
「そうなんだ。でも、ミコトちゃんならできるんだよね?」
そう言って、私がミコトちゃんをチラリと見ると、ミコトちゃんはむふんと自慢げにその大きな胸を張った。
「むふん、当然なのです! 取っ掛かりができた今、私なら開門で楽園区域に繋げることができるのです! ……ただし、難しいから安全のために一人分でお願いしたいのです」
胸を張ったポーズからしょんぼりしたポーズになって、ミコトちゃんがそう付け足した。
でも、大丈夫。それで十分だ。
「わかった。私を送って」
「任せるのです!」
「おい、待てよ。一人しか行けねーんだろ? どうしてテメーが行くことになってんだよ!」
開門を始めたミコトちゃんを守る私を見て、テラーニアが待ったをかける。
「決まってるよ。私はセレナちゃんの親友だから」
私はテラーニアの目をじっと見つめてそう言い返す。
「テメーの気持ちはオレだって理解してんだよ。けどな、魔法少女としてのラブリナは凄まじく強い。そして、そんなアイツですらあの黒い大樹には勝てなかったんだよ」
「止めたまえよ、テラーニア。それは吾輩達の悪癖だ。ラブリナと吾輩達は元々対等な友人だったはず、なのに吾輩達はその関係に強弱である種の序列をつけてしまった。思えばそれが過ちの第一歩、違うかね?」
「チッ……。そいつの気持ちはオレだってわかってんだよ。だがよ、力でダメなら想いで立ち向かう、それで何とかなりゃ苦労しねーだろ」
ラフィールにそう諭され、テラーニアが苦い顔で言い返す。
裏界での態度でそうだろうとは思っていたけれど、やっぱりテラーニアはエリュシオンの正体に気付いていない。
私の正体がバレてしまったあの時の白竜、復活した時にはテラーニアは倒されていて、中身はラブリナさんだけだったのだ。
……だから、私はエリュシオンとしての眼差しで、テラーニアをじっと見据えた。
「なんだよ、テメー。エリュシオンみたいな目をしやがって……」
私の眼差しを見たテラーニアは、少し怯みながらそう言って、渋々引き下がってくれる。
「当然ですわ、テラーニア。そこのこりすは眩い輝きを持っていますの。その輝きはかつてのラブリナ以上、かのエリュシオンと互角の輝きですわよ。行く末を賭けるに値する輝きですわ」
首長竜みたいな巨大モンスターを大鎌で引き裂きながら、クライネが言う。
「クライネ、よく言ってるその輝きってなんなの?」
「ああ、それね。ボク達の一族が昔から持ってる異能だね。人の魔力や意志の力みたいなものが見えるんだ。ボクも持ってるよ、キミと出会ったのもそれがきっかけさ。キミの輝きはなんて言うか特別凄いからね」
ファンヌに抱きかかえられながら、にゃん吉さんが言う。
私がにゃん吉さんに出会ったのって、魔法少女になる人を探してた時だよね? あれ、一か八かの大博打じゃなくて、ちゃんと根拠があったんだ……。
ん? 待って、クライネ、私がエリュシオンだって察してるとか? ない、ないよね? 心配になってきた。
「まあさ、誰が助けに来て学園長代理が喜ぶかって考えたら、こりっちゃん一択でしょ。それにラブさんもこりっちゃんを指名してた。ならウチはこりっちゃんに全賭けするよ」
少し別な方向に心配になってきた私の背中を、リオちゃんが軽く押してくれる。
そうだ。今はそんなことを考えている時じゃない。
「こりすが通り抜ける間、わたくしも扉守の権能で補助しますわ。その後は魔法少女として扉と皆を周辺の死守に専念します。ですから……こりす、遠慮なくお行なさい」
「行っておいでよ、こりすちゃん。こういう場面でキミ以上に頼りになる誰かなんて、絶対にいないんだからさ」
「開門っ! こりす、行けるのです!」
私の目の前、ミコトちゃんが扉を開き、黒と白の花が咲き乱れる草原と黒い大樹の風景が見えた。
あれこそは、今壊都の空に映っている黒晶石の大樹そのもの。ついに楽園の扉が開かれたのだ。
「吾輩達もキミに託した! しからば半端は許さない。見せてくれたまえよ、かつて悲劇で幕を下ろした物語、その続きが大団円であると! ……グッドラック、赤頭巾クン!」
「うぃー、行って、学園長代理とラブさんを連れ帰ってきなー!」
「皆ありがとう! 行って……私が全部解決してくる!」
皆に背中押され、私はミコトちゃんの開いた次元の裂け目をくぐる。同時、入ってきた次元の裂け目が消える。
これで全ての決着は私の手に委ねられた。でも、これは私一人で切り開いたものじゃない。皆の力だ。
だから……私は誰が相手であろうと、なんであろうと、絶対に負けない。負ける気がしない。