魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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最終話 楽園のエリュシオン6

 セレナちゃんとラブリナさんが楽園区域に旅立ってから、どれだけの時間戦っただろうか。

 蜃気楼のように揺らめく大樹周辺は青空のままだけど、それ以外の空は既に夕焼けから夜空に変わり、空から降ってくる敵の数は一向に減らない。

 でも私達は押し負けていない。大丈夫、まだいける。

 

「ふぅむ、流石に吾輩とテラーニアも限界か。クライネ、入れ替わりで変身を頼めるかね」

「任せなさいな。イクリプスチェンバー、イグニッション」

 

 裏界から変身していたラフィールとテラーニアが、ついに変身時間の限界を迎え、代わりにクライネが魔法少女へと変身する。

 

「さて、そこの赤頭巾クン。これで魔法少女の総数は一人分減った。少々苛酷になるが耐えられるかね?」

「大丈夫だよ。皆が頑張ってるのに、私が最初に弱音を吐くわけがないよ」

 

 私と一緒に虎モンスターを相手取るラフィールに即答し、私は虎モンスターの首を斬り落とす。

 エリュシオンの状態だろうと、天狼こりすの状態だろうと、私は皆の頑張りを無駄にするようなことはしない。絶対に。

 

「ハッ、いい根性してんじゃねぇか。あの感じ、今から激しい襲撃がくるからな。口だけになんじゃねーぞ」

 

 鉄鎧のアルマジロを殴って吹き飛ばしながら、テラーニアがニヤリと笑う。

 テラーニアの言葉通り、黒い大樹から降ってくる黒晶花の数が増えている。

 チラリとスマホの画面を一瞥すれば、地上との境界で奮戦する人達が相手取っているモンスターの数も増えていた。正念場だ。

 

「敵の数、マジで多いんだけど……。これさ、いい感じなん? それともヤバ目な感じなん?」

「多分……いい方、だと思う」

 

 クライネが体を取り戻す時、裏界の扉に詰まっていたモンスターや怪人達が次々飛び出してきた。

 それと同じなら、セレナちゃん達が何かをしているってことになる、はず。

 

「こりすー! 黒晶石に次元の裂け目ができたのです!」

 

 どうやらその推測は正解だったらしく、ミコトちゃんが大きな声で私を呼んだ。

 

「本当だ、光の線が入ってる!」

 

 裏界の扉があったドーム跡地、裏界で鍵の塔に入っていた次元の揺らぎみたいに、突き出した黒晶石を斬り裂く光の縦線が入っていた。

 

「……でも、流石にこれには入っていけないね。もう少し待てば開くのかな?」

「それは難しいと思うのです。楽園の扉が向こう側に落ちた影響か、どうやら空間が元々不安定なのです」

「そうなんだ。でも、ミコトちゃんならできるんだよね?」

 

 そう言って、私がミコトちゃんをチラリと見ると、ミコトちゃんはむふんと自慢げにその大きな胸を張った。

 

「むふん、当然なのです! 取っ掛かりができた今、私なら開門で楽園区域に繋げることができるのです! ……ただし、難しいから安全のために一人分でお願いしたいのです」

 

 胸を張ったポーズからしょんぼりしたポーズになって、ミコトちゃんがそう付け足した。

 でも、大丈夫。それで十分だ。

 

「わかった。私を送って」

「任せるのです!」

「おい、待てよ。一人しか行けねーんだろ? どうしてテメーが行くことになってんだよ!」

 

 開門を始めたミコトちゃんを守る私を見て、テラーニアが待ったをかける。

 

「決まってるよ。私はセレナちゃんの親友だから」

 

 私はテラーニアの目をじっと見つめてそう言い返す。

 

「テメーの気持ちはオレだって理解してんだよ。けどな、魔法少女としてのラブリナは凄まじく強い。そして、そんなアイツですらあの黒い大樹には勝てなかったんだよ」

「止めたまえよ、テラーニア。それは吾輩達の悪癖だ。ラブリナと吾輩達は元々対等な友人だったはず、なのに吾輩達はその関係に強弱である種の序列をつけてしまった。思えばそれが過ちの第一歩、違うかね?」

「チッ……。そいつの気持ちはオレだってわかってんだよ。だがよ、力でダメなら想いで立ち向かう、それで何とかなりゃ苦労しねーだろ」

 

 

 ラフィールにそう諭され、テラーニアが苦い顔で言い返す。

 裏界での態度でそうだろうとは思っていたけれど、やっぱりテラーニアはエリュシオンの正体に気付いていない。

 私の正体がバレてしまったあの時の白竜、復活した時にはテラーニアは倒されていて、中身はラブリナさんだけだったのだ。

 ……だから、私はエリュシオンとしての眼差しで、テラーニアをじっと見据えた。

 

「なんだよ、テメー。エリュシオンみたいな目をしやがって……」

 

 私の眼差しを見たテラーニアは、少し怯みながらそう言って、渋々引き下がってくれる。

 

「当然ですわ、テラーニア。そこのこりすは眩い輝きを持っていますの。その輝きはかつてのラブリナ以上、かのエリュシオンと互角の輝きですわよ。行く末を賭けるに値する輝きですわ」

 

 首長竜みたいな巨大モンスターを大鎌で引き裂きながら、クライネが言う。

 

「クライネ、よく言ってるその輝きってなんなの?」

「ああ、それね。ボク達の一族が昔から持ってる異能だね。人の魔力や意志の力みたいなものが見えるんだ。ボクも持ってるよ、キミと出会ったのもそれがきっかけさ。キミの輝きはなんて言うか特別凄いからね」

 

 ファンヌに抱きかかえられながら、にゃん吉さんが言う。

 私がにゃん吉さんに出会ったのって、魔法少女になる人を探してた時だよね? あれ、一か八かの大博打じゃなくて、ちゃんと根拠があったんだ……。

 ん? 待って、クライネ、私がエリュシオンだって察してるとか? ない、ないよね? 心配になってきた。

 

「まあさ、誰が助けに来て学園長代理が喜ぶかって考えたら、こりっちゃん一択でしょ。それにラブさんもこりっちゃんを指名してた。ならウチはこりっちゃんに全賭けするよ」

 

 少し別な方向に心配になってきた私の背中を、リオちゃんが軽く押してくれる。

 そうだ。今はそんなことを考えている時じゃない。

 

「こりすが通り抜ける間、わたくしも扉守の権能で補助しますわ。その後は魔法少女として扉と皆を周辺の死守に専念します。ですから……こりす、遠慮なくお行なさい」

「行っておいでよ、こりすちゃん。こういう場面でキミ以上に頼りになる誰かなんて、絶対にいないんだからさ」

「開門っ! こりす、行けるのです!」

 

 私の目の前、ミコトちゃんが扉を開き、黒と白の花が咲き乱れる草原と黒い大樹の風景が見えた。

 あれこそは、今壊都の空に映っている黒晶石の大樹そのもの。ついに楽園の扉が開かれたのだ。

 

「吾輩達もキミに託した! しからば半端は許さない。見せてくれたまえよ、かつて悲劇で幕を下ろした物語、その続きが大団円であると! ……グッドラック、赤頭巾クン!」

「うぃー、行って、学園長代理とラブさんを連れ帰ってきなー!」

「皆ありがとう! 行って……私が全部解決してくる!」

 

 皆に背中押され、私はミコトちゃんの開いた次元の裂け目をくぐる。同時、入ってきた次元の裂け目が消える。

 これで全ての決着は私の手に委ねられた。でも、これは私一人で切り開いたものじゃない。皆の力だ。

 だから……私は誰が相手であろうと、なんであろうと、絶対に負けない。負ける気がしない。

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