魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
辿り着いた楽園区域、そこは青く澄み渡った空だった。
どこまでも続く白い花と黒晶花の咲いた草原、その真ん中に黒い大樹が生えている。モンスターや怪人は、まだ襲ってこない。
私は周囲を見回しながらセレナちゃん達を捜し歩くと、黒晶石で作られた禍々しい大樹の麓、長い銀色の髪を風に靡かせている誰かの後ろ姿があった。
私が恐る恐る近づくと、その人がこちらに振り返って微笑んだ。
「来ましたね、こりす」
「……ラブリナさん?」
「はい」
大樹の前で待つラブリナさんの姿は銀色の長髪に黄金色の瞳。奇しくもエリュシオンに変身した私と同じ髪と瞳の色だ。
どことなくその表情にセレナちゃんの面影を感じるのは、セレナちゃんの中で積み重ねた時間の賜物、なんだと思う。
「セレナと貴方のおかげで、私は零した物全てをようやく拾い上げることができました」
ラブリナさんの見上げる先、黒晶石の大樹の幹には二つの人影が見える。一つはラブリナさんで、もう一つはセレナちゃんだ。
多分、ラブリナさんがそうしてくれたんだろう。私が本気で暴れても、あそこだけ気にしておけば大丈夫なように。
「常々考えていました。どうしてセレナの中に入った私だけ、他の欠片と違って混ざり合ってしまったのか……きっと、それは単純なことだったのでしょう。他者から求められた他の欠片と違い、セレナだけは私が求め……セレナがそれを受け入れてくれた」
セレナちゃんの体に居た頃と同じように、ラブリナさんは胸に手を当て、セレナちゃんへと語りかけるように言う。
「いつも私を心配しているセレナちゃんだから、放っておけなかったんだろうね」
「はい。こりすと一緒に居るセレナを見て私は思いました、セレナが居ればきっと私は歪まなかったであろうと。……そう、力に固執し黒晶石に染まった心の奥底で、私は貴方の在り方に憧れ、貴方のようになりたいと願ったんです」
そう言って、ラブリナさんは私をじっと見つめる。
私はラブリナさんから目を逸らさない。
「それが、ラブリナから零れた白い輝石である私の煌めき、あの大樹に呑まれたラブリナが失ってしまったもの。私の取り戻した全てはこの鍵に。受け取ってください、こりす。そして後をお願いします」
ラブリナさんは一瞬寂しそうな顔をした後、優しく微笑むと、核の戻ったエリュシウムの鍵を私に手渡す。
核が戻っているんなら目の前のラブリナさんはどうなってるの? って思ったら、その体は既にキラキラと灰になり始めていた。今までのは魔王のロスタイムだったのだ。
「任せて。ラブリナさんの想い、その想いを忘れてしまったラブリナさん本体に還すよ」
私はエリュシウムの鍵を握りしめると、ラブリナさんに向けて力強く頷く。
ラブリナさんの白い輝石なら大丈夫、私の変身に耐えられないはずがない。だって、この輝きはラブリナさんがセレナちゃんや皆と積み上げて来た輝きなんだから。
「はい、心配していません。セレナと同じように、私も貴方以外のエリュシオンは認めません。それがかつての私の名だったとしてもです。私が憧れる貴方が、私を使い、私を否定し、倒してください」
ラブリナさんは微笑んだまま、白い灰となって楽園の青い空へと消えていった。
私が感傷に浸る暇もなく、それを合図として楽園の大地が揺れ、爽やかな風が生暖かくなり、風景が溶けるように黒く染まっていく。
侵食を妨げる白い輝石であったラブリナさんが消えたことで黒晶石が活性化し、かつて壊都を滅ぼした邪悪な本性を現したのだ。
『ククク……我等を抑えつける白い輝石は今消えた! これよりは我等宿り木と!』
『怪人達の時代が訪れる!』
世界が一面黒晶石に塗物され、怪人達の声が聞こえてくる。
見れば、黒晶石の大樹から無数の怪人が出現し、黒い大地からは山盛りのモンスターが生え出ていた。
『くすくすくす、なんて愚かなのでしょう! 自ら滅びの扉を開くだなど!』
更に大樹の陰から鍵の塔が出現し、無数の黒い手で大地に立つ。あの口調、中身はレギーナだろう。
かつてソーニャが巨大芋虫の体を乗っ取っていたように、レギーナ本体は黒い大樹に接続された鍵の塔と一体化しているのだ。
『ですが、私は慈悲深いのです。
モンスターが大挙して迫る中、勝ち誇ったようにレギーナが嘲笑う。
要するに、この楽園区域は宿り木達が作っていた黒い塊の凄い版。世界全てが黒晶石の大樹を中心とした一つの黒晶石であり、黒晶石に身を堕とした者達だけが存在できる世界。全てが黒晶石に侵食され塗り潰された世界であり、私達が負けた先に訪れる地上の末路だ。
……でも、そんなことは関係ない。私がするべきことは変わらない。いつもはする最終通告も、こんな連中には必要ない。
「一つ、先に教えておくね。怪人達が表立って動くのは計画が最終段階まで進んだ時だけど、魔法少女が正体を明かすのは……一人残さずこの場で倒すって宣言、だよ」
『貴方、何を言っているのですか……!?』
心のスイッチを切り替えた私は、魔力の高まりで黄金色になっているだろう目でレギーナを、うごめく怪人達を、その先にある黒晶石の大樹を見据える。
「エリュシウムの鍵を持って開け、心の扉! 時を貫き、空間を砕き、万象を振り切り、迷える皆を照らして駆けろ銀の天狼星!
私はエリュシウムの鍵を構え、滅多に使わない変身口上をあげる。
瞬間、心の魔力炉が点火され、体中で爆発的な魔力が暴れ出す。
体内では収まらないほどに高まった魔力が全てを眩い輝きに押し流し、その中で私の髪が銀色に染め上げられ、着ている制服が
衣装が完全に変化し終わると、伸びた髪をツインテールにして、浮かんだエリュシウムの鍵を左手に装着した銀の手甲に収納して変身完了。最後の仕上げに、エリュシオンの存在に耐えられず壊れた世界の破片を、無数の燐光として周囲に浮かべた。
瞬く間もなく行われたそれこそが私の正規変身、これこそが正真正銘の魔法少女エリュシオン。
「人の助けを呼ぶ声あらば、燐光纏いて私は来よう。悪を断つ銀のシリウス、魔法少女エリュシオン」
変身を終えた私は腕を組み、黒い大樹に巣くう怪人達に向けて悪への死刑宣告である決め台詞を告げる。
『ふ、フハハハハハッ!』
『貴様がッ! 貴様がエリュシオンだったのかッ!』
『よかろう! 私を産んだ組織を破壊した貴様との因縁、ここで決着をつけてやろう!』
『黒晶石などに身を落としたのも、貴様を打倒するこの瞬間のため!』
『かつて、この大樹に挑み敗れたエリュシオンと同じように、我等の宿る黒晶石の大樹の礎としてくれる!』
『今日、この瞬間より、エリュシオンの名は魔法少女の名にあらず! 我等が治める黒晶石の大帝国の名となるのだッ!』
怨敵であるエリュシオンの出現に歓喜し、意気揚々と迎え撃とうとする怪人達。その数、大地を埋め尽くすほど無数。
『くすくすくす! 愚か、なんと愚かなのでしょう! かつて貴方と同じ名を持つ魔法少女も、同じようにこの大樹に敗北し、今や大樹を守護する魔王となっているのですよ! そして貴方も同じ末路を辿る。そう、貴方の慢心が世界を滅ぼすのです!』
私の前に立つレギーナが、そう言って嘲笑う。どうやら、数が多いことで気が大きくなっているらしい。
丁度良かった。さっきのファンヌの扱いを見て、私も思いっきり一発入れてやりたかった所だ。
「そう。君が最期に言い残すのは、その言葉でいいんだね」
『はい……?』
「
私は左手に装着されていたエリュシウムの鍵を引き抜き、燐光の剣へと作り変えて振るう。
放たれた光の剣閃が、レギーナと黒く染まった大地を空間ごと真っ二つに両断。隔離された世界の彼方まで光の刃が駆け抜けた。
『な、なんだ……!? これは……?』
「魔法少女エリュシオンはね、あらゆる武器とフォームチェンジを使いこなす、変幻自在のオールラウンダーなんだよ」
跡形もなく消滅したレギーナを見て慄く怪人達の前、私は淡々とそう告げる。
魔法少女の変身アイテムは衣装に装着していると強固になる反面弱点部位にもなる。
だから、元々自力で変身を維持可能な私は、エリュシウムの鍵を使って世界の欠片である燐光を武器に組み替えて振るう。世界の欠片を束ねて作り上げた燐光の武器だけが、私が本気で振るっても壊れないただ一つの武器なのだ。
『ししし、知らんぞ! そんなこと!?』
「素手で十分で、わざわざ武器まで使う必要がなかったから」
『で、デタラメだッ!』
恐怖を振り払うように怪人が叫ぶと同時、黒い大樹の根が震え、更に山盛りのモンスターが出現してくる。
この楽園区域は黒晶石の世界なだけあって、どのモンスターも深層モンスター、あるいはそれ以上の強敵だ。……でも、今の私の敵じゃない。
全方位から繰り出される暴力の嵐を、私は燐光を使って悠然と受け止める。私の纏う燐光は砕けた世界の欠片、ある種の異世界だ。物理的な攻撃は勿論、概念攻撃だろうが何だろうが通さない。
「振り下ろす銀の流星<エリュシオンハンマー>」
私は敵が押し寄せたタイミングを見計らい、燐光の剣を大きなハンマーへと組み替え、そのまま片手で振り下ろす。
圧縮された空間が、モンスターや根っこをハンマーの下へと吸い寄せ、そのまま空間ごと一気に押しつぶす。
私がハンマーを持ち上げたことで今度は圧縮されていた空間が解放され、周囲に衝撃波が発生。追加で出てきたモンスター達をまとめて消し飛ばしていく。一網打尽だ。
『なんだ、なんなんだ、このバケモノは!? エリュシオンが、今のエリュシオンがこれほどとは聞いてないぞ!?』
『言ったぞ! 俺は言った! 貴様等鍵守が聞く耳を持たなかっただけだッ!』
『ええい! 最悪変身時間切れまで粘ればいい! 数だ、数の利を生かせ!』
「時間切れなんてものは……ないよ? 正規変身した私の変身時間は無制限、この戦いは君達が全滅するまで終わらない」
私は纏う燐光をいくつもの武器に作り替え、辺りの敵を縦横無尽に粉砕しながら言う。
今の私は魔力回復が変身の維持魔力を上回る、変身中はお腹も空かないし眠くもならない。限界なんてないのだ。
当然、外で戦っている皆のためにも時間をかけるつもりはないけれど。
『滅茶苦茶だ! や、やってられるか! まだ壊都側の方が生き残る可能性がある!!』
そんな声が聞こえ、大樹の枝葉がざわめく。怪人達が枝葉を伝って壊都へ逃げようとしているんだろう。
でも、さっき宣言した通り、逃がす気なんて一切ない。
「認識時間制御<アクセラレーション>」
私が呟くと同時、ぐにゃりとした感覚と共に周囲全てが停止する。
時の止まった世界の中で私だけがいつも通りの速度で動き、
「剣閃銀河<ワールドブレイク>」
振るう剣閃が空間を跳躍し、百億の剣閃となって空間を埋め尽し、あるものすべてを両断する。
蠢く枝葉は瞬く間に全て切り落とされ、大地を覆う黒を砕き壊し、黒晶石の大樹を無残なはげ山みたいにしてやった。
『グアアアアアアッ!?』
『なんだ、なにが起こったッ!?』
時間が再び動き出すと同時、大地の黒晶石が粉々になって巻き上がり、絶叫をあげる怪人達が切り落とされた枝葉と一緒に地面へと落ちていく。
「逃げられないよう、時間を止めて全部切り落とした。一人残さずこの場で倒すって……言ったよね?」
うん、大丈夫。正規変身なら認識時間制御も問題なく使える。怪人を一人たりとも逃がさないことぐらい簡単だ。
『む、無理だ……! こんなバケモノに勝てるわけがない……!』
『千年を! 千年を越える雌伏の果てが! こんな理不尽な蹂躙だなどッ!』
『み、認められるか! 認めてやるものか!』
地面に落ちた枝葉と怪人が黒い煙をあげて消え去る中、まだ生き残っている怪人達は、私から逃げようと隔離世界を散り散りに逃げ惑う。
私は燐光を大剣に組み替えて、横薙ぎ一閃。逃げる怪人達をまとめて粉砕してやった。