魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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最終話 楽園のエリュシオン8

 大樹の枝葉が砕け散り、怪人達が根絶され、モンスターは黒晶石の大地諸共に黒い煙となっている。

 エリュシウムの鍵を傍らに浮かべた私は、全てが無に帰した大地の中心にただ一つ残る大樹の幹を静かに見上げる。

 

「あと少しだよ。セレナちゃん、ラブリナさん」

 

 まだ、これで終わりじゃない。

 私はエリュシウムの鍵に取り付けられたこの白い輝石(ラブリナさん)を、ラブリナさんの本体へと還さないといけないのだ。

 

 私が静かに佇む前、黒い大樹の幹から沢山の触手のような枝が伸び、黒い煙となっている怪人やモンスター、黒晶石を回収していく。

 黒晶石を取り込む度、大樹の幹が妖しく黒く輝き、サナギにでもなるようにその身を武骨な塊へと変貌させていく。

 多分、数で勝負をしても勝ち目がないと悟り、飲み込んだ怪人達や黒晶石の力を集約させているんだろう。つまり……ようやく主役のお出ましだ。

 

 塊となった黒晶石の大樹が砕け、セレナちゃんとラブリナさんが入った幹の一部だけが残される。

 予想通り、その前に立っていたのは銀色の髪に黒い女王様みたいなドレスを纏った魔法少女、魔王ラブリナだった。

 

『見事な戦いぶりでした、一人で私の前に立った勇気は褒めましょう。ですが……それもここまでです。かつての私も今の貴方と同じように黒晶石の大樹の前に立ち、敗れたのです』

 

 淡々とそう言って、黒晶花のあしらわれた黒い剣の切っ先を私へと向ける魔王ラブリナ。

 その表情は冷たく、さっき見たラブリナさんとは似ても似つかない。だから私は、クライネが言っていた、色々なものを零し過ぎたと言う言葉を思い出す。

 自分一人で戦っていると思い込み、自分一人だけで考え、思考の視野狭窄の果てにどんどん歪んでいった。その歪みの果てが、今目の前に居る魔王ラブリナなんだろう。

 

「私は一人で立ってなんていないよ。私には一緒に戦う仲間がいるから」

 

 私は青空に蜃気楼のように揺らめく壊都の風景を指さし、

 

「そして……ここに君の零した大切な物もある。君は私と強弱を比べたがっているけれど、私はそんなお遊戯をしに来たんじゃない。皆を守り、託された願いを叶えるために来たんだよ」

 

 エリュシウムの鍵にはめ込まれたラブリナさんの白い輝石を見せる。

 大丈夫、私には皆が居る。だから魔王ラブリナのように歪まない。

 

『そんなものは私の一欠片に過ぎません。そんな欠片を後生大事に抱きかかえて、何の意味があるというのですか。力なき正義など無力、そんなものでは何も守ることができないでしょう』

「力が足りなくて届かないなら、頼ればよかったのに。皆が魔法少女を頼るように、私達だって皆を頼ればいい」

『惰弱で他力本願な思考ですね。自らの力で切り開こうとせず、他人などと言う不確かなものに縋って、何が成せるというのですか』

「それを惰弱と言うんだね……君が大事な物を零した理由、よくわかったよ。私達魔法少女は君が不確かだって切り捨てた人達の想いで変身している。エリュシウムの鍵が持つ輝きはね、かつての君が魔法少女として守りたかったもの、そのものだよ」

 

 皆から託された想いや願い。そして、それを受け取ったラブリナさんの皆への想い。それが白い輝石となり、エリュシウムの鍵の核となっている。

 白い輝石は人の正しく強い想いで作られる。魔王ラブリナが零した欠片であるこの白い輝石は、魔法少女だった頃のラブリナさんが守りたかった想いそのものなのだ。

 

『傲慢な……。どうして貴方が私の望みを語るのです』

「見てきたから、ラブリナさんを。だから君の歪みはここで終わらせる。零した大切な物すら思い出せないのなら、私がそれを還してあげる」

 

 向けられている黒い剣の切っ先に対抗して、私はエリュシウムの鍵を手にして魔王ラブリナへと向ける。

 

『私の零した欠片を後生大事に握りしめている貴方が、黒晶石の力を得た私を越えられるはずがない。貴方の傲慢、打ち砕いてあげましょう。私こそは黒晶石の魔王にして女王、エリュシオン。魔法少女の到達点にして終着点』

 

 魔王ラブリナが黒い剣を構えて臨戦態勢を取り、

 

「悪を断つ銀のシリウス、魔法少女エリュシオン。君は進むべき道を間違えた、その終着点はただの行き止まりに過ぎないよ」

 

 私はエリュシウムの鍵に燐光を纏わせ、光の剣にして迎え撃つ。

 

『言葉遊びは不要です。貴方の力を見せてみなさい!』

 

 素早く踏み込んで突きを繰り出し、私を貫こうとする魔王ラブリナ。

 私はそれを手にしたエリュシウムの鍵で迎え撃つ。

 

「今還すよ、君の零した君自身を」

 

 勝負は一瞬だった。

 エリュシウムの鍵が黒晶石の刃を砕き、魔王ラブリナの胸を貫いて、魔王ラブリナ諸共に大樹の幹へと突き刺さる。

 鍵にはめ込まれていた白い輝石にひびが入り、そのひびが魔王ラブリナの体を白く染めながら伝い、更に大樹の幹へ、そして大樹そびえる大地へと広がっていく。

 それはあたかも、魔王ラブリナの胸に突き刺さった鍵が、想いを封じ込めていた心の扉を開いたかのようだった。

 

 そして、大樹の幹はセレナちゃんとラブリナさんの本体を残して粉々に砕け散り、楽園区域の全てが白い輝きに包まれた。

 

  ***

 

「空が普通の夜空になった……。決着、ついたんかな?」

 

 廃ビルの屋上、空で蜃気楼のように揺らめく大樹を見上げてリオが呟く。

 こりすが楽園区域へ突入してすぐ、壊都を襲う怪人やモンスターの増援はピタリと止んだ。

 出現していた敵を倒し終えたレイド参加者達は、武器を手にしたまま揃って空を見上げ、事の成り行きを見守っていた。

 

「リオー、気を付けるのです! この空間の感じだと、隔離されていた楽園が壊都に復帰するのです!」

 

 呆けたまま空を見上げていたリオの視界に、ジャンプして注意を促すミコトの姿が映る。

 その言葉通り、裏界の扉があった場所に鎮座していた黒晶石が白く染まり、勢いよく弾け飛ぶ。楽園エリアが壊都に再接続される余波で、周辺の廃ビルエリアのある空間が押し広げられていく。

 そして、再接続された楽園エリアから大量の白い輝石が一気に流れ込み、満天の星空の中に迷いこんだかのように壊都深界域を眩く照らした。

 

「あおおー! 凄いのです!」

 

 その幻想的な光景に、レイドに参加していた人々が揃って感嘆の声を漏らす。

 

「楽園区域の復帰に、あふれんばかりの白い輝石……ついに黒晶石の大樹が砕かれたのですわね」

「なるほど、なるほど。長きに渡る吾輩達の因縁、ついに終止符が打たれた訳だ」

「やるじゃねーか、あいつ」

 

 クライネ達三人が感慨深い顔でその光景を眺める中、楽園の方から廃ビルエリアへと三人の少女が戻ってくる。

 黒い髪の少女こりすと、ピンク髪の少女セレナ、そして銀色の髪を持つ少女ラブリナだ。

 

「こりすー! よくやったのです!」

 

 その姿を見つけるや否や、ミコトはタックルするようにこりすへと抱き着いた。

 

「う、うん、ありがとう、ミコトちゃん。でも、決着つけたのは私じゃなくてエリュシオンだから」

「マジか、エリュシオン来てたん!? ウチ等はこりっちゃん一人送り込むのに散々苦労したのに、どうやって入ったんだろ……?」

「ふ、不思議だよねぇ……」

 

 不思議そうに首をかしげるリオに、目を泳がせながらこりすが同意する。

 そんなこりすの姿を見て、セレナとラブリナが揃って笑う。

 

「クライネ、ラフィール、テラーニア……迷惑をかけました」

 

 そして、クライネ達の前に立ったラブリナが、深々と頭を下げた。

 

「ええ、ええ。散々な迷惑を被りましたわ、ラブリナ」

「吾輩もクライネと同意見だとも。正義の味方は己が責任を負うため、他人に相談しないと伝え聞くがね、キミのそれは少々度が過ぎる」

「次にやったら、まずはぶん殴るからな?」

 

 三人が次々にそう言うと、ラブリナ達は揃って笑い合う。

 そんな四人の姿を見て、こりすが嬉しそうに目を細めた。

 

「大変だったけど、皆で頑張った甲斐があったね」

「そうですね、こりすちゃん。それでは帰りましょうか、私達皆で守った街へ」

 

 こりす達は元通りになった夜空を見上げると、揃って次元の裂け目の先に見える街へと帰っていくのだった。

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