魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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閑話 こりすとご当地魔法少女2

 ナナミちゃんの連絡を受け、私達四人はバリケードの先にある放棄区域へと急ぐ。

 

「ウチ、滅茶苦茶嫌な予感がしてきたんだけど! この流れで変なモンスターとか、絶対怪人が何かしてるパターンじゃん!」

 

 騒がしくなっている仮設テント周辺を見回しながら、リオちゃんが苦い顔で言う。

 残念ながら私も同意見。経験上、十中八九怪人達が裏で動いている。

 

「こりすちゃん、作業員の人達が逃げ遅れているみたいです! そちらの撤退支援を優先しましょう!」

 

 武器のレンタル手続きをしている私の横、ダンジョン庁の人に状況を尋ねていたセレナちゃんが教えてくれる。

 

「わかった! ミコトちゃん、作業員さんが怪我をしていたら治療をお願いね」

「任せるのです!」

 

 大きな胸を寄せ上げるようにむっふと意気込むミコトちゃん。

 怪我人が多数出かねないイレギュラーなこの状況、凄腕ヒーラーであるミコトちゃんが居合わせたのは大きい。

 いや……もしかして、カレンは最初から怪人との大規模交戦を予期していたんじゃなかろうか。

 

 心の片隅でそんなことを考えながら、勇んで放棄区域へ突入する私達。出迎えたのは、荒れた道路に放置された工事用の車や機械の数々だった。

 

「工事用車両がそのまま放置されてんじゃん。ここら辺の作業員はもう区域外に逃げてるね、こりゃ」

 

 逃げ遅れて隠れている人が居ないか、周囲を手早く確認しながらリオちゃんが言う。

 

「セレナちゃん、この工事用っぽい機械とか荷物とかは、モンスター掃討後に使う予定だった奴だよね?」

「はい、そうですよ。先日の壊都レイドで手に入った白い輝石を埋め込む予定になっています。放棄区域に巣くうモンスターを掃討するだけでは、すぐに戻って来てしまいますから」

「じゃあ、あの軽トラックの荷台に積まれているのは、クライネが裏界の扉を封じていた時の白い輝石なんだね」

 

 白い輝石は黒晶石の侵食を押し返す。そして、体が黒晶石によって作られているからなのか、モンスターは強弱問わず、白い輝石がある場所には近づきたがらない。

 例外は、強い力と明確な意思を持った存在が率いている時ぐらいだ。例えば黒晶石の魔王、あるいはモンスター化した怪人の首領格とかがそれにあたる。

 

「白い輝石があるのにモンスターが襲ってきたんなら、やっぱり怪人が率いている可能性が高そうだね」

「こりすー! あっち、あっちなのです! 作業員が逃げてくるのです!」

 

 やっぱり地下要塞跡地を調べるべきなのかなって思っていると、逃げてくる作業員を発見したミコトちゃんが飛び跳ねながら私を呼んだ。

 そうだ。考えるのは後、まずは作業員さん達の安全を確保しないと!

 

「逃げるのはこちらに! 後方の安全は確保してあります!」

「君達も冒険者なのか! 助かった! すまないが向こうの援護もしてあげてくれ、怪人組織の戦闘員と戦っている子がいるんだ!」

「怪人組織の戦闘員!? やっぱりいたんだ!」

 

 それは危惧していた通りの展開だった。私達は作業員さんと入れ替わるように戦闘が起こっているエリアへと急ぐ。

 そこでは下級戦闘員が大挙して誰かを取り囲んでいて、取り囲まれている和風アイドルみたいな恰好をした栗色の髪の女の人が、工事用機械の上で配信をしていた。

 ……あれはフウカさんだ。

 

「さあさあ、皆見ておくんだわ。これからフウカが怪人達をやっつけるからにゃー。この街は魔法少女叢雲風花が守るっ!」

 

 フウカさんはスマホに向かって啖呵を切ると、自らを取り囲んでいる下級戦闘員に向かって跳躍。羽子板みたいな形の大剣で真っ二つにしてしまう。

 

「にはは! 楽勝なんだわ! もう一丁!」

 

 そしてそのまま横薙ぎ一閃、下級戦闘員をばったばったと倒していく。

 

「これで下級戦闘員は全滅なのだわ! ここで視聴者プレゼントのキーワード発表、二文字目は"だ"なのだわ!」

 

 そして、モンスターを倒し終えたフウカさんは、視聴者プレゼントらしきコーナーを始めてしまう。

 その戦いっぷりは私達の出番がないぐらいに見事、ではあるんだけれど……なんていうか、それ今やることなの?

 

「なんだろう、デジャヴを感じる……。フウカさんってあんな感じだったっけ? 動画のハニワダンスと言い、迷走してるのかな……」

「んで、こりっちゃんはなんでウチの方見てそれ言うん? 返答次第では怒らないから言ってみ?」

 

 私がちらりと見ていたのに気づいたリオちゃんが、ジト目で私の方へと寄ってくる。

 

「べ、べ、別に入学したばかりの頃のリオちゃんみたいだな、とか思ってないよ!」

「ほーん、やっぱそんなこと思ってたわけね。そんなこと言われると、こりっちゃんにはウチ等がやってる動画活動体験してもらって、甘い世界じゃないって理解してもらいたくなるじゃん」

「し、失言だったことは認めて謝るから、そのような非人道的行為は止めていただきたい!」

 

 私の胸を強めにつっつきながら、とんでもないことをのたまってくるリオちゃん。

 私は必死に首を横に振って断固遠慮の意思を示した。

 

「あらら、誰が援護に来てくれたかと思えば、元セブカラのリオちゃんなんだわ。それにお友達の君っちらは……奪還戦の参加者さん?」

 

 私達がそんなやり取りをしていると、スマホに向かってブイサインを送っていたフウカさんが、私達の存在に気付いてこちらへ振り返る。

 

「え、ええと、私達は偶然近くにいた感じです」

 

 フウカさんに尋ねられ、私は歯切れ悪くそう答える。

 本当の理由は言えるはずないし、奪還戦の見学に来たって理由も、それはそれで今現在頑張っている人から見たら喧嘩を売っている理由な気がする。

 

「そかそか、心配かけちゃったねー。でも御覧の通り心配ご無用、大船に乗ったつもりでフウカに任せておくんだわ」

「ははは、大船ですか。そう言ってまた逃げ出すおつもりですかな」

 

 任せろと胸を叩くフウカさんに、突然トゲのある言葉が投げつけられる。

 誰だろうって周囲を見回せば、黒いコートのいかつい大男二人を連れたスーツのおじいさんが立っていた。

 そして、その後ろにもスーツ姿の人が三人ほど。雰囲気からすると議員さんとかそっち系の人と護衛の人だろうか。

 

 ……実は私はあんな感じの人々にいい印象がない。あの手の人達が魔法少女と接触してくる時は、大抵ご意見と言う名の文句がある時だからだ。

 

「むむー、なんだか怪しい連中が出てきたのです」

「セレナちゃん、この人達が誰だか知ってる?」

「この街の市長である米谷市長と市議会議員の方々ですね。黒コートのお二人は護衛の冒険者……でしょうか?」

「市長と市議会議員なのです? どう見えても悪い奴……もごっ!」

 

 市長さん達に訝しげな視線を向けるミコトちゃん。私は口を慌てて塞いで黙らせた。

 危なかった! いきなり凄い失礼なこと言おうとしてた! 私だって、護衛も市長も揃ってガラが悪そうだなって思ったけど、それを口に出すのはトラブルの元にしかならないよ!?

 

「あ、あの、フウカさんがまた逃げるつもりってどういう意味なんですか?」

 

 バタバタしているミコトちゃんを取り押さえつつ、私は話を逸らすのを兼ねてそう聞いてみる。

 

「よくぞ聞いてくれました。その偽魔法少女は、街がダンジョンと繋がりモンスターが這い出していた時、タレント活動に現を抜かしていて街の防衛に間に合わなかったのですよ!」

 

 ろくでもない奴だろうと、嬉々とした顔の市長さんがそう語り、その後ろで市議会議員さんが相槌を打つ。

 嬉々として語るあたり、かなり性格悪そう。ミコトちゃんが失言しそうになった気持ちもよくわかる。

 

「あー、お言葉なんすけど、ご当地魔法少女って武力で治安を維持する街の用心棒じゃなく、地域活性化のためPR活動に励む広告塔なのが普通なんで……」

 

 と、そこでリオちゃんが物怖じせずそう言い返す。

 今現在、カレンの無茶振りでアイドル活動させられているリオちゃんとしては、そんな甘いものじゃないぞと言いたくなるんだろう。

 

「無論、その重要性は理解している。だが時と場合と言うものがある、果たしてこれが状況に合った行動と言えるだろうか」

 

 言いながら、市議会議員の人達が揃って手にしたスマホをカッコよく構える。

 スマホの画面に映っているのは今の私達。つまり、フウカさんの配信を見ていたらしい。

 

「自宅が放棄区域となり帰れない人間が大勢居るにもかかわらず、遊び半分で奪還戦に参加するなど言語道断。そこに反論はあるまい」

「でもフウカはこの場で戦っていて、そっちは邪魔しに来ているだけなのです。足を引っ張るだけの人間に言語道断と言われる筋合いはないと思うのです」

 

 力説する市議会議員の人を見て、ミコトちゃんが不思議そうに小首をかしげる。

 世間知らずなミコトちゃんは、時折天然で火の玉ストレートを投げつけちゃうから怖い。

 

「なにっ?」

「魔法少女を特別視して、期待するのは無理なからぬこと。けれど、それは自らが行動しないための免罪符にはならないのです。この街の行く末を憂うのなら、まずは自分ができることをするべきなのです」

「あははー……ありがとね、でもそこは間違いなくフウカが悪いんだわ。何かあってもフウカが守ってくれるって信じてた人は、間違いなくいたんだわ」

 

 と、そこで一触即発になりそうだと思ったのか、自分が悪いんだとフウカさんが話に割って入る。

 

「そう言うことだからにゃー。リオちゃんとそのお友達も、あまりきついこと言わないであげて欲しいんだわ」

 

 フウカさんは寂しそうな顔で放棄区域の街並みを見回してそう言うと、逃げるように足早に駆け去ってしまう。

 その表情は笑っていたけれど、その拳は悔しそうに強く握られていたことを、私はちゃんと見逃さない。自分が守ろうとしている街の人達に否定されたのだ、そんなの悔しいに決まってる。

 

「フウカさん……」

 

 私がその後ろ姿を心配しながら見送っていると、またもや周囲にモンスターの群れが姿を現した。

 

「全て黒晶石個体な上、珍しい種類のモンスターばかりですね。隣接するダンジョンの出現モンスターとはあまりに毛色が違います」

「しかも、冒険者による掃討が終わった方から来ているのです! 出所はダンジョンではなくこの街のどこかに違いないのです!」

 

 バンザイするように両手をあげて注意を促すミコトちゃん。

 ミコトちゃんの言う通りだ。街に出て来ていたモンスターは退治されていて、境界の向こう側では白い輝石を設置するために掃討戦の真っ最中。ここにモンスターが居るのはおかしい。

 

「つまり、境界側じゃなくて、街のどっかから出て来てるってこと!? 大問題じゃん!」

「やれやれ、慌ただしくなってきましたな。面倒なことになる前に我々はひとまず退散するとしましょう。お嬢さん方も無理をしないことをお勧めしますぞ」

 

 慌ててモンスターを迎え撃つ私達を横目に、市長さんと市議会議員さん達は余裕綽々の顔で立ち去っていく。

 雰囲気を好き放題に悪くして、さも当然の顔をして帰っていくその姿。フウカさんの悪口言えるような立ち振る舞いじゃないでしょ。

 

 ……と、そんなことを考えている場合じゃない。まずはモンスターの出所を突き止めないと!

 

「セレナちゃん! 私、少し周囲の様子見てくる! セレナちゃん達はモンスターがバリケード突き破って街に出ないよう防衛お願い!」

 

 このモンスターがダンジョン境界から出て来ているんじゃなかったら、怪人の研究所兼地下要塞跡地が出所である可能性が一番高い。急ぎ確認しておくべきだろう。

 

「ミコトちゃん、この感じだと怪我人が出ちゃうだろうから、二人に守ってもらいながら治療をお願いね!」

 

 私は三人に街の守りをお願いして一人先行する。本当なら皆で行くべきかもしれないけれど、皆で行けば街の守りが手薄になってしまう。

 おまけに他の冒険者さん達は境界の向こうにあるダンジョン内部で戦闘中、すぐには戻ってこれないだろうし、逆に街とダンジョンのモンスターに挟み撃ちにされてしまう可能性もある。

 モンスターがどちらに漏れても危険なこの状況、私一人で行くのが一番被害が拡大しにくいはずだ。

 

「わかりました! こりすちゃん、こちらは任せてください!」

「ああ、もう、この状況だと仕方ないか! 街もダンジョン側もウチ等に任せなー!」

「こりす、気をつけて行くのです。あの市長一味、どう見ても悪党だったのです!」

 

 モンスターを迎え撃つ三人に見送られ、私は怪人の地下要塞跡地へと急ぐのだった。

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