魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
放棄されてボロボロになった街の裏路地の奥、完全に廃墟となったビルがある。
知らなければ見つけられないこの廃ビルの地下に、かつてエリュシオンと叢雲風花が倒した怪人組織の地下要塞跡地がある。
私は近くのビルの陰に隠れ、廃ビルの様子を確認する。
窓ガラスの割れたビルは荒れたままだけれど、人のものとは思えない足跡があったり、一部だけ不自然に真新しい箇所があったりと、何者かの痕跡が窺えた。
「……予想通り、誰かが出入りした気配がある」
やはり怪人達は健在なのだと判断した私は、ビルの陰から出て恐る恐る廃ビルの中へと踏み入る。
そして、かつて地下要塞へと通じていたエレベータの様子を確認。案の定というべきか、これだけ荒れ果てているビルなのに、エレベータだけが不自然に稼働していた。
「やっぱり……」
「あははーっ、ようやく馬脚を現したにゃー」
と、そこで背後から声を掛けられて、私はびくりと背筋を伸ばす。
聞き覚えのある声に振り返ってみれば、そこにいたのは和風アイドルのような衣装の女の子。予想通りフウカさんだった。
「ふ、フウカさん!」
見つかった! そうだった、フウカさんだってこの場所を知ってる! 真っ先に確認に来るのは当然だよ! もう少し慎重に行くべきだった!
「最初から怪しいと思ってたんだわ。モンスターの相手をしてる時、一人だけ余裕綽々だったしにゃー」
って、えっ、何の話? 話がちょっと理解できない。
エリュシオンだと思われたのかと慌てていた私の前、話が変な方向に転がっていく。
「それで迷いなくここに来るなんて、もはや真っ黒くろすけだわにゃー」
言いながら、フウカさんは羽子板みたいな大剣を手にして間合いを詰めてくる。
えっ、えっ、あっ、もしや私疑われてる? よりにもよって怪人の仲間だって。
「あ、あの……も、もしかして、私を怪人の仲間だって疑ってます?」
「勿論。この地下施設入り口に迷いなく来れる人間なんて、私の知り合いか怪人一味のどっちかなんだわ」
「あっ! 私、怪しい…………」
確かにそう。あの地下要塞はエリュシオンとフウカさんで秘密裏に壊滅させている。
そんな場所にあの短時間で迷わず来られる人間なんて、エリュシオンか、フウカさんか、あるいは組織に関係ある怪人だけ。
エリュシオンは認識阻害が効いているから、基本的に私とイコールで結ばれない。そうなると残るは怪人コースになるだろう。あれ……マズい! この状況、エリュシオンと疑われるより遥かにマズい気がする!
「あははー。ようやく気付いても、もうモロバレで遅いんだわ。ズバリ怪人組織の乳牛怪人でしょ」
「わ、私は無実、無実だから! 言い訳の余地もなく怪しいけど、驚くべきことに無実! 後、乳牛じゃない!」
にじり寄るフウカさんに、私は突き出した両手を交差させて無実だと必死にアピールする。
「いいよ、いいよー、話は後で聞くんだわ。とりあえず半殺しでボコるから、地べたに這いつくばって情報一杯吐くんだにゃー」
でも、フウカさんは聞く耳を持たない。私を怪しんで黒だって決めてかかっている。そこは仕方ない、私がフウカさんの立場でも当然疑う。
マズい、マズ過ぎる! 何がマズいかって、本当に無実なのに私のコミュ力では説得困難な事実がマズい! 自分の不甲斐なさに涙が出そう!
フウカさんを説得できそうな言葉が思い浮かばないまま、辺りに一触即発の気配が漂い始め……
いきなりビルの床が抜けた。
「危ない!」
私は咄嗟に大きく踏み込んでフウカさんの腕を掴むと、得物の鉈を壁に突き刺して落下の速度を弱める。
途中、突き出していた鉄筋を足場にして体勢を整え、そのまま崩れた床の瓦礫の上に着地。
三階分ぐらい落下したみたいだけれど、対応が間に合って何とか無傷で済んだ。ダンジョン学園でレベルアップしたことによる身体能力の底上げの恩恵を感じる。
「あははー、マジ凄いね。フウカだったら、間違いなく途中の鉄筋にぶっ刺さってたんだわ」
積み上がった瓦礫の上で尻餅をついているフウカさんが、感心したように私の顔を見る。
「それで助けちゃって何を企んでるんだわ?」
「企んでません。後、私は天狼こりす、乳牛怪人じゃないですから」
まだ怪しんでくるフウカさんに、少し眉を吊り上げてそう言うと、掴んだままの腕を引っ張って助け起こす。
「しっかし、随分と落っこちたにゃー。こりゃ上に上がるのは無理そうだねー」
「そうですね。それに……あいつを倒さないことには進むも戻るもできそうにないですし」
言って、私は部屋の一角、崩落の影響を受けず瓦礫が全くないエリアに視線を滑らせる。
『グハハハ! そう! それはつまり、貴様等はもはや進むことも戻ることもできないと言うことだ!』
そこにはアリジゴクのような恰好をした怪人が立っていた。
「怪人……!」
その姿を確認するや否や、フウカさんが武器を構えて身構える。
ここまでくればもう確定。懸念していた通り、怪人達はこの跡地を使って何かの悪巧みをしている。
『我が名はアリジゴゲン! こんな偽魔法少女共を屠った所で何の面白みもないが、奪還戦をしている冒険者どもを倒す前の肩慣らしにでもしてやろう!』
羽子板みたいな大剣を構えるフウカさんの前、アリジゴク怪人が嘲笑う。
少し広いこのフロアには抜けた床の瓦礫が散乱しているけれど、アリジゴク怪人の周囲だけは綺麗なもので、破片一つ落ちていない。そして、その後ろには施設内部へと通じているだろう扉もある。
つまり、床の崩落はあの怪人が意図的に起こしたもので、ここは私達専用に作られた即席の処刑場だったのだ。
「怪人! それに貴様等って……」
怪人の登場に驚くフウカさんが、アリジゴク怪人と私の顔を交互に見やる。
「だから、私は怪人じゃないって最初から言ってますけど」
状況的に見て怪しいのは間違いないけれど、私は本当に怪人じゃないのだ。驚くべきことに。
「えー。ごめん、こりすっちは本当に怪人一味じゃなかったんだねー。……でも安心して。なら、フウカが命に代えても守るから」
フウカさんは悲壮な顔を無理やり笑顔にして私にそう言ってくれる。
自分ではあのアリジゴク怪人に勝てないって察しているんだろう。残念ながらその見立ては正しい。でも大丈夫、ここには私も居るのだ。
「大丈夫、私だって戦えます。二人がかりなら倒せるはずです」
あのアリジゴク怪人はモンスター化していて、確かに少し手強そう。得物の鉈がボロボロになった状態では少しだけ時間がかかるかもしれない。
そう判断した私は、鞄からお土産用の団子の包みを取り出し、その包装を剥いて串団子を食べ始める。
「えっ、ええっ……? いや、何してんの、流石のフウカもドン引きなんだわ……」
早速一本目を完食し、二本目に手を付けている私を見て、フウカさんが目を点にする。
『フッ、フッハハハハハ! なんと哀れな少女よ! 勝てないと悟り、最期の晩餐を始めるとは!』
更にアリジゴク怪人が腹を抱えて大笑いしてくる。
でも、口がお団子で一杯になっている私は何も言い返さない。ただ視線で睨みつけ、お前は最大の攻撃チャンスを逃がしたんだぞって警告してやった。
「もぐもぐ……ごくん。わざわざ待っててくれてありがとう、おかげで私達の完勝は決まったから」
串団子を食べ終えた私は、そのまま食べ終えたお団子の串を構え、矢継ぎ早に投擲する。
『ぐ、グガアアアアアッ!! 目が、目が、目がああああぁぁっ!?』
投げられた団子の串がアリジゴク怪人の両目に命中し、両目を潰された怪人が絶叫と共に悶え苦しむ。
有り余る魔力が常に全身を駆け巡っている私は、手にしたもの全てを強力な即席魔法武器にできてしまう。それは今しがた完食したばかりのお団子の串であったとしても例外じゃないのだ。
「まだ終わりじゃないよ、暴れられたら困るから」
これで終わらせたら片手落ちだ。まだ相手の戦闘力自体は健在、目が見えないまま手あたり次第に暴れられたら堪らない。
私は鉈を怪人の足めがけて投げつけ、その機動力を削いでおく。
「これで脅威度は下がったはず。フウカさん、今です!」
「え、ええっ!? マジ!? これフウカの出番必要!?」
私に促され、目を点にし続けていたフウカさんが、大剣を振りかぶってアリジゴク怪人に斬りかかる。
『ヴァアアアアッ!』
肩口から袈裟斬りにされたアリジゴク怪人が、黒い煙を噴き上げながら、目の前に拳を突き出して反撃を試みる。
けれど、フウカさんは既に離脱済み、その反撃は完全に空を切った。あの状況で反撃できるなんて、あの怪人かなりタフだ。
「なら……これでトドメっ!」
ダメ押しが必要だと判断した私は、そこら辺に落ちていた瓦礫から鉄筋がくっついた破片を適当に見繕う。
そして、壁を走るように跳ね駆けて、怪人の脳天にコンクリート片付きの鉄筋を深く突き刺した。
『アアアアアア……』
それで怪人は完全に沈黙。
その体を完全に黒く染め上げた怪人は、そのまま灰となって消え去った。
「ふぅ……。偶然お土産用のお団子を持っててよかった」
「…………ねえ、こりすっち。やっぱフウカ要らなかったよね?」
ウエットティッシュで手を拭きながら怪人の最期を見届けていた私に、若干引いた様子のフウカさんが恐る恐る尋ねてくる。
「そ、そんなことないですよ! 大活躍でした!」
私は必死に首を横に振ってアピールした。