魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
「どう、こりすっち。魔石スマホ、繋がった?」
「通じないです。ここは魔力異常地帯みたいですね」
アリジゴク怪人の後ろにあった扉から施設内部に侵入した私達は、外のセレナちゃん達と連絡を取るために魔石スマホを操作していた。
でも、無機質な壁の続く施設内部は、ずっと魔石スマホの圏外で繋がらない。つまり、それはここが魔力異常地帯であることを意味している。どうやら、怪人の悪巧みはかなりの所まで進んでいるようだ。
「そっかー、外も心配だねー」
フウカさんの言葉に私は頷いて同意する。
さっきの怪人の口ぶりからすると、外でも何らかのトラブルが起きている可能性は高い。
でも過剰な心配はしていない。体の中からラブリナさんが居なくなってもセレナちゃんのレベルは据え置きだし、しっかり者のセレナちゃんなら相応に対処してくれるはずだ。
「こりすっち、心配しなくていいからね。実は奪還戦前にダンジョン庁の協力は得てるし、こっちには歴戦の魔法少女、叢雲風花がついてるんだわ!」
考える私の顔が不安そうな顔に見えたのか、フウカさんがどんと任せろと胸を叩く。
「あの……。フウカさん、戦闘で服が着崩れしてます。魔法少女の衣装は着崩れないから気をつけた方がいいですよ」
「ああ、そっか! 気をつけなきゃ……ん、えっ、えあっ! ちょ、ちょっと忘れて! これ忘れて!」
一瞬ああと納得した後、自分の失敗に気付いて大慌てになるフウカさん。
「え、ええと、落ち着いてください。私は最初から気付いてたので」
そんなフウカさんを、私は必死になだめて落ち着かせる。
さりげなく気を利かせたつもりだったけど失敗した。こんな状況で言うべきじゃなかった。
「はぁ、最初からとかマジかー、さっきの戦闘といい、こりすっち洞察力あるよねー。そだよ、フウカは偽魔法少女なんだー。騙しててごめんね」
がっくりと肩を落とし、フウカさんは懺悔するように自らが魔法少女でないことを認める。
でも、エリュシオンである私は共闘した時から知っている。
本物の魔法少女じゃないのに、街の人々を守るため勇敢に立ち向かっていくその姿は、間違いなく魔法少女だった。だから、私の中で魔法少女叢雲風花は強く印象に残っている魔法少女の一人なのだ。
「フウカさんは魔法少女活動止めてたんですよね。どうして復帰しようと思ったんです?」
「あははー、今更隠すことないか……うーんとね、魔法少女止めたって言うか、この日の為にダンジョンで鍛えてたんだわ。フウカは本物の魔法少女じゃないから、がっつりレベル上げしないと強い相手に手も足も出ないんだにゃー」
一般的にクラス【魔法少女】は、同レベルの戦闘専門クラスよりもレベル+20程度高い戦闘力を持つとされている。
マナチェンバー式の変身を使うようになっている今現在、他クラスよりも更に高レベルの戦闘力を持っているはずだ。フウカさんは偽魔法少女として、その隔絶した差をレベルで無理やり埋めようとしていたらしい。
「え、ええと、そこまでして魔法少女として奪還戦に参加したかったんですか?」
「当然だよー。ご当地魔法少女なんてしてたぐらい、フウカはこの街と皆が大好きだからにゃー。そんで、街の皆は魔法少女叢雲風花を信頼して、頼ってくれる……あ、くれてた、かにゃー」
愚かな質問をしてしまった私に、フウカさんが即答し、少し悲しそうな顔で訂正する。
応えてくれたその想いは、私だけでなく、リオちゃん達普通の魔法少女の皆とも同じものだろう。
「だからこそ、大好きな街を守れなかったことも、皆の期待を踏みにじったことも、エリュシオンとの約束を破ったことも、どれも心残りで悔しいんだわ。だからこそ取り戻せるものだけは、全力で取り戻さないといけないんだわ」
そう言って、フウカさんは手にした大剣の柄を強く握りしめ、
「ま、市議会議員さん達を見るに、フウカが失った信頼はちっとやそっとじゃ取り戻せないだろうけど」
少し寂しそうにそう付け加えた。
「え、ええと私としては……信頼されているかどうかは、あんまり気にしなくてもいいと思います」
「ええっ」
私の返答が意外だったのか、フウカさんはきょとんと眼を丸くする。
「勿論、信頼されるのは嬉しいし、応えなきゃって思います。でも、フウカさんも、他の魔法少女も、それこそエリュシオンだって、最初は信頼どころか知られてもいなかったはずです。それなのにフウカさんも他の魔法少女も敵に立ち向かい戦った」
信頼は今までしてきた行動の結果に過ぎない。
フウカさんも、私も、他の魔法少女も、誰かの信頼を得たいと思って悪との戦いを始めたわけじゃない。
さっきフウカさんが言っていたみたいに、街や皆を守りたいって言う気持ちから戦い始めたはずだ。
「だから、放棄区域を取り戻して皆の笑顔が戻ったなら、フウカさんの願いはもう叶っていて、皆がどうこう言おうと満足して胸を張ればいいんじゃないかなって……」
私が口下手なりにそう説明すると、
「にはは、こりすっち意外とストイックなタイプだにゃー! そのセリフ、エリュシオンが凄く言いそう!」
フウカさんの表情が緩んでぷっと小さく噴き出した。
私はエリュシオンだから、このセリフは言いそうと言うか今言った。
「……でも凄く腑に落ちた。そっかー、フウカはいつの間にか街の平和じゃなくて、栄誉や承認欲求を追い求めてたんだ。偽魔法少女だから、そこら辺にコンプレックスあったのかな」
そして、フウカさんは少しスッキリした表情で前を向く。
「でもさ、こりすっち。相手に信頼を求めようとするのはダメだけど、自分自身が信頼に応えようとする気持ちや、約束を守ろうとする気持ち自体は大事だよね」
「勿論です」
私は頷く。
私だって、ピンチに駆けつけるって約束を果たせなかったことを後悔して、この奪還戦に参加している。
信頼されたくて行動することと、信頼に応えようと行動することは似ているようでまるで違う。私はそう自分の中で再確認して、フウカさんと一緒に真っすぐ前を向いて施設の中を突き進むのだった。
それからも、私達は通路に沿って施設内部を進んでいく。
私の方向感覚が間違っていなければ、そろそろ本来の出入り口であるエレベータ前に辿り着けるはずだ。
「モンスターはいないし、怪人の襲撃もないにゃー」
「そ、そうですね。侵入者はさっきのアリジゴク怪人が倒す予定だったのかも。もしくは施設の奥に引っ込んで何かしているのか……」
さっきのアリジゴク怪人が負けたのは、相手にとってイレギュラー。そこはほぼ間違いない。
そして、付近に冒険者が大勢いるにもかかわらず、施設内部が露出するように崩落させてきた以上、元々このタイミングで大攻勢を仕掛ける予定だったのも間違いない。
「そこまで怪人の計画が進んでいるのなら、あからさまな何かがあるはずだけど……」
相手のイレギュラー対応が遅れている間に、なんとか計画の尻尾を掴んで、できることなら踏んづけてもおきたい。
そんなことを考えながら、地上へと通じるエレベータがあるだろうエリアの扉を開く私達。
エレベータ前は黒一色、見渡す限りの黒晶石が広がっていた。
「う、うわっ。これ全部黒晶石? あ、あはは……こりゃあちょっとばかしヤバいんじゃないかにゃー」
「ちょっとどころか、かなりマズい状況だと思います。これが全部モンスターに変化したら大惨事です」
コンクリート造りのフロアは、壁も、天井も、黒く大きい染みのような黒晶石が広がっていて、その染みから黒晶石の結晶が突き出している箇所もあった。
雰囲気としては、紅葉林のクロノス社秘密研究所地下や、海岸丘陵にあった那由他会拠点の侵食具合に近い。
まさか魔王まで居るとは思えないけれど、奥へと進むのならエリュシオンに変身しておきたい状況だ。
「流石にこれはフウカの手には余るんだわ。出口が近くにあることだし、一回戻った方がよさそだね」
「同感です。魔力異常地帯で連絡できてないですし、私達に何かあったら対応が遅れます」
目の前の光景に圧倒されるフウカさんの意見に、心のスイッチを切り替えた私が同意し
「ただ、あの二人が素直に逃がしてくれれば、ですけれど」
黒晶石蔓延る通路の先から姿を現した黒コートの二人へと視線を動かし、そう言葉を続けた。
「ほう、アリジゴゲンからの連絡が途絶えて見に来てみれば、侵入者達が我が物顔で闊歩しているとはな」
「弟よ、不思議なことが起こっている。侵入者が無事だぞ」
「兄者。恐らくアリジゴゲンの奴がしくじったのだ」
「しくじった? なんてこった、弟よ。まさかアリジゴゲンの奴、怪人じゃなかったのか?」
「違うぞ、兄者。恐らくあの侵入者が強いのだ」
「つまり、あいつ等も怪人なのか。弟よ」
「恐らく普通の人間だ。兄者、強いイコール怪人の方程式から離れてくれ」
侵入者である私達の姿を見ても余裕綽々な黒いコート二人組。会話の内容が酷くて頭が痛くなりそう。
ただ、思っていたよりも更に事態は深刻だ。あの二人は市長と一緒に居た護衛の冒険者で間違いない。つまり、市長も怪人の一味である可能性は高い。
「ねえねえ。あの二人、市長さんの護衛だわね」
「はい。外の様子が気になりますね」
小声で話しかけてくるフウカさんに同意しながら、私はこっそりとエレベータのボタンを押す。
あの二人が逃がしてくれるとは到底思えないけれど、打てる布石はできる限り打っておきたい。
「それで結局の所、あの侵入者はどうすればいいんだ、弟よ」
「排除だ。どうせ外は我々が放ったモンスターの対処で手一杯だろう、兄者が好きなように嬲って惨殺すればいい」
「おお、それでいいのか! 俺でもわかる簡単な話だ!」
黒いコートの兄者の方がポケットから黒晶石の塊を取り出し、自らの胸に突き立てる。
途端、その体から黒いオーラが噴き出し、その姿が人から二本の角が生えた黒鬼のような姿へと変貌する。
「ガハハ! 俺こそは……おい、弟よ。ここで名乗っていいんだよな?」
「構わないぞ、兄者。どうせこの二人はここで死ぬんだ。好きにすればいい」
兄怪人にそう言いながら、弟怪人も自分に黒晶石を突き刺す。
瞬間、弟怪人も一本角の黒鬼怪人へと変貌した。
「ガハハ、ならば改めて言おう。弟よ! 俺こそは秘密結社"怪人街"の大幹部。大鬼角ッ!」
「私も同じく大幹部、小鬼角。お前達は苦しんで死ぬだろうが、我々に楯突いたのが悪いんだ。精々足掻いてくれ」
モンスターと同じ黒いオーラを噴き出した怪人二人が叫ぶように名乗り、噴き出すオーラが周囲をピリピリと震わせる。
「あははー、ヤバいのお出まししてきちゃったねー。こりすっち、こりゃあ退いた方がいいよ。もうすぐエレベータが来るしさ、一緒に退こ」
さりげなく私を守るように半歩前に出たフウカさんが、ちらりと視線を後ろに向けながら小声で私に言う。
でも、あの二人はエレベータぐらいすぐに壊して止めてしまう、一緒に退くことはできないだろう。
……そもそも、私が気付かないはずがない。フウカさんは最初から一緒に逃げる気なんてないってことを。
「ほら、来たよ。こりすっち! 役割分担、頼むんだわ!」
案の定、エレベータの扉が開くと同時、フウカさんは私を突き飛ばして押し込み、流れるような動きで閉まるボタンを押す。
そのままフウカさんはその場に残り、二人の怪人から私が乗ったエレベータを守るべく、その場で仁王立ちした。
「……知ってた」
扉の閉じたエレベータの中で、私は小さく呟く。
私はフウカさんがそういう人だって知っている。本物の魔法少女じゃないけれど、その中身は間違いなく正真正銘の魔法少女。
だから、私はフウカさんを魔法少女って呼ぶし、魔法少女叢雲風花はエリュシオンにとって戦友なのだ。そして、私はその戦友との約束を今こそ果たさなければならない。
「さあ、私もフウカさんみたいに心残りを取り戻さないと、だね」
私はエレベータの監視カメラを壊すと、自らの体内に魔力を循環させる。
「シリウスチェンバー、イグニッション!」
私が呟くと同時、眩い燐光がエレベータシャフトを駆け抜けた。