魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第3話 魔法少女の再起5

 平原エリアと繋がる境界前のゲート、私とセレナちゃんは大急ぎで車から降りて外の様子を確認する。

 車はダンジョンゲートの警備員さんに止められていて、周囲ではダンジョンに行こうとして足を止められた人達がざわついていた。

 地上からダンジョンへと繋がる場所には、モンスターの流入を防ぐためにちょっと高い壁と出入口みたいなものが作られていて、都市部に近い所だと警備の人も常駐しているのだ。

 

「何があったんですか!?」

 

 セレナちゃんが身分証を見せて警備員さんに状況を確認する。

 

「平原エリアに異常が発生したため、通行規制をしているんです。既にダンジョン庁には連絡済みです」

 

 言って、警備員さんは手に持ったタブレットをタッチして、学園前のライブカメラ映像を見せてくれる。

 ダンジョン学園の周囲にはお花畑ができていた。勿論、花は全部黒晶花、街の近くにモンスターの群れが現れたようなものだ。

 多分、黒晶花はダンジョン学園を中心に侵食してきている。なにしろ、大怪獣連合とか言うのに奪われた魔石は第一拠点のもの、つまり転移先はダンジョン学園。鳳仙長官が怪人だと聞かされ、危惧していた事態そのものだ。

 

「学園に人は?」

「居ないはずです。他拠点からの転送を制限していますし、残っていた職員と冒険者達にも避難勧告を出してあります」

「賢明ですね」

「今日が休日で、入学したての学生が居なかったのは幸いでした」

 

 警備員さんから話を聞いて、ほっと胸を撫でおろすセレナちゃん。

 家でセレナちゃんが連絡を入れた時、誰も出なかったのはこのせいだったらしい。

 

「私達はこのまま学園に向かって状況確認してきます。派遣されてくるだろうレベル持ちの冒険者達には、平原ゲートの防衛を最優先にするよう伝えてください」

「は、はい」

 

 セレナちゃんはテキパキと指示を出すと、私の手を引いてダンジョン前のゲート、そして平原エリアとの境界をくぐる。

 知らなかった。ダンジョン学園の学園長ってそんなに権限があったんだ。

 

「……私の中に居るラブリナさんの力が刻々と強くなっています。それはこのエリアが黒晶石の侵食を受けていることを意味します。急ぎましょう、こりすちゃん」

 

 道路の真ん中を走りながら、誰にも聞かれなくなった辺りでセレナちゃんが言う。 

 多分、もう学園の中はモンスターか怪人で一杯だろう。きっと悠長に話している暇なんてなくなる。

 

「ねえ、セレナちゃん。車で言おうとしていたことの続きだけど」

 

 だから、今のうちに私の答えを告げておかなければならない。

 今からまた迷惑を掛けてしまうだろう親友に対して誠実であるために。

 

「はい」

「セレナちゃんの言う通り、私は魔法少女であることを捨てられない。今後も困っている人が居れば、街に危機が訪れていれば、迷わず飛び出して行っちゃうと思う」

「そうですね。私の知っているエリュシオンはそう言う魔法少女です」

「きっと、セレナちゃんには今後も凄い迷惑を掛け続けると思う。勿論、できる限りそんなことにはならないよう頑張るけど、それでも多分絶対安心とは言い切れない。……それでも私の親友でいてくれる?」

「はい、勿論です。私、こりすちゃんには言ったことがありませんけれど、自分のことエリュシオンを秘密を共有する相棒だって誇らしく思っているんですよ」

 

 そう言って、セレナちゃんが屈託のない笑顔を向けてくれる。

 私とセレナちゃんとの間にあった僅かな隙間がようやく埋まった気がした。

 逃げずに面と向かって話せばこんなにも簡単な話だったのに、私が半端に逃げ出したせいで随分と時間がかかってしまった。

 

「ありがとう。早速だけど今回も迷惑、掛けると思うから」

「知ってます、それがこりすちゃんですから。こりすちゃんのフォローは慣れてますよ」

 

 にっこりと笑うセレナちゃん。

 

「変身する度にフォローしてもらってるもんね」

 

 思い返してみれば、私が魔法少女として戦うために姿を消す度、セレナちゃんには何度も誤魔化して貰っていたっけ。

 それなのに、自分勝手に巻き込みたくないだのと、なんて高慢だったんだろう。いつの間にか、魔法少女である自分は一方的に助ける側なんだと慢心していたのかもしれない。

 そんなことを考えているうちに、私達は学園へと到着する。

 拠点防壁代わりの厳めしい校門をくぐって学園の中へ入ると、そこは黒いオーラを出したジャッカーの下級戦闘員だらけだった。

 この下級戦闘員達は本物の怪人ではなく、昨晩のように黒晶花から作られたモンスターなんだろう。

 

「セレナちゃん、戦闘員が居るから気をつけて!」

「わかっています! 危惧した通りの展開です!」

 

 言いながら、セレナちゃんは黒晶石が侵食した禍々しい杖剣を振るう。

 黒いオーラを纏った斬撃が下級戦闘員が消し飛ばし、振るった杖剣の先から闇が迸って、進路の先に居た戦闘員達を闇の中へと引きずり込んでいく。

 

 セレナちゃん、強い。でも、この強さは危険な兆候だ。ラブリナさんは黒晶石の侵食域の中でないと力を十全に使えないと言っていた。

 そして、セレナちゃんが今振るっている力はどう見てもラブリナさんのもの。

 つまり学園、そして平原エリアの侵食が急速に進んでいることを意味する。

 

「セレナちゃん、セブンカラーズの人達とかの援護は期待できるのかな!?」

 

 セレナちゃんばかりに負担はかけさせないと、私は鉈で戦闘員の首を撥ね飛ばす。

 

「冒険者の援護は期待できますけれど、セブンカラーズの援護は厳しいと思います。彼女達は黒晶石の花畑入り口へ探索に行くと告知していましたから……この様子だと向こうも厄介な状況になっているでしょう」

「これも鳳仙長官の策略かな?」

「鳳仙長官が地下組織所属の怪人だとすれば、可能性は否定できませんね」

 

 私達は徐々に苛烈になっていく下級戦闘員の襲撃を退けながら廊下を進む。

 ここから怪人や強いモンスターの襲撃が加わるとなると、一般冒険者だけで地上を守りきるのは厳しいかもしれない。変身時間を温存しつつ、なんとか時間稼ぎはできないだろうか。

 

「なら、一度魔石核を転移装置からどかしちゃおう! これ以上学園を黒晶石に侵食される訳にはいかないよ!」

 

 私は事態の元凶であろう転送室へと急行しながらそう提案する。

 でも、セレナちゃんの表情は渋かった。

 

「それだけでは解決しません。ここにある魔石は拠点に置かれた魔石の本体のようなものなんです。本体から数ある拠点のどれかへと飛ぶのなら、事前の魔力登録と場所の選択が必要になります。けれど、拠点の魔石は本体を目標に一方通行で転移をさせているだけですから……」

「本体へと狙いを定めてあるのなら、その場所に飛ばし続けることはできちゃうんだ」

 

 杖剣で戦闘員を横一文字に両断しつつ、セレナちゃんが重々しく頷く。

 転移先を選ぶ本体とは違う単純だからこその厄介さ。もうここに本体がなくなっても、奪われた拠点の魔石は学園の転移室に向けて転移させ続けることだけはできてしまうらしい。

 

「ですから……やはり転移室に向かいましょう」

 

 セレナちゃんは意を決した面持ちで言う。

 何か秘策があるんだね。

 

「わかった、セレナちゃんの作戦に乗るよ!」

 

 だから私は頷いて、セレナちゃんと一緒に学園の廊下を走る。

 途中、無人になっている購買部の扉を無理やりこじ開け、セレナちゃんが中から青いポーションボトルを何本か拝借してしまう。

 

「せ、セレナちゃん、泥棒みたいなことしてるけどいいの!?」

「学園長権限です! どうせ、学園が壊れたら全部廃棄ですよ!」

 

 セレナちゃんは走りながら何食わぬ顔でそう言って、入手したポーションの半分を私に手渡してくれる。

 バッグに入れながらその効果を確認すれば、貼りつけられたラベルに『効能:魔力回復促進』と書かれていた。

 私の魔力量はがっつりと人間の域を超えているから、どの程度効果があるかはわからない。でも、飲まないよりは確実にいいはず。少なくとも空腹の足しになる。

 そう判断して、私は走りながらまずは一本開封して、そのまま一気に飲み干す。お行儀が悪いけれど、こんな状況だから仕方ないよね。

 

「ぐええっ!? マズイ……」

 

 セレナちゃんが戦闘員を切り伏せている横、私はあまりのマズさに廊下の壁に頭を当てて俯いた。

 そりゃお薬だもんね、冷静に考えればそうなるのはわかってた。でも、ちょっと美味しさを期待してしまっていた自分がいる。

 

「こりすちゃん、大丈夫ですか!?」

「だ、大丈夫! 苦みが舌に残ってるだけだから!」

 

 ポーションのマズさにのたうち回って手遅れなんて笑えない。

 手にした鉈でセレナちゃんの援護をしつつ、私達は転移室へ急ぐ。

 

「こんここんこ、これは驚いた。まさかラブリナ殿の宿主が学園長代理だったとは」

 

 黒晶花が絨毯のように敷き詰められた転移室、私達を出迎えたのは十二単のような服を着た妖怪怪人、鳳仙華恋だった。

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