魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第3話 魔法少女の再起6

「驚いたのはこちらも同じですよ、鳳仙長官」

 

 セレナちゃんが毅然とそう言い返すと、カレンはくふふと愉快そうに笑って九本の尻尾を揺らし、その素顔を見せる。

 

「そうであろう、そうであろう。妾も謀り上手であろう?」

「長官にまでなったのは、これが目的だったの!?」

「なんじゃ、昨晩の小娘か。只者ではないと思うておったが白鴎院の懐刀であったか。長官の方は趣味の一環、大怪獣連合の方は渡世の義理かの。全く、人脅かす怪人共も同胞には義理人情を説いてきおる、面倒でかなわぬわ」

 

 胸元から取り出した扇子でパタパタと顔を扇ぎながら、カレンは面倒そうに眉根を寄せる。

 なにそれ、つまりエンジョイ勢? 腹立つ。御大層な理想でも語ってくれた方がまだマシだった。

 

「そんな適当な理由でこんなことをするなんて許せない。セレナちゃん、倒しちゃおう!」

「元よりそのつもりです」

「おお怖い怖い。なんとも血気盛んなことよ、やはり若人はそうでなければつまらぬ。されど、黒晶の侵食域で黒晶の魔王と争う愚物がどこに居ようか」

 

 パキパキと音を立て、黒晶石がセレナちゃんの杖剣を更に侵食していく中、カレンはひょいと転移室に設置された巨大魔石の上に飛び乗って間合いを取る。

 セレナちゃんは魔石を壊したくないらしく、杖剣を構えたままカレンを睨みつけたままだ。

 

「大怪獣連合への義理は果たした。妾は己の趣味に興ずる故、この場はお主達に譲ってやるとしよう。テラーニア殿が到着するまでに解決できるか見ものじゃの」

 

 カレンは手を狐の影絵の形にすると、自らの周囲に火の玉を浮かべ、私達に向けて連射してくる。

 

「こりすちゃん、私の後ろに!」

 

 セレナちゃんが手をかざし、空中に黒晶石の盾が出来上がる。

 盾が火の玉を防ぎきるけれど、その間に魔石の後ろの壁が砕かれ、カレンは外に逃げ去っていた。

 

「セレナちゃん、追いかけている場合じゃないからね」

「わかっています」

 

 心情的にはグーパンチしてふさふさの尻尾を毟ってやりたくなるけれど、カレンを倒したところで解決には近づかない。

 私達が追いかけて引導を渡してやりたいけれど、それをしてしまえばきっと被害は拡大する。カレンの方はこのエリアに集まっている冒険者の誰が止めてくれることを祈るしかない。

 私達が早急に解決すべき問題は、今も絶えずに送り込まれてくる黒晶花の方だ。

 

「ここは私が引き受けます、こりすちゃんは第二拠点へ向かってください。この黒晶花を止める手段は一つだけ、深層に設置されているであろう転移装置を止めることだけです」

「セレナちゃん、本気!?」

 

 口ではそう言いつつも、薄々は察していた。セレナちゃんは元からそのつもりで転移室を目指していただろうと。

 カレンが魔石の上に飛び乗った時に躊躇ったのも、計画が瓦解することを恐れてのことだ。

 

「はい。私の中に居るラブリナさんは七割がた浄化された黒晶石、つまり七割は白い輝石です。私がこの場に立つ限り、黒晶石による浸食を抑えることができるはずなんです。そうすれば黒晶花が変じるモンスターも強い物になる可能性が低くなりますから」

 

 その理屈もメリットもわかる。強いモンスターが現れ難くなれば、平原で戦う冒険者さん達も楽になる。

 それにラブリナさんの力が強くなっている今、セレナちゃんが黒晶花のモンスターに後れを取ることはないだろう。

 でも問題はそこじゃない。

 

「テラーニア、来るかも……ううん、近いうちに来るよ」

 

 カレンが言っていた通り、テラーニアは間違いなくここに来る。

 だって、この黒晶花による浸食は、テラーニアが好き放題に暴れるためのお膳立てなのだから。

 

「はい、わかっています。だからこそです。貴方が不在の中、万全のテラーニアを足止めできるのは私だけですから」

 

 にっこりと笑うセレナちゃん、その目は煌々と紫色に輝いている。つまりラブリナさんの言葉だ。

 

「……ラブリナさん、セレナちゃんをお願い。絶対に守ってあげて」

 

 私はラブリナさんを真っすぐ見て、セレナちゃんのことをお願いする。

 思えば、私はラブリナさんからも目をそらしていた。

 ラブリナさんはセレナちゃんの中に入った単なる黒晶石でなく、ちゃんと意思を持っている一人の人間なんだって。

 だからこの件が無事解決したら、ラブリナさんにもちゃんと向き合わないといけない。

 

「はい、任せてください。セレナの無事、このラブリナの名にかけて保証します」

 

 私の気持ちを察してくれたのか、ラブリナさんが胸に手を当てて神妙な面持ちで頷く。

 そして、その目から紫色の輝きが消える。今度はセレナちゃんに戻ったのだ。

 

「セレナちゃん」

「はい」

「ごめん、ここから先はラブリナさんでもかなりギリギリになると思う。だけど耐えて、後で絶対に駆けつけるから」

 

 私はセレナちゃんにそう言って前を向き、積もった黒晶花の中にある転移装置を見据える。

 ああ宣言してすぐにセレナちゃんを危険に晒すことに後ろめたさはあるけれど、それでも今はそんなことを言ってられない。私はこの状況を解決するため、私の取り得る最善手を打ち続ける。

 

「はい、私のことは気にせず突き走ってください。それに……こりすちゃんが間に合わなかったこと、一度だってありませんから」

 

 少しも疑わないセレナちゃんの言葉が聞こえる中、転移装置が起動し、私の視界が一気に切り替わった。

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