魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第3話 魔法少女の再起7

 二層の森拠点に転移した私は、学園の状況を聞くためにやってきた係員さんを振り切り、そのまま森の中へと走り出す。

 やるべきことは決まっている。まずはこのエリアと花畑入り口を隔てる次元の裂け目付近にジャッカーを倒した時の白い輝石を埋め込む。それでここへの侵食はある程度防げるはず。

 その後は"黒晶石の花畑入口"から、敵の本丸である"黒晶石の花畑"へと突入、学園に花を送り込んでいるだろう魔石を壊す。その途中でセブンカラーズの人達がピンチなら助けたい。

 

「後は時間との闘い、だよね」

 

 問題はエリュシオンとしての活動時間、そして一層に戻るまでの時間だ。

 いくら素早いエリュシオンだとしても、深層まで行った後、転移なしで平原まで戻るのはあまりに手間だ。

 認識時間制御が使えれば駆け戻る選択肢もあったけれど、今の状態でそれをしてしまったら平原に戻る頃には変身が解けている。

 貰ったポーションも私にとって気休め程度だった。眠気や空腹は幾分か和らいだけれど、目に見えるような魔力補給はできそうもない。

 

 昨日、活動限界を把握しておいてよかった。もしも知らなかったら、そのまま認識時間制御を使って平原まで舞い戻り、完璧な役立たずになっていたはずだ。

 私は足りない時間を稼ぐため、自分の目の前にスマホを浮かべ、走りながらにゃん吉さんへと連絡を入れる。

 

『お、そろそろ連絡が来る頃だと思ってたよ。テレビで緊急ニュース速報やってるからね』

 

 程なくしてスマホの画面が切り替わり、にゃん吉さんがひょっこりと顔を出す。

 

「にゃん吉さん。ミコトちゃん、居る?」

『ふぅん、ようやく吹っ切れたみたいだね、やっぱりキミにはそっちの顔が似合ってるよ。ミコトちゃん、こりすちゃんがお呼びだよ』

『こりすー、どうしたのですか?』

 

 画面の向こうでにゃん吉さんが手招きし、お湯呑み片手にミコトちゃんがやって来る。

 

「ミコトちゃん、お願いがあるんだ。転移魔法使えるって言ったよね? それって遠くの人も引っ張って来れるよね」

 

 ミコトちゃんの所属する那由他会は暗黒神を召喚した実績がある。

 つまり、こっちから送り込むだけじゃなく、向こう側から相手を引っ張って来る転移魔法が使えるはずだ。

 

『条件が合えばできるのです。それと転移魔法ではなく、開門なのです』

「それで引っ張って来て欲しい人が居るんだ」

 

 お願いする私に、ミコトちゃんが渋い顔をする。

 

『うーん、お友達の頼みだから協力はしたいのです。でも、開門はどこでもできる訳ではないのです。私も相手も魔力集結点で待機した上で、相手の魔力反応を手繰れる物が欲しいのです』

 

 それは拠点へと向かう転移装置とほぼ同じ条件。当然、魔法に疎い私でもその条件は予想できていた。

 

「つまり、引っ張って来て欲しい人が魔力集結点に居て、ミコトちゃんがその人の魔力を識別できればいいんだよね?」

『そうなるのです。無駄なく正確に呼び寄せるなら、相手の魔力が大量に残存している物が欲しくなるのです。暗黒神を降臨させた時は、その半身を封じたオーブを用意していたのです』

「わかってる。にゃん吉さん、ストックのペンダント見せてあげて」

 

 私はにゃん吉さんにそう伝える。

 入学初日ににゃん吉さんへ突き返したペンダント。エリュシオンの活動限界を伸ばすためのあれは、つまり私の魔力を大量に溜めこんだマジックアイテム。これで転移のための条件は全部クリアできるはず。

 

『キミって緊急時になると本当に頭が回るよね。ミコトちゃん、これで魔力手繰れるかい?』

『おおおー、これだけ濃く強い魔力があれば大丈夫なのです!』

「後は魔力集結点がどこかだけど……」

『第一拠点が一番近いのです』

「渦中の真っ只中かぁ……」

 

 通話中に立ち塞がってきたカエルのモンスターを鉈で一刀両断しつつ、私は渋面を作る。

 今の平原エリアはかなり危険だ。学園とは微妙に方向が違うとはいえ、ミコトちゃんとにゃん吉さんコンビで、無事に拠点まで辿り着けるかは怪しい。

 

『こりす、任せるのです! 那由他の姫巫女は幸運の持ち主、なんとかして見せるのです!』

 

 どんと任せろと、ミコトちゃんがへっぽこな動きで自分の胸を叩く。

 

『まあ、キミの見立てだとやるしかないんだよね。こういう時のキミは絶対に見立てを外さないし、やれるところまではやってみるよ』

「うん、お願い。ミコトちゃんが怪我しないようによろしくね」

 

 私はスマホを傍に浮かべたまま話を切り上げると、隣の木を蹴って跳ねあがる。

 私の居た場所に蔓が鞭のように叩きつけられ、イノシシが爆走してくる。まだ二層モンスターはいつも通りの面々だ、これならまだエリュシオンの変身時間を温存できる。

 それを昨夜同様に軽く捌いて蹴散らすと、今度はリオちゃんに連絡を入れる。

 でも、中々リオちゃんは出ない。私は焦れながらも、リオちゃんが出てくれると信じて呼び出し続ける。

 

『……こりっちゃんどうしたの。背景二層の森? いいから急いで逃げな、今平原エリアがヤバいことになってるから』

 

 ようやく画面に映ったリオちゃんの顔は精彩を欠いていた。

 画面の向こうは自分のお部屋かな? 戦闘中じゃないなら気兼ねなく頼めるからよかった。

 

「うん、知ってる。セレナちゃんが学園から送り届けてくれたから」

『そっか、流石は学園長代理、立派だね。ウチには真似できないや』

 

 言って、リオちゃんが自嘲する。

 

「だからリオちゃん、頼みがあるんだ」

『無理。知っての通り、ウチは魔法少女としていい所なし、頼まれてた首輪巫女ちゃんを助けたのも、結局エリュシオンだしさ。ハッ、レベル30だのって天狗になってのがバカみたいじゃんね』

 

 私の頼みがどういうものか察し、リオちゃんが画面から目を逸らして自嘲する。

 

「ううん、リオちゃんならやってくれる。だって昨日の夜、私を心配して諭してくれてるリオちゃん、立派な魔法少女だったから。それに今もいの一番に私の心配をしてくれた、だから私はリオちゃんを信じてる」

 

 私だって魔法少女のはしくれだ、それがどれだけ大変なのか理解できる。

 意地悪な配信とかもするけれど、功に焦って失敗もするけれど、それでもリオちゃんは立派な魔法少女だよ。断言できる。

 そんな気持ちが伝わったのか、リオちゃんは照れたように少し顔を赤らめ、暫し逡巡していた。

 

『ねぇ、こりっちゃん、こりっちゃんは怖くないん?』

 

 そして、逡巡の末にそう問うた。

 

「怖いよ。でも、それで目を逸らして逃げたら、自分の大事なものまで真っすぐ見れなくなっちゃうって気づいたから」

『ハッ、自分が戦力になる訳じゃないのにカッコいいこと言うねぇ。……でさ、何をウチにして欲しいわけ? 話だけは聞いたげるけど』

「ありがとう。ミコトちゃんとうちの猫が第一拠点を目指してるから、それを護衛して送り届けて欲しいんだ」

『はぁ? どういう組み合わせなん、それ。修羅場に物見遊山ってんならマジで怒るよ』

「そこならミコトちゃん、転移魔法……えっと開門が使えるらしいから」

『あー、触媒使って狙いを定めて、次元の境界開けるアレか。そんで暗黒神でも召喚しちゃう?』

「うん」

『そしたら更にしっちゃかめっちゃか……って、ああ、そういうことね。首輪巫女ちゃんの暗黒神、アレなんだっけ?』

 

 鼻で笑って茶化そうとしていたリオちゃんは、その意味に気付いて真剣な顔になった。

 

「そう、エリュシオンだよ」

『ああ、クソ……ちゃんと勝算用意してんじゃん。こりっちゃん、上手くいったらケーキ奢ってよ紅茶付きで』

「勿論。お願いしたんだから、それぐらいのお礼はするよ」

『言っとくけど、こりっちゃんの想像より高級なケーキ要求してるかんね。値段に驚いても知んないよ」

 

 リオちゃんは悪戯っぽく笑うと、画面の外に置いてあったらしい槍を持ち出す。

 どうやら引き受けてくれるらしい。同じ魔法少女として、私は信じてたよ。

 

『それで首輪巫女ちゃん達は?』

「ええと、少し前に平原エリアへ向かってる。でも、ミコトちゃんとうちのメタボ猫のコンビだから遅いかも」

『平原前のダンジョンゲートに来る?』

「迷子になってなければ」

『わかった、見つけられたら途中で拾って急行する。あの子目立つ容姿してるし見っけられるでしょ。それじゃ切るよ、ウチも急ぎで行くから』

 

 私の返答を待たず、リオちゃんは一方的に話を切りあげてしまう。宣言通り、大急ぎで向かってくれたのだ。

 後は私次第だ。ミコトちゃん達が到着する前に奪われた魔石を壊し、魔力集結点で待機する。

 任せて、お願いして、お膳立てしてもらって、私が失敗することだけは許されない。

 

 私は魔力の高まりで黄金色に変わっているだろう瞳で、黒晶花乱れ咲く境界の先を真っすぐ見据える。

 

「シリウスチェンバー、イグニッション!」

 

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