魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
第四話 怪獣王
黒晶の花が絨毯のように敷き詰められた転移室。
セレナの体を借りたラブリナが黒晶を纏わせた杖剣を振るい、黒晶花から転じたモンスター達を切り伏せていく。
「……徐々に黒晶石の侵食が進んでいますね。やはり完全に浄化されていない私では、完全に食い止めることはできないようです」
徐々に力を増していく自らと、黒晶花から転じるモンスターの変化に、ラブリナは危機感を覚えていた。
最初はゴブリンなどの低レベルモンスターにしか変化しなかった黒晶花は、今はカトブレパスやリッチなどレベル20を超える種のモンスターへと変じている。
無論、黒晶石の魔王たるラブリナがモンスターに後れを取ることはない。されど、今のラブリナはセレナの体を間借りする身、セレナと言う器ではその力を十全に発揮することはできない。
セレナの安全を第一にすると約束をしている以上、限界は近いうちに訪れるだろう。
それよりも、なによりも、ここまで侵食が進んでしまえば彼女が来る。来てしまう。
「やはり来ましたね……テラーニア」
転移室に黒い嵐が吹き荒れ、敷き詰められた黒晶花を巻き上げる。
空中に浮かんだ黒晶石の結晶を核として、黒晶花混じりの黒い風が渦を巻き、人の形に収束し、ダークブロンドの髪をした少女の姿を形作った。
「よう、ラブリナ。邪魔すんなら例えお前でも容赦しねー、オレはそう言ったはずだよな?」
黒晶花のなくなった床に着地したテラーニアは、新しい自分の体の具合を試すように、首や腕を動かしながらラブリナを睨みつける。
「はい、承知しています。ですが、モンスターをここで野放しにすれば、人々に危害が及びますから」
「当然だろ、危害を加えようとしてんだからよ。オレの黒晶石は人の恐怖でよく育つ、オレはエリュシオンと対峙する前にできる限りの力を得たい!」
意気込むテラーニアが突き出した右手を強く握ると、その手から黒いオーラが勢いよく吹き出した。
「そこをなんとか穏便に済ませることはできませんか、テラーニア」
「はぁ? 大丈夫かよ、ラブリナ。テメーの意識、かなり肉の体に引っ張られてるぞ」
「この体の意志が混ざっていることは否定しませんよ。今の私は欠片に過ぎません。その不足部分を補っているのは全てセレナ……貴方の言う肉の体ですから」
「あー、なるほどな。テメーも面倒なことになってんだな……」
ラブリナの言葉を聞いたテラーニアは、仕方がないと言った風にやれやれと頭を掻くと、
「じゃあ、テメーはどうしてもオレに立ち塞がっちまうってワケだ」
生成した黒晶石の仮面を着け、蝙蝠のような翼を広げて臨戦態勢を取った。
「立ち塞がるなんて身の程知らずなことは言いませんよ。私に出来ることは、被害を広げられぬよう時間を稼ぐことだけです」
それと相対するラブリナも黒晶石の仮面を着けると、杖剣の侵食を更に進ませ黒晶石の大剣へと変化させる。
「キシシ、十分身の程知らずなことを言ってるじゃねーか。いいか、勘違いするなよラブリナ。確かにオレはお前に並び立つために力を求めてる。だが、それは楽園の底で眠るラブリナ本体の方だ、欠片になったテメーじゃねぇ!」
テラーニアが爆ぜるように大きく踏み込み、黒晶石を爪のように侵食させた右腕を振るう。
「貴方の意志は関係ありませんよ、テラーニア。私はこの体と人々の無事を約束している、それだけのことです」
ラブリナがそれを大剣で受け止める。
黒晶石と黒晶石がぶつかり合い、砕けた黒い欠片が宙を舞って世界を侵す。
黒晶石を支配する魔王同士の争いが、今幕を開けた。
***
「ご覧の通りぃ! 黒晶石の花畑入口はぁ! 大変ッ! きけんでぇぇぇす! 誰か助けてくださぁぁい!」
今や三十五層となった黒晶石の花畑入口、建築中の拠点に少女の絶叫が響き渡る。
黒晶石の花畑入口を配信しながら探索していたセブンカラーズだったが、急に強くなったモンスターの攻勢に圧され、命からがら半壊したこの拠点へと逃げ込んでいた。
幸いにも半壊した拠点の瓦礫が天然のバリケードとなり、一行は辛うじてモンスターの苛烈な攻勢を凌ぐことに成功していた。今の所は。
"やっべぇ、三十五層ですらないじゃん。政府ガバ判定過ぎるだろ"
"いや、だって途中から目に見えて敵強くなってたもん。これもう完全に深層だよ"
"ああ……もう拠点の入り口が開きかけてる"
"ダンつべトップで緊急アラート鳴りっぱなしなのに救援応答なし、高レベル冒険者の救援は期待できないの?"
"平原の方もヤバいことになってるみたいで、近場の実力者は多分そっちに集結してるぽい"
"そもそも、セブカラが死にかけるような階層を歩けるパーティってどれだけあるよ"
"魔法少女が他の戦闘クラス+10レベル相当であることを加味すると、セブカラのパーティレベルは40越えてるんだぞ。"
回復役の魔法少女が怪我をした仲間の傷を癒している後ろでは、今も絶えず鈍い音が響いている。
拠点になだれ込もうとするモンスター達が分厚い扉を叩いて変形させているのだ。
それを押し返そうと、攻撃役の魔法少女が壊れた扉の隙間から魔法攻撃を叩きこむが、扉を壊すモンスターの勢いはまるで弱まらない。
配信のコメント欄も既にお通夜状態で、見たくはないが見届けないのも後味が悪い。そんな陰惨な空気を漂わせていた。
だが、真綿で首を締めるような状態も長くは続かない。魔法少女達が怯える子羊のように身を寄せ合う中、遮る役割を果たせぬまで変形してしまった扉が、鈍い金属音と共にこじ開けられてしまう。
「ひいいっ!?」
揃って絶叫をあげるセブンカラーズとコメント欄。
だが、意外なことに姿を現したのはモンスターではなかった。
「君達、大丈夫?」
それは銀のツインテール靡かせた魔法少女、エリュシオン。
"うおおおお! エリュシオンちゃんキターーーーッ!"
"鬱クラッシャーマジで凄い"
"マジで毎回いいタイミングで来るのな"
"本当によかった、セブカラちゃん生存できそう"
「え、エリュシオン……」
「悪いけれどこっちも時間がないから。退路があるうちに自力で撤退して」
怯える魔法少女達に手を差し伸べながら、エリュシオンは拠点の外へと視線を向ける。
拠点から二層境界へと繋がるように、黒晶花の花畑を削り取って道が拓かれ、その周囲に昼間でも明瞭な燐光が漂っていた。
「あ、ありがと。エリュシオン」
いそいそと逃げるように撤退するセブンカラーズの四人。
「それと……できれば一層の防衛を手伝ってあげて。勿論、君達が無理をしない範囲でいいから」
「それは最初からそのつもりよ。けど、アンタはどうするつもりなのよ?」
「決まってる。この混乱に終止符を打つため、深層に行ってくる」
隊列の最後尾で恐る恐る尋ねるナナミにそう答え、エリュシオンは迫り来るモンスターと生い茂る黒晶花を斬り裂きながら疾走していくのだった。