魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
辿り着いた深層"黒晶石の花畑"は一面の闇だった。
闇の中にぽつりぽつりと咲いている黒晶花は彼岸花のような形ではなく、蓮の花のように闇の上に浮いている。意外なことに、その密度はさっきまで居た黒晶石の花畑入口よりも大分疎らだ。
「……つまり、それだけ大量の黒晶花が転移で送り込まれてるってことだよね」
私は凛としたエリュシオンの口調ではなく、いつもの口調でぽつりと呟く。
入学当初の目的だった深層だけど、随分予定と違う形で来てしまったなってしみじみ思う。
「でも大丈夫。私のやるべきことは決まっていて、迷うことは何もないんだから」
状況は最悪だけれど、後ろ向きな考えで足を踏み入れるよりも余程気が楽だ。
皆の頑張りは私が失敗したら水泡に帰してしまう、だから私は絶対に負けられない。シンプルだ。
私は纏った燐光を広く展開して光源を確保し、周囲の地形を確認する。
そこは遥か遠くまで真っ平、私が歩く度に地面の闇が波紋のようなものを作っていく。でも、水の上って訳でもないっぽい。なんとも不思議な空間だ。
私は入学前にラブリナさんから送られてきた深層探索レポートを思い出しながら走りだす。
確かレポートには境界から真っ直ぐに突き進んだ場所に、魔力集結点らしき反応があるって書かれていたはずだ。転移装置で黒晶花を送っているのなら、そこである可能性が一番高い。
魔力集結点目指して走る私を迎え撃つように、黒い地面が大きく盛り上がり、その盛り上がりが徐々に近づいてくる。
「うん、こっちで正解みたい」
闇の中から飛び出してくるザ・怪獣みたいなモンスターをダッシュキックで一刀両断し、前へ前へと突き進む。
黒晶花から生まれるモンスターは恐らくテラーニアの制御下にある。つまり、妨害が苛烈な方に進んでいけば目的地に辿り着けるはず。
予想通り、私の進行方向の果てで何かがチラチラと光輝き、それと呼応して地面の黒晶花の光が消えていく。間違いない、あれが転移装置で黒晶花を送り込んでいる現場だ。
「よくぞ突き止めたな、エリュシオン! だが貴様が辿り着くことはできんぞ!」
足を速めようとする私の前、犬猿雉と黒いオーラを纏った三人の怪人が行く手を遮る。
「かつての野望、打ち砕いた報いを受けよ!」
「今こそ貴様に恐怖を与えんッ!」
待ってましたとばかりに一斉に飛び掛かってくる三人の怪人。
「放つ瞬星の鉄槌」
私は走る速度を緩めないまま、高速パンチ三連で怪人達を消し飛ばす。
それで安堵する暇もなく地面が再び盛り上がる。次に出てきたのは尻尾の棘が痛そうなハリネズミ怪獣。それを正拳一発で撃退。
ハリネズミ怪獣を爆散させた先では、アンコウのような怪獣が大きなお口を開けていた。流石は大怪獣連合、恐竜と違って姿形がフリーダム。対応策に想像力が問われる。
アンコウを手刀で切り裂き、サイ戦車を捩じり切り、カニタワーを砕き壊す。
果たしてこれはモンスター化した怪獣なのか、怪獣のようなモンスターなのか、はたまた単なる珍しいモンスターなのか、私の中で定義がゲシュタルト崩壊しつつも、ついに私は奪われた魔石の所へと辿り着く。
奪われた第一拠点の魔石は、黒晶石の台座に取り込まれるように設置されていた。
魔石の周りで魔力が渦巻き、黒晶石の台座が煌めく。その度に周囲の黒晶花が消えていく。確定だ、これが転移のカラクリで間違いない。
「フハハハ! そう易々と壊すことはできんぞ、エリュシオンッ!」
まずは台座を壊すべきなのかなと思案していた私の前、地面からタコのような怪人がぬぼっと生えてくる。
「両断する銀の腕」
私はそれをそのまま縦に真っ二つ。
「フハハハハ! 言ったはずだ、そう易々と壊すことはできんとな!」
でも、真っ二つになっているはずのタコ怪人の哄笑が止まらない。
声帯、どこ? それともあれが本体じゃない?
「本体は……下!?」
思い至った私を肯定するように、ゴゴゴと地鳴りが轟き、周囲に巨大なウナギのようなにょろにょろが上下し始める。
タコ怪人と魔石の台座の下がこんもりと盛り上がり、超巨大ウナギ……じゃなくて、竜の顔が飛び出してくる。
本体が竜なら、頭で真っ二つになっているタコ怪人はなんだったんだろう。擬態? それともオシャレアイテムだったの?
「我こそは大怪獣同盟が一人、黒海竜カイザン! 転移装置の守り人が我であったのが運の尽き、貴殿の快進撃もここで終わりと知れッ!」
勇ましく名乗りをあげる海竜、その頭部にはタコ怪人の残骸と魔石の台座、一瞬見えた腹部には黒々とした黒晶石の巨大結晶がついている。
頭部のサイズと私を取り囲むようにうねる体の太さから推察するに、全長数十メートルはあるかもしれない。魔力を節約したいこのタイミングで嫌な奴が出た、大物だ。
私は手始めに台座の置かれていた地面を思いきり殴りつける。黒い水面が弾け飛び、巨大クレーターができあがった。よかった、黒い地面は抉れる。
「どうした、我はここだぞッ!」
私のパンチが自分を狙っていたものだと勘違いをしたらしい海竜が、別の所から首をにょっきり出して嘲笑う。
残念ながらそれは間違いで、今のはマーキング。一面の黒の中、私が魔力集結点を見失わないためのもの。何しろこの後、ミコトちゃんに回収して貰う必要があるのだ。
「ルミナスクラフト・コンバージョン」
私は自分の周囲を漂う燐光を幾本もの光剣に作り替えると、僅かに飛び出ている海竜の体を目印にして次々発射。海竜の体を地面に縫い付け動きを止める。
「ぐぬおおおおっ!?」
絶叫をあげながら黒い地面に潜ろうとする海竜の頭を掴むと、そのまま一気に引っ張って釣り上げる。
「見えた」
地面に隠れていた黒晶石の巨大結晶が露出したのを確認すると、私はそれを拳で即座に粉砕。
「バカな! バカな! バカなあああぁぁっ!?」
今までのモンスター化した怪人と同じように、海竜の巨体が黒晶石に侵食され、そのまま灰色に濁っていく。
灰色は頭部についていた黒晶石の台座にまで達し、魔石の玉座が砕けて第一拠点のものだったろう透明な魔石が黒い地面に転がった。
「これでひとまず安心、かな?」
私はそれを拾い上げながら周囲を見回す。
疎らに咲いている黒晶花が減っている様子はない。これで学園への黒晶花流入は防げたはずだ。
「回収しても大丈夫だって、にゃん吉さんに連絡入れないと」
私は自分の胸を揉むようにして、衣装の隙間から胸の谷間に手を突っ込む。
そのままむにむにと自分の胸に手を這わせ、少しだけ悪戦苦闘しつつ胸の谷間に隠したスマホを取り出す。
変身する時に身に着けている物は、全てエリュシオンの装備へと一時変換されてしまう。だから安全にスマホを隠せる場所がここしかなかったのだ。鞄まで残すと、私の加速で鞄ごと粉々に砕け散るだろうし。
「ドレスにポケットがあれば便利なんだけど……」
変身する時の衣装ってどういう仕組みで決まってるんだろう。任意で変えられるならポケット沢山つけて、ついでにセレナちゃんにエッチだって言われないようにデザイン変えたい。
私はそんなことを考えながら、にゃん吉さんに準備完了のメールを送る。後はにゃん吉さん達が首尾よくやってくれるのを信じるだけだ。