魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
「こんこ! さあ、妾に至上の愉悦をもたらせ! リオよ、魔法少女が何たるものか刻みつけてみよ!」
カレンが手を滑らせると同時、漂う鬼火が音もなくリオへと迫る。
「ちっ!」
カレンへと踏み込む隙を奪う、無数の鬼火。
リオは先程停めたジープの裏に回り込んで、身を隠して反撃のタイミングを窺う。
だが、漂い迫る鬼火はジープを瞬く間にドロドロに溶かしてしまった。
「ヤバっ!?」
「ほれほれ、まだ戯れじゃぞ。先程の気概を見せてたも」
カレンはアスファルトの溶けていない地面を跳び歩き、リオの反応を味わう様にゆっくりと間合いを詰めていく。
慌てて溶けたジープの影から飛び出したリオは、そのままカレンの腹部を目掛けて槍を薙ぐ。
「それはつまらん」
しかし、カレンは退屈そうな顔をして胸元から扇子を取り出すと、扇子でぺしりと槍を叩き落としてしまった。
「っう! なんだそれ、デタラメ過ぎるでしょ!?」
槍ごと体勢を崩されたリオは、そのまま転がるようにして間合いを取って立て直す。
途中、熱され溶けたアスファルトに手をついてしまうが、魔法少女に変身しているリオはその程度で火傷などしない。
だが漂い迫り続けるあの鬼火は別だ、あれに当たれば間違いなくただでは済まない。
「にゃん吉っさん!?」
「うーん……これはマズいね、彼女は明らかにキミより格上だ。基礎スペックは段違い、戦闘経験や反応も全部上だね」
「なんか手はない!? だからって、逃げていい状況じゃないっしょ!? ミコっちゃん攫われたら計画全部おじゃんだよ!?」
苦し紛れに槍を突き出すリオ。
「おお、そうともそうとも、その意気じゃ。お主が不甲斐なくば姫巫女は攫って行くぞ。ほれ、そこの奇っ怪な化け猫と知恵を絞りあい、妾に抗ってみせよ」
カレンは広げた扇子でそれを受け止めると、扇子で風を起こしてリオを吹き飛ばす。
「かはっ……追撃は無し、遊ばれてるねぇ!」
吹き飛ばされたリオが、高台に座るにゃん吉の前で槍を構えなおす。
「こうなったら、仕方ないなぁ……」
にゃん吉はリオの肩に飛び降りると、リオに耳打ちする。
「いいかい、あの鳳仙華恋はキミが死力を尽くしても勝てる相手じゃない。勝つには本気を出される前に不意打ちして、そのまま短期決戦に持ち込むしかないと思うんだ」
「こんだけいいように弄ばれりゃ、ウチだって嫌でもわかるよ。でもその一発すら通せそうにないじゃん」
「いい判断だね。不意打ちを決めるには、キミの能力を一時的に限界を超えて引き上げるしかない。そして、そのためには……代償にキミの変身ペンダントを壊す必要があるんだ」
続くにゃん吉の言葉に、リオは槍を構えたまま一瞬動きを止めた。
「ペンダントの破壊、か……。今ペンダント潰したら、ウチは確実にセブカラ首になんね」
「なら、エリュシオンが来るのを信じて時間稼ぎに徹するのも手だね。カレンはキミとの勝負を愉しんでる。このまま興味を引き続ければ不可能じゃないはずさ」
「確かにエリュシオンなら長官相手だろうが一撃必殺してくれるだろうけど……」
リオはにゃん吉とカレンを交互に見比べ、リオは変身時に衣装の一部となったペンダントに手を当てる。
「必殺、か……わかった、ウチがやる。国家公認魔法少女セブンカラーズルビー、最後の晴れ舞台を見せてやろうじゃん」
そして、覚悟を決めたリオは真っすぐにカレンを見据えた。
「よし、キミの覚悟はわかった。ならボクからこれ以上言うことはないよ、行っておいで」
にゃん吉はリオの耳元で限界を超える方法を教えると、リオの肩を足場にしてぴょんと高台へと舞い戻る。
「おお、良き眼じゃ。どうやら覚悟は決まったようじゃな」
「おかげさんでね」
カレンが狐の形をした両手をリオに向け、リオは左手をペンダントに手を当てたまま、右手に持った槍をカレンへと投擲する。
「マナチェンバー、イグニッション!」
同時、リオが叫び、駆ける。
眩く輝くペンダントがリオの衣装を輝かせ、リオの身体能力を跳ね上げる。
自らが投擲した槍に追いついたリオは、駆けながら槍を掴み、そのままカレンへ向けて薙ぎ払う。
「なんと! かような切り札、妾は知らぬぞ!?」
驚きに目を見開いたカレンが扇子で槍を受け止めようとする。
だが、先程とは比べ物にならない鋭さを持つ薙ぎ払いは、扇子諸共にカレンをも弾き飛ばし、カレンはそのまま勢いよく平原を跳ね転がった。
「くっ、このままいけっ!」
その好機を見逃すまいと、跳ね転がるカレンを追い越したリオが、再度魔力を込めた槍を薙ぐ。
その胸元ではピシリと音を立ててペンダントにヒビが入り、身に着けた衣装の端がぽろぽろと光の粒子となってほどけていく。
「小癪な!」
カレンは地面を握るようにして自らの勢いを殺すと、リオに向けて鬼火を放つ。
「抵抗せず倒れてなって、長官っ!」
リオは自らが放つ火炎魔法で鬼火を相殺し、そのまま槍の薙ぎ払いを押し通す。カレンが吹き飛び、壊れた駐車場に埋め込まれた。
更に起き上がろうとするカレンの腹へ、リオが左手で思いきり拳を叩き込む。
一方的に攻め立てるリオだが、その表情は苦悶。ペンダントに入ったヒビも広がり、衣装の消失も進んで肌の露出が増えている。残り時間が少ないのは明白だった。
「これで……」
白いレースのグローブで頬を伝う汗を拭いながら、倒れたカレンを見下ろすリオ。
その一瞬の油断を衝かれ、視界の脇からカレンの尻尾がリオへと襲い掛かった。
「っ!?」
思わぬ反撃にリオの体勢が一瞬ぐらつき、お返しとばかりに跳ね起きたカレンの拳が撃ち込まれた。
「くふふ、やるのう、暇つぶしの余興から戦へと引きずり込まれるとは思わなんだ。じゃが詰めが甘い、戦慣れせぬ小童よ」
苦悶で体をくの字に曲げるリオの前、カレンは冷たい声音でそう言うと、自らの背後に無数の鬼火を浮かべ
「そんなこと、百も承知! こっちがしてるのは最初から根性比べだっての!」
ようとする直前、リオがカレンを殴り返し、衝撃で一瞬意識を飛ばされたカレンは浮かべた鬼火を霧散させた。
「こんこ! 言うではないか、若造め! 妾の気概がお主に負けると錯覚しておるのではなかろうな!」
更に殴り返すカレン。
そのお返しと今度はリオが殴り返す。
二人は洗練とは程遠い殴り合いを繰り返し、限界を迎えたリオのペンダントがついに壊れ弾け飛ぶ。
衣装が消失し元の服に戻ったリオの前、ついに力尽きたカレンが倒れた。
「はあっ、はあっ、なんとか間に合った……。強過ぎでしょ、深層モンスター以上かよ。捨て身で挑んで紙一重じゃん……」
今度こそカレンが立ち上がってこないことを確認し、リオは安堵の吐息と共に膝をつく。
「お疲れ様、リオちゃん。止めは刺さなくていいのかい?」
高台に乗ったまま、にゃん吉がリオの横を指差す。そこにはリオの得物である槍が転がっていた。
「いい。ってか、そうならないように必死になったんだし」
「ああ、なるほどね。リオちゃんが必死だったのは、カレンをエリュシオンに殺されないためかい」
リオの言葉に、にゃん吉は腕を組んで納得するように頷く。
「仮にも今朝まで上司だった相手だしね、いきなり割り切れんでしょ。それに……一応、ウチが感謝してたのも事実だしさ。今朝長官がペンダント渡してくんなきゃ、ここで歯食いしばれる根性もなかっただろうし」
「うんうん、なるほど。こりすちゃんが高く評価してた理由がわかったよ。キミ、魔法少女の素質あるよ」
「はっ、にゃん吉っさん皮肉かよ。今日それ首になる覚悟で戦ったんだっての。だから……後はエリュシオンに任せた」
リオはごろんと大の字になって寝転がると、清々しい顔で空を見上げるのだった。