魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
エピローグ
翌日、快晴の空の下、平原エリアは人でごった返していた。
学園や道路を修理している人達も居るけれど、原因の大半はエリュシオン、つまり私だ。
私はあの時、セレナちゃんを一刻も早く助けようと必死だった。
当然、倒した深層モンスターの素材回収なんてしていない。
だから、まだ深層素材が落ちていることを期待した人々がこぞって集結しているのだ。その様子はまさに現代のゴールドラッシュ。
「こりすー! 急ぐのですー! 配信でエリュシオン様がモンスターを倒していたのはこっちなのです!」
壊れてボコボコになった道路の上、私のスマホを傍らに浮かべてミコトちゃんが楽しそうに手を振る。
「待って、ミコトちゃん。道路デコボコだから後ろ向きじゃ危ないよ!」
トングと市指定のゴミ袋を持った私は、その危なっかしい姿にハラハラしながらミコトちゃんを追いかける。
あれだけ平原エリアを侵食していた黒晶花はもう一本も咲いていない。大怪獣になったテラーニアを倒した時、白い輝石の雨が降り注いだからだ。
私も白い輝石を回収しておきたいなって思って、ちゃっかりこのゴールドラッシュに参加している。
ミコトちゃん達が活躍したおかげで、一足早く入場できてよかった。
そんなことを考えていると、後ろ向きで歩いていたミコトちゃんが転びそうになっていた。ほら、だからちゃんと前を見て歩かないと。
「あおおおーっ。こりすー、助けて欲しいのです!」
転びそうになっても、じったばったと往生際悪く体をぐらつかせて必死に耐えるミコトちゃん。
やじろべえみたいにずっとジタバタするより、レベル持ちになって頑丈になってるんだから、さっさと転んだ方が楽じゃない?
そう思いつつも助けに駆け寄ると、それよりも早く後ろからミコトちゃんを支えてくれる人が居た。
「お、デカパイコンビは朝っぱらから楽しくやってんね」
ミコトちゃんを助けてくれたのはリオちゃんだった。
「あ、リオちゃん。おはよう」
「おはよ、こりっちゃん。なんか装備がごみ拾いのオバちゃんみたいになってんじゃん」
「リオ、助けてくれて感謝なのです。エリュシオン様の経典が欲しければわけてあげるのです」
「い、いきなり布教活動に勤しむの止めた方がいいよ!」
パンパンに膨らんだバッグをまさぐり始めたミコトちゃんを見て、私は慌てて制止をかける。
この悪癖は全く治る気配がない。って言うか本人は全く悪癖だと思ってないもんね……困る。
「ああ、そだ、こりっちゃん、あの後にゃん吉っさんは元気にしてる?」
「うん、いつも通り元気だよ。今日の分のおやつも既に完食してるし」
言いながら、私は小首を傾げる。
リオちゃん、にゃん吉さんのこと気に入ったの? 案外猫好き? あ、喋る猫だから動画狙い! 猫動画は受けがいいっていうもんね。
「り、リオちゃん、家のにゃん吉さんは撮影NGだから! あんなメタボ猫、よそ様にお見せできないよ!」
「しないってそんなこと。こりっちゃん勘違いしてるけど、ウチにとってにゃん吉っさんは……師匠、みたいな感じ?」
「リオちゃん、流石に師匠はちゃんと選んだ方がいいよ……」
リオちゃんの思わぬ回答。
私は真顔になってリオちゃんを心配した。
「いやいや、こりっちゃんが思うより、にゃん吉っさんは凄い猫なんだって。ウチが昨日生き残れたのだって、にゃん吉っさんのアドバイスのおかげだしさ」
「えっ、えぇ!?」
それは衝撃の事実だった。私、にゃん吉さんにアドバイスとか一度もして貰ったことないんだけど!?
初めてエリュシオンに変身した時だって、ボクがキミに助言できることは何もなさそうだね、って言われていきなり放置されたし。
もしかして、にゃん吉さんの私に対する扱い、雑?
「ま、ペンダント壊しちゃったし、貰ったアドバイスを今後に役立てらんないけどさ」
後でにゃん吉さんを問いただしてやろうと思っている前、リオちゃんがそう付け足して苦笑した。
「あ、そう、なんだ……」
私はペンダントを犠牲にした二重変身を使ったのだと察する。カレンを生け捕りにするために、リオちゃんは相当無理をしたんだろう。
私もセレナちゃんが黒晶石の竜に吞まれた時、絶対に助けたくて自分のペンダントを壊した。だからその覚悟がどれだけのものかわかる。
「なに、そんな顔して心配してくれてるん?」
「そりゃあ心配するよ。だって、リオちゃんにミコトちゃんの手助けを頼んだのは私なんだから」
「ははっ、大丈夫、実は結構スッキリしてんだよね。スポンサーやら、国家公認魔法少女の義務やら、色んなもの重くて焦っててさ。でも、最後はちゃんと魔法少女らしく戦えたって感じ?」
リオちゃんはそう言って、晴れやかに笑う。
「とはいえ、後始末までしとくのはウチの義務だけどさ。ってことで、ミコっちゃん少し借りてくから」
そして、ひょいっとミコトちゃんを担ぎ上げた。
「リオー、放してほしいのです! 私はこりすと一緒に素材探しをしたいのです! エリュシオン様の素材が欲しいのです!」
リオちゃんに持ち上げられたミコトちゃんが、解放を求めて必死に足をばたつかせる。
ねえ、ミコトちゃん。その言い方だと私を倒した時のドロップアイテムみたいに聞こえるけど。
「第一拠点でのこと、報告書にしないといけないんだって。ほら、いい子だから協力しときなー」
「え、ええと、ミコトちゃん、私が素材見つけたらあげるから」
「うー、仕方ないのです。手早く済まして合流するのです」
ミコトちゃんは残念そうな顔で唸っていたが観念し、リオちゃんに担がれたまま第一拠点の方へと向かっていく。
私はそれを見届けると、白い輝石を探すべくトングをカシャカシャさせながら歩き出す。私が昨日テラーニアを倒したのはこの辺りだったはずだ。
「こりすちゃん、素材探しですか?」
と、そこに今度はセレナちゃんが声をかけてくる。
私が顔をあげれば、ピンク色の髪を風に靡かせ柔和な笑みを浮かべたセレナちゃんが居た。
「素材じゃなくて白い輝石を探してたんだよ。テラーニアを倒した時、核の一部を地面にねじ込んだ手応えがあったから。敵だったけどせめて回収しといてあげたいなって」
「テラーニアである黒晶石の一部……それは確保しておきたいですね。持ち去られて資源として使われるのは少し心苦しいですし」
セレナちゃんは自分の胸に手を当てながら言う。その言葉はセレナちゃんだけでなく、ラブリナさんの言葉でもあるのかもしれない。
そして、実は私も同感だ。相容れない相手ではあったけれど、私には一人の人間に見えた。だから相応の扱いをしてあげたい。
「ねえ、セレナちゃん。セレナちゃんはラブリナさんのこと、どうしたい? 私、ただセレナちゃんの体から黒晶石取り除くことを考えてた。でも、ただそうするだけじゃ、ラブリナさんは白い輝石になるだけだよね」
だから、私はセレナちゃんにそう尋ねる。
それは私が目を逸らして直視して来なかったもう一つのこと。
私を導こうとしてみたり、セレナちゃんを気遣ったり、ラブリナさんには自分の意志があり確かに人として存在する。
それを単に体から取り出して終わりでいいはずがない。
「そうですね……私も多分こりすちゃんと同意見です。完全に浄化され、体から取り除くことができるとしても、ただの白い輝石として扱うのは嫌です」
セレナちゃんは目を閉じると、胸に手を当てて凛と言う。
よかった、私と同意見だ。
「うん、セレナちゃんならそう言うと思ってた。実はテラーニアが言ってたんだ……世界の底、ラブリナさんが楽園で眠るって」
「世界の底、やはりダンジョンのことでしょうか?」
「わからないけど、私はそうだと思ってる。なら、ダンジョンの底にはラブリナさんの本体があるのかも。なら、セレナちゃんとラブリナさんの両方を助ける方法があるかもしれないよ」
私と戦った時、テラーニアは黒晶石で両断された体を無理矢理繋げていた。
なら、同じ要領でラブリナさんと本体をくっつけることができるかもしれない。できるかはわからないけれど、他の可能性はダンジョンを進みながら探していけばいいだけの話だ。可能性は山ほどある。
「そうですね。まだ私達は黒晶石も、魔王も、何も知りませんから。可能性はある、そう思いたいですね」
考えるセレナちゃんを見て、私は一番言いたかった大事な言葉を続ける。
「だからさ、だからさ、私と一緒にダンジョンに潜って一番いい方法を探そうよ」
「こりすちゃん……それは素敵な提案ですね。でも難しいと思います、戦闘中に発作が出たら凄い迷惑をかけちゃいますから」
セレナちゃんは少し遠い目をすると、残念そうな顔をした。
「大丈夫だよ、そういう時は私がフォローするから!」
当然、そんなの織り込み済みだ。私は胸を叩いて任せてとアピールする。
それを肯定するように、足元で何かがきらりと煌めく。それはテラーニアの黒晶石だったであろう大きな白い輝石だった。
「はい。そうですね、行きましょう。私の大好きなエリュシオンは、皆が幸せになれるハッピーエンドを目指す魔法少女。私がその可能性を閉ざすわけにはいかないです。……そしてなにより、私だってこりすちゃんと一緒に冒険したいですから」
白い輝石を差し出す私の手を取って、セレナちゃんが微笑む。
二人揃って見上げる空の下には真っすぐ道が伸びていて、どこまでも歩いて行けそうだった。
これで1章完結となります。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
2章は二日間をあけて8/5より初回三話、以降毎日一話ペースで更新予定です。