魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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2層 紅葉林 -喜劇王-
プロローグ[2章]


 宵闇広がる建物の中、コンクリートの廊下を走る二人の少女が居た。

 

「クロノシア様! 前方に奴等の気配がありますにゃ!」

 

 紫紺の髪から黒い猫耳を生やしたつり目の少女が、小柄な金髪ショートカットの少女に声をかける。

 

「うむ、余が先行する! ミレイ、魔法攻撃で援護するのだ」

「了解ですにゃ!」

 

 金髪の少女クロノシアがそう言って走る足を速めると、ミレイがその場で足を止め、前衛と後衛にわかれてフォーメーションを組みなおす。

 それを待ち構えていたかのように、三十センチ位のウサギ人形達が次々と曲がり角から飛び出してくる。

 可愛らしい外見とは裏腹に、モンスターと同じ黒いオーラをまとった人形達。その手には巨大な出刃包丁を持っていた。

 

「不埒な輩共め。雑兵如きで余に傷つけられると思わぬことだな」

 

 その姿を見たクロノシアは不敵な笑みを浮かべると、自ら刃を受けに行くようにウサギ人形の一団へと身を投じる。

 出刃包丁を掲げたウサギ人形達がクロノシアへと飛び掛かるように殺到し、

 

「クソ人形共、まとめておっ死ねにゃッ!」

 

 それを確認したミレイが魔法を発動。手にした杖の先端から鋭利な氷塊を連射し、クロノシア諸共ウサギ人形をズタズタに切り裂いていく。

 体を千切られ、核となる黒晶石を砕かれ、ウサギ人形達が次々と黒い煙を吹き出して消滅していく。

 やがて、そこには服を切り裂かれたクロノシアだけが残った。

 

「ふんっ、脆弱な生物め。余とお前達では生物としてのレベルが違うのだ。レベルが」

 

 ウサギ人形を貫通した氷塊は、分厚いコンクリート壁に突き刺さってもなお消滅せず、今も冷気を漂わせている。

 そんな氷塊の流れ弾を受けても、クロノシアにはかすり傷一つない。

 その異常なまでの耐久力は、単に彼女がレベル持ちだからと言うだけではない。元々彼女が怪人の類であることとの合わせ技だ。

 

「ミレイ、これで道は開けた!」

「クロノシア様、後方から新手が! ウサ公よりやべー奴にゃ!」

「捨て置け、どの道雑兵共を逐一相手にしている暇はない! 奴が、喜劇王が来る前に急ぐぞ!」

 

 ミレイが通路の後ろから迫り来る二メートルはあろうクマ人形を一瞥し、クロノシアが前を指差して無視を促す。

 

「りょーかいですにゃッ!」

 

 前衛後衛のフォーメーションを維持したまま、二人は建物の出口へと急ぐ。

 二人は迷いなく建物内部を駆け抜け、閉ざされた扉を無理やりにこじ開け、そのまま建物の外へと飛び出す。

 だが、

 

「ふふふ、吾輩を放置して何処に行こうというのかね?」

 

 二人が飛び出した建物の外、満月が妖しく輝き葉が真紅に燃える森の中で、両脇に無数の人形を従えた少女が二人を出迎える。

 緑色の髪をしたその少女は、バニーガールのような服装に、ウサミミシルクハット。その素顔は黒晶石の仮面によって隠されていた。

 

「くそっ、出おったな 喜劇王ラフィール! 黒晶石の魔王が最後の最後にお出ましか!」

 

 モンスターに取り囲まれた二人は足を止め、クロノシアが忌々しげにラフィールを睨みつける。

 

「当然だとも! 諸君等が吾輩を魔王と呼ぶのなら! やはり! 立ち塞がるのはクライマックスでなければなるまいよ!」

 

 両手を広げ、ラフィールが芝居がかった口調で声高らかに言う。

 それと同時、両脇を固めるウサギ人形が一斉に出刃包丁を掲げ、後列のクマ人形達が威嚇するようにその手をあげた。

 

「クロノシア様、ヤバい、ヤバいですにゃ!?」

「落ち着くのだ、そんなもの一目でわかるわ。愚か者!」

 

 慌てるミレイを一喝しつつも、クロノシア自身も頬に一筋の冷や汗を流す。

 人形達ならば何匹来ようと意に介さないクロノシアだが、黒晶石の魔王であるあの少女だけは話が違う。あんな化け物の相手はしていられない。

 

「諸君、キミ達も演者ならば筋書きを尊重したまえ! 演者がアドリブでストーリーを書き換えては困る。んん、違うかね?」

 

 そう言うラフィールの後ろ、宵闇を黒く塗りつぶして空飛ぶ黒晶石の円盤が飛来する。

 

「さあ、さあさあさあ! 乱れた筋書きを正すとしようかッ! 無論、諸君等が噂に聞くエリュシオンの如き気概を見せると言うのなら、吾輩は歓喜と共に迎え撃ってみせようとも!」

「ふん、何がエリュシオンだ、愚物め。あれを一度でも直に見たことがあれば、そんな驕った口を利けるものか」

 

 クロノシアは吐き捨てるようにそう言うが、状況が劣勢であることは明白。

 そもそも、クロノシア達がラフィールに勝てるのならば、わざわざ宵闇に紛れて逃げる必要はないのだ。

 

「クロノシア様、ここは私が時間を稼ぎますにゃ。逃げて……ラブリナとか言う魔王に助けを求めてくるにゃ」

 

 クロノシアが固唾を飲む中、ミレイが覚悟を決めた顔でクロノシアへと歩み寄る。

 

「ミレイっ!」

「問答無用、失礼しますにゃっ!」

 

 ミレイが力任せにクロノシアを空中に放り投げ、宙に浮いたクロノシアへと暴風の魔法で追い打ちをかける。

 その勢いでクロノシアは紅葉した森の遥か彼方まで吹き飛んで行った。

 

「ほう? ほうほうほうほう! 面白い、それは実に面白いともッ!」

 

 それを見たラフィールがくつくつと笑って、モンスターへと指示を出そうとする。

 

「させるか、ウサ野郎!」

 

 それを阻止すべく、ミレイが取り囲むモンスター達に雷撃魔法を打ち放ちつつ、ラフィールに向かって一気に突進。

 そのまま杖に炎をまとわせて一気に振りかぶる。

 

「勘違いして貰っては困るよキミィ! 吾輩がそんな三文芝居を評価すると思われては心外、実に心外!」

 

 だが、ラフィールは手品のように黒晶花を取り出すと、襲い来るミレイの前に突き付ける。

 たちまち黒晶花が紐解け、宵闇よりも黒い闇となってミレイの体を絡め取ってしまう。

 

「もごっ!?」

「されど、されどされど、されど! 我が友、魔王の欠片、ラブリナ! もう一欠片の彼女が諸君等の味方になり得るとするのなら、それは実に面白い! 吾輩、是非とも確かめねばなるまいよ!」

 

 身動きが取れなくなったミレイの前、ラフィールが芝居がかった口調で手を広げ、その後ろにウサギ人形が整列していく。

 

「おっと失礼、キミのことを失念していた。このまま舞台から降りるのも寂しかろう? わかる、わかるとも! 故に、吾輩はキミに新たな役割を提案しよう。ふふふ、道化として愉快に場をかき乱してくれたまえよ」

 

 ラフィールは手品のように一本の黒晶花を取り出すと、小さな黒い黒晶石の着いた首輪へと変化させる。そして、それを嫌がるミレイの首に着けた。

 必死に身をよじっていたミレイだったが、首輪をつけられた途端全身の力が抜け、人形のように動かなくなってしまった。

 

「さあさあ、これより舞台の幕は開く! 見せてくれたまえよ、人類! 示してみたまえよ、魔法少女エリュシオン! かの怪獣王テラーニアを倒したその力を! その力、吾輩が見事打ち破って見せようとも!」

 

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