魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第5話 怪人、逃亡する1

 

  第一話 怪人、逃亡する

 

 

 テラーニアの後始末もようやく済んだある日、私はセレナちゃんに連れられて、国内唯一の怪人収容施設を訪れていた。

 そこは山奥の更に奥、高く分厚い壁に囲まれ、剣や槍を持った警備員さんが大勢巡回している。

 武器が銃火器じゃないってことはレベル持ちの人達なんだろう。怪人に銃なんて通じないから当然だ。

 

「こりすちゃん、緊張してるんですか」

「当然だよ。怪人達が沢山居るんだから」

 

 一説によれば、ここ十年で壊滅した国内怪人関連組織の八割は、魔法少女エリュシオンの手によって壊滅させられたのだと言う。

 つまり、ここに収容されている怪人の八割はエリュシオン強火アンチ。アンチの集いみたいなこの施設に、エリュシオンの正体である私が行く。これで緊張しない訳がない。

 正体露呈なんてした日にはもう目も当てられない、毎日がヘイトの遊園地で人生破滅コースまっしぐらだ。私は自分の顔と黒髪を隠すように赤い頭巾を目深に被った。

 

「深々とフードまで被って、こりすちゃんったら心配性で可愛いですね。全部の怪人が悪人と言う訳ではないんですよ」

「でも、こんな所に収容されてる怪人は100%悪人じゃないかな……」

「うーん、やっぱりこりすちゃんは誤魔化せませんか。でも、収容できる怪人は基本的に脅威度が低いから大丈夫ですよ」

 

 私にとって何の解決にもならない結論で会話が終わり、入り口で身分証を見せて通行許可を貰った私をセレナちゃんが、いつも通りの笑顔で私を急かしてくる。

 顔確認の為に被った頭巾を早速脱ぐことになった私も、おどおどしながらセレナちゃんに続いてゲートをくぐる。

 いかにも収容所って感じの無骨なコンクリートの建物群から脇にそれて歩くと、森の中に注連縄とお札でぐるぐる巻きになった怪しげな庵があった。

 怖い。いかにも怪しい奴が封印されていますよって感じで、こんな状況じゃなければ間違いなく猛ダッシュで逃げている。

 

「ねえセレナちゃん、あそこにスーパー瑕疵物件みたいなのがあるんだけど……」

「目的地はあそこですよ」

「えっ、ええ……」

 

 長いピンクの髪を風に靡かせて、セレナちゃんは颯爽と怪しい庵へ歩いて行く。強い、心が強い。ちょっと正気を疑う。

 でもセレナちゃんが行く以上、私も当然逃げる訳にはいかない。もはや破れかぶれで追随するしかなかった。

 

「こんこ、ようやく来たか。退屈過ぎて待ちくたびれてしもうたわ」

 

 庵に入った私達を出迎えたのは、お高そうなソファでくつろいだ金髪九尾の妖狐怪人。妖狐カレンだった。

 意外なことに庵の中は怪しげな外観と打って変わって高級旅館のようで、冷暖房まで完備されている。完全にVIPルームだ、これ。

 更にwifiも繋がるっぽい……中に居るの悪さした怪人なのにネット環境完備してていいの?

 

「はい、今日は取引に来ました。条件を飲んで頂ければ貴方を解放してあげます」

「ええ!?」

 

 セレナちゃんの言葉に驚く私。そんな話聞いてなかった。いいの? 大丈夫なの? 有事の際に迷惑おっ被るの多分私なんだけど!

 思わずカレンの方を見れば、カレンに驚いた様子はない。どうやらセレナちゃんの提案は想定内だったらしい。 

 

「小娘、驚くには値せぬ。そうくるであろうと思うておったとも。学園で会った時から、こ奴と妾は同類じゃと思うておったでの」

 

 驚く私の反応が面白かったのか、カレンは口元に手を当ててくふふと愉快そうに笑って言う。

 

「はい、私と貴方は同じ趣味人ですから。交渉の余地もあると思っています」

 

 趣味人! なんか微妙な共通点。

 セレナちゃん、お仕事頑張ってるイメージだけど、趣味人なの?

 あ、でも、カレンも長官の仕事はそつなくこなしていたみたいだし、そこも同じって意味なんだろうか。

 

「こちらの要求は簡単です、ダンジョン庁の長官に復帰してください。勿論、悪巧みしないよう監視の目は付けますが」

「せ、セレナちゃん、それ大丈夫な奴なの!?」

「大丈夫ですよ。あの混乱の最中、妖狐華恋としてのカレンさんを見た人はほぼ居ません。それに怪人が要人になりすまして悪さをするのは定番ですから、白鴎院家が強弁すれば押し通せますよ」

 

 そう言って、にっこり笑うセレナちゃん。

 権力パワーって怖いんだね……。

 

「そ、そうかもしれないけどぉ」

「ダンジョン庁長官としてのカレンさんの手腕は本物です、更に怪人として一般人では得られない知識を持っている。捨て置くにはあまりに惜しい。ならば内々で処理して首輪付きで据え置くのが最も有益なんです」

「と、脅迫まがいで説き伏せた輩でもおったのであろうな」

「流石に少々骨が折れました。ですので、よいお返事を頂けると嬉しいです」

 

 おろおろしている私の前で腹黒い微笑みを浮かべて笑いあう二人。怖い、この場に居たくない。

 ただ、話自体はわからなくもない。セキュリティの会社がハッカーを雇うのと同じ感じなんだろう。問題は相手が物理的にも強くて、ハッカーよりも更に悪知恵の働く怪人だと言うことだ。

 ひやひやしながら事の成り行きを見守る私。

 

「よかろう、お主の話に乗ってやろうぞ。好きに首輪なりなんなりをつけておくがよい」

 

 けど、カレンは私とセレナちゃんの顔を一度ずつ眺めた後、思いの他すんなりと提案を受け入れた。

 

「感謝します」

「よいよい。リオの奮戦する姿を見て、妾ももう少し魔法少女を育ててみたいと思っておった所じゃ」

 

 カレンは愉快そうに笑ってソファから立ち上がると、ソファの傍にまとめてあった荷物を持って、私達の居る扉の方へとやってくる。

 

「よ、よかったの、セレナちゃん?」

「大丈夫ですよ、こりすちゃん。彼女がまだここに居る時点で、こちらの思惑に乗ってくれると言う意思表示ですから」

「左様。このような牢獄一つ出れぬと小娘に思われたままでは癪じゃての、一つ見せてやろうかの」

 

 カレンがその手を狐の影絵の形にすると、周囲に青い火の玉が現れる。

 火の玉がゆっくりと壁へと進んでいき、魔法か何かで作られた結界のようなものに当たってバチバチと音を立てる。

 そして、周囲に張り巡らされた見えない何かが砕け散って消え去った。

 

「ほれ、御覧の通りじゃ。妾を閉じ込める檻なぞ人には作れぬわ」

 

 言って、カレンは私達よりも先に庵から出ていく。

 つまり、カレンは大手を振ってお外を歩けるように、セレナちゃんが取引を持ち掛けてくるのを待っていたらしい。

 

「ふぅ、なんとか上手くいきました。さあ、用は済みました。帰りましょう」

「ご、ご苦労様、セレナちゃん」

 

 にっこり笑って踵を返すセレナちゃんを、私は慌てて追いかける。

 

「いえいえ、自分のためですから。前回のことで心配されてしまいまして、学園長代理ではなくダンジョン庁のポストに変えられてしまいそうだったんです。これで約束通り一緒にダンジョン探索ができますよ、こりすちゃん」

 

 そんなにダンジョン探索したかったの? もしやカレンと同類の趣味人って、やりたいことのためには手段選ばないってことなの?

 一緒にダンジョンを冒険できるのは楽しみだけど、今日はセレナちゃんの怖さを再確認してしまった。冒険中はセレナちゃんを怒らせないよう気をつけようと心から思う。

 

「こんこ、ならばダンジョン探索に励むご同類に少し利子をつけてやろうかの。お主の中のラブリナ殿、クロノス社が大層気にしておったぞ」

 

 私達の前を歩くカレンが、愉快そうに笑って振り返る。

 

「……ええとクロノス社って、確かダンジョン素材を使った商品で急速にシェアを伸ばしている会社だよね。どうしてセレナちゃんの黒晶石を知ってるんだろ?」

「知っているのは不思議じゃないですよ。私の黒晶石、取り除く手段があるか各方面に見せていますから」

「あ、そう、だよね……」

 

 セレナちゃんがラブリナさんである黒晶石に蝕まれていた時、病院以外にも色々な所で診てもらったらしい。

 クロノス社はダンジョンベンチャーとして現在大躍進中の会社で、ダンジョン素材の扱いにも長けている。セレナちゃん側から手掛かりを求めて色々と問い合わせていたんだろう。

 

「人と黒晶石の共存という稀有なサンプルじゃての。攻略最前線(フロンティアライン)で魔王の黒晶石を手に入れた、そう嘯いている輩ならば喉から手が出るほど欲しかろう。まあ、彼奴等も正々堂々白鴎院の本家筋に手出しするほど愚かではなかろうがの」

 

 くふふと口元に手を当てて笑うカレン。

 その言葉の言外には、正々堂々ではない方法で手出しをしてくるぞ、と言う警告が含まれている。

 それに魔王の黒晶石ってつまりテラーニア?

 でも、テラーニアは間違いなく砕け散った。なら、考えられるのは他の魔王、あるいはラブリナさんの別の欠片辺りだろうか。どちらにせよ注意が必要だ。

 

「セレナちゃん、ダンジョン探索気をつけないとだね」

「大丈夫ですよ。だって、こりすちゃんが一緒ですから」

 

 セレナちゃんはそう言って、屈託のない笑顔を私に向ける。その顔は私が一緒なら大丈夫だと心から信頼している顔だった。

 絶対セレナちゃんに手出しはさせない。新たな黒晶石の魔王の襲来を予感しつつ、私はそう決意するのだった。

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