魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第5話 怪人、逃亡する3

「あれ、ナナミじゃん。そんなに急いでどしたん?」

「救援要請のアラートが鳴ってたから駆けつけて来たのよ。モンスターは?」

 

 リオちゃんが気安く挨拶すると、ナナミちゃんと言うらしい青い髪をした魔法少女の子が、湖畔の周りを注意深く見回す。

 

「それ、ウチのパーティで助けといた、救助者、無事帰ってったよ」

「そう、それはよかったわ。ならそっちは一件落着として……アンタ、その子になにしてんのよ。セブカラ首になってすぐに性犯罪者になるなんて凄い転落人生で見るに堪えないわ」

「性犯罪なんてしとらんって、パーティメンバーと戯れてんの。ナナミも揉む? マジで至高のスゴ乳だよ、この乳」

 

 ナナミちゃんが興味ありそうにちらりと私の胸を一瞥する。止めていただきたい、それは是非ともお止めいただきたい。

 って言うか、さっきから凄く情念的に揉みしだいてるの誰、誰なの。

 

「今は止めとくわ。リオ、アンタもいい加減にしておきなさいよ。涙目よ、その子」

「あ、ごめんこりっちゃん。ちょっと凄すぎてマジになってた」

「うん、もう少し早く気づいて欲しかったよ……」

 

 ナナミちゃんに促され、皆が手を離してようやく私が解放される。

 モンスターに襲われる以上に酷い目に遭った、ダンジョンでのトラウマ一発目になりそう。

 って言うか、ナナミちゃん今はって言ってた? 気のせいだよね?

 

「ってワケで、これが国家公認魔法少女セブンカラーズのサファイアこと葵七海(あおいななみ)ね。言葉はキツイけど面倒見はいいから何かあったら存分に頼んな。ま、普段はダンジョン特別戦闘部隊として治安維持の見回りしつつ、攻略最前線の辺りをうろついてんだけど……こんな所に居るなんてどしたん?」

 

 リオちゃんはさっくりとナナミちゃんの自己紹介をすると、どうしてここに居るのかと首を傾げる。

 ダン特ことダンジョン特別戦闘部隊は、ダンジョンにおける警察兼警備隊みたいな組織だ。

 ダンジョンに逃げた犯罪者を捕まえたり、モンスターから探索者を助けたり、異常がないか階層の巡回警備をしたり、話を聞くだけで大変そうな活動をしている。

 しかも、ナナミちゃんは魔法少女とダン特、二足の草鞋を履いているらしい。凄く正義感が強いんだなって、ダメニート魔法少女の私は心底尊敬する。

 

「それは……リオ、配信はしてないわよね?」

 

 ここに居る理由を尋ねられたナナミちゃんは神妙な顔になると、リオちゃんの傍に浮いているスマホへと視線を向ける。

 

「してない、してない。今日は学園長代理の護衛兼ねてるから、居場所教えるようなことしないって。撮影だけして後でちゃんと編集して動画にするつもり」

「それも止めなさいよ」

「はいはい、わかりましたっと。まったく、こりっちゃんといい、ナナミといい、皆ウチをなんだと思ってんの」

 

 苦笑いしながら浮いてるスマホを引き寄せ、撮影を中断するリオちゃん。

 やっぱり、リオちゃんがいつも配信してるのはセブンカラーズでも共通認識だったんだね。

 

 ナナミちゃんはそれを確認すると、ちらりとセレナちゃんの顔を一瞥する。なんだろう?

 

「クロノス社の社長がこの近辺に逃げ込んだって情報を掴んだのよ。私は任務でそれを追いかけて来たの。あの社長ったら変な根性出しちゃって、ホントいい迷惑だわ」

 

 思わず顔を見合わせるセレナちゃんと私。

 クロノス社ってセレナちゃんを狙ってるかもしれない会社だよね。

 まさかダンジョンでその社長と鉢合わせるかもしれないなんて想像もしていなかった。

 

「社長がダンジョンに? どうしてそんなことになってんの。あの社長元冒険者でもなんでもないじゃん」

「クロノス社ってなにかと黒い噂が絶えないでしょ、私達も以前から調べてたのよ。それで、ようやく尻尾を掴んでいざ立ち入り調査って矢先……」

「逃げたんですね」

 

 セレナちゃんの言葉に頷くナナミちゃん。

 

「語るに落ちるとはこのことなのです。悪事を働いているのはほぼ確定なのです! 天誅をくだすのです!」

「同感だわ。で、本社に残された情報を基にここまで追いかけて来たって訳よ」

 

 親切に全部教えてくれるナナミちゃん。

 ありがたいけど、こういう任務って極秘じゃないの? こんなにペラペラ喋って大丈夫なんだろうか。

 

「そ、そうなんだ。でも、そんなこと部外者の私達に教えてくれても大丈夫なの?」

「ダメに決まってるわ。……ただ、この中にクロノス社に狙われている人間が居たのなら、警告の為に教えといた方がいいでしょ」

「……つまり、私ですね」

 

 そっと胸に手を当てて言うセレナちゃんに、ナナミちゃんが苦々しい顔で頷く。

 なるほど、そう言うことだったんだ。カレンが忠告した通り、クロノス社がセレナちゃんを狙っているのが確実になってしまった。

 

「アンタ、随分と珍しい症例らしいわね。黒晶石研究のいいサンプルになるってクロノス社の極秘資料に書いてあったわよ」

「そのようです。上手く治療して貰えるのなら逆にお願いしたいぐらいですけれど、社長がダンジョンに逃げ込むぐらいですから、あまりいい扱いを想定されていませんでしたよね」

「そこはノーコメント。世の中知らない方が幸せなことがあるのよ。リオ、守ってやんなさいよ。そのためにペラペラと喋ってあげたんだから。当然、この会話も絶対に秘密よ」

「わかってるって。ウチも元々その予定だしさ」

「新米ちゃん達もちゃんとリオの言うこと聞くのよ。あんなんだけど探索ではちゃんと頼りになるから」

 

 ナナミちゃんは早速スマホ撮影を再開したリオちゃんを見て呆れ顔をしつつ、私の目の前にビニール袋に入った白いモサモサの毛を突き出す。

 あれ、なんだか凄く既視感がある。

 

「あの、これなに?」

 

 にゃん吉さんをグルーミングした後のブラシにくっついてそうな毛玉を見せつけられ、私は困惑しながら尋ねる。

 

「針ウサギの毛、さっき拾ったモンスター素材よ。アンタの赤頭巾、防具じゃなくてコニクロの奴よね、タグが見えたわ」

「う、うん。オールシーズン対応で1980円(イチキュッパ)の奴……」

 

 あ、今リオちゃんと一緒にセレナちゃんも渋い表情してた。

 1980円は流石に安いの買いすぎたかな、強気で2980円の奴にすべきだったかも……。

 

「はぁ……これでまともな防具作んなさい。と言うか、せめて頭巾被りなさいよ」

 

 ナナミちゃんは困ったようにため息をつくと、私の背中のフードにビニール袋を無理やり突っ込んだ。

 

「い、いいよ! 手荷物増えると冒険の邪魔になっちゃうし! 悪いし!」

 

 ウサ毛思ったより重量感ある、中身みっちりだ! 私はフードに詰め込まれたビニール袋を取り出そうと、ジタバタと必死に手を動かす。

 

「ナナミ、気持ちはありがたいんだけど今は遠慮しとく。ウチ等今回が初のお泊り探索で、こりっちゃんにとっては適正レベルやや上の階層だから。手荷物抱えたままだと逆にリスクになるっしょ」

 

 ちょっとありがた迷惑に感じているのを察してくれたのか、リオちゃんが助け舟を出してくれる。

 

「……それは、そうね。それじゃ学園のロビーに預けておくから、後で受け取っておいて。流石に全身コニクロはダンジョンを舐めてると言わざるを得ないわ。全裸で踊り歩いてるようなものよ」

「ぜ、全身じゃないよぉ!?」

 

 制服と靴は学校指定の奴だし! ニーハイソックスはコニクロだけど、下着はコニクロじゃないし!

 いわれなき誹謗中傷に異議を申し立てる私をスルーし、ナナミちゃんはビニール袋のウサ毛を引き取って私達が来た道を歩いて行ってしまう。 

 

「あれ、社長を追いかけるんじゃないん?」

「それはダン特の増援待ち、その間に境界融解現象で新しく地上に繋がったルートのチェックに行ってくるわ。紅葉林を単騎で長時間探索するのは流石に無理だもの」

 

 リオちゃんに呼び止められたナナミちゃんが、顔だけこちらに向けて言う。

 

「あー、あそこ近場に拠点ないし、うろつくんなら二十層相当ぐらいで見ときたいね。そこに人の捜索まで加わるなら、安全加味してパーティが妥当か」

「アンタがセブカラ首になってなければ別のプランがあるんだけど。ホント肝心な時に使えないのよね、バカリオは」

「はいはい、悪うございました」

 

 立ち去っていくナナミちゃんに悪態をつきながら手を振るリオちゃん。

 紅葉林ってさっきリオちゃんが言ってた十六層のことだよね? そんな所と歩けるなんて意外と社長さんって強いんだ。ダンジョン関連企業には逞しさも求められるんだねぇ。

 

「うーん、これは困ったことになりましたね。まさか、ダンジョンに逃げ込んでくるなんて思いもしませんでした」

 

 ナナミちゃんが立ち去った後、セレナちゃんは少し俯いて困った顔をする。

 

「本当だよね。まさかこんなことになるなんて」

「はい。こりすちゃん達とダンジョン探索をする邪魔にならないよう、暫く手一杯になってくれればと思ったのに、裏目にでるなんて大失敗です。どうやら、私の想定以上に厄介な切り札があるみたいですね」

「え、え……も、もしかしてセレナちゃん、裏で調査するように手をまわしてたの!?」

「そうですよ。自分が狙われているとわかっているのに、素直に相手の行動を待つ必要はありませんよね?」

 

 にっこり微笑むセレナちゃん。

 目的のためなら手段を選ばない、その容赦なさが怖い!

 

「ひ、ひえぇ……」

「とりま、キャンプへ急ごうか皆の衆。きな臭い雰囲気の時はさっさと人が居る所に行く。これもダンジョン探索の鉄則だよ」

 

 怯える私の背中を叩き、行動を促すリオちゃん。

 前を見れば、既にミコトちゃんはふらふらとあちこち見物しながら先へと歩き出していた。

 

「こりすー、こっちに変わったものがあるのですー」

「ミコトちゃん、先行し過ぎだよ! 危ないから!」

 

 私はそれを慌てて追いかけ、その手を引っ張って無理やり連れ戻すのだった。

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