魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第5話 怪人、逃亡する5

「セレナちゃん、あの人が噂の社長さん?」

「はい、クロノス社のゴードン社長で間違いありません」

 

 私がセレナちゃんに小声でひそひそと尋ね、セレナちゃんが首肯する。

 

「そうなんだ。噂通り悪いことしてそうな人だね」

 

 私は素直な感想を述べる。偏見があるような気もするけれど、実際現在進行形で悪いことしているので、色眼鏡で見てしまうのは許して欲しい。

 

『タイム・イズ・マネー、私は貴重な時間を浪費するのが嫌いでね、単刀直入に言おう。白鴎院セレナ君、ユーを我が社の実験体として迎え入れたい、いかがかね?」

 

 ゴードン社長が画面の向こうでふんぞり返りながら言う。

 私達の時間をプロモーションムービーで浪費させておいてよく言えたものだ。ちょっとイラってきた。

 

「セレナちゃん、勿論返事はノーだよね」

 

 そんな提案答えを聞く間でもない。私が臨戦態勢を取りながら言い、

 

「当然です。嬉々として実験体になる人、いますか?」

 

 セレナちゃんが杖を構えて同意する。

 

『フーッ、所詮は資本主義経済を知らぬ女子高生だな、ユー達はバッドな選択をした。ミレイ、力ずくで実験体を回収しなさい。他のメンバーの生死は問わない、ダンジョンは危険な場所だからね』

 

 画面の向こうのゴードンが、額に指を当ててわざとらしく首を横に振る。

 同時、ミレイが杖を構えて魔法を使おうとする。が、

 

「リオちゃん、手を貸して! ミコトちゃんはセレナちゃんと一緒に後衛に!」

 

 それを予期していた私が機先を制して飛び掛かる。

 ミレイは魔法を中断して杖で私の鉈を受け止め、杖で私へと殴りかかる。

 

 それも読んでいた私は、転がるように杖の脇をすり抜ける。

 攻防の手応えからすると、ミレイは後衛職にもかかわらず私よりも力が強い。かなりの高レベル、あるいは頭のネコミミが示す通り怪人の類だろう。

 

「こりっちゃん、無茶し過ぎだって! どう見たってアイツ強いよ!」

 

 ミレイと私の間にリオちゃんが割って入り、杖と槍を打ち合う。

 両者の力はほぼ互角。近接職と魔法職の打ち合いが互角ということは、相手の得意分野である魔法を使われたら一巻の終わりということだ。

 

「ありがとう、リオちゃん! そのまま魔法を使わせないように抑えて! 私は首についてる黒晶石を狙うから!」

 

 リオちゃんが作った隙を見逃さず、虚を衝いた私はミレイの脇腹を蹴り飛ばして叫ぶ。

 

「こりっちゃん、どういうことなん!?」

「エリュシオンが連れ帰った時のミコトちゃんと同じだから! あの人、多分黒晶石で洗脳されてる!」

 

 ミレイの正体がなんであれ、この人がグランクロノスに洗脳された被害者なら、私は絶対に助けなければならない。

 自分で蒔いた種は自分で刈り取る。それが魔法少女としての覚悟であり責任だ。

 

「ほーん、そう言う奴ね! 任せときな! 学園長代理、足止めよろしく!」

 

 跳ね転がるミレイに立て直しをさせぬよう、リオちゃんが叩きつけるように槍を振り下ろす。

 

「足止めは私がします。宵月さん、多少怪我をさせても治せますよね」

「当然なのです、ボコボコにして黒晶石を壊すのです! 怪我は私が治してみせるのです、無料で!」

 

 ミコトちゃんがむっふと意気込むと同時、セレナちゃんが魔法でミレイの足を地面ごと氷漬けにする。

 

「…………!」

 

 リオちゃんを弾き飛ばして立ち上がろうとしていたミレイが、起き上がり損ねて再びバランスを崩す。

 私はそれを見逃さない。ミレイの上を走るように駆け抜け、首輪についた黒晶石をむしり取る。

 それによってミレイは糸の切れた人形のように、足を氷漬けにされたまま仰向けになってその場に倒れ込んだ。

 

「抵抗が止んだ……こりっちゃん、これで洗脳が解除されたん?」

「うん。ミコトちゃんと同じパターンなら」

 

 警戒を解かずに尋ねるリオちゃんに、むしり取った黒晶石を石で叩き割りながら私が言う。

 

『ハハハ。グレートだ、新米冒険者クン。だが、キッズのお遊戯で大人の経済活動を邪魔して貰っては困るのだよ』

 

 それに安堵する間もなく、ゴードンの映るタブレットが嘲笑いながら湖の上へと飛翔。

 画面上のゴードンが自慢するように王冠のようなヘッドギアを被る。その額部分には妖しく輝く黒晶石、あれが魔王の黒晶石なの?

 チラリとセレナちゃんの様子を確認すれば、その目は紫に輝いていた。つまり今のセレナちゃんはラブリナさん。反応を見るに、やっぱりがあれが魔王の黒晶石で間違いみたい。

 

『ユー達の奮戦に敬意を表し、我が社の新製品をお見せしよう!』

 

 ヘッドギアを被ったゴードンが手を動かすと同時、ザパンと水の跳ね上がる音と共にタブレット下の水面が盛り上がる。

 

「こりすー! 湖から何か出てくるのです!!」

 

 必死に湖畔を指差し、ミコトちゃんが警戒を促す。

 湖畔から出てきたのは三メートルはある甲冑のような銀の全身鎧、その体はモンスターと同じ黒いオーラを纏っていた。

 

「ヤバいよ、あれグランクロノス総統じゃん! しかもモンスター化してる!」

「……違う、あれは機械の鎧だよ。しかも、あの動きの感じだと中身はないと思う」

 

 リオちゃんが言う通り、あの巨大な銀の甲冑こそグランクロノス絶対総帥クロノシア。

 ただし、それは世間一般がイメージするクロノシアの姿であって、実際にそれを倒した私はそれが単なるパワードアーマーであると知っている。

 

「遠隔操作の無人機って……そりゃ無理があるっしょ。重火器すらダンジョンの敵には通用しないのに、無人の遠隔操作でダンジョン探索できるロボットなんて聞いたこともないし。そんなのあれば深層探索やらがもっと楽になってるって!」

『くくく、そう思うのも無理はない。だが可能なのだよ。私が手にした魔王の黒晶石、その力があればね! これこそがグランクロノスの技術を解析し、クロノス社が作り上げしマシンアーマー、黒晶石の巨人だァ!』

 

 タブレットの声と機械甲冑からの声が重なり、機械甲冑の目が紅く光る。

 

「来るよ!」

 

 私が叫ぶと同時、機械甲冑が宙を滑り飛ぶ。

 皆が慌てて散開し、機械甲冑が通った地面に抉られた軌跡が出来上がる。

 でも、反応や小回りはクロノシアが乗っていた時より格段に動きが悪い。戦闘の素人である社長が遠隔操作しているからだろう、これなら付け入る隙があるかもしれない。

 

「ミコっちゃんと、こりっちゃんは逃げに徹して! 二人のレベルじゃ掠っただけで消し飛ぶよ!」

 

 ばたばたと逃げ惑うミコトちゃんを守るように立ち、スマホを浮かべて配信を始めたリオちゃんが叫ぶ。

 

「り、リオちゃん! こんな時に配信は止めようよ!」

「こんな時だから配信してんの! 多分、あれが紅葉林の場違いモンスターの正体だから! 万が一私達に何かあっても情報が行くじゃん!? 後続冒険者や討伐隊、次に相手するかもしれない人達に情報を届けないと!」

 

 思わず制止をかける私にリオちゃんが言い返す。なんて正論!

 そして、リオちゃんは機械甲冑の注意を引こうと槍を突き刺そうとする。でも、機械甲冑のボディには傷一つつかないどころか、小動一つしなかった。

 

「うわ、なんだこれ! 硬すぎる!? こんなん変身しなきゃ手も足も出ないって!」

「なら……セレナちゃん! 魔法攻撃お願い!」

 

 私は地面に倒れているミレイを担ぎ起こしつつ、この中で最大火力の持ち主であろうセレナちゃんに魔法攻撃をお願いする。

 セレナちゃんのレベルはなんと17、変身していないリオちゃんのレベル16よりも高い。

 テラーニアを足止めする時、ラブリナさんと一緒に過酷なパワーレベリングをした結果だ。魔法少女は変身時のレベルが別枠なのに、セレナちゃんはラブリナさん分込みなのはちょっとズルい。

 

「はい!」

 

 セレナちゃんが目が眩むような雷撃の魔法を放ち、更に二重詠唱で氷の魔法を放って機械甲冑の足止めを試みる。

 機械甲冑の隣に浮いていたタブレットは真っ黒こげになって地面に落ちたけれど、機械甲冑はなおも無傷。足止めすらできない。

 パーティ内最大火力がノーダメージ。それは即ち、今の私達には一切の有効打がないことを意味していた。

 

『フハハハ! 残念だったな、女子高生共! これが大人の力なのだよ! 丁度いいコマーシャルだ。その緊急配信で大いに映してくれたまえ!』

 

 ゴードンの声で機械甲冑が嘲笑い、その動きを止める。

 リオちゃんが緊急配信しているのに気付いたゴードンは、私達が必死になって無駄な抵抗をする姿を世界に見せつけたいらしい。

 

 "うおっ、なんだこれ!? 要救援アラートかと思ったらロボバトルが始まってる!"

 "あれ、サンドバッグ総統じゃん! ついにモンスター化したのか!"

 

 攻防の隙にちらりとリオちゃんのスマホを見てみれば、要救援を察知した視聴者さん達が集まり始めていた。

 

「どうしよう……」

 

 必須目標であるミレイの救出は成功している。客観的に見れば、後は一か八かで逃げる以外にない。そうなると、あのロボはこのまま野放しになる。

 でも、私にはもう一つの選択肢、エリュシオンに変身すると言う選択肢が残っている。ただし、配信が注目を集め始めている今、それは今後の人生とトレードオフになるだろう。

 

「こりすちゃん、捨て身はダメですよ」

 

 私が心のスイッチをエリュシオンに切り替えようとしていたのに気付いたのか、セレナちゃんが私の傍に寄って小声で釘をさす。

 そうだ。私が配信中に変身して正体がバレれば、セレナちゃんは一生私に負い目を感じてしまう。そんな十字架は背負わせたくない、そもそも私だって実質人生終了の身バレは絶対嫌だし。

 

「うん、ごめん」

「……ただ、一つこの場で確かめておきたいがあります。こりす、窘めておいて難儀なお願いをしてしまいますが、あの機械甲冑にダメージを与えることはできませんか?」

 

 変身を思いとどまった私に、セレナちゃんがそう言葉を継ぎ足す。その目は紫に妖しく輝いていた。

 つまりセレナちゃんの同居人、ラブリナさんからの提案だ。多分、魔王の黒晶石について確かめておきたいことがあるのだ。

 

「わかった、できる限りやってみる。……リオちゃん、ダメ元でいいから攻撃を繰り返して! ミコトちゃん、ミレイをお願い! 最悪の場合、連れて逃げるから!」

 

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