魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
「わかったのです!」
ミコトちゃんにミレイを預け、リオちゃんが攻撃に転じるのを確認した後、私は機械甲冑の背面に回り込む。
正直な所、このままやられっぱなしも気分が悪い。これだけ好き放題やってくれてるのだ、社長には痛い目に遭ってしっかり歯ぎしりしながら帰って貰いたい。
『フハハハ! 無駄なことをする!』
リオちゃんの攻撃を受け止めながら、機械甲冑が嘲笑う。
"げぇ、サンドバッグ総統硬いじゃん"
"前回はエリュシオンちゃんが相手だったからな。一般冒険者相手じゃ無双しても不思議はない"
社長は配信をしているリオちゃんの相手に夢中で、私に対する警戒はない。
さっき感じた通り、社長の戦闘面は素人だ。その上調子に乗って私達を舐めている。付け入る隙は十分にある。
私は機械甲冑の陰に隠れ、配信に映らないように細心の注意を払うと、鉈を機械甲冑の腰回りに打ち込む。
にゃん吉さん曰く、変身時の魔力制御を覚えきっている私は、無意識のうちに武器へ魔力を通しているらしい。つまり、私が持てばホームセンターの鉈でも高性能魔法武器に早変わり、あの装甲にもダメージを通せる可能性はある。
予想通り、鉈の先端がガキっと欠け、機械甲冑のジョイントパーツがほんの僅かに傷ついた。
「やっぱり……!」
確かな手応えを感じた私は、寸分違わぬ場所に鉈の欠けていない部分を再度打ち込む。
やはり鉈の刃が欠け、ジョイントの傷が重ねた分だけ深くなった。間違いない。その辺りに一点突破で攻撃を重ねればダメージを与えることができる。
元々心当たりはあった。エリュシオンとしてクロノシア入りの機械甲冑を引きちぎった時、この部分から引きちぎれたのだ。
カン、カン、カン、カンと鉈の刃を使い潰しながら、機械甲冑に寸分違わぬ攻撃を重ねていく。そして、
「リオちゃん、上半身の右側に攻撃して! 突きで!」
「わかった!」
機械甲冑の背後から私が声を掛け、リオちゃんが突きを繰り出す。突きが命中する少し前に仕上げの一撃を打ち込み、ジョイントパーツを破壊する。
『視聴者諸君、見てみたまえ、この無駄な抵抗を。国家公認の有名魔法少女ですらこの有様、我が社のマシンアーマーは安心安全最強……あ?』
さっきまで小動もしなかった機械甲冑が安定性を欠いてぐらりと揺らぎ、それによって内部構造が露出したのを見逃さず、私は刃こぼれした鉈を力の限り奥深くへと突っ込んだ。
『ノオオオオーッ!』
バチバチと炸裂音と立て、上半身をくの字に折れ曲がらせる機械甲冑。
"あ、急に壊れた"
"黒髪の赤頭巾ちゃんが後ろで何かやったのか?"
「こりっちゃん、どうなってんの!?」
「実際はダメージ、蓄積してたみたいだから!」
ミコトちゃんとセレナちゃんの所まで撤退しつつ、目を丸くするリオちゃんに私が手早く説明して誤魔化す。
「そう言うことなん!?」
「それよりもリオちゃん、急いで。後ろ、凄い気配してるから!」
リオちゃんを急かしながら、私は後ろの様子を窺う。
湖畔の前、黒晶石が機械甲冑を禍々しく侵食しはじめていた。
『よくモ、やって、くレたナ、遊びハ終わりダ……!』
機械音声が乱れる中、機械甲冑の纏う黒いオーラが一層妖しく輝き、壊れた機械甲冑の腰部分を、黒晶石が侵食してかさぶたのように覆っていく。
"うおぉ、終わったと思ったら第二形態があるのかよ!?"
"ちょっとリオちゃん、最近トラブルの引き良過ぎじゃない!?"
"待って、せっかく配信聞きつけてきたのに茶化せる雰囲気じゃないじゃん……"
"要救援アラートの緊急配信だぞ、茶化すな"
その異様な姿に、リオちゃんの緊急配信を見ている視聴者さん達も困惑している。
危険性が伝わっているのはいいことなんだろうけれど、続々と視聴者数が増えているのがマズイ。私の変身リスクも青天井になっていく。
「これで確信が持てました。先程ゴードン氏が身に着けていた黒晶石、浄化されていない私です」
嫌だなぁって思っている私の横に立って、ラブリナさんがそっと囁く。
ラブリナさんの欠片! よりにもよって、そのパターンだったなんて。今この瞬間、絶対に解決しないといけない理由が増えてしまった。
「そして、この窮地を謝らなければなりません。私は一つ読み違えました。……もう一人居ます」
湖畔の南側に視線だけを向け、重々しく呟くラブリナさん。
もう一人!? それってラブリナさんの欠片以外に、黒晶石の魔王がもう一人居るって意味だよね?
確かに、今セレナちゃんの中に居るラブリナさんは、元々竜のモンスターになっていたテラーニアが持っていたものだ。
そう考えると、ラブリナさんの欠片には他に持ち主が居るんだろうか。わからない。
「こりっちゃん! 逃げるよ! こんなんどう考えても勝てる相手じゃないから!」
「リオ、そちらはいけません。南側にも濃い黒晶石の侵食……魔物の気配を感じます」
ラブリナさんの制止を受け、逃げようとしていたリオちゃんがたたらを踏む。
「学園長代理。そんなこと言っても、そっちがダメなら逃げ場がなくなんだけど!?」
私達が次の行動を決めかねている間に、機械甲冑は黒晶石で傷口を塞ぎきり、再び私達へ襲い掛かろうとしていた。
黒晶石の魔王クラスが二人、これは流石に限界かな。リオちゃんのスマホを奪い取って変身すれば正体露呈は最低限で済むだろうか。
覚悟を決めた私が心のスイッチをエリュシオンに切り替えようとしたその時、
機械甲冑の頭部に何かの缶が命中し、ボディが黄色い塗料で塗り潰された。
『グアアアァ! アイカメラがやらレた!? こノ塗料、取れンゾ!?』
両手で顔を押さえて塗料を落とそうとする機械甲冑。
「こっちだ! すぐに熱源感知のサブカメラに切り替わる、急ぐのだ!」
その声の主は金髪の小さな女の子。彼女は十六層の次元の裂け目の前に立っていて、ぐるぐると手を大きく回して私達に来るよう促している。
その姿を見た私は急遽変身を中止した。
「なんか怪しい乱入者来たけどどうする!?」
突然登場したちびっこと機械甲冑を見比べながら、リオちゃんが言う。
判断しかねると言った口調だが、ミレイを担いだリオちゃんの体は既に紅葉林の方へと向いている。信じる以外に選択肢がないとわかっているのだ。
「待つのです、リオ。敵の罠である可能性もあるのです! 十六層である紅葉林からお子様が出てくるのはいかにも怪しいのです!」
そんなリオちゃんを、ミコトちゃんが窘める。ミコトちゃん、意外と冷静。
「でも、他に選択肢はないから!」
私はセレナちゃんとミコトちゃんの手を引いて行動を促す。
この場での最重要目標であるミレイの救出は成功している。機械甲冑の破壊は必須ではないし、一泡は吹かせた。
変身せずに済む選択があるのならそれを選びたい。またセレナちゃんが私に負い目を感じちゃったら困るし、私の人生だって犠牲になるのだ。
……それに、恐らく私はあのちびっこの正体を知っている。
あの子が私の思う通りの相手だとすれば、今回の件について何らかの事情を知っているはずだ。
「うむ、いい判断だ。命を拾ったな」
腕組みをして事の成り行きを見守っていたちびっこは、自らの方へ逃げて来た私達を見て頷くと、
「そこのピンク髪! 境界付近に炎の壁を作れ、アイカメラを潰したマシンアーマーは、熱で敵を感知するのだ! 相手は素人の遠隔操作、それで十分時間を稼げる!」
紅葉林の奥へと走りながらそう指示を出す。
「こりすちゃん」
「やってあげて!」
私は掴んでいたセレナちゃんの手を離し、セレナちゃんが振り返って炎の壁を作り上げる。
次元の裂け目の前で分厚い炎の壁が燃え盛り、追いかけようとしていたマシンアーマーが迷走していく。
「うむ! 今のうちに索敵圏外に逃げるぞ!」
そう言って走り出すちびっこを私達は必死に追いかける。
その横ではリオちゃんが配信を終了させていた。自分達の逃げる場所を察知されないようになんだろう、リオちゃんしっかりしてる。
「そりゃいいけどさ、金髪ちゃん、一体何者!」
「余か?」
丁度、目の前に現れたパンダモンスターと対峙していたちびっこが足を止めて振り返る。
当然、背後からモンスターの攻撃が迫り、確定した惨劇に私以外の皆が目を覆う。
だが、ちびっこは振り下ろされたモンスターの爪をその細い腕で軽々受け止めた。ああ、やっぱり本人なんだ。
「無傷? マジか……」
驚くリオちゃん。
「余の名はクロノシア。星海より飛来せし星界結社、グランクロノス絶対総統であった者だ」
それを見てクロノシアが不敵な笑みを浮かべ、パンダのお腹に拳を突き入れる。
でも、パンダは小動もしなかった。
「うぬ?」
不敵な笑みを止め、きょとんとした顔でクロノシアがパンチを連打。パンダはやっぱり小動もしなかった。
ああ、あのアンバランスな戦闘力はクロノシア本人だ。私は確信した。
「いい加減倒れろ、パンダ! 余の決め台詞が台無しではないか!」
全くダメージを与えられないことに苛立つクロノシア。
反撃でパンダクローがクロノシアの頭部に幾度も襲い掛かるが、そっちも全く効いていない。早くも千日手だ。
「こりっちゃん、猫耳メイド頼んだ」
見るに見かねたリオちゃんが、ミレイを私に任せて飛び出して、パンダの胴に槍を突き刺す。
「では、私が止めを刺しますね」
それでパンダがたじろいだのを見逃さず、セレナちゃんが風の刃でパンダの首を吹き飛ばした。
黒い霧となってパンダが消え去り、その目の前ではクロノシアがぽかんとした表情をしている。
「はい、終わりましたよ、クロノシアさん」
「ほい、クロちゃん、名乗りの続きしていいよ」
そんなクロノシアに続きを促す二人。
酷い、鬼畜! 私なら恥ずかしくて、もう自己紹介なんてできない!
「……よ、余の名は、くっ、クロノシア! 星海より飛来せし星界結社、グランクロノス絶対総統であった者だっ!」
退くに退けなくなったクロノシアは、顔を真っ赤にしてぷるぷると小刻みに震えながらそう叫んだ。