魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
「おのれぇ、アルバイトすらしたことがなさそうな女子高生共め! 連中のせいでマシンアーマーが衆目の前で醜態を晒してしまった!」
分厚いコンクリートで覆われた窓一つない部屋、黄色一色に塗りつぶされたディスプレイを睨みつけながらゴードンが憤慨する。
ここはダンジョン内に作られたクロノス社の秘密研究所。ダンジョンへと逃げ出したゴードンの潜伏先だ。
「クロノス社の技術は私の生命線ッ! これが軽んじられたら、他国や地下組織による保護は望めなくなる! 由々しき事態、由々しき事態だぞこれはッ!」
ゴードンはラブリナの欠片がはめ込まれたヘッドギアを取り外し、怒りをぶつけるように荒々しくテーブルに投げつける。
「無能な開発共めッ! 魔王の黒晶石を使ったフラグシップモデルに手抜きなどあり得ないと言うのに!」
それでも怒りの収まらないゴードンは、机からチョコレートバーを取り出すと、ガツガツと貪りながら部屋を出る。
部屋を出た先では、リスのような栗色の髪をした白衣の少女と、ゴーグルをつけた犬耳の少女が机で向かい合い、死んだ魚のような目をしてパソコンを操作していた。
「開発ッ、クレーム案件だ! 何もしていないのに壊れた!」
「ぴええっ!?」
生気のない目で仕事をしていた少女二人だったが、不機嫌そうな顔でやって来たゴードンに気付いて、声にならない悲鳴をあげた。
「マシンアーマーの耐久性に問題があるッ! お前達のグランクロノスの技術力はキッズ共の図画工作と同じなのか!? おかげで緊急配信で我が社が醜態を晒してしまったじゃないかッ!」
ゴードンが見せつけるように格納庫のシャッターを開ける。
そこにはボロボロになった甲冑機械が帰還していた。黒晶石によって修繕されていたボディからは既に黒晶石が消え、こりすによって破壊された傷跡がそのまま露出していた。
「そ、そのぉ……。こ、これは壊れたのではなく、壊されたが正しいのではないかと……」
「この状態で自動帰還モードが有効だったのはむしろ奇跡です」
その惨状をまじまじと観察した少女二人は、ゴードンを刺激しないように恐る恐るそう言った。
「ワット? 三十秒くれてやる、端的かつ明瞭に説明しろ」
「は、はひ! マシンアーマーのジョイント部は壊れたのではなく、鋭利な刃物によって切断されています」
「そんな強度の物をジョイントに使うなよ、大人だろ!」
「こ、このジョイントパーツはマシンアーマーの要、アダマンタイトを地球上に存在しない外宇宙金属で合金にしたものを使っています。本来、そう簡単には壊せません!」
「そうです! このジョイント相手にこんな鋭利な断面を作るなら、エピックグレード以上の装備に加え、【剛剣】や【破壊王】などの有効スキルを所持したレベル40以上……あるいはレベル35を超えた【剣聖】クラス相当の戦闘力が必要になります! つまり相手が悪かったです!」
「だが、そんなものは居なかった! なんだ、ダンジョンに生息するUMAとでもエンカウントしたと言いたいのかッ!?」
目をぐるぐる回して涙目になった少女の説明に耳を貸さず、ゴードンは納得いかないと更に憤る。
「つ、つまりジョイント部の強度は十分でした! 正直な所、相手が実力者だったと諦めるしかないかと思いますっ!」
「それで我が社の悪評が収まるのなら、いくらでもワザマエに拍手してやる! だが違うだろッ!?」
「あ、悪評の方は既に手遅れですし……」
「シャラップ!」
「ぴやっ!?」
うっかり本音を漏らしてしまった少女をゴードンが一喝し、怯える少女二人が身を寄せ合わせる。
「なんとか早急に汚名返上せねば……。リスク覚悟で迎え撃つか、迎え撃つしかないのか、ダン特と魔法少女を」
苛立つゴードンはぶつぶつとそう呟くと、
「いいか開発、緊急業務だッ! 至急不良品のジョイントを壊れぬほど強度をあげろ!」
少女二人に向かって無茶な業務命令をした。
「む、無理ですぅ! これ以上の強度を持たせるとなると、コスト、運用両面で支障をきたします! スペックを活かしきれません、操者の立ち回りを見直すことを具申しますっ!」
「却下ッ!」
声を荒げて恫喝するゴードン。
世間に知られればパワハラで大問題間違いなしの光景だが、ここは世間の目が容易に届かぬダンジョン奥深く。それを咎める者はいなかった。
「なんだ残業代か、残業代が欲しいのか!? この卑んぼめ!」
ゴードンはポケットをまさぐると、机にチョコバーを二本投げつける。
「そ、そうではなくて、マシンアーマーの性能バランスが崩れて……」
おずおずとそう言う少女に、ゴードンが小さく舌打ちする。
「オーケーわかった。ユーのようなやる気のない労働者は不要だ、さっさと出ていけ」
「申し訳ありません、やりますっ! やりますぅ!!」
ゴードンが外へと繋がる扉を指差し、涙目になった少女達が怯えながら叫ぶ。
ここはモンスター巣くうダンジョン内部、それも近くに拠点がない十六層"紅葉林"の奥深く。一度外に放り出されてしまえば、余程の腕自慢でもない限り生き延びることは難しい。
ゴードンもそれをわかっていて少女達を脅しているのだ。
「いいか、勘違いしないよう明言しておく。ユー達グランクロノス残党は、準社員でもパートでも、当然正社員でもない。社の備品だ。備品に労働基準法などないッ!」
「鬼、悪魔……」
「鬼でも悪魔でもないッ! あえて言うならば魔王! 魔王の黒晶石の力を得た私は実質黒晶石の魔王ッ! さあ、労働開始の宣言をしろ! ミソノォ!!」
ゴードンに指名され、白衣の少女が涙目で小さくお手上げのポーズをした。
「ハリーアップ!」
「わ、我々クロノス社所属の怪人はぁ! 労働基準法などと言う悪法に屈さずぅ! 無限の連勤術をもって最大の利益を社にもたらすことを宣言しますぅぅ!」
「よろしい! 続いて労働意欲注入、行くぞッ! ……返事ッ!」
「は、はい! ありがとうございますぅ……!」
「労働するぞ!」
「はひっ!? ろ、労働するぞ! 労働するぞ! 労働するぞ!」
「残業するぞ!」
「残業するぞ! 残業するぞ! 残業するぞ!」
「サビ残するぞ!」
「えっ、えっ? せめて賃金は……」
「サビ残するぞッ!」
「さ、サビ残するぞ。サビ残するぞ! サビ残するぞっ!?」
「我が社の利益だけが魂の価値イぃぃぃッ!!」
紅葉林の奥深くに狂気じみたゴードンの絶叫が響き渡る。
「クロノシア様ぁ、早く助けに来てくださいぃぃ……」
少女達は耳を押さえながら、自らの主が助けに来るのを切望するのだった。