魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
第二話 怪人、結束する
星海結社グランクロノスとは、直径数キロはあろう巨大円盤で外宇宙より飛来した怪人組織。
その科学力は人類の遥か上を行く水準であると推測され、人類にとって新たなる脅威となる……はずだった。
だが、実際はネット界隈で組織壊滅RTAレコードホルダーと揶揄され、コラ画像を作る素材にされたりとネット民のオモチャ扱いを受けている。
そんなグランクロノス登場から壊滅の一部始終は、皮肉なことに他ならぬグランクロノスの世界征服宣言放送によって記録され、今もダンつべ内にアーカイブされている。
これは、ネットをジャックして世界へと配信された、グランクロノス世界征服宣言放送の一部である。
『褒めてやろう、エリュシオンなる原住民! まさか、ワープドライブどころか星間航法すらない田舎惑星の原生生物が、クェーサー級スペースシップの斥力装甲を突破してくるとは思わなかったぞ!』
無数の計器が銀河のように光輝く大広間、三メートルを超える巨体を持つ銀の機械甲冑、グランクロノス絶対総統クロノシアが見下すような称賛を送る。
クロノシアと対峙しているのは、銀の機械甲冑よりも眩い銀色の髪を持つ魔法少女、エリュシオン。
世界征服宣言放送を聞きつけたエリュシオンは、海上に浮かぶ巨大円盤の装甲を蹴破り、事態収拾のために参上していた。
『だが、所詮それは驚いた程度の話に過ぎぬ。クェーサー級と言えどこのスペースシップは航行用。グランクロノスの誇る戦闘兵器が一度起動すれば、瞬く間にお前の希望は打ち砕かれるであろう』
クロノシアが手をかざすと、白い空間の床に魔法陣のような文様が描かれ、赤青緑三機の人型兵器が転送されてくる。
『刮目せよ、これこそがグランクロノスが誇る自律型戦闘兵装! そのフラグシップモデルだ!』
一足早い勝利の美酒に酔いしれながら、意気揚々と語るクロノシア。
『高度な戦術プログラムは当然、ワームホール内での単独戦闘など特殊環境にも対応、更に特筆すべきはこの特殊装甲。例えお前が斥力装甲を抜ける火力を有していても……』
だが、説明の途中にもかかわらず、その眼前に完膚なきまでに両断された三機の残骸が投げ捨てられた。
「ごめん。人の入っていない自律型だって聞いたから、遠慮なく壊した」
『……ば、バカな!? エネルギー反応がないどころか、センサーで動きが捉えられぬだと!?』
予想外の事態に困惑するクロノシアの前、エリュシオンが静かに歩み寄ってくる。
「つまらない余興がこれで終わりなら、もう倒すけど」
『な……!? くっ、いいだろう! ならば余が直々に相手をしてやろうではないか! この不可侵戦装に葬られる権利を持つ者が現れるとはな! 田舎惑星の民よ、畏れ、その眼を見開くがよい! これが我等グランクロノスの科学の粋!』
見せつけるように両手を掲げて叫ぶクロノシア。
その姿が突如画面外に消え、程なくして機械甲冑をスクラップ同然に完全破壊されたクロノシアが画面上から降ってくる。
『ガッ、ギッ、ゴッ……!?』
もはや床に力を伝えることすらできなくなった手足をばたつかせ、苦悶の声を漏らすクロノシア。
「よかった、ちゃんと死なないぐらいに手加減できた」
それを見下ろしながら、エリュシオンが安堵する。
『な、なんだ、なんだ、なんなのだ、お前はっ!?』
「悪を断つ銀のシリウス、魔法少女エリュシオン」
『ま、まほ……』
「大丈夫、流石に傍迷惑なネットジャック程度で命を奪うほど狭量じゃないから。……代わりに二度と悪さをしないように心は、折るね」
『ヒイイィッ!? やめろ、やめろ、やめるのだああああああっ!?』
小石でも蹴るようにエリュシオンがクロノシアを軽く蹴りあげ、クロノシアがピンボールの玉の如く部屋を所狭しと跳ねまわる。
エリュシオンはその場から全く動いていないにもかかわらず、画面外からは何度も衝突音が聞こえ、地響きのような音と共に画面が震える。それは巨大円盤が壊れる音だった。
やがてクロノシアの悲壮な悲鳴と共に画像が乱れ、画面が暗転する。
星海結社グランクロノスの世界征服宣言放送はここで終っている。
その後、グランクロノスの行方を知る者は誰もいなかった。
***
クロノス社に襲撃されてから数時間、紅葉林の中を必死に走った私達は、クロノシアが隠れ家としているらしい洞窟の空洞に居た。
その洞窟は人間がすれ違えるぐらい幅に余裕があるけど、巨体が多い紅葉林のモンスターが入って来れない絶妙な大きさ。更にその奥の空洞は体育館ほどの広さもあり、天井は開けて星と月明かりで照らされていて結構明るい。
モンスターが入ってこなくて広々とした最高の立地。拠点で襲撃され、休む間もなく紅葉林を逃げ続けた私達が切望する、安全な休憩ができる場所だった。
「ほーん、じゃクロちゃん達グランクロノスは、クロノス社に騙されて魔石採掘場で強制労働させられてたんだ」
「えぇ……それって話に無理がない?」
「無理もなにも事実なのだから仕方あるまい。無論、余だけならばダンジョンを歩くことも容易いが、余の臣下には荒事に滅法不向きな者も居るのだ」
そして、私達は休憩ついでにクロノシアから事情を訊いていた。
クロノシアが言うには、エリュシオンに負けて行く当てもなかったグランクロノス一行は、クロノス社の甘言に騙されてダンジョン内の違法魔石採掘場に送り込まれた。そして、そこで無理やり魔石や黒晶石などの研究をさせられていたのだと言う。
ちなみにクロノス社とグランクロノスは全くの無関係、完全な偶然らしい。もし関係があるんだとしたら、わざわざ怪しまれるような名前はつけないよね……。
「ウチはクロちゃんの話を疑っとらんよ。借金のカタにダンジョン内違法魔石採掘場送りとか、そう言う物騒な話は意外と聞くしさ。この前もナナミが摘発したってブチ切れてたし」
「ある程度深い階層に送り込まれたら、普通の人は逃げられませんからね。今の私達のように」
体調が優れず石に腰かけて休憩中のセレナちゃんがそう付け足す。
そう、ここは紅葉林の更にど真ん中。クロノシアが肉盾になってくれたおかげでなんとか無事にここまで来れたものの、ここから進むも戻るも厳しい状況になっている。私達だけじゃ逃げることすらままならない。
ただ、私は元より逃げるつもりなんてない。クロノス社の社長がラブリナさんの欠片を持っていると知った以上、逃がさず一気にカタをつけるつもりだ。
「じゃあ魔石採掘場の話は信じるとして、それならクロノシアはどうして今になって逃げることにしたの?」
形式上そう尋ねつつも、私にはある程度察しがついていた。
ミレイが黒晶石によって洗脳されていた以上、黒晶石の魔王と接触してしまった以外の理由は考えられない。
「ゴードンの奴が持ってきた黒晶石の魔王、あれが危険過ぎる代物だからだ。ゴードンの愚物は自らが使う側だと勘違いしているが、それは違う。ゴードンはアレの企みに使われているに過ぎぬ」
クロノシアは予想通りの理由を答えながら、ミコトちゃんに看病されているミレイに視線を向ける。
ミレイは目が覚めたものの、まだ寝起きみたいにしゃっきりとしない感じだ。ミコトちゃんの時よりも深く洗脳されていたのかもしれない。
「なるほど、クロノシアの事情は大体わかったよ」
「うむ、余がお前達を助けた理由もこれで察しがついたであろう? 余はミレイだけでなく、採掘場の研究所に残されたままの臣下達も助けねばならぬ。そのために白鴎院セレナ、いや……その中に居る黒晶石の魔王ラブリナ。お前と同盟を結びたい」
そして、クロノシアはセレナちゃんを真っすぐに見据えてそう言った。