魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
「……なんの話ですか」
でも、セレナちゃんは少し眉尻を吊り上げて堂々としらばっくれた。
当然だよね。黒晶石の魔王ですか? はいそうです。なんて気軽に言える内容じゃない。
テラーニアの一件から間もない今、下手したら人類の敵扱いされる恐れだってある。
「今更シラを切る必要はないぞ。余達は無理やり黒晶石研究をさせられていた、お前の症例データも閲覧しているのだ」
ピリリとした緊張感と共に会話が途切れ、クロノシアがこちらの出方を窺う。
「ちょい待ち、作戦タイム」
と、そこでリオちゃんが小さく手をあげ、クロノシアの許可を得る前に私達をまとめて洞窟の隅っこへと誘導していく。
「ど、どうしたのリオちゃん」
「いや、至って普通に黒晶石の魔王だのって会話してるけどさ、ウチ話についてけてないんだけど。何、黒晶石に魔王が居るん? そんなん全く聞いたことないんだけど」
眉間に皺を寄せてリオちゃんが言う。
どうやら黒晶石の魔王は一般的に認知された存在ではないらしい。確かに私もご本人であるラブリナさん以外からその話を聞いた記憶はない。
ここまで巻き込んじゃった以上、ちゃんとリオちゃんにも説明するべきなのかなって思っていると、セレナちゃんの目が紫色に輝いてラブリナさんに切り替わった。
「全てではありませんが黒晶石を制御でき、人のように意志を持つ存在。私達はそんな自らを魔王と称しています。モンスターと違って明確な意思があるので、人と接する機会は逆に少ないかもしれませんね」
言って、ラブリナさんがリオちゃんに友好的な微笑みを向ける。
「学園長代理……? じゃなくて、さっきクロちゃんが言ってた魔王ラブリナって奴?」
「そうなのです! セレナは降ろしを使えるのです! 那由他の姫巫女である私の強力なライバルなのです!」
ミコトちゃん、セレナちゃんに対して妙に敵愾心燃やしてるなって思ったら、巫女仲間としてライバル視してたんだ。
なんか凄く納得。ミコトちゃんが面倒なムーブし始めるのって、基本的に暗黒教団関連のことだもんね。
「……にわかには信じられないんだけど。証拠とか見せらんない?」
でも、リオちゃんは未だ半信半疑のままだ。口での説明だけじゃ信じられないのは当然だろう。
「ラブリナさん。黒晶石の制御を見せてあげられないかな?」
「そうですね、その方が明瞭でしょう。ただ、少しだけにしておきます。あまり派手にやるともう一人の私か同類に居場所を気取られかねません」
私が頷き、ラブリナさんがセレナちゃんの杖剣を黒晶石で侵食していく。
やがて黒晶石の塊となった杖剣から、モンスターと同じ黒いオーラが立ち昇った。
それを見たリオちゃんは驚きに目を丸くした。
「リオ、これで納得していただけましたか?」
「いや、まあ、そんなん見せられたらさ。そりゃクロノス社も付け狙うわ……」
黒晶石の塊となった杖剣を見つめながら、リオちゃんが納得したように頷く。
「それで、クロノシアとの同盟だけど……」
「私は手を差し伸べるべきだと思うのです!」
私が言い終わるよりも早く、はいっと元気に手をあげて、目を輝かせたミコトちゃんが声高らかに主張した。
「え、ええと、理由は?」
人の心を侵す暗黒教祖スマイルに飲まれぬよう気をつけながら、ミコトちゃんに理由を尋ねる。
「私もエリュシオン様に手を差し伸べられた者だからなのですっ! だから同じようにクロノシアが変わろうとしているのなら、私達も手を差し伸べるべきなのです!」
眉を吊り上げてむっふと主張するミコトちゃん。
嬉しい、涙出そう。辛い魔法少女生活頑張って来てよかったって思える。
私は本当なら敵も味方も幸せにする魔法少女になりたかったのだ。
なのに、いつの間にかエリュシオンはどうしようもない悪党共の最終処分場みたいなポジションになってしまっていた。
当然、戦う敵は更生の余地なしの怪人だったり、意思疎通すら難しい侵略生物だったり、世界規則の概念系だったりで説得の余地なし。私も単なる暴力装置に徹するしかなかった。
でも、それでも少しは理想の魔法少女に近づけていたみたい。ありがとうミコトちゃん、勝手に信者仲間扱いされたりするのも今なら許せちゃう。
「私とラブリナさんはこりすちゃんの判断に任せます。もっとも、こりすちゃんがどう決断するか、既にわかっているつもりですけれど」
「ウチもそれでいいよ。正直、まだ完全には話についていけてないけどさ、クロノス社のアレ止めるにはウチ等だけじゃ絶対に戦力足りないし」
私がクロノシアの手助けをしたいと言うことを察してくれたのか、二人は私に最終決定を任せてくれる。
そう、私はクロノシアを助けたい。悪意ある人間にダンジョン内採掘場送りにされてしまったけれど、話を聞く限りクロノシアは人間社会に馴染もうとしていたのだ。
多分、ミコトちゃんが言っていた通り、クロノシアは変わろうとしていた。それがエリュシオンに負けたことに起因するのなら、私はエリュシオンとしてクロノシア達を助ける義務がある。
私はそんな決意を胸に秘め、三人に向かって頷くと、待ちくたびれているクロノシアへと向き直る。
「お待たせ、クロノシア。その同盟、受けるよ」
手を差し出す私。
「余はラブリナと同盟を組みたいと言ったのだが、どうしてお前が代表者面しているのだ?」
でも、クロノシアはその手を取らず、不思議そうに小首を傾げた。
「えっ? ええっ……」
「人間は余達に法外なブラック労働を課す、信頼ならん」
腕を組んで、頬を膨らめ、ぷいっと顔を逸らすクロノシア。
そう来ちゃうんだ。なんて言うか、呉越同舟もできないレベルで信頼関係が一発破壊されてしまった。
私と同じように渋い顔をしているセレナちゃん達と顔を見合わせ、私達は私達で行動しようかとアイコンタクトを取る目の前。
「っああああ~~~!! ふざけんにゃ! このアホ総統ッ!!」
跳ね起きたミレイが、紫紺の髪を振り乱しながら猛ダッシュで私の前に割って入り、勢いそのままクロノシアの顔面にドロップキックを入れた。
どうやらミレイも無事元に戻ったらしい。それはよかったけど、洗脳状態とキャラのギャップがあって困惑してる。
「ぐああっ!?」
「こっちは助力を乞う側にゃろがいっ! クロノシア様が上から目線でバカなこと言ったせいで交渉決裂しそうになってるにゃ!」
困惑し続ける私の前、ミレイは顔を押さえているクロノシアの後頭部を持って、その金髪をわしゃわしゃさせる。そして、そのまま顔面を地面に押し付けた。
待って、凄く痛そう! 今ゴシャッて凄い嫌な音がした!
「ひっ、ひえぇぇ……」
「ミレイ、無礼ぞ! 我絶対総統ぞ、絶対総統ぞ!」
「マジすんませんですにゃ! この総統、見た目通り知能指数はお子様なんですにゃ! 黒髪の代表さん、私の顔に免じて改めて同盟を受けていただけませんかにゃ!」
ミレイは自らも地面に膝をついて頭を下げつつ、クロノシアのおでこをゴシャッゴシャッと地面に打ち付けていく。
一応、平謝りさせているんだろうけど! クロノシアは別に全然ダメージとかないんだろうけど! もう見た目に痛い! 果てしなきバイオレンス! 痛い、凄く痛い!
「う、受けるからやめたげてよぉ!?」
見ているこっちの方が辛くなって、ちょっぴり涙目になりながら私は必死に制止をかける。
「はぁ~っ、ホントすんませんにゃ」
ミレイがため息をつきながら顔をあげ、ついでにクロノシアの顔を引っ張り上げる。
予想通り、クロノシアは拗ねた顔こそしていたが、ダメージとかは一切なさそうだった。ミレイもクロノシアの耐久力を重々承知で雑な扱いをしているんだろう。
「んでさ、どうやって救出するつもりなん? 魔王とか言うのは、さっきのロボより強いんだよね?」
そんな二人のやり取りが丁度いい緊張緩和になったのか、さっきより少し余裕のあるリオちゃんが二人に尋ねる。
「それは当然、魔王には魔王をぶつけるのだ。そこの魔王ラブリナがもう一人の魔王を相手取り、その隙に余達が臣下達を助けて脱出。ついでにゴードン社長を捕まえて黒晶石研究のデータベースを破壊する。そうすれば白鴎院セレナが今後狙われる可能性は下がる。互いに利のあるウィンウィンな計画であろう?」
ふふんと鼻を鳴らしてクロノシアが腕を組む。
「その計画の実行は難しいかと思います。向こうにも同じく私の欠片が居て、それに加えて別の魔王が居ますから。首尾よくもう一人の私を足止めできたとして、もう一人の魔王は完全にフリーとなるでしょう」
でも、ラブリナさんは申し訳なさそうな顔でそう告げた。