魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第6話 怪人、結束する7

 あの雰囲気は多分危惧していた通りの展開だ。画面の向こうからピリピリした空気が伝わって来る。

 

「ウチ等はなんとか全員無事。……ナナミ達は厄介ごとの最中って感じだね」

『ええ、噂の場違いモンスターに襲われてね。一匹一匹は倒せない相手じゃないけど、とにかく数が多くてしつこいのよね、あのウサギ人形。昨晩からずっと付け狙われてるわ』

 

 言いながら、ナナミちゃんがチラチラとどこかを気にするように視線を動かす。

 たまに画面に映りこむダン特の人達も、皆疲れきった顔をしている。

 紅葉林には拠点もキャンプもないから、安心して休める場所がないんだろう。何とかここに避難してこれないかな。

 

『アンタからの連絡に出なかったのも、追撃されないよう常に移動してたからよ。しかも、さっき派手にやったせいで、ある程度居場所を捕捉されてるみたい』

「はー、厄介なことになってんじゃん。現在地は?」

『中央14番ライブカメラ付近、紅葉林のど真ん中よ。湖畔に戻るのも、攻略最前線入り口まで突っ切るのもキツイ状況ね』

 

 ナナミちゃんが深々とため息をつく。

 

「おおおー、それは丁度良かったのです!」

 

 画面の向こうの重い空気とは対照的に、拠点の近くだと目をキラキラさせて喜ぶミコトちゃん。

 その明るい言葉を聞いたナナミちゃんは、画面に映るミコトちゃんを苛立った眼差しで睨みつけた。

 ナナミちゃんからしたら、さぞふざけた挑発に聞こえたことだろう。こんな近場に拠点ができているなんて想像していないだろうから仕方ない。

 

『ねえ、リオ。私達、今本当に余裕がないの。切羽詰まってるの。切っていい? 切るわよ』

「ちょい待ち! その近辺に丁度ウチ等も居るんだって! 近くに拠点できてるから退いてきな!」

 

 ナナミちゃんがスマホに手を当てた所で、リオちゃんが慌てて制止をかけ、自らのスマホをずらして建物内部になっている周囲の様子を見せた。

 

『はぁ!? 紅葉林に拠点!? 何がどうなってるのよ!?』

「むふー。それは開門の巫女が居たからなのです!」

 

 ミコトちゃんが自慢げに自分の胸をポンポン叩く。

 

「見つけにくい場所だから座標送る。岩陰の間に洞窟の入り口があって、そこから入れるようになってるから」

『流石のアンタもこういう時に冗談言わないものね、信じるわ。丁度、ウサギ人形達が追いついて来た所みたいだし。リオ、撤退しながら配信しとくから戦闘見ときなさい。初見だと動きが速くて厄介な相手よ』

 

 画面の端に出刃包丁を持ったウサギの人形が映りこみ、スマホを浮かべたナナミちゃんとダン特の人達が臨戦態勢を取る。

 そして、いざ激突と言う正にその時、画面の向こうで轟音が響き渡り、モンスター化した機械甲冑の姿が一瞬だけ映る。直後、ナナミちゃんとの通信が途絶えた。

 

「ナナミっ!?」

「っ……!」

 

 私は迷いなくソファから立ち上がり、ナナミちゃんを助けに向かおうとする。

 けれど、リオちゃんが私の肩を掴んで無理やりソファに座らせてしまった。

 

「こりっちゃんが行ってどうすんの。ここはウチが行くから」

「だって、リオちゃんレベル16でしょ。社長ロボだけじゃなく、ウサギ人形なんて場違いモンスターまで居るのにソロじゃ危険だよ!」

「こりっちゃんなんてレベル3じゃん。ウチなら大丈夫だって、誘導しながら逃げに徹すればワンチャンあるからさ」

「ワンチャンって……つまり順当に行ったら失敗だよね!?」

 

 私の代わりに走り出そうとするリオちゃんを、今度は私が上着を掴んで引き留める。

 言い換えれば、成功する確率はワンチャンス程度しかない。つまり分の悪い賭けってことだ、私にそんな誤魔化しは通じない。

 

「ならば余が同行しよう。ウサギ人形共はラフィールの先駆けだ。急ぎ撤退させねば数に押しつぶされるぞ」

 

 クロノシアはケーキを口一杯に頬張ると、紅茶を流し込んで立ち上がる。

 

「クロノシア! 手伝ってくれるの!?」

 

 私は驚きに目を丸くする。

 人間は信用ならぬと言っていたクロノシアが、まさか自発的に手伝ってくれるとは思わなかった。

 

「ふん、不服か? 目の前の同盟相手を見捨てるような相手と同盟なんて組みたくない。そう言ったのはお前ではないか」

「あ……」

 

 私は昨日の夜食に自分が言った言葉を思い出す。

 どうやら、私のしたことは、ほんの少しだけクロノシアの心を解きほぐしていたらしい。

 

「そもそも、ダン特の連中が全滅したら余達の計画も瓦解するのだ。急ぐぞ、いくら魔法少女が居るとは言え、モンスター化したマシンアーマーは一筋縄ではいかぬ」

 

 私はリオちゃんと顔を見合わせて頷き合う。

 

「クロノシア、お願いできるかな」

「うむ、任せるがよい。ミレイ、拠点の防衛は任せたぞ。逃げ戻る場所がなければ全ては水の泡だ」

「わかってるにゃ。そこの赤髪、クロノシア様は耐久力だけは信頼できるにゃ。上手く盾にして逃げ戻って来るんだにゃ」

「悪いね。クロちゃん、耐久力ガチ勢だから凄く助かる」

 

 リオちゃんはクロノシアの首根っこを掴むと、ひょいっと小脇に挟んで走り出す。

 

「待て! それは不敬ぞ!」

「こっちの方が絶対速いからさ。ちょっと我慢しときなって!」

「不敬ぞ! 我絶対総統、絶対総統ぞ!」

 

 文句を言うクロノシアを小脇に抱え、リオちゃんが急ぎ足で拠点から出撃していく。

 

「では、今のうちにこちらもできる限りの備えをしておきましょう。ミレイさんと宵月さんは救護室の準備を手伝ってください。まだ薬剤や器具の搬送が終わっていないはずです」

「わかったのです!」

「流石に全員無傷では帰って来れないだろうしにゃ」

 

 セレナちゃんが指示を出し、二人が慌ただしく走っていく。

 

「セレナちゃん、私は……」

「はい、行くんですよね。ですから二人に気付かれないよう遠ざけておきました」

「ありがとう。こっちのことは頼んだよ……ミレイも戦えるけど、万が一の時はどうしてもラブリナさん頼りになっちゃうと思うから」

「そちらもわかっています。ですから、こりすちゃんはいつも通りに駆け抜けちゃってください」

 

 流石は勝手知ったる仲、ダンジョンの中でもいつもと変わらず、セレナちゃんは私を快く送り出してくれる。

 私はそんなセレナちゃんに頷くと、先行しているリオちゃん達を追いかけるために飛び出して行く。私は土地勘が全くないから、追いかける形になったのはむしろ好都合かもしれない。

 

「シリウスチェンバー、イグニッション!」

 

 拠点から距離を取って周囲の目が無くなった頃を見計らい、私はエリュシオンへと変身して紅葉林を一気に駆け抜ける。

 

「さて、そこのキミ。仕事が一段落したのなら、キミの中に居るラブリナへ取り次いでくれないかね?」

 

 そんな私と入れ替わるように、ラウンジのソファに件の魔王が座っていたことを知るのは、もう少し後のことだった。

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