魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第6話 怪人、結束する8

 こりすを送りだしたセレナが視線を戻せば、いつの間にか向かいのソファにバニー姿の少女が座っていた。

 緑色の髪に赤紫色の瞳をしたその少女は明らかに場違い。セレナの内に棲むラブリナが警告を発さずとも、その正体は一目瞭然であった。

 

「……貴方が噂の魔王ラフィールさんですね」

 

 みだりに刺激して周囲に迷惑をかけぬよう、セレナは恐る恐る尋ねる。

 

「いかにも。どうだね、そこのお嬢さん。気怠い午後の暇つぶしとして、ひとつ吾輩とお茶でもいかがかな? 吾輩の好みはアールグレイであるが貴殿は?」

 

 警戒するセレナと対照的に、ラフィールはくつろぎながら気さくな笑みを浮かべた。

 

「そうですね。同じにしておきましょう」

「おっと失礼、実際に準備する必要はないのだよ。今のこの身は飲食なる行為ができないのでね、軽い挨拶だと受け流してくれたまえよ。それよりも肉の体の君、我が同胞ラブリナに取り次いでいただけるかな?」

 

 紅茶の準備をしようと立ち上がるセレナに制止をかけ、ラフィールが色っぽく足を組み替えながら言う。

 直後、セレナの瞳が妖しく紫に輝いてラブリナと入れ替わる。

 

「人がはけるのを待っていたのは、私と話すつもりだったからですね」

「勿論。いやはや、不思議なことにこの身は警戒されるらしい。気さくな挨拶で訪ねてみても、まともに立ち話すらできない有様。おっと、座っている故に今もできていないのだがね」

 

 言って、ラフィールがくっくと笑う。

 

「それで、ご用件は?」

「おお、ご用件とは素っ気ない。吾輩とキミは友人同士ではないかね、旧友の顔を見に来るのに大層な理由は要るまい。違うかね?」

 

 ラフィールは仰々しく天を仰ぐと、わざとらしく泣き真似をして見せた。

 

「申し訳ありません、記憶にないんです。今の私は欠片の身の上、持ち合わせている記憶も一部しかありませんから」

「……ふむ? なるほど、なるほどなるほど、さもありなん。キミが肉の体に閉じ込められているのだから、その程度思い至るべきであったとも。このラフィール、なんたる不覚か」

 

 ラフィールは手品のように空のティーカップを取り出すと、紅茶を飲む真似をしてみせる。

 

「さて、欠片のラブリナ。昨晩諸君等を襲った機械人形、縦横無尽に暴れまわるそのカラクリには、キミとは別の欠片であるキミが使われている。ご存じかな?」

「はい、そうだろうと思っていました。南方に逃げぬよう闇に紛れていたのは貴方ですね」

「そこまでお見通しとは、流石は我が友。吾輩一人では悪巧みをするにも手が足りなくてね、道化を雇ってみたのだよ。おだて、なだめすかして、いやはや実に手間のかかること。普段悪巧みを画策する悪党諸君の勤勉さには、吾輩頭の下がる思いだとも」

 

 ラフィールは空のティーカップを手品のように消すと、くっくとわざとらしく笑って見せる。

 そんなラフィールの姿に、ラブリナは僅かに顔をしかめた。

 

「おっと失礼。吾輩、ついつい余計なお喋りをしてしまうのが悪癖でね」

「いえ、お気になさらず。有益な情報です」

「心遣い痛み入る、ならば遠慮なく本題に戻ろう。社長なる道化のおかげで舞台の準備は整った、キミも割れた己の欠片を取り戻す必要があるだろう。どうだね、そろそろ人に紛れて機をうかがうのは終わりにしてみないかね?」

 

 テーブルの上で手を組んで、ラフィールが真剣な表情でラブリナを見つめる。

 つまり彼女は誘いに来たのだ。既に悪巧みの準備は整っている、共に人々を脅かし、砕けた欠片から一つの黒晶石(ラブリナ)へと戻るべく行動しよう、と。

 

「お誘いありがとうございます。ですが申し訳ありません……私は貴方達と共に人を脅かす側にはいけません」

「ほう?」

 

 ラブリナの返答が余程意外だったのか、ラフィールの表情が確かな驚きに染まった。

 

「セレナ……この体の主とその親友は、私がこの体を去った後も共生できることを望んでくれています。そして、私自身もその願いが叶うことを望んでいますから」

「ふぅむ。なるほど、キミがそう言うとは予想外。まさかまさか……されど、不思議なことに朧げな吾輩の記憶が言うのだよ。その方がキミらしいとも」

「恐縮です」

 

 ラフィールはラブリナの回答に一瞬顔をしかめたが、顎に手を当てて興味深そうにうんうんと頷く。

 

「されど、その願いを叶えるには強い力と意志が必要だ。それを支えるのは……怪獣王テラーニアを倒した魔法少女、エリュシオンかね?」

「はい」

「おお、なんと言うことだ! いくらキミが記憶を失っているとはいえ、あんな連中の口車に乗ってしまうとは!」

 

 首肯するラブリナに対し、ラフィールが芝居がかかった口調で嘆いてみせる。

 

「それは愚策と言うものだよ、我が友よ。魔法少女、あんな連中は道化にすらなれないとも! 大言壮語を吐いてみても、すぐに迷い、折れ、零す。何たる愚か! 何たる道化! あれは信用ならない詐欺師のような輩なのだよ!」

「私はそうは思いませんよ、ラフィール」

 

 大仰な演技を交えてそう語るラフィールに、ラブリナは毅然とそう言い返す。

 

「ふぅむ……。吾輩が万の言葉を紡いでも、記憶を失っているキミでは理解できない。それもまた道理か」

 

 そんなラブリナの姿を見たラフィールは、ふむと考えこみ、

 

「よろしい! ならば、吾輩はもう一欠片のラブリナに与し、キミの敵となって己の言の正しさを証明してみせようではないかね!」

 

 そう結論付ける。

 

「力不足を懸念するのなら、貴方が私に手を貸してくれる、と言う選択もあるかと思いますが」

「心苦しいが、それはできない。道化として舞台の上で躍らせるならばともかく、魔法少女や肉の体の者達と共に並び立つ気にはならないね」

 

 平然と人を軽んじるラフィールの態度を見て、ラブリナは理解する。

 自らを友人と呼んでくれている彼女だが、彼女にとって人は道具程度の扱いであり、同格の存在として認識していない。

 彼女にとって同格の友人なのは、あくまで黒晶石の魔王であるラブリナだけ。ならば人と共に在りたいラブリナと意見は平行線、説得することはできないだろう。

 

「そうですか、残念です。ただ、今この場で争うことはせず、一度退いておいてくれると嬉しいのですが」

「我が友よ、なんと悲しいことを言ってくれる! 吾輩、喜劇王を名乗れども、今は袂を分かとうとも、友に対しては誠実であるつもりだとも。キミの弱みを突くような真似はしない、そうこの身に誓おう」

 

 困ったように言うラブリナに対し、ラフィールは自らの胸元に手を当てて芝居がかった口調で言う。

 

「その代わり、キミが希望抱く魔法少女は吾輩が打ち砕く。キミが信ずるには足りぬ存在であると、キミの眼前で証明してみせようとも」

「もう一度だけ確認します、ラフィール。貴方には人と共存する選択はないのですね」

「人の心が持つ力は強く、されどそれは容易く歪み折れる。故にそれを砕けぬ黒晶石で固めて己が力とする……それが我等黒晶石の魔王が魔王たる所以、もう一欠片のキミもそう言っていた。ラブリナ、キミの方こそ思い出したまえよ」

 

 ラフィールの周囲に黒い風が吹き、風に溶けるようにラフィールの姿が消えていく。

 そして、ラフィールの座っていた椅子には一本の黒晶花だけが残った。

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