魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第6話 怪人、結束する9

 紅葉林中央14番ライブカメラ。それはダンジョン各階層に数多く設置されているライブカメラの一つ。

 往来する冒険者の安全確保のために設置されているカメラに映るのは、常に美しい紅葉の風景と、時折通り過ぎていく冒険者やモンスターだけ。

 紅葉は自体は美しいものの、ダンジョン内部の映像としてはインパクトに欠けている。故にライブカメラの映像を見る者はほとんどいない。定期監視をしているダンジョン庁職員ぐらいのものだ。

 今日のように視聴者が集まり、コメントが濁流のように流れていくことなど本来あり得ない。そう本来ならば。

 

「うおおお! シールドチャージ!」

 

 視聴者が注目する中、厳つい大男がダンジョン特別戦闘部隊のマークが入った大盾を構え、出刃包丁を振り上げて飛び掛かって来るウサギ人形に向けて突進する。

「アクアバレット!」

 

 ウサギ人形が衝撃で弾き飛ばされた隙を衝いて、既に魔法少女に変身しているナナミが自身の周囲に小型の水玉を無数に浮かべ、そのまま連射。

 水玉の半数でウサギ人形を粉砕し、残り半数を目の前に立つ機械甲冑へと発射する。

 

 "シールドチャージからのコンボ、小型モンスターに滅法強いな! 今度うちのパーティでもパクろ"

 "ウサギ人形の攻撃力異常だろ! 後ろの木が丸太になってんじゃん!"

 

 未知のモンスターに挑むダン特隊員の奮戦を見て、コメント欄が白熱する。

 リオの緊急配信を見た彼等は紅葉林でのトラブルを予感し、紅葉林のライブカメラ映像を巡回していたのだ。

 

『フハハハハ! 効かん、効かんのだよォ!』

 

 だが、機械甲冑からゴードン社長の高笑いが響き、黒いオーラをまとった機械甲冑が水の弾丸を防ぎきる。無数の水の弾丸は小さな水飛沫となって消え去った。

 お返しとばかりに機械甲冑が腕を薙ぎ、脇から斬りかかろうとしていた大剣の女が宙を舞う。

 そこに殺到するウサギ人形の群れ。ナナミは慌ててカバーに入り、短剣二刀流の男と協力してウサギ人形を処理していく。

 

「……佐々木さん、山岡さん連れて逃げて!」

 

 そこに機械甲冑から黒い光線が放たる。

 それに気付いたナナミは周囲に魔力の盾を展開。肩で息をしながらも、辛うじて自らとパーティメンバーの身を守ることに成功した。

 だがそれで安堵している暇はない。今度はウサギ人形が押し寄せてきていた。

 

『脆い! 実に脆い! ダン特と国家公認魔法少女がこの程度とは! 我が社製品を採用しないからそうなるのだ! ライブカメラ視聴者諸君、君達も生き残りたくばクロノス社製品を使いたまえ!』

 

 SNSで騒ぎを聞きつけた視聴者が続々と集まる中、視聴者達に見せつけるようにゴードンがダン特を圧倒していく。

 

 "すっげぇことになってる。やっぱりリオちゃんの緊急配信は祭りの序章に過ぎなかったか"

 "あーあ、サンドバッグ総統モンスター化してんじゃん"

 "ってか、どうしてクロノス社がサンドバッグ総統従えてんの?"

 

『コメント欄ッ! 見ているぞ! 気になるかね、気になるかね!? 黒晶石の制御に成功した我が社の企業努力を聞きたいのかね!?』

 

 "黒晶石の制御!?"

 "マジで!? 安全性とか大丈夫なの!?"

 

『ユー達の疑念は至極もっとも! 故にライブカメラ前にダン特を誘い込み、披露することを選んだのだ! この場でダン特を圧倒し、その性能と安全性をとくとご覧にいれよう!』

「ふざけんじゃ……ないわよっ!」

 

 憤るナナミが得物の可変型魔法弓を構え、氷の矢を放つ。

 

『ふざけてなどいないッ! ダンジョンベンチャーは弱肉強食のサバンナッ! 金儲けに真摯でないものは即座に退場する札束ヴァーリトゥードなのだッ!』

 

 機械甲冑が手をかざし、黒いオーラが立ち昇る。そして、勢いよく迫る氷の矢を軽々受け止め握りつぶした。

 

「そうじゃなくてコンプライアンスを守れって言ってんの、よっ!」

 

 その僅かな隙を衝いて、魔法弓を曲刀へと変形させたナナミが斬りかかる。

 

『ぬうっ!』

 

 その動きにゴードンの反応が遅れ、機械甲冑の腕を盾代わりにして、辛うじて曲刀を受け止める。

 

「シールドチャージ!」

 

 更に横から大男が盾を構えて突進。機械甲冑の体勢を崩す。

 ゴードンの注意がそちらへ向いたのを見逃さず、ナナミが氷を纏わせた曲刀を一振り。機械甲冑の腕を切り落とした。

 

『小癪な! 修理費がいくらかかると思っているんだッ!』

 

 ゴードンが憤る中、切り落とされた機械甲冑の腕から黒い霧が盛大に吹き出していく。

 

 "あれ、普通にダン特が勝ちそうじゃん"

 "流石サンドバッグ総統、モンスター化しても弱いな"

 "ナナミちゃん変身後レベル31だもんな。クラス魔法少女と合わせてレベル40級の戦闘力なら当然ダメージもバリバリよ"

 "やっぱサンドバッグ総統ってロボ怪人だったんだ。長年の疑問が解けたわ"

 

 有効打が入ったことで視聴者達がざわめく中、この機を逃すまいとナナミ達が更に追撃にかかる。

 

『ええい! かくなる上は……! アンチ魔法少女システム起動ッ!』

 

 ゴードンが叫ぶと同時、機械甲冑から黒い衝撃波が周囲に放たれる。

 片目を瞑りながらも、この機を逃すまいと曲刀を振りかぶるナナミ。

 その刃が機械甲冑の残された片腕を切り落とそうとしたその瞬間、

 

「っ!?」

 

 ナナミの衣装が紐解け、変身が解除されてしまう。

 変身が解除されたことでナナミの戦闘力は大幅に低下し、振り下ろした曲刀は機械甲冑の装甲に打ち負けて弾かれてしまった。

 

「変身の強制解除!? そんなことが可能なの!?」

 

 弾き飛ばされるナナミは、自らの恰好を確認して目を疑う。

 

『フハハ、驚いてくれたかね! これも魔王たる黒晶石の力なのだよ! ペンダントに搭載された魔石バランサーに干渉することにより、ペンダントの魔力循環を阻害。強制的な変身解除を可能にするのだッ!』

 

 嘲笑う機械甲冑。切り落とされた腕から漏れていた黒い霧が止み、かさぶたのように黒晶石が生えて刃の形を作り上げていく。

 

『どうだね? 絶望したかね? まだ抵抗する気力はあるのかね? フゥーハハハハッ!』

 

 "社長ノリノリじゃん"

 "あれれ、確か魔石バランサーってクロノス社が結構なシェア握ってたよね。まさか……"

 "あーあ、これは仕込まれちゃってますわ。バックドア"

 

『コメント欄ッ! 見ているぞッ! 我が社に対する謂れなき誹謗中傷には法的措置で対抗するッ!』

 

 "今現在国家権力に中指立ててる奴が法的措置とかwwwwwwwwww"

 

『ああ言えばこう言う、貴様等はトンチバトラーのイッキューさんか! 他人の足を引っ張るしか能のないプロレタリアート共め!』

 

 憤る機械甲冑は地団太を踏んで地面を陥没させると、視聴者との会話の最中に攻めかかって来た大剣使いを吹き飛ばし、更にウサギ人形と交戦していた双剣士へと襲いかかった。

 

「やらせないわ!」

 

 そこにナナミが曲刀を構えて割って入る。

 

『笑止ッ! 変身していない魔法少女など、ただの冒険者に過ぎん! 微塵も感じんなァ、高収入の煌めきがッ!』

 

 が、腕を振り回した機械甲冑がいとも容易くナナミを弾き飛ばした。

 

「っううう~~~!」

 

 背中から木に叩きつけられたナナミが苦悶の声を漏らす中、機械甲冑が双剣士へと黒晶石の刃を振り上げる。

 

「それ行け、クロちゃん!」

 

 そんなことはさせないと、間一髪で駆けつけたリオが小脇に抱えていたクロノシアを投げ飛ばし、クロノシアが黒晶石の刃をその体で受け止めた。

 

 "謎の金髪幼女が攻撃受け止めた! ナイス肉盾!"

 "あ、今肉壁幼女投げたのリオちゃんじゃん"

 "流石リオちゃん、おしぶといwwwwwww"

 

「ナナミ、無事!?」

「リオ! 見損なったわ、アンタなんてことしてんのよ!? あの子が怪我したらどうするつもりよ!?」 

 

 駆けつけて来たリオを見たナナミは、開口一番リオを非難する。

 

「いやいやいやいや、ああ見えてクロちゃんクソ堅タンクだからさ。ガチで防御力高いから、見かけで判断しちゃダメだって!」

 

 リオは慌てた顔でクロノシアを指差す。

 腕組みをしたクロノシアは、枯葉積もる大地を勇ましく踏みしめ、機械甲冑の振った刃をおでこで受け止めていた。

 

「安心せよ、余の守りは鉄壁ぞ。モンスター化していようとマシンアーマーの打撃如きは通さん。今のうちに全員退け」

 

 言って、クロノシアがにやりと笑う。

 

 "なにあの幼女、強くね?"

 "あれを生身で受けてノーダメは半端ないな……"

 

「ちなみにクロちゃん攻撃力は皆無だから、反撃の目はないんよ。今のうちに退くよ」

 

 目をしばたたかせているナナミに、リオがこそっと耳打ちする。

 

「わかったわ。ウサギ人形を退けながら一時撤退よ、皆!」

 

 ナナミが指示を出し、ダン特のメンバーがフォーメーションを組み替える。

 

『ここで逃がしては我が社の株価に影響する。逃がすかッ!』

 

 それを追いかけようとする機械甲冑。

 だが、その行く手をクロノシアが阻んだ。

 

「リオ!」

「あいよっと!」

 

 リオがバックから取り出した黄色い塗料を投げつけ、

 

『ウガアアアアアアッ! メインカメラがやられたッ!』

 

 昨晩同様に視界を塞がれた社長が絶叫と共に暴れまわる。

 

「マジか! 社長、学習能力ゼロじゃん!」

「ダン特の青いの! ついでにマシンアーマーの顔面と胸部を凍らせてやれ! それで奴の視界はゼロになる!」

「わかったわ!」

 

 クロノシアの指示を受け、ナナミが水球を機械甲冑の顔面にぶつけると、たちまち甲冑の顔が凍り付いた。

 

『視界が! センサーがッ! 前が見えんッ!? 迂闊ッ、開発に改善指示を出すのを忘れていたッ!』

 

 氷によって視界を奪われたこことで社長は半狂乱となり、機械甲冑の腕で氷を落とそうと必死に顔を擦る。

 だが、その腕の片方は黒晶石の刃へと変化している。切れ味抜群の刃が頭部に命中し、そのまま自らの頭部を切り飛ばしてしまった。

 

『ノオオオオオオッ!?』

 

 頭部を破壊され、その場に崩れ落ちる機械甲冑。

 

 "社長アドリブに弱っわいなー"

 "自爆エンドは大草原不可避wwwwwwwwwwwwww"

 

「よし、このままウチ等も撤退……」

「いやはや、なんと愚かしい。これでは興醒めではないかね。こんな舞台、三文芝居を名乗るのも烏滸がましい」

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