魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第6話 怪人、結束する10

 どこからともなく芝居がかった声が聞こえ、異様な気配に肌を粟立たせたナナミが、体を抱きかかえるようにして周囲を見回す。

 黒晶花の花吹雪が巻き起こり、黒い風が黒晶花を巻き上げて人の形に集う。

 黒い風と黒晶花は徐々に明瞭な輪郭を形作りあげ、黒晶石の仮面を着けてバニーガールのような恰好をした緑髪の少女、即ちラフィールへと変化した。

 

「……来るぞ、奴だ! あれが喜劇王ラフィール、黒晶石の魔王が一人だ!」

 

 クロノシアが苦々しい表情で注意を促し、共に殿となったリオが冷や汗を流しながら身構える。

 

「ご紹介に預かり光栄至極! こんな三文芝居、喜劇王の名を持つ吾輩には見逃すことなどできまいよ。では諸君! 不甲斐ない道化に代わって、この舞台は吾輩が取り仕切ろう!」

 

 ウサギ人形達がラフィールの背後で横一列で整列し、両手を広げたラフィールが声高らかに開演を宣言する。

 それと同時、半壊していた機械甲冑の全身が黒晶石に侵食され、全身黒晶石の禍々しい甲冑へと姿を変えて再び立ち上がった。

 

 "全身黒晶化はヤバい、絶対ヤバい! レベルいくつよ、あれ!?"

 "あの魔王とか言う怪人何者だよ!? クロノス社とは無関係なの!?"

 "これ、冒険者向けのコミュニティで拡散しないとダメな奴だよね?"

 

 その異様な光景に、ライブカメラのコメント欄が激流のように流れていく。

 

「さあ、華麗に踊ってくれたまえよ諸君! イッツ・ショータイム!」

 

 四つん這いになったクマ人形に腰かけたラフィールが、ぱちりと指を鳴らす。

 瞬間、黒晶石の機械甲冑が弾けるように駆けた。

 

「全員、なりふり構わず退くのだ! あのラフィールは黒晶化したマシンアーマーの比ではないぞ!」

 

 機械甲冑が振り下ろす黒晶石の刃を両手で受け止めながら、クロノシアが叫ぶ。

 

「ナナミ、変身! ウチ等が逃げに専念したらクロちゃんが逃げらんない!」

「でも……! いいえ、わかったわ!」

 

 ナナミはペンダントを見つめると、再度魔法少女へと変身。クロノシアに向けられ続けている刃を破壊すべく、機械甲冑へと斬りかかる。

 が、それよりも早く機械甲冑から黒い衝撃波が周囲に放たれ、強制的に変身解除させられてしまう。

 

「強制変身解除!? ナナミ!?」

「くつくつくつ、賢明なる諸君は既に気付いていると思うがね、対魔石バランサーはクロノス社の成果にあらず、吾輩の権能なのだよ」

 

 そして、逆に機械甲冑に跳ね飛ばされる形となったナナミは、勢いよく地面に叩きつけられてうずくまった。

 

 "ああ……"

 "この状況で変身封じなんてもう無理ゲーじゃん……"

 

「やれやれ、魔法少女はやはりこの程度かね。では、我が友ラブリナが余計な期待を抱かぬよう、早々にご退場願うとしよう」

 

 それを見下ろすラフィールは、つまらなそうに足を組み替えると、片手をあげて人形達に指示を出す。

 指示を受け、ウサギ人形達が武器を構えてナナミに殺到しようとする。

 

「ぬう! リオ、余が引き付けている間にそこの青いのを助けるのだ!」

「ごめん、クロちゃん!」

 

 白刃取りしていた機械甲冑の刃を放し、クロノシアがナナミとウサギ人形達の間に割って入る。

 

「ほう、中々面白い。されど今の吾輩、魔法少女には少々私怨混じりでね。横槍は遠慮してもらいたいのだよ!」

 

 それを見たラフィールが、手品のように取り出した黒晶花を地面に落とす。

 たちまち黒晶花が黒く紐解けて闇の紐となり、地面を這ってクロノシアを縛り上げてしまった。

 

「んぐっ!?」

 

 地面に転がりもがきながらも、なんとか闇から抜け出そうとするクロノシア。

 

「ほうほう、まだ抜け出す目があるとは実にしぶといね、キミィ。では先にキミからご退場願うとしよう」

 

 その姿に感心したラフィールがパチンと指を鳴らすと、機械甲冑が黒晶石の刃をより禍々しく鋭く変化させていく。

 

 "うわぁ……"

 "あんなの受けたら死ぬ、絶対に死ぬ"

 

「クロちゃん!」

 

 一同が見守ることしかできない中、断頭台に立つ処刑人の如き機械甲冑が、クロノシアの首筋に向けてその刃を振り下ろす。

 その瞬間、

 

「人の助けを呼ぶ声あらば、燐光纏いて私は来よう」

 

 舞い降りた銀の閃光が機械甲冑を両断した。

 白いレオタードのような戦闘服(ドレス)に燐光纏い、銀のツインテールなびかせて、その少女は腕を組み、黄金の瞳でラフィールを見据える。

 

 "うおおおー! 来た、来た来た来た! エリュシオンちゃんキターーーッ!"

 "クソヤバだと思ったら、やっぱこれエリュシオンちゃん案件だったかー"

 

「ほう……? キミは」

「悪を断つ銀のシリウス、魔法少女エリュシオン」

 

 そして、銀の少女は悪に対する死刑宣告にも等しい自らの名を告げた。

 

「なるほど、なるほど! キミがかの! 主役は遅れてやって来ると言うが、実にキミも演出家ではないかね!」

 

 四つん這いになったクマ人形に腰かけたまま、ラフィールが愉快そうに笑って拍手を送る。

 

「ならば、ならばならば! 鳴り物入りで登場した以上、この程度は当然対処してくれるのだろうね、キミィ!」

「あ……! エリュシオン、ヤバい! あいつ、変身用アイテムに干渉して変身を強制解除してくる!」

 

 気付いたリオが警告の言葉を発するが時すでに遅し、エリュシオンの前で両断されていた機械甲冑から黒い波動が放たれる。

 

「さあ、どうする!? この窮地、キミならばどうするッ!?」

「……っ!」

 

 遅かったと、苦虫を嚙み潰した顔をするリオ。

 だが、エリュシオンの変身は解除されない。ただ、悠然と腕を組んだまま、ラフィールを見据えたままだった。

 

「大丈夫、私は変身に道具を使っていないから。そもそも、【変身】スキルとか持っていないし」

「はぁ!?」

 

 "アイテムなしで変身とか、いきなりでっかい爆弾ぶっこんで来たな"

 "変身スキル持ってないって……。あー、これは間違いなくユニークスキルにクラスですわ"

 

 リオが素っ頓狂な声をあげ、視聴者達も次々と驚きのコメントを入れていく。

 

「なるほど、我が同類テラーニアを倒し、ラブリナをたぶらかすだけのことはある。無論、これ位はして貰わねば困るとも! では次の演目と行こう!」

 

 言って、ラフィールが後ろのウサギ人形に指示を出そうとする。

 だが、背後に立っていたはずのウサギ人形は既に一匹残らず胴を真っ二つに両断されており、黒い煙となって消え去る所だった。

 驚くラフィールが背後を確認し、再びエリュシオンへと向き直る。その体もまた、既に胴体を横一文字に両断されていた。

 

「私は三文芝居を観るためにここに来たわけじゃないから。そんな出し物を続けるつもりなら、さっさと終わらせるね」

 

 "ちゅよしゅぎぃ……"

 "ダン特やナナミちゃんがあんなに必死に戦ってたのはなんなの?"

 "本当にコマ送りしても攻撃動作全く見えないのな"

 

 エリュシオンは胴体から黒い煙を出すラフィールを警戒しつつ、まとわりつく闇を力ずくで引きちぎってクロノシアを助け出すと、ひょいとリオへと投げ渡す。

 

「こひゅっ、こひゅっ! ひゅっひゅっ! ひゅりゅ、りゅっ! ひゅーっひゅっひゅっ!」

 

 リオに受け止められながら、声にならない声で手をばたつかせるクロノシア。

 

「クロちゃん、過呼吸みたいになってんじゃん! エリュシオンにどんだけ恐怖刻みつけられてんの、完全調教済みか!?」

 

 落ち着け落ち着けとリオに背中を撫でさすられ、クロノシアがハッハッと呼吸を整える。

 

「ど、ど、どういうつもりだ、エリュシオン! 余を助けるなど!」

「君が誰かを助けようとしていたのなら、私が君を助けるのも当然のことだけど」

「ぐっ……」

 

 "なになに金髪幼女ちゃん因縁ある感じ?"

 "あの外見であの耐久力はどう見ても怪人系でしょ。昔壊滅させた組織の残党とかじゃね?"

 

「それよりも、まだ終わってないから今のうちに逃げて」

 

 言って、エリュシオンは視線を滑らせ、ラフィールへと向き直る。

 ラフィールは両断された胴体を黒晶石で繋ぎ止め、黒い煙を吹き出しているクマ人形から降りた所だった。

 

「ふっ、ふふふふふ……! なるほど、なるほど。吾輩、口惜しいと感じたのはいつぶりだろうか」

「再生……とは少し違う。やっぱり君もテラーニアと同じでそれが本体じゃないんだね」

 

 ピキピキと氷の割れるような音を立てるラフィールを、エリュシオンは僅かに目を細めて注視する。

 

「くくくっ、中々いい目をお持ちのようだ。だが、いいようにやられるだけでは喜劇王の名が廃る。ここで布石だけは打たせてもらおう!」

 

 言うと同時、ラフィールの体が弾け飛び、周囲に黒晶花混じりの黒い嵐を巻き起こす。

 エリュシオンは素早く周囲を確認、逃げているリオ達を守るように燐光を組み替えて光のドームを作り上げる。

 荒れ狂う黒い暴風が周囲全てを黒に染め上げ、紅い枯葉を巻き上げ、周囲の木々を軋ませる。

 程なくして嵐が止み、燐光の守りを解除したエリュシオンが辺りを見回す。

 

 黒い嵐の過ぎ去った周囲は、紅葉の赤よりも鮮やかな赤一面。

 地面には黒晶花が花畑のように咲き乱れていた。

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