魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第7話 怪人、反撃する2

「ヌオオオオッ!」

 

 分厚いコンクリートで覆われた窓一つない部屋、PCディスプレイを睨みつけながらクロノス社社長ゴードンが野太い叫びをあげる。

 

「同じ失敗を二度繰り返すのは信用問題になるッ! クライシスッ! クライシスだッ!」

 

 前回と同じようにモニターを塞がれて逃げられてしまったゴードンが、モニター前で地団太を踏んで憤る。

 

「アンガアァァァーーマネジメエェェェント!」

 

 何かの必殺技のように絶叫してテーブルを蹴りつけるゴードン。

 それでも怒りは収まらず、ラブリナの欠片がはめ込まれたヘッドギアを取り外し、怒りをぶつけるように荒々しくテーブルに投げつけようとする。

 

「おやおやおや、これは酷い。我が友ラブリナを粗雑に扱うのは止めていただきたいものだね、キミィ!」

 

 が、外した所でラフィールにヘッドギアを奪い取られ、ヘッドギアからラブリナの欠片である黒晶石を取り外されてしまう。

 

「ワッツ!? なんだユーは!? 私の黒晶石を奪って何をしようとしている!?」

 

 黒晶石を奪われてなるものかと詰め寄るゴードンを手で制止し、黒晶石の仮面を着けたラフィールが軽やかにテーブルの上へと飛び乗る。

 

「なんだとは心外至極。吾輩こそがキミが今演じている喜劇、その筋書きを書いた脚本家だとも! そして、その黒晶石はキミの物ではない。たとえ欠片だとしても、我が友ラブリナの体はラブリナのものに決まっているではないかね!」

「筋書きだと!?」

「ほほう、まだ気づかないと? 増長し、暴走し、焦燥する。いやはや、実に愉快、実に喜劇、実にキミは名優だ」

 

 自らの足首を掴もうとするゴードンをひらりと躱し、飛び移った椅子に腰かけたラフィールは、色っぽく足を組み替えて椅子をくるりと回す。

 

「黒晶石による遠隔操作、御していると思っていたモンスター、対魔石バランサー、全て己が力で成したと思いこんでいるのだからね」

「なんだ! それが出来たのは自分のおかげだとでも言いたいのか!?」

「無論だともよ! 魔王たる吾輩が号令かけずして! ラブリナが手を貸さずして! 黒晶石が何故キミに傅く必要があるのかね!?」

 

 ラフィールはシルクハットから取り出したステッキで、飛び掛かろうとしていたゴードンの手を叩いて制止する。

 そして、手品のようにシルクハットからウサギ人形を次々と取り出していく。

 

「オオゥ!? モンスター……!」

「おっと、無益な抵抗は止めてくれたまえよ。先に説明した通り、キミが御していたと思いこんでいたモンスターは全て吾輩の劇団員なのだからね」

 

 ゴードンが逃げようとするよりも早く、その周囲を出刃包丁を持ったウサギ人形達が取り囲んでいく。

 

「なんだ! 何をしようとしている!? 私をポルノみたいな目に遭わそうとしているのか!? それとも殺そうとしているのか!? 通報するぞ、ポリスが来るぞッ!?」

「無粋なことを言わないでいただきたい! 黒晶石は人の負の感情を糧にする、殺めて吾輩に何の得があるのだね? そ・も! 吾輩は喜劇王! ロルドの如き恐怖演劇をご所望ならば他をあたってくれたまえよ!」

 

 ラフィールはわざとらしく嘆く仕草をしてみせると、ゴードンへラブリナの欠片を投げ渡す。

 たちまちラブリナの欠片から黒晶石が広がり、凍りつかせるようにゴードンの体を侵食していく。

 

「なんだこれは!? 嫌だ! 止めろ、止めてくれ! こんなの人間を冒涜しているッ!」

「いじらしいことを言ってくれるではないかね! コンプライアンスなんてなんのその! ノンモラル、人命軽視はキミの十八番! キミはいつも通り何も気にせず駆け抜けてくれて結構! 無論、吾輩も気にしない!」

「頼む、気にしてくれぇぇ……」

 

 嬉々として言うラフィールとは対照的に、ゴードンはか細い悲鳴をあげながら体全てを黒晶石に呑みこまれてしまう。

 ゴードンを取り込んだ黒晶石はそれで収まらず、徐々に部屋へ侵食し始め、その全てを深い黒へと染め上げていく。

 

「深き闇は闇の中から生まれない、眩い光の影にこそ真に深い闇は生まれる。……かの人間の光では十分とは言えまいが、どうするね? 我が友よ」

 

 仮面を外したラフィールは、侵食の中心にあるラブリナの欠片に手を当てて優しげな顔で語り掛ける。

 ラブリナの欠片である黒晶石が、問いかけに返答するようにキラリと妖しく煌めいた。

 

「そうかね。キミと異なる答えを出したもう一人のキミを認められないかね。ああ、わかっていたとも。吾輩のよく知るラブリナならそう言うとも」

 

 そこで言葉を切り上げ、ラフィールは黒晶石に背を向ける。

 

「ならば吾輩はキミに与しよう。黒晶石は負の感情で育つ、我が身を育み、孤高たるキミに並び立つ、それが我が悲願なれば」

 

 独り呟く言葉の中に一抹の寂しさを含ませ、仮面を着けなおしたラフィールがウサギ人形達と共にその場を去ろうと

 したその時、壊れた扉の先にある部屋でデスクががさりと動いた。

 

「ぴぇ……」

 

 そこに居たのは逃げ場を失った二人の少女。

 どことなくリスっぽい白衣の少女と、犬耳にゴーグルの少女。クロノシアの部下だった。

 

「おや、おやおやおやおや。これは僥倖、実に僥倖」

 

 その姿を見つけたラフィールは先程と同じ芝居がかった口調でそう言うと、怯える二人の少女達へと歩いて行くのだった。

 

  ***

 

 リオちゃん達が拠点に戻るのをこっそり援護した後、エリュシオンに変身したまま拠点に帰って来た私は、変身解除できる場所を探して周囲を見回す。

 本当は変身解除してから戻りたかったけれど、黒晶花が咲き始めた影響なのか、周囲をうろつくモンスターの数が目に見えて増えていた。

 変身解除して即接敵で再変身が必要になるリスクより、エリュシオンのまま戻った方がリスクが少ないと判断してこの姿のまま戻って来たのだ。別にエリュシオンがここに居ても不自然じゃない、はずだし。

 

「こっちですよ、エリュシオン」

 

 こそこそと拠点の中を歩く私の視線の先、よく目立つピンク色のロングヘアが見え、廊下曲がり角からセレナちゃんが顔を手を出して手招きする。

 そのままセレナちゃんに誘導される私は、まだ何も置かれていない倉庫っぽい部屋へと案内された。

 

「ここなら変身解除しても大丈夫ですよ」

「ありがとう、セレナちゃん」

 

 エリュシオンの凛とした口調のままお礼を言って、私は変身を解除する。

 部屋全体が私の燐光で一際眩く輝くと、銀色のツインテールが短くなって黒髪に戻り、エリュシオンの恰好から元々していた制服赤フード姿に戻る。

 そんな私の姿を見て、セレナちゃんは何故か嬉しそうな顔をしていた。

 

「どうしたの、セレナちゃん」

 

 エリュシオンではない本来の口調に戻った私は、困惑した顔で尋ねる。

 

「いえ、眼福だと思いまして。エリュシオンの変身解除、生で見たことがある人間は私だけなんですよ」

 

 うふふと両手で口元を押さえて微笑むセレナちゃん。

 

「うん、そうだね。エリュシオンの正体を知ってるの、にゃん吉さんを除けばセレナちゃんだけだから」

「はい。私だけが知っている特別なこりすちゃんの姿です」

「そ、そんな風に言われるとちょっと恥ずかしいね……」

 

 なんだか急にあられもない姿を晒してしまった気分になって、私は顔を赤らめて背中に引っかけていた赤頭巾を被る。

 

「ああ、もう、可愛いんですから、こりすちゃん。えちえちですね、私を誘惑するサキュバスなんですか、そうなんですね。いいですよ、据え膳食わぬは女の恥です」

 

 それがセレナちゃんの変なツボに入ってしまったらしく、セレナちゃんは顔を紅潮させて手を広げて私に抱きつこうとしてくる。

 

「あ」

 

 けど、その少し手前で凍り付いたように動きが止まった。

 

「……セレナちゃん?」

「すみません、こりすちゃん。ラブリナさんが大切な話をしたいそうです」

 

 小首を傾げる私の前、神妙な面持ちになったセレナちゃんが自らの胸元に手を当てる。

 

「お楽しみ中の所を申し訳ありません、こりす」

 

 そして、セレナちゃんの瞳が紫色に輝いた。体の主導権がラブリナさんに切り替わったのだ。

 

「ううん、気にしないで」

 

 楽しんでたのセレナちゃんだけだし。早めに皆の様子を確認したい私としては、むしろ助かったとすら思える。

 

「そうですか、ほっとしました。……こりす、貴方が出て行ってから、ここにラフィールが訪れました」

「本当!?」

「はい。配信で貴方とラフィールの戦闘は確認しています。恐らくですが、私と話したことで貴方の力量を確かめようと思ったのでしょう」

 

 そう言って、ラブリナさんはラフィールとした話の内容を教えてくれる。

 

「……ラブリナさんとラフィールはお友達だったんだ。しかも、欠片になったラブリナさんを戻すために行動していた」

「そのようです。私としては覚えていないのが心苦しいのですが」

 

 寂しそうに眉根を寄せるラブリナさん。

 せっかく自分を探しに来てくれたのに、覚えていないのは自分も相手も辛いよね。

 

「なら、ラブリナさんがお願いすれば悪さを止めてくれないかな?」

 

 ラブリナさんのお友達を倒すのは心苦しいし、何よりラブリナさん達はモンスターと違ってちゃんと意志や感情があるのだ。だから、ラブリナさんがそうだったように、分かり合える余地があるはずだ。

 クロノシアだって、昔は初手世界征服宣言放送なんてしていたのに、今はちゃんと人間社会に歩み寄ろうとしている。その姿を近くで見ているから余計にそう思う。

 

「残念ながらそれは難しいようです。彼女はもう一人の私に与すると言っていました。彼女達にとって人を脅かし、自らの力を高めるのは本能のようなものなのでしょう」

「そっか……」

「ですが……欠片である私が失った部分をセレナで補っているからか、今の私はそれが正しいとは思えません。私と同一の存在や友人が他者に害成すのは心苦しいです。こりす、二人を止める為に手を貸してくれませんか?」

 

 ラブリナさんは自らの胸に手を当てると、静かに目を閉じて私に言う。

 

「当然だよ、言われなくても手を貸す。セレナちゃんだけでなく、ラブリナさんも私達の仲間なんだから」

「仲間……。そう、ですか」

 

 私の言葉をかみしめるようにラブリナさんが呟く。

 

「うん。人と怪人だって仲間になれるんだし、黒晶石の魔王だって当然仲間になれるよ」

「……こりす、私は貴方達と共に歩めてよかった。心からそう思います」

 

 私がそう言って笑うと、ラブリナさんも嬉しそうに笑った。

 ラブリナさんのこんな笑顔、初めて見た。これはセレナちゃんの表情じゃないから、ラブリナさん本人の表情だよね。

 

「だから手遅れになる前に急ごう。今のこの階層、黒晶花が咲き乱れて危険なことになってるから」

「はい。そうですね、こりすちゃん。そのためにも、リオさん達と今後の動きについて協議が必要ですね」

 

 瞳から紫色の輝きが消え、ラブリナさんからセレナちゃんに戻る。

 私とセレナちゃんはお互いに頷くと、リオちゃん達を探しに行くのだった。

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