魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
私とセレナちゃんが医務室目指して廊下を歩いていると、拠点入り口の扉からリオちゃんとナナミちゃんが入って来た。
「あれ? リオちゃん達、医務室に居たんじゃなかったんだ」
医務室でダン特の人達と一緒に治療を受けているとばかり思っていた私は、思わぬ遭遇に小首を傾げる。
「ウチとナナミは大した怪我もなかったからさ。ちょっと外の様子を確認してたんよ」
「リオ、丁度良かったじゃない」
「あー、そだね。こりっちゃん、学園長代理、ちょっと話があるんだけど外までいい?」
ナナミちゃんに促されたリオちゃんが、心なしか真剣な顔で言う。
「外になにかあるの?」
「いんや、ちょっとここでは話し難い話題なだけ。大丈夫、外って言ってもすぐそこだしさ」
まさか、エリュシオンとして疑われている訳ではないだろうけれど、わざわざ外に行く用事って何だろう。
不思議に思いつつも、私とセレナちゃんは外に歩いて行く二人の後ろをついていく。
洞窟を抜けて外に出ると、リオちゃんは軽く周囲と後ろを確認する。誰かが聞いていないか警戒しているみたい。
「それで……貴方達、紅葉林の現状は知ってる?」
エリュシオンとして直に見て来たから当然私は知っている。
でも、知っているって素直に答えても大丈夫なんだろうか。
「はい、私は待っている間にライブカメラを見ていたので知っています。紅葉林のそこかしこに黒晶花が咲いているようですね」
返答に悩む私の代わりに、セレナちゃんが返答してくれる。
どうやら、ライブカメラの映像にも黒晶花がバッチリ映っているらしい。それなら私も遠慮なく発言できる。
「知っているなら話は早いわね。今し方鳳仙長官に連絡して、ダン特とセブンカラーズで紅葉林の境界を固めるよう依頼した所よ」
言いながら、ナナミちゃんはスマホで湖畔エリア境界付近のライブカメラを見せてくれる。
境界付近はテラーニアの一件の時みたいに黒晶花がびっしりと生えていた。かなり離れた湖畔エリアの境界付近までこうなってるなんて、相当危険な状態だ。
「んで、ウチ等が軽く見てきたのとライブカメラ映像を総合すると、黒晶花の出所はラフィールって魔王が爆発した中央14番ライブカメラじゃないね。あそこはむしろまだマシな方だった」
「あそこでラフィールが爆発したのは単なるトリガーだった……ってこと?」
「多分ね。んで、確認してきた感じ、本当の爆心地は向こうのラブさんが居る所だと思う。あ、ナナミには喋らないよう念を押して、かいつまんで事情を説明してあるから安心して」
リオちゃんの言葉に、私はちらりとセレナちゃんの表情を確認する。
セレナちゃんはそんなに気にしていないみたい。とりあえず、私もナナミちゃんなら言いふらさないと思う。
「知っての通り、ここは南の湖畔側からも、攻略最前線側からも距離があるわ。場違いモンスターが山ほど闊歩している現状、この辺りまで入り込めるのは相当後になるでしょうね」
「そうなると、現状この拠点が唯一の頼りになりますね。開門で撤退するのではなく拠点設営を選んで本当に正解でした」
セレナちゃんの言葉に一同が頷く。
ピンチの時に逃げ込め、物資の補給ができるセーフエリアがあるのは本当に大きい。しかも、この近辺の黒晶花の数は境界周辺よりまばらだ。
それは偶然ではなく、居るだけで黒晶花の侵食を妨げるラブリナさんが拠点に居たからだろう。
「ええ、でも状況的はひっ迫していて援軍を待っている暇はないわ。だから私達が先行する他ない、それがリオと私の結論よ」
ナナミちゃんがダンジョンマップアプリを起動し、紅葉林の地図を表示してくれる。
黒晶花の群生地であろう赤で塗りつぶされた範囲を見るに、この拠点周り以外は相当な地獄。この拠点は台風の目みたいなものだ。
「……この状況を知ったら、クロノシアは飛び出していきそうだね」
ここでようやく、リオちゃん達が拠点の中で話をしたくなかった理由を察する。
クロノシアに聞かれたくなかったからだ。クロノシアの仲間は黒晶花侵食の中心に囚われている、この状況を知ってしまえば衝動的に飛び出して行きかねない。
「ただ、先行するにしてもさ、クロちゃんやラブさん込み込みでも戦力が足りないんよ」
「そうですね。私の中に居るラブリナさんは、相手のラブリナさんを抑え込むのに手一杯になるでしょうし」
「このタイミングで魔法少女に変身できないのは致命的ね。私とリオは変身抜きだと中堅冒険者程度の力量しかないのよ、この窮地を乗り越える戦力としては正直心もとないわ」
言って、ナナミちゃんが渋い顔をする。
私は効かなかったから忘れていたけれど、相手は変身アイテムに干渉して変身強制解除なるものをしてくるらしい。
戦闘の真っ最中にそんなことをされたら致命傷だ。それじゃ変身を戦略に組み込めない。
「うーん……あ! そうだ、にゃん吉さん! にゃん吉さんならなんとかできるかも」
なんとかできそうな人は居ないかなって考えた結果、私は家のメタボ猫の存在を思い出す。
私が以前使っていた変身アイテムもにゃん吉さんから貰ったもので、私に合わせてチューニングをしたり、メンテナンスをしている姿を何度も目撃している。にゃん吉さんなら的確なアドバイスをしてくれるかもしれない。
にゃん吉さんの設定だと、私はにゃん吉さんがエリュシオンの相棒猫だって知らないって設定だったけど、流石に今はその設定に準拠していられない。
にゃん吉さんならそこら辺は上手く誤魔化してくれるはず。緊急時だし、前回の件で不審に思った私が問い詰めたとか、そう言う感じの設定で押し通すしかない。
「あー! ナイスアイデアじゃん! こりっちゃん、にゃん吉っさんに連絡取れる?」
「う、うん。にゃん吉さんはできる猫だから、普通にスマホもパソコンも自由自在だよ」
言いながら、私は鞄からスマホを取り出して浮かべると、無料通話でにゃん吉さんへと連絡を入れる。
「ちなみに私もこりすちゃんとにゃん吉さんのグループに入っているんですよ」
「えー、マジかー。ウチ等のパーティチャットにもにゃん吉っさん招待しようよ。顧問アドバイザーとかでさ」
セレナちゃんとリオちゃんがそんな話をしていると、私のスマホに黒いメタボ猫がででんと映った。
『おやおや、どうしたんだい、こりすちゃん。知らないお友達が居るけど、ボクが人語を喋っちゃって大丈夫な人かい?』
「にゃん吉さん、それを人語で話しちゃってる時点で手遅れだよ……」
『それは仕方ないね。こりすちゃんは人の言葉しかわからないからさ』
言いながら、にゃん吉さんが座布団の上で寝観音のように横になる。
メタボ猫のお恥ずかしい姿、飼い主として誠に申し訳ない。
「ねえ、猫ちゃんが喋ってるんだけど……」
そんな姿を見たナナミちゃんが、目をぱちくりとさせながらスマホの画面を凝視する。
「あれが件のにゃん吉さんですよ」
「名前の通り本当に猫なのね……? 今度撫でに行っていい?」
画面のにゃん吉さんをじーっと見つめながら、ナナミちゃんが言う。あ、ナナミちゃんも猫派なんだ。親近感。
そんなことを考えながら、私はにゃん吉さんに事情を説明していく。
『うんうん、なるほどね、大体話はわかったよ。ただ、現時点では改善できるって確約はできないね。とりあえず現物を見ないとわからないからさ、中身開いて画面に映してもらえるかな?』
話を聞き終わったにゃん吉さんは、むくりと体を起こしてそう指示を出し、ナナミちゃんがペンダントの中身を開いてスマホで映す。
ペンダントの中身は懐中時計みたいに凄く複雑だった。にゃん吉さん、大丈夫? これ本当にわかるの?
『おやおや、これはまたレトロなタイプを使ってるんだね。確かにこの型式なら妨害を受けても不思議じゃないね』
「レトロとは言ってくれるわね。最新式のペンダントよ、これ」
「いいじゃん、ナナミ。つまり期待できそうってことだよ」
複雑な顔をするナナミちゃんを、リオちゃんがそう言って慰める。
『で、件の黒晶石とやらは魔石バランサーに干渉してるって話だったかい。……結論から言うと、そのマジックアイテムを改良するのは無理だね。型式が古すぎてボクの手元には互換性のあるパーツがないんだ』
にゃん吉さんのにべもない言葉に、周囲の空気が重くなる。
「にゃん吉さん、ナナミちゃんがなんとか変身できるようにならないの?」
流石にそれで終わりじゃ困ると、私はにゃん吉さんに食い下がる。
ペンダントの改良が上手くいかなくても、私みたいに緊急変身ができるようアドバイスするとか、他にも手段はあるはずだ。
『短気は損気だよ、こりすちゃん。どうにもならないなんて言ってないよね、ボク』
「じゃあどうするの?」
『別のペンダントを使えばいいんだよ。幸い、ペンダントのコアパーツ自体はボクがエリュシオンに渡した物と互換性があるんだ。エリュシオンが使うなら純度が足りなくて出力不足のコアだけど、キミ達ならちゃんと正規変身できるはずさ』
「つまり、ナナミさんのペンダントに使われているコアを載せ替えるんですね。エリュシオンのペンダントに」
セレナちゃんの言葉に、にゃん吉さんが頷く。
なるほど、その手があったか! 私が元々使っていた変身アイテムである【エリュシウムの鍵】はコアだけを欠損している。
なら、そこにナナミちゃんの使ってるコアをのっければそのまま使えるはずだ。
『エリュシオンが使ってたエリュシウムの鍵そのものは流石に渡せないから、余ってるスペアペンダントを使っての調整になるけどね』
にゃん吉さんは立ち上がると、私のタンスの引き出しを勝手に開け、入っていたスペアのペンダントを取り出してみせる。
え? スペアのペンダント、あんな所に入ってたの? 無断で私のタンス使ってるの?
「ねえ、にゃん吉さん。私のタンスに知らない物体がごっちゃり入ってるんだけど……」
『ボク、言ってないからね。別にスペースがあるんだからいいじゃない。現に今の今まで気づいていなかったんだしさ』
あっはっはっ、と全く悪びれずに笑うにゃん吉さん。おのれ。
「まあまあ、こりっちゃん許してやんなよ。それでペンダントはウチが届ければいい?」
リオちゃんがペンダントを手に取ると、ナナミちゃんがそれに待ったをかける。
「私が行くわ。一応、私が支給されているペンダントだもの」
「いや、だってナナミはこりっちゃん家わかんないじゃん」
「なら本人に行って来てもらえばいいじゃない、自宅でしょ」
「えっ」
私はぎくりと身を震わせる。
マズイ、このタイミングでその選択肢はマズイ。リオちゃん達が魔法少女に変身できない以上、エリュシオンと言う択を失うのは危険過ぎる。
「り、リオちゃんがいいと思う! リオちゃんなら、魔法少女に変身して移動時間短縮できるから!」
「そそ、妨害の無い所なら普通に変身できるっしょ」
「それは、確かにそうね……」
私の意見に納得し、ナナミちゃんが引き下がってくれる。
「んじゃ、ウチは大急ぎで行ってくるから。ナナミ、ペンダント貸して」
「わかったわ」
変身用ペンダントを借りたリオちゃんが転移装置へと走っていく。
それを見送るナナミちゃんが、残念そうに「猫ちゃん、気になる……」って小さく呟いていたのを、私は聞き逃さなかった。