魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
転移装置でリオちゃんが転移していくのを見送ると、廊下がにわかに騒がしくなっていた。
もしやと思って急ぎ駆けつければ、駄々っ子のように足をバタつかせたクロノシアが、ダン特の人に抱き上げられていた。
「離すのだ! 余は臣下達を助けに行かねばならぬのだ!」
「今は危ない! 機を待つんだ!」
「危ないからこそであろう!?」
どうやら、飛び出していきそうなクロノシアを、ダン特の人達が必死に抑えている状況らしい。
「ミコトちゃん、クロノシアはどうしてあんなに焦ってるの?」
おろおろしているミレイの横で、じーっとクロノシア達を観察しているミコトちゃんに駆け寄り、私は尋ねる。
「私がエリュシオン様が映っていないかって紅葉林のライブカメラ映像を確認していたら、クロノシアが横から見てきてああなったのです」
「ああ、なるほど……」
ミコトちゃんの説明に、私はやっぱりと納得する。
刻一刻と黒晶花は紅葉林を侵食している。クロノシアとしては静観できるような状況じゃないだろう。危惧していたことが起こってしまった。
「どこもかしこも黒晶花だらけ。しかも、侵食の中心は間違いなく魔王の黒晶石にゃろ? つまり私達の仲間が居る所にゃ」
「それでダン特の皆が止めているのね。だからって、準備もせずに無策で突っ込むのは危険すぎるわ」
「だからこそ、クロノシアは手遅れになる前に行きたいと考えているのです」
ナナミちゃんとミコトちゃんの言葉にミレイが頷く。
どちらの言い分も理解できるだけに、ミレイも仲裁に入れなかったのだろう。
「ラブリナさん、どう思う? クロノシアの仲間、無事かな?」
「現状は無事である可能性が高いと思います。黒晶石は負の感情を糧にして成長します、私達にとっては可能な限り殺さぬ方が都合がいいですから」
ラブリナさんがそう言うと、ミレイの表情が少しだけ和らぐ。
「……ただし、積極的な保護が期待できるかと言うと難しいでしょう。モンスターや、もう一欠片の私が引き起こす何かに巻き込まれる恐れは十分にあります」
「なら、急いだ方が勝算があるってことだよね。時間が経つにつれ、黒晶花の侵食も進んでいくんだから」
「はい、私もその意見に同意します。同じ戦力で挑むと言う前提ならば、可能な限り早期の方がいいでしょう」
私は情報を整理して考える。黒晶花が広がっている以上、救援要請してあるダン特やセブンカラーズは、この拠点に辿り着くまで時間がかかる。
ミコトちゃんの開門は高頻度で行うと別の境界が開く恐れが増すらしい。人を呼ぶために門を開いて、この拠点に境界が生じたら大惨事確定だ。繋がる階層次第で犠牲者は避けられなくなる。
つまり、追加戦力として期待できるのはリオちゃんだけ。本当はリオちゃんが戻って来るまで待ちたかったけれど、侵食が進行するリスクを考えると見切り発車した方が多分いい。
「セレナちゃん、ミコトちゃん。私はクロノシアと行こうと思うんだけど」
「はい、わかってますよ。こりすちゃんはそう言うと思っていました」
「任せるのです!」
セレナちゃんがにっこり笑って、ミコトちゃんがどんと胸を叩く。あの様子、二人も協力してくれるらしい。
ミコトちゃんがついてくるのは正直心配だけど、回復役としての凄さはビキニトリオを助けたりでよく知っている。今は頼らせてもらいたい。
「ちょっと、アンタ達正気なの?」
私達の出した結論に、ナナミちゃんが待ったをかける。
「うん、ちゃんと考えた上でだよ。クロノシアは体を張ってダン特の人達を助けたんだから、私だって少しぐらい体を張って助けないと」
「助けられた身からすると、そう言われると強く言えないわね……全く」
困った顔をしているナナミちゃんの脇を抜け、私は取り押さえられているクロノシアの方へと歩いて行く。
「すみません、クロノシアを離してあげてくれませんか。ちゃんと準備をしたうえでパーティを組んで行かせるので」
私がダン特の人にそう言うと、クロノシアが驚きに目を丸くする。
「お前、余と一緒に行ってくれるのか?」
「うん、同盟でしょ。クロノシアが約束を守ったんだから、私だって当然守るよ。それに一番勝算があるのが今だろうから」
「……ふん、お前もエリュシオンのようなことを言う」
「おいおい、お嬢ちゃん達だけじゃ危険すぎるよ……!」
でも、そんなやり取りを見たダン特の人達は、クロノシアを解放せず難色を示した。それも当然だろう。
「放してあげて、私がついていくわ」
どう説得したものかと考えていると、ナナミちゃんが同行を名乗り出て私達を援護してくれる。
「ナナミちゃん、いいの?」
「いいもなにも、勝算一番あるのが今なんでしょ? ただし絶対に無理はさせないわ。ほんっと、鳳仙長官が頭のネジがイカれた面白い小娘って言ってたのも納得ね」
ツンと澄ました顔で、やれやれと首を横に振るナナミちゃん。
えぇ……。カレン、私のことそんな風に呼んでるの? 私、ちゃんと計算ずくで無理はしていないつもりなんだけど。
「お嬢、本当についていくんですかい?」
「ええ、どちらにせよ援軍を待たずに先行する他ないってリオと話していた所よ。貴方達は拠点の防衛をお願いね、ここ壊されたら多分紅葉林と攻略最前線が放棄区域になるから。大丈夫、絶対に無理はさせないわ」
「了解でさぁ。んじゃ、我々は露払いでもしときますかね」
クロノシアを捕まえていた大男の人はニカッと笑うと、クロノシアを地面に優しく降ろしてくれる。
そして、残りのメンバーを連れ立って外へと出撃していった。
「拠点付近のモンスターを倒しておいてくれるって意味ですよね?」
「でしょうね。勘違いしないで欲しいのだけれど、私を含めたダン特全員、本当は手を貸してあげたかったのよ。でも、自分達の力量では黒晶花地帯を抜けられないってわかってる。だから、この場は止めるしかなかったのよ」
ナナミちゃんはセレナちゃんの言葉を肯定すると、腕を組みながらパーティメンバーを見送る。
「すまんお前達……恩に着る。そして、改めて余に手を貸してくれ」
そんなやり取りを見ていたクロノシアは、そう言って私達に頭を下げた。
「クロノシア、そんな改めて言う必要はないよ。さっき言った通りお互い様だし、どの道これは解決しないといけないことだから」
「そうなのです、任せるのです!」
むっふとミコトちゃんが自分の胸を叩く。
「その代わり準備はしっかりとしてちょうだい。私が同行する以上、無謀な突撃は絶対許さないわ。危ないと思ったら無理やりにでも撤退させるんだから、嫌なら万全の準備をなさい」
「うん、わかった」
私が頷くのを確認すると、ナナミちゃんはクロノシアの首根っこを掴む。
「うぬっ!? 突然何をするつもりだ! 無礼であろう!」
「リオから聞いたけど、貴方ダンジョンの雑草食べて飢えを凌いでいたらしいじゃない。来なさい、医務室で毒消し魔法と対寄生魔法を使うわよ」
「要らぬ、余はピンピンしておる!」
「ピンピンしてるうちに対処するのが鉄則よ。そこの猫耳の貴方も来なさい、急ぎたいんでしょ? 時間がないわよ」
「わ、私までかにゃ!?」
暴れるクロノシアを小脇に抱え、ナナミちゃんはミレイを引き連れて医務室へと向かっていく。
湖畔でウサ毛をくれた時から思ってたけど、ナナミちゃんって凄く面倒見がいいタイプだ。リオちゃんと違うタイプなのに同じように頼りになる、二人が仲いいのもわかる。
「……セレナちゃん、今のうちに私達も準備しようか」
「はい、そうですね」
リオちゃんが後で合流してくれると仮定しても、エリュシオンの力が必要になってくるのは間違いないだろう。
変身で消耗した魔力を急速回復させるため、おやつと早めの晩御飯を食べて時間一杯お昼寝しよう。そう心に決めていると、ミコトちゃんが私をぺちぺちと叩いてきた。
「こりすー、こりすー」
「どうしたの、ミコトちゃん?」
「こりすの言っていた意味、わかった気がするのです!」
ミコトちゃんはキラキラと目を輝かせると、私の胸をぽんふぽんふともう一度だけ叩いて、急ぎ足で準備に向かっていった。
なに、なにを理解しちゃったの? って、私は小首を傾げる。
「湖畔でのことだと思いますよ。ダンジョンは助け合いだって意味、宵月さんもようやく心から納得できたんだと思います」
「ああ!」
セレナちゃんの説明に私は納得する。
怪人組織と治安維持、本来は敵だった者同士なのに、クロノシア達とダン特の人達の関係は助け合いそのものだ。
他の怪人組織や地下教団とかも、皆こんな風に改心してくれたらよかったのになって思って、私が倒して来た敵達を思い浮かべる。
残念ながら、脳裏に浮かんだのは絶対にわかり合えない面々ばかりだった。