魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
第四話 喜劇王
二人を抱えたまま研究所を駆け抜けて採掘場に戻ると、皆と巨大な黒晶石は既に影も形もなく、代わりに大きなクレーターができていた。
「やっぱりあのまま飛び立ったんだ」
すっかり宵闇に沈んだ空を見上げ、私は飛び立ったであろう黒晶石と皆の姿を探す。
私達の拠点がある西の方角、漆黒の円盤が宵闇に紛れてゆっくりと飛行していた。
そして、そこから舞い降りる無数の光。まるで夜空に無数のランタンを飛ばすお祭りみたいな幻想的な光景。でも、
「あれ……全部黒晶花?」
空を見上げて呟く私の目の前に黒晶花がふわりと舞い降り、出刃包丁を構えたウサギ人形となって強襲してくる。
「ぴええっ!?」
「そこを動かないで」
私は怯える二人の周囲に燐光を展開し、ウサギ人形を裏拳で木っ端微塵に粉砕する。
「た、助かりましたぁ……」
「ほっとしている暇はないよ。また抱えるから、急ごう」
安堵するゴーグルの子にそう言って、私は二人を抱えて走り出す。
本当なら二人の部下はクロノシアに任せ、セレナちゃん達の援護をしたいけれどそうもいかない。
星空のように輝くあの光は全て黒晶花、言い換えればそのまま全てモンスターの群れ。
二人を抱えて空を突っ切って連れて行くのは簡単じゃないし、そもそも二人は私の動きに耐えられないだろう。安全に拠点まで逃がすのさえ一苦労だ。
「あの……え、エリュシオン! クロノシア様は!?」
「多分、黒晶花を降らせている円盤の上。だから、まずは君達を安全な場所に避難させる。クロノシアとそう約束してるから」
私の加速で二人が潰れないよう細心の注意を払い、私は速度を制限しながら紅葉林を駆け抜ける。
降って来る人形モンスター達を迎撃し、後ろから襲ってくるモンスターを振り返ることなく粉砕する。
次は目の前に立ち塞がっているモンスターを倒そうとした所で、モンスターは背後から放たれた槍の一閃で全員引き裂かれた。
「妙にキラキラしてると思ったら、やっぱエリュシオンじゃん!」
そして、モンスターを槍一掃したリオちゃんが、スマホを操作しながら私の方へとやってくる。配信していたのを中断したのかな?
確かに私の周囲には燐光浮かんでるから目立つよね、モンスターだと勘違いされて攻撃されなくてよかった。
「リオ……だったよね?」
危うくいつもの感じでリオちゃんって呼びそうになって、私は慌てて取り繕う。
「覚えててくれてあんがと。スペアのペンダント借りてる」
自らの衣装を見せながらそう言うリオちゃんは、既に魔法少女へと変身済み。
その恰好は前までのセブンカラーズルビーとは少し違う。正規変身したことで衣装がより最適化されたのだ。
「うん、にゃん吉から話は聞いてるよ」
「そりゃそっか、当然話は通すよね。んでさ、脇に抱えてる二人は誰?」
「ひょえぇ……。魔法少女が増えたぁ……」
リオちゃんに視線を向けられ、クロノシアの部下二人がびくりと身を震わせる。
「クロノシアの部下、保護したから安全な所へ送る所。ついでに赤頭巾の子も安全な場所に逃がしてあるから」
「あー、目的の。安全なってことはウチ等の拠点だね」
「うん」
「場所、わかる?」
「…………」
リオちゃんにそう尋ねられ、私はちょっと返答に詰まった。
変身時に服も荷物も全て衣装へと再構築されるため、今の私はスマホを持っていない。周囲は纏った燐光で明るいものの、ダンジョンである紅葉林にまともな灯りなんてあるはずもなく少し先は真っ暗だ。
つまり目印もなく、ダンジョンマップも見れないし、ライブカメラのビーコンを頼りに進むこともできない。更に空には黒晶石がランタンのように舞っていて、昔の旅人のように空の星すら見られない。
あれ、私って迷子確定コースじゃない?
「エリュシオンって意外と機械類弱いタイプ?」
「そうじゃなくて、変身時に全部再構築されて消えちゃうから。自分のスマホを使うと正体がバレちゃうし」
「あー、なるほど。エリュシオンの正体がバレたりしたら、そりゃもう大事も大事になっちゃうか」
あっ、辛い。やっぱりリオちゃんもそう思うんだ。
客観的に見ても私の正体が露呈したら大事になるのは確定らしい。見てみぬふりをしていた事実が再び突き付けられてしまった。
「んじゃさ、代わりにウチのスマホ持ってきなよ。ついでに配信で道案内して貰いなー」
絶望的事実を再確認して言葉に詰まっていた私の前に、リオちゃんが自らの傍らに浮かべていたスマホを動かしてくれる。
「凄く助かるけど、いいの?」
「いやいや、ペンダント借りてるしそれ位はさせてよ。ホントはウチが代わりに送り届けるのがベストなんだろうけどさ、正規変身? って魔力バカ食いするじゃん。受け取る前に変身してたのもあって、道中で変身時間ほぼ使い切っちゃっててさ。もう時間切れ寸前なんよ」
魔法少女は変身時に最も魔力を消費する。だから再変身は変身限界時間を著しく短くしてしまう悪手だ。
リオちゃん達が使ってた元々の変身は簡易変身みたいな感じだったから、多少消耗が抑えられているとはいえ、それでも時間的猶予はあまりないらしい。
今のリオちゃんだと紅葉林を撤退する方が逆に危険だろう。
「わかった。二人を送るのは私が引き受けたよ」
「悪いね。エリュシオンなら心配ないと思うけど、クロちゃん……クロノシア滅茶苦茶心配してたからさ、ホントに頼む。円盤の方はウチ等でなんとか時間稼ぎするから」
「うん、任せて。ついでにリオも責任持って円盤の方に送り届けるから」
クロノシアの部下から借りた白衣をおんぶ紐代わりにして二人を背負うと、私は燐光を使ってリオちゃんの下に簡易カタパルトを作り上げる。
「え……? ちょい待ち、なにこれ!?」
「空の光、全部黒晶花だから。突っ切るなら速度があった方がいいと思う」
「そりゃそうだろうけどさ!? ウチ、変身しててもエリュシオンの速度に耐えきれる自信ないんだけど!?」
腕で大きなバツの字を作って必死に主張するリオちゃん。
でも、残り変身時間が少ないってわかっている以上は譲れない。戦力的には勿論、変身していない状態で今の採掘場に取り残されるのは危険だし、道標代わりのスマホを借りてしまっているのだ。
安全のためにもリオちゃんには絶対円盤に到達して貰う。
「大丈夫。自分で何度も使ってるから飛距離も速度の加減もわかるし、リオの周囲には燐光の障壁を一時展開しておくから」
「だから! エリュシオンの大丈夫とウチ等の大丈夫は別物なんだって!」
「合流したらラブリナさんに伝えておいて。相手のラブリナさんはラフィールで自分の不足を埋めているって」
私はリオちゃんの同意を待たず、有無を言わさずリオちゃんを円盤へと発射する。
燐光と一緒に打ち出されたリオちゃんは、禍々しい光の海を切り裂いて、円盤へ向かって見事な光のアーチを描いて飛んでいった。