魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第8話 喜劇王2

 リオが魔石採掘場へ到着する少し前、セレナ達は円盤の上で巨大な黒晶石の大樹と相対していた。

 

「おおー!? 皆気をつけるのです。この円盤、空を飛んでるのです!」

 

 円盤の緩やかな斜面に苦戦し、わたわたと危なっかしく揺れながら、ミコトが注意を促す。

 

「貴方が一番危なっかしいわ、揺れも少ないんだから落ち着きなさい。この高さから落ちたら大惨事よ」

 

 ナナミは転びそうなミコトの肩を持って支えてやると、円盤の中央に鎮座する黒晶石の大樹を見据える。

 

「ミレイ、まずは円盤の周囲に風の防壁を。この高さから落下すれば、余以外は無傷で済むまい」

「わかったにゃ!」

 

 クロノシアの指示を受け、ミレイが杖を構えて周囲に風の防壁を展開。

 それに合わせて全員が臨戦態勢をとる。

 

「ミレイさん、防壁の維持はこの後も最優先でお願いします。この円盤、周囲に黒晶花を散布し続けているようです。黒晶花は即ち全てモンスター、こちらへの侵入可能な限り防ぎたいです」

 

 ラブリナが自らの杖剣に黒晶石をまとわせると同時、

 

「……加えて、この円盤自体も地面ではなく脅威だと認識してください!」

 

 まだ残っていた採掘場の土を跳ね上げて、漆黒の円盤から黒晶石の塊が突き出す。

 突き出した黒晶石が妖しく輝き、黒晶石の機械甲冑へと変化する。それに続いて小さい黒晶石が次々突き出し、ウサギ人形へと姿を変えた。

 

「なるほどな、つまり余達は敵の背の上に居ると言うことか!」

「気をつけなさい。ウサギ人形はいいけど、あの甲冑は難敵よ!」

「大丈夫です、大物は私が受け持ちます。ナナミは自身とミコトの保護を主軸に動いてください。ヒーラーの欠損は即座に全体の瓦解へと繋がります」

 

 黒晶甲冑を迎え撃とうとするナナミを制し、ラブリナが黒晶石の杖剣に黒いオーラをまとわせ、黒晶甲冑へと斬りかかる。

 

「怪我の治療は任せるのです! 全身木っ端微塵ぐらいまでならこの場でも治せるのです!」

「ぐらいって、それ以上どんな凄惨な目に遭えって言うのよ!?」

 

 ウサギ人形の出刃包丁を曲刀で受け流しながら、ナナミが渋い顔をする。

 

「ならば余達はウサギ人形共を受け持とう。ミレイ、風の防壁を展開したままでも行けるな?」

「あのクソウサギ共なら余裕にゃ!」

 

 クロノシアが肉盾となって突撃し、ミレイと連携してウサギ人形達を引き付けていく。

 その隙にラブリナが黒晶甲冑を両断。次のモンスターが現れるよりも早く、もう一人の自分である黒晶石の大樹へと斬りかかる。

 だが、大樹の枝が鞭のようにしなって襲い掛かり、ラブリナは黒晶石の防壁を展開してそれを間一髪で防いだ。

 

「焦り過ぎだわ!」

「……その様です。あれが命中していたら、セレナの体を内側から食い破られていたことでしょう」

 

 飛び退いて間合いを取ることを余儀なくされたラブリナは、枝が払った軌跡に隆起した黒晶石を見て冷や汗を流す。

 

「思った以上に向こうの"私"が強いようです。欠片の大小に多少の差はあれど、セレナの体を借りている分、こちらが優位だと踏んでの短期決戦だったのですが……」

「クロノシア様、肉盾にはなれないかにゃ」

「ぬぅ、あれは明らかに危険だ。さしもの余とて死にはせぬが無傷とは言い切れぬ。少なくとも自由は奪われるであろうな」

 

 ウサギ人形の出刃包丁をおでこで受け止め、クロノシアが困った顔をする。

 

「むー、流石に私も黒晶石の拘束は治しようがないのです」

「モンスターを倒しながら、枝を地道に削っていくしかないわね」

 

 ミコトに傷を癒してもらいながら、ナナミが氷の魔法でウサギ人形の動きを牽制する。

 

「残念ながら、そう悠長に構えている時間もありません。私達黒晶石の魔王は、周囲が黒晶花によって侵食されるほど力を増します。故に私と相手の力量差はほぼ一定ですが、時間をかけ過ぎると皆さんが敵の強さに対応できなくなるでしょう」

 

 ラブリナの言葉を裏付けるように、再び円盤から黒晶石が突き出し、クマ人形、ゾウ人形、ライオン人形へと変化する。

 

「見たことない人形が出てきたのです!」

「余も知らぬぞ、この人形共は! 散布されている黒晶花によって、紅葉林の侵食が一段階進んだと言うことなのだな!?」

 

 ゾウ人形に突進され、一歩後ずさったクロノシアが叫ぶ。

 

「クロノシア様!? この人形つえーにゃ!」

「っ! ごめんなさい! 私も変身なしじゃ攻防することさえ厳しいわ!」

 

 ナナミはライオン人形の爪に抉られた右腕を抑えながら、ミコトにモンスターを近づけぬよう体を張って盾になる。

 

「なら、差し違える覚悟で攻撃すればいいのです! ナナミの傷は後ろの私が即座に治すのです、バーサーカー戦術なのです!」

 

 盾となったナナミの後ろで右腕の傷を癒しながら、目を輝かせてミコトが言う。

 

「平然と滅茶苦茶なこと言ってくれるわね、アンタ!?」

 

 口ではそう不平不満を言いつつも、ナナミは左腕をライオン人形にわざと噛ませ、返しの刃でライオン人形の喉元を突き刺す。

 致命傷を受けたライオン人形が傷口から黒い煙を立ち昇らせ、手を食いちぎられたナナミをミコトが瞬く間に治していく。

 

「痛っ……!」

「痛覚無効化もできるのです! ダメージ受けても痛くないように最初からしておくのですか?」

「止めておくわ。痛みがないと受けちゃいけないラインも判別できなくなるから」

「なら、ついでに手をもう一本生やしてみるのはどうなのです!? 触手とかも生やせるのです!」

「ちょっと、気軽に人間の尊厳を踏みにじるの止めなさいよ!? アンタ思考が天然で邪悪だわ! 暗黒教団か何かなの!? それ文句なしの悪癖よ! 即刻改めなさい!」

 

 傷を癒すついでに危険なオプションをお勧めするミコトに、ナナミが慄然としながら断固拒否をする。

 

「あの巫女ヤベーにゃ。クロノシア様とは違う方向性で強制肉盾できる奴にゃ、邪教の神官にゃ」

 

 そんなやり取りを横から眺めるミレイは大いにドン引きしつつも、クロノシアと連携してゾウ人形に有効打を与えていく。

 クロノシアが踏ん張ってゾウ人形を受け止め、ミレイがその横っ腹に火槍の魔法で大穴をあける。

 

「うむ、これで一波凌いだな」

「はい。ですが気をつけてください、私の力が増しています。次は更に強いモンスターが来ます」

 

 服の袖で頬の汗を拭うクロノシアに、手にした杖剣を黒晶石の大剣へと変化させながらラブリナが警告する。

 その言葉通り、円盤から突き出た黒晶石が人形へと姿を変え、ゾウ人形、ライオン人形、トラ人形へと変化した。

 

「クマがトラになったのです!」

「つまりトラが一番つえーってことにゃ」

「ううむ、なるほど。ラブリナ殿が言う通りこのままではジリ貧であろう。ラフィールが出てきていないのが幸運と言うべきか、懸念と言うべきか、迷う所だな」

 

 採掘場のあった方角へ一瞬視線を移し、クロノシアが浮かない顔で言う。

 

「残念ながら幸運よ。見なさい、別方向からも人形が来てるわ」

 

 冷や汗を流したナナミが視線を横に向けると、そこでは突き出た黒晶石がトラ人形とゾウ人形へと姿を変えている最中だった。

 

「ふふ、流石は魔王。乾いた笑いしか出ぬな」

「いいえ、これは異常です。欠片でしかないもう一人の私が、単独でこうも自由に動けるとは思えません。これだけの干渉が可能なら、最初からこんな迂遠な戦い方は不要なはずです」

「仕掛けがあるってことね」

「はい。ですがそれを看破できたとして、優位に運べるかは未知数ですが……」

 

 渋い顔で言うラブリナの横、更に黒晶石が突き出し、ライオン人形とクマ人形へと姿を変えていく。

 

「出現頻度も上がってきたにゃ これはいよいよヤバいにゃ!」

 

 三方向から押し寄せる人形の群れ、一同は密に集まり背中合わせで迎撃の構えを取る。

 

『フハハハ! 絶望しているかね諸君ッ!』

 

 それに追い打ちをかけるように、大樹前の床に見慣れた男の顔が映り、狂気に満ちた眼で一同を嘲笑う。

 

「あおおー! 社長なのです、デカ社長が円盤に映ってるのです!」

 

 目を丸くしたミコトが指差すと同時、ゴゴゴと地響きを立てて黒晶石の大樹周辺が盛り上がる。

 黒晶石の大樹をちょんまげのように頭に生やし、黒晶石で作られた巨大なゴードン社長の上半身が姿を現した。

 

『私は今、黒晶石の意志を理解した。力満ち溢れる美しい我が姿ッ! これこそが黒晶石の魔王が加護!』

「美しくはないと思うのです!」

 

 はいっと手をあげて主張するミコト。

 

『シャラップ!』

 

 巨大な黒晶石の手でミコトを指差し、社長が憤る。

 

「採掘場での社長は弱かったけど、流石にアレは強そうだわ」

 

 ライオン人形と差し違え、返す刃でクマ人形の額を割りながら、ナナミが苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「単純に円盤が狭くなるクソでかい図体だけで脅威にゃ」

 

 ゾウ人形の横っ腹に穴をあけながらミレイが言い、その上から社長が広げた手を振り下ろす。

 

「ミレイ、上です!」

 

 トラ人形を相手取っていたラブリナが咄嗟に黒晶石の障壁を作り上げ、ミレイへと振り下ろされた社長の掌を受け止める。

 

「無事かミレイっ!? お前が倒れてしまえば余は無力ぞ!」

「クロノシア様、すまんにゃ!」

 

 その隙にクロノシアがミレイの手を引っぱり、命からがらミレイを掌の下から助けだす。

 だが安堵する暇もなく、円盤に黒晶石が突き出し、次の人形へと姿を変えていく。

 それを待たず、振り下ろされた社長の手が今度はミコトを狙う。

 

「このままでは傷を癒す暇もないのです。ずっともぐら叩きのもぐら役なのです……」

 

 カバーに入ったラブリナに助けられながら、ミコトがしょんぼりと項垂れる。

 

『フゥハハハハ! 愉悦ッ! 散々私の計画を邪魔し、コケにしたお前達の絶望ッ! これだッ! これこそが私の求めていたエンターテイメントだッ!』

 

 そんな一同を見下ろし、巨大社長が上から愉悦の叫びを降らす。

 

『さあ、絶望と共に黒晶石に傅き、魔王の忠臣であり代行者である我が糧となれッ! ラブリーッ!』

 

 そして、両手をこれ見よがしに振り上げ、人形の対処に奔走するラブリナ達をまとめて叩き潰そうとする。

 その時だった、

 

 夜空に放物線を描いて打ち上がった一筋の閃光が、円盤の更に上空から飛来。

 その閃光は軌道上にあった社長の右腕を粉々に粉砕し、更に円盤の一部を深々と抉り取った。

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