魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第8話 喜劇王4

 黒晶花が次々と舞い降る中、私は纏う燐光と緊急配信の視聴者さんのナビゲートを頼りに、闇を掻き分け紅葉林をひた走る。

 

 "現在位置中央12番ライブカメラの南方200メートル"

 "あ、12番ライブカメラにクマ人形とブラッディイエティ沢山映ってる。イエティ完全な場違いモンスターだから気をつけて"

 

「ありがとう」

 

 私は展開する燐光の領域を広げ、光の剣に組み替えてライブカメラに映っていたモンスターを纏めて切り裂くと、上空の様子を確認する。私と並走するように黒晶石の円盤が飛翔していた。

 進行方向が同じなのは恐らく偶然じゃない。地上からの侵食が遅れている紅葉林拠点周辺を、空から無理やり花を降らせて侵食しようとしているからだ。

 だとすれば、円盤が到達するよりも早く二人を拠点に送り届けたい。

 

「後ろの二人も大丈夫?」

「はいー」

「ちょっと目が回りますけど大丈夫れすぅ」

 

 私の問いかけに、背負った二人が反応を返してくる。

 とりあえず加速で潰れていなくて一安心。背中の乗り心地が良くないのは我慢してもらうしかない。

 

 "あ、中央13番ライブカメラにモンスターの群れ映ってる"

 "ライブカメラにモンスター映るけど、エリュシオンちゃんの所までは来ないねー"

 "そりゃ避けて通ってるんだから当然だろ"

 

 なんだかまったりとした空気を出し始めているコメント欄。

 モンスターは画面外で全滅しているし、質問にはできる限り答えているけれど、私のトークスキルは残念ながら絶無。見所は何もない。

 普通の配信だったら誰も見てくれないのを確信できてしまう惨状だ。少なくとも私なら見ない。

 

「え、ええと、見つけたモンスターは配信に映る前に積極的に倒してる、から。感謝してます」

 

 このままだと視聴者さんが居なくなって援護がなくなるかも、って危機感を覚えた私は、スマホをモンスターの居る方へと向け、燐光を変化させた剣がモンスターを斬り裂いている光景を映してみる。

 ダン特の人達の負担にならないよう、むしろモンスターは積極的に倒しに行っているのだ。

 どうせモンスターは来ないと思われて、発見報告して貰えないようになったら困る。

 

 "遠いのと一瞬なのとで何か光ったことしかわかんない……"

 "中央13番ライブカメラに映ってたけど、オート操作っぽい光剣がモンスターを切り刻んでた"

 "ああ、はいはい、理解しました。完全制圧圏が数百メートル単位であるだけの話なのね"

 "よくよく考えたら、モンスターになる花が降り注いでるのに上からの襲撃ゼロなのおかしいもんな……"

 

「すみません。中央14番ライブカメラの様子を教えてください」

 

 コメントに助かっていることをアピールした後、私は拠点最寄りであるライブカメラの様子を尋ねる。ライブカメラの番号的にもうそろそろのはずだ。

 

 "ずっと見てたけど映ったのはカボチャ2匹とパンダ1匹。地上にあの花もないし、ここだけは相変わらず安全地帯っぽいねー"

 

 だばだばと現れては流れ消えていく視聴者さんのコメント。私は有益情報を見逃さないよう目を凝らす。

 正直、コミュ障を自称する私にとって、モンスターの相手をするよりも余程疲れる。

 今度リオちゃんの配信を見て、どんな風にやっているのか勉強した方がいいのかもしれない。

 

「ありがとう」

 

 とりあえず、今私にできることはお礼を言うことだと考えて、視聴者さんにお礼を言ってラストスパートをかける。

 

 "あ"

 "ヤバい"

 "エリュシオンちゃん、上~~~っ!"

 

「ぴゃああ! エリュシオン、円盤が! 円盤が!」

「墜ちてるぅ!?」

 

 俄かにざわめきだしたコメント欄に何事かと尋ねるよりもはやく、私の背中でクロノシアの部下二人が絶叫する。

 慌てて空を確認すれば、黒晶花の光の海に小さく浮かぶだけだった円盤の黒い影が、破片をまき散らしながらこちらへと急接近していた。

 間違いない、墜落する!

 

「二人は自分の頭を守ってて!」

 

 私は走る足を止めず、燐光の密度を上げて円盤からの落下物に備える。

 これ、いい展開なのか、悪い展開なのかどっちなんだろう? とりあえず、セレナちゃん達が落っこちる姿が見えたら助けないと。

 そんなことを考えて警戒する私を追いかけるように、砕けた円盤の破片が木々を薙ぎ倒しながら盛大に跳ね転がっていく。

 円盤の破片が黒晶花を花吹雪のようにまき散らし、モンスターと共に私へと迫り来る。

 

「二人とも掴まってて、迎え撃つから」

 

 私の背中にはクロノシアの部下二人が居る。

 背を向けて逃げるのはハイリスクだと判断し、私は振り返って迫る破片を迎え撃つ。

 即座に燐光で破片を跡形もなく消し去り、花吹雪から変化したモンスターの群れを舞い踊らせた光剣で斬り刻む。

 

「すみません、他のライブカメラの状況を教えてください!」

 

 私はスマホに向かってそう言うが、さっきまで賑やかだったコメント欄はピタリとコメントが止まっていた。

 あれ、私何か粗相しちゃった? それとも停止ボタン押し間違えちゃった? 凄い不安覚える、気が気じゃない。

 

「え、エリュシオン! 魔石通信が途切れてます!」

「円盤の黒晶石によって、魔力異常が引き起こされているからだと思われます!」

 

 危うく挙動不審になりそうだった私の背中で、クロノシアの部下二人がそう教えてくれる。

 流石、社長の所で無理やり黒晶石を研究させられていただけのことはあるね。おかげで私も落ち着けた。

 

「だと思う。前回黒晶石の魔王と対峙した時も同じ状況になったから」

 

 破片が飛来した方向へと向き直れば、テラーニアの時と同じように半球状になった黒晶石がドームを作り始めていた。あそこに墜落した本体があるんだろう。

 急がないとまた出入口を塞がれてしまう。前回と違って突入前から魔力異常になっているのは、あそこにもう一人のラブリナさんの欠片も居るからなんだろうか。

 

「く、クロノシア様もあそこに居るんですよね!? 私達は大丈夫なので行ってください!」

「全く大丈夫じゃないよね」

 

 空中から黒晶花を散布していた円盤は墜落した。拠点付近は侵食もなく、ダン特の人達が防衛にあたっている。

 運良くモンスターと出会わない可能性も、それなりにはあるかもしれない。

 でも、それをしてしまったら本末転倒もいい所。私やクロノシアはこの子達を助けるために必死になっているんだから。

 

「私達を送って行ったら間に合いませんよね……!」

「だからと言って放置できないよ。黒晶花から変わったモンスターだけじゃなく、普通のモンスターも居るんだから」

 

 私は木々の間から現れたカボチャお化けとパンダモンスターへ視線を向ける。

 黒晶花の侵食がなくとも紅葉林は元々十六層。戦闘に不向きなこの子達がモンスターに出会った場合、生き延びられる可能性は限りなく低い。

 

「うおおお! シールドチャージ!」

 

 と、私がモンスターを倒そうとするよりも早く、パンダが大盾で勢いよく吹き飛び、カボチャお化けの頭部が大剣でざく切りにされてしまった。

 何事かと驚く私の前、姿を現したのはダン特の人達だった。

 

「話は聞かせてもらったぜ、エリュシオン! ダンジョンでの人助けは俺達の仕事、この子達の護衛は任せな!」

 

 大剣を持ったダン特の人がサムズアップして自らを指差す。

 

「ダン特の人達、どうしてここに?」

「配信、見てたよ。近くまで来ているようだったから、援護に入ろうと思ったのさ」

「この近辺のモンスターなら、俺達でもまだ余裕があるからね」

 

 爽やかな笑顔で言うダン特の人達。

 そっか、私が配信している姿を見て連携してくれたんだ。言われてみれば当然のことだけど、私の見えない所で同じように戦っている人は沢山居て、その人達と配信越しに協力することもできる。

 リオちゃんがいつも配信している意味、少しだけわかった気がする。

 

「でも、流石にあっちは俺達じゃどうしようもなさそうだ。だからエリュシオン、すまないが君に任せる!」

「ほら、行ってください! 貴方の強さ、私達は身に染みるほど知ってますから!」

 

 迷う私の背中を叩くと、クロノシアの部下二人は自分でダン特パーティの方へと走っていく。

 ここまで来たら覚悟を決めて、一緒に戦う仲間を信じろってことだよね。

 

「……わかりました。二人をお願いします」

「任せてくれ。さっき、この子の友達を止めるしかなくて悔しかったんだ。ダンジョン特別戦闘部隊の名にかけて絶対に守り切るさ」

 

 力強くそう言って、クロノシアの部下二人を担いで拠点へと急ぐダン特のパーティ。

 ナナミちゃんが言っていた通り、この人達も本当は悔しかったんだ。そんな人達の気持ちも受け取ったんだから、私はその期待を絶対に裏切れない。

 

 ラフィールと決着をつけ、セレナちゃん達を助ける。それが私に託された使命。

 私はセレナちゃん達を助けるべく黒晶石のドームへと急いだ。

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