魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
「ぬぅ、全員無事か!?」
円盤によって薙ぎ倒された木々の間から顔を出し、クロノシアが周囲の様子を確認する。
「こっちは全員無事よ。変身時間がギリギリ間に合ったわ」
しがみついているリオとミコトを降ろしつつ、変身解除されているナナミがクロノシアの呼びかけに返答する。
「ラブリナ、黒晶石の円盤が落っこちたってことは、もう一人のお前を倒せたってことかにゃ?」
遅れてクロノシアの横から顔をだしたミレイが、灰となって消え去っていく大樹を眺めるラブリナに声を掛ける。
「はい、予定通りに。後は砕けたもう一人の"私"を、私が取り込めば完全決着となるでしょう」
ラブリナがそう言うと、既に灰となっていた黒晶石の大樹が完全に消失し、そこに小さな黒晶石の破片が残った。
「あれが、もう一人の私です」
それを確認したラブリナは自らの杖剣に黒晶石を侵食させ、もう一人のラブリナである破片に剣を突き立てようとする。
「すまない、我が友よ。まだそれをさせる訳にはいかないのだよ、吾輩には先約があるのでね」
が、その剣は仮面を着けたラフィールの手によって受け止められ、もう一人のラブリナである破片はラフィールに拾い上げられてしまう。
「ラフィール、決着はつきました。貴方の在り方、変えてくれませんか? 記憶の無いこの身ではありますが、私を友と呼んだ貴方を倒すのは心苦しいです」
「無論、こちらも心苦しいのだよ。されど、その返答は否だ。吾輩とて黒晶石の魔王としての矜持がある。ここで日和って終わるような舞台では、喜劇王の名がすたると言うもの」
受け止めていた杖剣ごとラブリナを投げ飛ばし、ラフィールがパチリと指を鳴らす。
辺りに散らばっていた円盤の破片がどろりと溶け出し、タールのような粘つく液体となって地面を這い進み、ラフィールへと集う。
それと同時に周囲に黒晶石の壁が作り上げられ、紅葉林が闇より深い黒によって隔てられていく。
「残念です」
受け身を取ったラブリナが杖剣を構え、それに続いてクロノシア達も臨戦態勢を取る。
だが、それをラフィールが手で制止し、自らの周りに黒い嵐を吹き荒らす。黒い嵐が絡みつき、黒晶石となって全員の手足を地面へと縫い付けた。
「ラブさん! なんとかできない!?」
「残念ながら……。セレナの安全を確保する必要がある以上、今の私にこれを砕く術はありません」
「ぬぅ、満を持して登場という訳だな。バケモノめ……!」
「無益な抵抗は止めておきたまえよ、ラブリナ、そして諸君! 消耗著しい諸君等では吾輩に勝つことはできまい。これより先、諸君等はよき観客であってくれたまえ」
睨みつける一同の視線を飄々と受け流し、立てた人差し指をチッチッチッと振るラフィール。
その足元に溶けた黒晶石が集い、円形舞台を作り上げていく。
「刮目ッ! さあ展開せよ! 我が舞台!」
蠢き、組みあがり、せり上がり、大地を侵す黒晶石の大舞台。
それは即席の舞台と呼ぶにはあまりに華々しく、そして禍々しい。
「さあ、準備は整った。諸君等が吾輩を魔王と呼ぶのなら、クライマックスは吾輩が立ち塞がらねば始まるまい! そして、向かい立つべき相手はただ一人! 我が友が選んだ憎き仇敵! 夜に一等明るく輝く天狼星! いざ来たまえよ、魔法少女エリュシオンッ!」
舞台の主役の如く両手を広げるラフィールの前、夜の帳を引き裂いて、黒い舞台を打ち砕き、舞い降りたる銀の燐光が一つ。
「人の助けを呼ぶ声あらば、燐光纏いて私は来よう」
ラフィールの呼び声に応えて姿を現した最強の魔法少女は、白いレオタードのような
「くつくつくつ、お出ましかね。……さて、吾輩の意地に付き合ってもらうとしよう、エリュシオン!
***
黒晶石の舞台を踏み砕き、吹き荒れる黒い風の中で私はラフィールと対峙する、
視線を動かして舞台の外で私達を見上げる皆を確認すれば、黒晶石によって足を地面に縫い付けられ、自由を奪われていた。
皆が一か八かの反撃に移る前に来れてよかった。皆は見るからに疲労困憊で、状況はどう見ても詰んでいた。
「彼女達が気になるかね? 安心したまえよ、今これより舞台はキミと吾輩のためのもの。余計な茶々を入れてこない限り、吾輩や人形達が観客である彼女達に手を出すことはないと誓おう」
「……わかった。皆は見ていて、ラフィールの相手は私がするから」
社長やクロノシアの部下達は駒程度にしか見ていないラフィールだけど、対等な友人であるラブリナさんにだけは誠実だ。
"彼女達"の中にラブリナさんが含まれている以上、今のラフィールの言葉も信頼できる。
「人生は筋書きのないドラマとはよく言うがね、こうも吾輩の目論見が外れるとは思わなかった。さて、故に吾輩はキミに一つ問いたい。吾輩とキミ、同じラブリナを救おうとする者であるが明暗が分かれた。その理由、なんだと思うね?」
「簡単だよ。君はラブリナさんしか救おうとしていない。だから誰も力を貸してくれない、だから本当に救いたい相手も助けられない」
私は迷いなく答える。
私がセレナちゃんとラブリナさんを守ることだけを優先し、クロノシアが自分の部下を助けることだけに執心していたら、きっとここに至るまでの間に欲しかったものを零していたはずだ。
「くつくつくつ、なるほど、なるほど、魔法少女らしい善き模範解答だ」
そんな私の返答を聞いて、ラフィールが芝居がかった笑いを漏らす。
「だから……君が歩み寄ってくれるのなら、私は君の前にも手を差し出すよ」
「無論、断るとも! それにキミは一つ勘違いをしている。キミが助け、拾い上げたと勘違いしているその全て、今ここで吾輩に負ければ無に帰すのだよ!」
私に対する拒絶の言葉と共に、砕けた舞台で吹き荒れる黒い嵐が勢いを増す。
ラブリナさんの友達だから少しだけ信じたかったけど、残念ながら分かり合える目はないらしい。
なら、私は負ける訳にはいかない、容赦する訳にはいかない。ラフィールが言う通り、ここで私が負ければ全てが水泡に帰すんだから。
「それに実は吾輩、魔法少女なる者が嫌いでね。大層な理想論ばかりを掲げ、結局は負けて心折れる。そんな道化、嘲笑う以外に価値もなかろうよ」
「そう。喜劇王を名乗る癖に、理想を抱えて駆け抜ける覚悟を信じられないんだね。折れて、言い訳を見つけて、妥協する。そんな物語、何もしなくたってそこかしこに転がっている。そんなもので満足するなら、私が魔法少女に変身する必要なんてないんだよ」
「ククク! 言うね、キミィ! 愉快な大言壮語をありがとう! ならばしかと見せてみたまえよ! その全て、折れず、零さず、駆け抜ける覚悟とやらを!」
ラフィールがラブリナさんの欠片であろう黒晶石を手に取り、自らの胸元にさげた黒晶石のペンダントへとはめ込む。
そして、
「ラブリナ、暫し吾輩の意地に付き合ってくれたまえ。……マナチェンバーイグニッション!」
ペンダントを構えたラフィールがそう叫ぶと同時、舞台の上で吹き荒れていた嵐がラフィールの周囲で渦を巻く。