魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

70 / 190
第8話 喜劇王6

 ラフィールに張りつく黒晶石が、その衣装を黒く禍々しいものへと変化させていく。

 その姿は元々のバニーガールみたいな意匠こそ残っているけれど、まるで

 

「魔法少女……!?」

「くつくつくつ、そんな容易く折れる連中と一緒にされては心外だとも! 我こそは魔王、黒晶石が魔王が一人! 喜劇王ラフィール! かの怪獣王テラーニアを倒したその輝き、黒き絶望の闇に堕とし、その姿を嘲笑って見せよう!」

 

 黒晶石によって浸食されたステッキを構え、決め台詞を言い放つラフィール。

 

「悪を断つ銀のシリウス、魔法少女エリュシオン。残念だけど、君は私を嘲笑えない。堕ちない、折れない、零さない。それが魔法少女と言う舞台に上がる私の覚悟だから」

 

 でも、私は怯まない、ぐらつかない。毅然と構えを取ってラフィールを迎え撃つ。

 今ここに立っているのは私一人でも、後ろに皆の想いを背負っているのだ。それがラフィールと私との決定的な違い。

 私が甘え妥協してしまえば、皆が託した想いが、頑張りが、全部妥協の産物に成り下がってしまう。

 そんなこと、他の誰が許しても私自身が絶対に許さない。

 

「御託は結構! ならば駆け抜けるとしよう! 決着の時、幕引きの瞬間まで!」

 

 ラフィールが宣言すると同時、私の足元の黒晶石がうねり、私とラフィールを跳ね上げようとする。

 皆を巻き込むリスクを可能な限り避けたい私は、その誘いを受けて立ってラフィールと共にわざと空へと跳ね上げられる。

 

「さあ、我が劇団員諸君! 喜劇王たる吾輩の筋書きが気に入らない魔法少女クンには、犠牲者役にでもなってもらおうか!」

 

 宙に浮くラフィールの周りで黒晶石が渦を巻き、夜空に大劇場を作り上げる。

 大劇場から現れたウサギ人形の群れが、出刃包丁を構えて次々と私へと打ち出されていく。

 その着弾を待たず、続いてトラ、ライオン、ゾウ、様々な人形が肉弾となって私へと襲いかかってくる。

 

 けれど、ラフィールは一つ判断ミスを犯している。

 ここは空中、私の攻撃が周囲を巻き込みにくい場所。つまり、私はいつもみたいに周囲の被害を気にして加減する必要がない。

 

「断空する銀の腕」

 

 私は腕を横に薙ぎ、衝撃で襲い来る人形全てを空間諸共に両断、更に展開されている黒晶石の大劇場を両断する。

 

「たった一撃で吾輩の舞台が!?」

「三文芝居はもう要らない。君自身を見せてよ、ラフィール。君のラブリナさんに対する想い、受け止めた上で倒すから」

「くくっ! 言うねぇ、キミィ! その慢心、後悔してくれたまえよ!」

 

 ラフィールがステッキを構えて空を蹴る。

 その次の瞬間、ステッキを振り下ろすラフィールが私の目の前に現れた。

 やっぱり。この魔力操作のタイプ、見た目通り魔法少女と同質のものだ。けれど……私よりも、遅い。

 

「君の本気、受け止めたよ。やっぱり……この舞台の幕を引くのは私だね」

 

 私はラフィールの攻撃を片手で受け止めると、くるりと空中でバク宙しながら身を捻る。

 

「振り下ろす銀の流星<エリュシオンハンマー>」

 

 そして放つ必殺の一撃。

 反撃のかかと落としがラフィールを地上の舞台へと打ち落とす。

 真っ二つに両断されたラフィールが舞台へと叩きつけられ、砕けて跳ね上げられた舞台とラフィールの欠片が、紅葉林に白い輝石の雨を盛大に降らせていく。

 これで黒晶花の侵食も収まる、完全決着だ。そう思って着地した私の前、両断されているはずのラフィールが体を繋ぎ合わせて立ちあがった。

 

「ラフィール……!」

 

 まさか倒し損ねた? 違う、手応えはあった。確実に倒している。

 

「くつくつくつ、安心したまえ、これは命を振り絞ったロスタイムと言う奴さ。ああ、なんたる皮肉。なんたる悲劇的喜劇。この喜劇王ラフィール、最後に嘲笑うは己自身のようだ」

 

 ラフィールが笑いながら言う通り、その体はつま先の辺りから灰になり始めていた。

 

「キミのおかげでようやく思い出したよ。何故、吾輩が魔王になってまで力を求めたのか……私は己を見失った我が友を、ラブリナを戻してやりたかった。キミの隣に居るラブリナのようにしてやりたかったのだよ。なのにこの有様、笑う他はなかろうとも」

 

 とつとつと語るラフィールの体は刻一刻と灰色に染まっていく。

 

「嘲笑うのはやめなよ。君のその想い自体に笑う所なんてないんだから」

「ふっ、実に小憎たらしい魔法少女だ。つくづく気に食わないなキミは。ではこのラフィール、最期に一つキミに問おう。堕ちない、折れない、零さない。さっき述べたその大言壮語に嘘偽りはないかね?」

「勿論」

「ならばよし! 聞いているかね、我が友ラブリナ! キミのことはこの小生意気な魔法少女に託した! 見せてくれたまえよ、エリュシオン! 君が本当に折れぬ止まらぬ零さぬと言うのなら! 果てへと進み、大海嘯を制し、閉じられた楽園(エリュシウム)の扉を開けたまえ!」

 

 ラフィールは黒晶石の仮面を外してにやりと私に笑いかけると、もう一人のラブリナさんの欠片を手渡してくる。

 

「そして願わくば、我が友ラブリナを君の駆け抜ける果てまで共に連れて行ってあげてくれたまえ! ……グッドラック、魔法少女クン!」

 

 そう言い残すと、全身を急速に灰色で染め上げたラフィールは砂となって跡形もなく消え去った。

 

「……君がラブリナさんに向ける優しさ、ほんの少しでも別の人達にも向けられたら、君も一緒にラブリナさんの手を引いて進むことができただろうに」

 

 私は灰となった黒晶石の中に残された大きな白い輝石を手に取ると、物悲しい気持ちでそう呟く。

 

「オーゥ!? なんだ、これは!? ユー達は何をしているんだッ!?」

 

 そんなしんみりとした気持ちを、何度も聞いた社長のハイテンションボイスが一瞬で台無しにしてくれる。

 どうやら、黒晶石が消え去ったことで社長さんも無事解放されたらしい。凄く元気だから多分後遺症とかもないだろう、しぶとい。

 

「私に何をするつもりだ! ダン特、ダン特を呼ぶぞッ!?」

「いやいや、ダン特目の前に居るから。呼んだ所で逮捕に決まってんじゃん」

「当たり前よ。そもそもこれ、ゴードン社長が違法行為に違法行為を重ねた結果よ。完全な諸悪の根源じゃない」

 

 わめき散らして逃げようとする社長。

 それを逃がさないよう、リオちゃんとナナミちゃんが行く手を阻む。

 

「弁護士だッ! 我が社の顧問弁護士を呼べッ!! 私は恐らく黒晶石によって洗脳されていたッ!」

「通る訳がなかろう。その前に地下組織に助力を乞い、余達を魔石採掘場へと押し込んでいたであろうに」

「いい加減観念しろにゃ」

 

 更にクロノシアとミレイが取り囲み、逃げ場を失った社長が支離滅裂な自己擁護を繰り返す。

 凄い見苦しい。あんな往生際の悪い行為、私じゃ絶対にできない。ある意味尊敬する。真似はしたくない。

 

「どうしよう、あれ……。なんとか説得でわかってくれないかな……」

「お任せくださいなのです! 私、説得とか大得意なのです!」

 

 苦笑している私に気付いたミコトちゃんが、キラキラと目を輝かせてぽふんと胸を叩く。

 確かに暗黒教団の姫巫女だったミコトちゃんは説得とか得意そう。社長を縛り上げて無理矢理連行するよりは、ダメ元でチャレンジして貰った方がいいかもしれない。

 

「うん、お願いできる?」

「心得たのです!」

 

 エリュシオンに頼まれたのが余程嬉しかったのか、軽やかな足取りで社長を取り囲む一団の輪へと加わっていくミコトちゃん。

 

「お疲れさまでした、エリュシオン」

「うん、そっちもお疲れ様。これ、ラフィールともう一人のラブリナさん」

 

 私はやって来たセレナちゃんに、もう一人のラブリナさんの欠片と、ラフィールの核だった黒晶石を手渡す。

 

「ありがとうございます、エリュシオン」

 

 それをセレナちゃんと入れ替わったラブリナさんが受け取った。

 

「ううん、これは私が持っているべき物じゃないと思うから」

「言葉が足りませんでした。それもありますが……最後のラフィールへの返答、心強かったですよ」

 

 言って、ラブリナさんが微笑む。

 多分、ラフィールが最期に命を振り絞って時間を作ったのは、友達を失って人の世界に残るラブリナさんへの置き土産だったんだろうなって思う。

 今更言っても詮なきことだけど、本当にほんの少しだけ歩み寄ってくれれば、全く違う結末になったんじゃないのって思ってしまう。

 

「今から私は欠片を取り込みます。今の私を可能な限り維持するため、暫く眠ったようになるかと思います。大丈夫であるよう私なりに善処しますが、暫くはセレナの体調を気にかけてあげてくださいね」

 

 そう言い終えると、ラブリナさんが胸にもう一人の自分である黒晶石を押し当てて取り込み、そこでセレナちゃんへと切り替わる。

 

「ラブリナさん、眠ったみたいです。これで本当に一段落、ですね」

「うん。セレナちゃんの方は大丈夫?」

「はい、今の所は体調に変化はありません。長期的な変調は要経過観察と言った所でしょうか」

 

 ぽんとラブリナさんの欠片が入った胸元に手を当て、セレナちゃんが目を閉じて言う。

 私が見る限りセレナちゃんの顔色は悪くない。本当に後はラブリナさんが起きてからどうかって感じなんだろう。

 

「わかった。私は先に行くから。ラブリナさんが起きたら気にかけてあげてね。ラフィール、結局倒すことになっちゃったから」

「うふふ、はい。エリュシオンは優しいですね。皆が皆を気にかけていれば、世界はきっと今より少し優しくなると思います」

 

 そう言って笑うセレナちゃんをその場に残し、私は変身解除するために一足早くこの場を立ち去っていくのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。