魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
エピローグ
それから少しして、私はセレナちゃんと一緒に紅葉林の拠点を訪れていた。
紅葉林拠点の転移装置はダンジョン学園と繋がっている。その関係なのかはわからないけれど、紅葉林はダンジョン学園の管轄エリアとなっていて、当然エリア責任者は学園長代理であるセレナちゃんになる。
そして、拠点ができたことによる攻略最前線"海岸丘陵"へと向かう人々の増加、ちゃんと黒晶花がなくなっているかの定期巡回、国有になった採掘場への企業参入、今の紅葉林はとっても賑やかで忙しい。
つまり、セレナちゃんも大忙し。私はその付き添いだ。
「へぇ、それじゃクロノシア達はそのまま拠点の係員さんになったんだ」
「うむ、就職のあてもなかった故な。暫くは住み込みではあるが、待遇も悪くはない」
セレナちゃんがエリア開発の人と打ち合わせしている間、私はソファに腰かけてクロノシア達と話をしていた。
全員まとめてダンジョン庁の制服姿になっているクロノシア達ご一行曰く、私達が帰った後も拠点整備は続いていて、見違えるほどに設備も充実しているらしい。
今話しているこの場所も、到底ダンジョンの中だとは思えない清潔感のあるオフィスになっていて、観葉植物もあれば、ウォーターサーバーまで設置されている。
「でも、せっかく違法採掘場から抜け出したのに、結局ダンジョン住まいなのはキツイね」
「そんなことないですよー。ちゃんと綺麗な個室もありますし、通販だって届くんです! 外出だって転移装置を使えば簡単ですし!」
「何よりお給料がいいのでありますっ!」
デスクでパソコンを使っている白衣の子とゴーグルの子が口々に言う。私がおんぶして紅葉林を運んだあの子達だ。
地球侵略に来た時は宇宙でUFO暮らしだったろうし、意外とダンジョン暮らしでも気にならないのかもしれない。
「お前が思ってるより居心地いいから気にするにゃ。観葉植物とかを運ぶのに手数料がクソ高いのは残念だけどにゃ」
「ああ、種とかは通っちゃうらしいけど、魔力登録してない生き物は基本的に植物でも転移装置通らないもんね……」
そう言われて、私はオフィスの片隅にある観葉植物を再度まじまじ見つめる。何の変哲もないあの観葉植物は、きっと幾つもの階層を越えてここに来た歴戦の観葉植物に違いない。
そういう所に拘りのない私としては、そこまでして緑が欲しいのかなって風情のないことを思ってしまう。
「そういう訳で余達はそれなりに楽しくやっている。お前達の方は……攻略最前線に足を伸ばすのであろう?」
「うーん、セレナちゃんの体調が悪いし、多分すぐにではないかな。ゴードン社長がラブリナさんの欠片を見つけたのも攻略最前線らしいから、いずれは行くことにはなると思うけど……」
クロノシアに言われ、私は改めてそのことを考える。
ラフィールは果てへと進み、楽園の扉とやらを開けろと言っていた。その果てとは、恐らくこのダンジョンの最奥のこと。
なら、きっと私達は攻略最前線を越えて更に進む必要が出てくる。
「そうか、あれだけの力持つラブリナ殿をその身に取り込んでいるのだ、体に相応の負担はかかるのであろうな」
「そうそう、社長と言えば、お前はあの後社長に会ったかにゃ?」
「え、会ってないけど何かあったの?」
「ああ、あの時こりすは別行動だったから事の顛末を知らぬのか」
げんなりした顔のクロノシアとミレイに、私ははてと首を傾げる。
ミコトちゃんが「しっかりと説得できたのです」ってドヤ顔してたのと、社長が元社長になっちゃったのは知っているけど、他にもおかしなことになっているんだろうか。
「ミソノ、あれを見せてやれ」
「了解ですっ!」
クロノシアの指示を受け、白衣の子がノートパソコンに動画を映してくれる。
動画にはゴードン社長が映っていた。あれ? なんか、凄く目が澄んでる。不自然なぐらい曇りなくキラキラしてる。なんだろう、嫌な予感がする。
『この度はユー達に多大な迷惑を掛けてしまったことを深くお詫び申し上げる。そして我らが尊き神、エリュシオン様に無限の感謝を。ありがとう、ありがとう』
あ、もう、この瞬間で嫌な予感が確信に変わってしまった。
『尊きエリュシオン様の御心に触れ、私は己の行動がいかにカルマを積み重ねていたのかを理解した。これからは浄罪に励み、日々エリュシオン様への清浄なる祈りを捧げ続けよう。そして、魂を磨いて次なるステージにアセンションさせるつもりだ。ありがとう、ありがとう』
「か、完全に心が旅立ってしまわれている! スピリチュアルな方向へ!」
私、毎日この社長に清浄な祈りとやら捧げられちゃってるの!? 怖いよ! 本当に止めていただきたい!
『ダンジョン庁と交渉し、君達が採掘場でした労働分の給金を手配するようお願いしてある。この度は本当にすまなかった。君達にもエリュシオン様が与える無限の祝福があらんことを。ありがとう、ありがとう。ありがとう、ありがとう』
清らかな目で両手を合わせ、祈りを捧げる社長。そこで動画は終わった。
「う、うあああああ…………」
「な、ヤベーにゃろ?」
「ヤバいなんてもんじゃないよぉ!? こんなの完璧に洗脳だよ!? ミコトちゃん、なんてことしてくれちゃってるのぉ!?」
知りたくなかった。知らなければ幸せだった。過呼吸になりそう。
エリュシオンの正体露呈が絶対に許されない理由がまた一つ増えてしまった。
「ミコトの奴、エリュシオンに頼まれたと意気揚々でな、誰が制止しても止まらなかった。あ奴、清らかな見た目をしているが中身は無垢なる邪悪そのものぞ」
うあああああ! そうだった、ミコトちゃんに説得頼んだの私だった!
押し寄せてくる因果応報! あの時の私に後ろからドロップキックしたい!
で、でも、ミコトちゃんの説得が洗脳の隠語状態になってるなんて知る訳がないし! って言うか、ミコトちゃんとしては普通の説得したつもりみたいだったし!
「うう、なんか凄く疲れた……。セレナちゃんの打ち合わせも終わってる頃だろうし、私今日はもう帰るね」
どっと疲れてしまった私は、ソファから立ち上がってふらふらと立ち上がる。
「酷いもの見せてすまんにゃ」
「いいよ、自業自得な面もあるし……」
っていうか、完全に自業自得だ。誰かに怒りをぶつけることすらできない。
「待て、こりす。一つだけ大切なことを忘れていた」
意気消沈しながらオフィスの扉を開けた所で、クロノシアに呼び止められ、私は振り返る。
「余とお前達の同盟、この件が終われば解消すると決めていた訳ではない、故に今も継続中だ。余達も今やダンジョン勤務の公務員。忙しい身の上ではあるが、それでも同盟相手の窮地には協力するのもやぶさかではない」
「クロノシア様は、仲間なんだからピンチになったら呼べって言いたいのにゃ」
回りくどい言い方をするクロノシアの代わりに、にっと笑ってミレイが言う。
改めてクロノシアの顔を見れば、クロノシアは照れくさそうにそっぽを向いた。
「ふん。ラブリナ殿と共に在る限り、お前達がトラブルに巻き込まれるのは明らかだからな」
そっぽを向いたまま、クロノシアがちらっと私の方を見て言う。
「……うん、ありがとう」
思わず緩んだ笑顔になってしまう私。
変な狂信者さんは増えちゃったけど、かつては敵だったクロノシア達とこんな風に仲良くなれた。
色々と頑張って良かったなって、そう思える。