魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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3層 海岸丘陵 -高慢王-
第9話 行進の巫女1


 

  第一話 行進の巫女

 

「だからー、何度も断ってるじゃないですか」

 

 その日、セレナちゃんに呼ばれて学園長室にやって来た私を出迎えたのは、リオちゃんの嫌そうな声だった。

 扉を閉めて何事かと様子を窺えば、嫌がっているリオちゃんの向かい側、ソファに寝そべっているカレンの姿があった。

 カレンは着ている服こそスーツだけど、胸をはだけさせている上にキツネ耳も九本の尻尾も丸出し。リラックス全開だけど、うっかり他の誰かに見られた大問題じゃないの、これ。

 

「こんこ、こんこ。妾も断るは通じぬと繰り返し言っておるぞ」

 

 優雅に寝そべるカレンが愉快そうに笑って言い、それを聞いたリオちゃんの眉間に皺が寄る。

 このやり取りだけで大体理解できてしまった。カレンがリオちゃんに無理難題を押し付けようとしてる奴だ。

 私まで巻き添えを受けたら堪らない。私は口論するリオちゃん達に近づかぬよう、抜き足差し足でセレナちゃんの所へ急ぐ。

 

「なんだか面倒なことになってるね」

「はい。カレンさんはリオさんにパレードの依頼をしたいみたいですね」

「パレード……ねえ、セレナちゃん。パレードってなに?」

 

 学園長席で苦笑しながら仕事をしていたセレナちゃんが、小声でそう教えてくれたけど、私はパレードが何を意味するか知らなかった。

 テーマパークでやってるようなキラキラした奴を想像してるけど、リオちゃんが嫌そうな顔で断固拒否してるんだから絶対に違うよね。

 

「ダンジョン用語のパレードは、目的地目指して大勢でダンジョンを進むことですよ」

「へぇ、なんだか遠足みたいだねぇ」

 

 水筒とリュックを背負った一団が原っぱを歩いている姿を想像し、私はほのぼのとした気分になる。

 そんな冒険も楽しそうでありかもしれない。

 

「くふふ、遠足とは暢気で愉快な表現よ。大勢で行けばフォローが利く、それだけ負担や脱落者は減る。モンスターにも数の暴力で対処できるしの」

 

 私の呟きを聞いたカレンが、愉快そうに尻尾をぼっふぼっふと振って言う。

 確かに。皆で歩けばもしもの時に助けてくれる人も増えるし、モンスターの相手も交代でできたり便利そう。大勢で魔法攻撃すれば、モンスターに近づかれる前に全部撃退できる気さえする。

 

「こりっちゃん、騙されちゃダメだよ。大勢で攻略することにデメリットがないんなら、最初から大勢でダンジョン行軍してるに決まってんじゃん」

「あれ、確かにそうだよね」

 

 楽しそうだなーって思っていた私に、リオちゃんが騙されるなと釘を刺す。

 言われてみればその通り。大勢での行動にデメリットがないのなら、最初から軍隊だのでダンジョンを行進してるに決まってるよね。

 でも、現実はどこの国でもそんなことしていない。じゃあ、なんでだろう?

 

「ダンジョンを大勢で歩くとモンスターを呼び寄せるんよ。パーティは基本4人以下、それ以上だと過剰人数に応じてモンスター遭遇率が上がるってのが今の定説」

「モンスターの核となっている黒晶石は、感情を糧として成長しますからね。モンスターにとって、大人数パーティはご馳走が山盛りのテーブルみたいなものなんでしょう」

「一人二人多いだけなら気持ち多い程度で済むけどさ、ダンジョン庁が主催するレベルのパレードだともう地獄確定。階層中からモンスターが押し寄せて来るよ」

「う、うえぇ……。あれ? でも、この学校にだって大勢人が居るけど、そんなに押し寄せて来てないよね?」

 

 私は大勢で探索するデメリットに怯えつつ、それは変じゃないのって気づいてしまう。

 ダンジョン学園には日々大勢の人達が出入りし、常駐している。でも、学園周りにモンスターが押し寄せたのなんて、テラーニアに襲撃されたあの一回しかない。

 私がそんな疑問を口にすると、リオちゃんが呆れたようにため息をつく。

 

「そりゃこの平原エリアは世界一安全なダンジョンエリアって言われてるぐらいだし。それでもゴブリンとかはよく見かけるじゃん?」

「うん。流石にゴブリンは登校中にもよく見るよ」

「転移装置目当てに沢山の冒険者が毎日出入りして、平日は生徒も登校して、ダン特だって定期的にエリア掃討してる。……それでもよく見かけるってことは、実際は山ほど押し寄せて来てるわけ」

「あ、なるほど!」

 

 凄く納得した。皆が学校へ行くついでにやっつけてるのに、それでもよく見かけるってことは凄く沢山居るってことだもんね。

 

「ちなみに、ダンジョン学園はそれを狙って作られているんですよ。弱いモンスターをあえて引き寄せ、危険を冒して深く潜らずとも戦闘経験を積めるよう作られています」

 

 そう補足してくれるセレナちゃん。

 知らなかった。ダンジョン学園ってゲームのレベリング地点みたいな目的で作られてたんだ……。

 

「パレードはモンスターだけでなく不埒な輩も引き寄せるからの。それはもう賑やかになる予定じゃぞ」

「この変態マゾ狐、それをわかってて押し付けようとしてくるのがマジで性悪でしょ。この間配信してたパレードも、迷惑系配信者が乱入して大惨事寸前になってたし」

「こんこ、そんな愚物は賑やかしにもなるまい。ダンジョン特別戦闘部隊も参加させる故、さっさと力ずくで黙らせればよかろう」

 

 不機嫌そうな顔で睨みつけるリオちゃんを見て、カレンが一層愉快そうに笑う。

 あれはわざと怒らせて愉しんでる。間違いない。

 

「ダン特の人達も来るんだね。それなら……」

「それくらいして貰っても全然足んないんだって。適正レベルより低い冒険者を次の拠点まで送り届ける、わざわざパレードをやる目的なんてほぼそれ一択。実質、山ほど抱えた保護対象を守りながら階層越える地獄の大行進になんの」

 

 うっかり安心しかけた私の言葉を遮って、リオちゃんがカレンに非難の眼差しを向ける。

 ああ……。パレードって低レベルの人達を大勢護衛するミッションなんだ。それはキツイ。

 

「しかも今回の目的階層は十六層の紅葉林、想定人数はレベル一桁が千人越え。場違いモンスターの出現率まであがるのに、紅葉林適正レベルギリ上のウチにそれを取り仕切れとか無理難題過ぎるでしょ」

「紅葉林を千人で!?」

 

 想像の遥か上を行く人数に私は思わず目を丸くする。

 前回、クロノシアの部下二人を抱えて紅葉林を駆け抜けた。あれでさえ一苦労だったのに、千人なんてもう気が遠くなる。

 全員ちゃんと言うこと聞いてくれる訳もないだろうし、千人の中に迷惑系配信者とかが混ざってたらもう大変、地獄絵図確定だ。それは嫌だ、絶対にやりたくない。同情する。

 

「安心せよ、流石の妾も無理難題を押し付けるのは時と場所を選ぶぞ。何しろ、その先で攻略最前線を押し上げるための集団戦が控えておるからの」

「あー、ついに攻略最前線に陣取ってるあのクソデカ芋虫倒すんですか」

「そうじゃ、一歩間違えれば国が滅びかねん厄災が続いたからの。目に見えている危険なモンスターは、ダンジョンの奥で鎮座しているうちに排除したいとの意向じゃ」

「平原エリアの時には、どっかの狐が手引きしてたみたいですけど」

「おお、それは悪い輩が居たものよ。それ故、国が危惧するのもよくわかる。凶悪なモンスターが幾つもの境界を越えて地上に出て来た例は枚挙に暇がない、地上に被害なく討伐できるのならばすべきじゃろう。そして、そのための大規模な集団戦には後方サポートが不可欠。人員は数多く送り込んでおきたい所じゃ」

 

 集団戦は私でも知っている。レイドバトルとも呼ばれていて、凄く強くて大きいモンスターが現れた時、皆で協力して倒す奴だ。

 つまり今回のパレードは、攻略最前線に陣取っている強いモンスターを倒すため、戦闘外のサポート要員を大勢送り込むことを目的としているらしい。

 

「パレードにはダンジョン特別戦闘部隊だけでなくセブンカラーズも総動員する。リオはその責任者、パレードマスターに専念すればよい」

「いやいや、そんだけ戦力動員するんなら、マスターもウチじゃなくていいじゃないですか。皆変身できないウチより強いし、他の連中にやらせてくださいよ」

「それは妾はお主だけでなく、お主のパーティメンバーにも期待しておるからじゃ。黒晶石の魔王に那由他の姫巫女、おまけに頭のネジがイカれた小娘までおる。遊ばせておくにはあまりに惜しい一団であろ?」

「頭のネジがイカれた小娘!?」

 

 なんて酷い言い草! それ、他の面子的に間違いなく私のことだよね!?

 乳頭巾やら、ネジのイカれた小娘やら、要らない渾名がどんどん出てくる!

 

「くふふ、そこは別に怒ることではないぞ、むしろ最高の賛辞と心得よ。妾はお主のイカれっぷりに心底惚れ惚れしておるでの。げに愉快な観察対象じゃと思うておる」

 

 言って、カレンが楽しそうにぼっふぼっふと尻尾を振る。

 いやいや、笑いごとじゃないよぉ!? 私は微塵も楽しくない! 観察対象にまでされてるし!

 

「じゃさ、ウチ等も参加するんで長官がパレードマスターしてくださいよ。長官、ガチ強勢じゃないすか。ぶっちゃけ、深層モンスターだろうと普通に単独(ソロ)で倒せるでしょ」

「リオ、それはできるできぬ以前の問題じゃ。如何な理由で妾がそんな苦労と手間をかけねばならぬ? 面白味もない小童共を導くなど、暇人を通り越して狂人の沙汰よ」

 

 やれやれとため息混じりに首を横に振るカレン。その言葉を聞いてリオちゃんは心底嫌そうな顔をした。

 うん、それを今現在押し付けられそうになってるんだもんね。せめて言葉は選んで欲しいよね。

 

「じゃ、ウチもそれ嫌なんすけど」

「そうかそうか、そこまで嫌か」

「嫌です」

 

 きっぱりと断るリオちゃん。

 よく言えた、偉い! この勢い、私なら絶対に押し切られてた。

 

「こんここんこ、なら仕方あるまい。小娘、さっき遠足と言ったの?」

「え? う、うん」

 

 って、そこで私に会話が飛んでくるの!? 雲行きが怪しい、嫌な予感しかしない。

 私は思わずセレナちゃんの顔を見る。セレナちゃんは困ったように苦笑いしていた。もはや悲劇は必然だった。

 

「お主の要望に応え、今年度のダンジョン学園の行事に遠足パレードを追加してやろう。目的地は紅葉林経由で攻略最前線じゃ」

 

 ほら、やっぱりおいでなさった。

 学園長室でこんなやり取りをしていたんだから、カレンは最初っからそうすると決めていたに違いない。

 それなら、私の迂闊な一言でいいこと思いついちゃった、みたいな顔で言わないで欲しかった。

 

「無論、パレードマスターはリオじゃ。童心に帰って遠足を愉しんで来るがよいぞ」

 

 絶望する私とリオちゃんの顔を見て、九本の尻尾をばっふばっふと今日一番大きく振るカレン。

 あの盛大な振り方、もう楽しくて仕方ないって感じだ。このいじめっ子妖怪!

 

「こんこ、こんこ。これで妾は余計な手間から解放され、愉快な観察対象が右往左往する様を遠巻きから眺められるという訳じゃ。ああ、愉快愉快。他人事ならば愉しみで堪らぬ催しよ」

 

 カレンは清々した顔で耳と尻尾をぽんと隠すと、硬直した私達が文句を言いだす前にさっさと退散していくのだった。

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