魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第9話 行進の巫女2

「ああ、もうマジで鬱い。ダン学生徒に大企業の人やらが目白押しとか責任重大過ぎんだけど」

 

 かくしてパレード当日、先んじて紅葉林拠点でスタンバイしているリオちゃんは、防壁の上で死んだ魚のような目をしていた。

 リオちゃんは真っ赤な髪に乗っかった真っ赤な落ち葉を払いもせず、お得意のダンジョン配信も一切していない。その憂鬱な心境がありありとわかった。

 

「ふむ、リオの奴もとんだ大役を任されたものだな」

 

 そんな姿を防壁の下から見上げ、クロノシアが私に話しかけてくる。

 

「うん、嫌がってたけど無理矢理ね。クロノシアの方は大丈夫なの? 千人以上も魔力登録しなきゃいけないけど」

 

 言いながら、私は顔の横に浮かべたスマホでパレード配信の様子を確認する。

 パレードは紅葉林拠点までと、攻略最前線にある拠点まで、二日間に分けて行われる予定になっている。初日はこの拠点の転移装置で魔力登録してダンジョン学園に帰還する予定だ。

 そして今現在、パレードは集団の半分ぐらいが紅葉林に入った所で、大勢でのダンジョン探索というよりも、人でごった返した観光地みたいになっている。

 当然、参加者の気分も緩みに緩んでいて遠足気分丸出しだ。

 

『数が、数が多いぞ! 援軍は、援軍はまだかよ!?』

『クソッ! また黒晶石個体だ! 場違いモンスターまでご登場だぜ!』

『こちら、三班のハンナ! モンスターと交戦して腕が取れました! ヒーラーさああん! 早く私の腕くっつけてぇぇ!』

 

 一方、クロノシアの持っているダンジョン庁のタブレットからは、ダン特の人達の叫び声が絶えず聞こえてくる。

 酷い、温度差があまりにも酷い。風邪ひきそう。リオちゃんが難色を示していた理由が一発で理解できてしまった。

 

「……なんか、ダン特の人達は凄く大変そうなことになってるし」

 

 私はクロノシアのタブレットを視界に入れないよう、目を逸らしながら言う。

 絶対凄惨な光景が映ってる。見たら確実にトラウマになる。

 

「余の方は心配無用だ。事前に打診を受け、参加者を全員収容できる算段がついているから引き受けている。ダン特へのサポート体制も万全だ」

「そっか、流石だね。後は皆ちゃんとここまで来れるといいんだけど……セレナちゃん、初日の方がモンスターが出てくるんだったよね?」

「はい、パレードの通例通りなら初日の方が荒れます。なにしろ、発生している近隣階層全てのモンスターがパレード目掛けて押し寄せてきますから」

「うへぇ、あの様子じゃ護衛についてるナナミちゃん達の苦労が思いやられるよ……。ミコトちゃんも責任重大だね」

 

 今回はナナミちゃん達がパレード周りの警護を固め、他のダン特やセブンカラーズのパーティが散開しながら現れた大物を潰していく。そんな手筈になっている。

 そして、即死してても治せる凄腕ヒーラーのミコトちゃんも、この拠点に待機して緊急の怪我人を癒す重大な役目を担っているのだ。

 

「おおー、拠点が凄く広くなってるのです!」

 

 そんなミコトちゃんはミレイに拠点を案内されて目を輝かせていた。いつも通り天真爛漫マイペースだ。

 確かミコトちゃんはラフィールの件を解決してから紅葉林拠点に来てないはず。拠点の発展ぶりにさぞびっくりしたことだろう。

 

「そうにゃろ、そうにゃろ。近くに魔石採掘場があるここは重要拠点扱いで、今後は農業実験とかも予定されてるからにゃ。いずれここで完全自給自足できるようになるにゃ」

「あれ、近くに魔石採掘場がってことは、結局魔石採掘場内部に拠点は作らなかったんだね」

「うむ、そちらは暫く先のことになるようだ。あの時ミコトが閉じなおしたが、それでもまだ開門の影響が残っているらしい」

 

 クロノシアの言葉に、ミコトちゃんの動きがぴたっと止まる。

 

「そうなのです! クロノシア、大切なことを聞きたかったのです。開門した地下組織、どんな組織かわかったのですか?」

「いや、上からの報告は受けていない。だが前回の事件後、何者かが採掘場の研究所跡地に侵入した形跡があったらしい。今現在も暗躍中なのは確かであろうな」

「むむー」

 

 クロノシアの芳しくない回答に、ミコトちゃんが難しい顔をしてうなる。

 自分の好きなことへ日々全力疾走なミコトちゃんが、終わった事件に興味を示すなんて珍しい。

 

「ミコトちゃん、やっぱり同じ開門能力者として気になる?」

「あのへたっぴな開門は那由他会の鍵巫女、知り合いの仕業かもしれないと思っているのです。事件に巻き込まれていないか心配なのです」

「その子と連絡はつかないんだ」

 

 私の言葉にミコトちゃんが小さく頷く。

 

「エリュシオン様に天誅をくだされた後、メイは那由他会に残ったのです。そして気づけば、連絡手段がなくなっていたのです」

 

 メイちゃんと言うらしいその子を思い出したのか、ミコトちゃんがしょんぼりと項垂れる。

 旧那由他会はエリュシオンに潰されるようなバリバリ暗黒な地下教団。そこの重要人物なら、容易に接触できないのは当然だろう。

 

「昔の私は世間知らずだったのです。メイも私の後を追ってすぐについて来る、根拠もなくそう信じていたのです。あの時、メイも無理矢理引っ張って連れ出すべきだったのです」

「そっか……でも便りがないのは元気な証拠って言うから、あんまり気にしないでおこうよ。まずはパレードに集中しよう、ミコトちゃんも大役を任されてるんだから」

 

 今も大概世間知らずだけどね。って心の中で思いつつ、私はしょんぼりと項垂れるミコトちゃんを慰める。

 世間様に多大な迷惑がかかることをしていた以上、私に壊滅させられたのは自業自得。

 とは言え、ミコトちゃんにとって大切な絆を引き裂いてしまっていたことに、私は少しだけ申し訳ない気持ちになった。

 

「わかったのです。クロノシア、続報があれば報告をお願いするのです」

「うむ、任せておくがよい。余はこのエリアの管理人みたいなものだからな」

 

 その言葉を聞いて一先ず安心したのか、ミコトちゃんは大きな胸を腕で挟み込むようにしてむっふと気合を入れ、暗くなりかけていた周囲の雰囲気を切り替える。

 

「悪いね。ウチがこんなことに巻き込んでなきゃ、今から採掘場調べに行けるんだけど」

 

 そこで上に居たリオちゃんが飛び降りてきて、私達に向かって申し訳なさそうな顔をする。

 

「そこは気にしないで。リオちゃんやミコトちゃんには申し訳ないけど、元々私は攻略最前線に行きたかったから」

「あー、ラブさんとクロノス社の関係ね」

 

 納得するリオちゃんに、私は頷く。

 実の所、カレンが無理矢理推し進めてくれたのは渡りに船でもあった。

 クロノス社の社長がラブリナさんの欠片を手に入れたのは攻略最前線で、ラフィールも先へと進めと言っていた。

 だから、ラブリナさんとセレナちゃんの問題を解決するには、攻略最前線、そして更にその先へと進む必要がある。私はそう考えている。

 

「私もそんなに苦じゃありませんよ。これもこりすちゃんとの冒険に違いありませんから」

 

 そんな私の横でにっこりと笑うセレナちゃん。

 思えば、カレンに押し付けられた時も割と静かだったもんね。カレンと舌戦で殴り合えるセレナちゃんは、嫌だったらあの場で即座にノーって言っていたはずだ。

 ただ、ラブリナさんが欠片を取り込んでから、セレナちゃんはまた少し体調が芳しくない。今回は安静にして休んでいて欲しかったって気持ちは少しだけある。

 

「そう言ってくれるとウチも助かる。後はセブカラの面々が文句言わずに大人しくしてくれればいいんだけど、今のウチって引退した部活の先輩が我が物顔で仕切ってるみたいなもんじゃん? まあ、よくは思われんよね」

 

 私達の言葉に少し表情が緩みかけたけど、また憂鬱そうな顔に戻ってしまうリオちゃん。これは重症だ。

 

「そうなのです? 前回の冒険の時、ナナミは逆にリオを参加させたがっていたように見えたのです」

「そりゃナナミはダン特兼任だし、元々そういうの気にしない性格だからさ。けどセブカラは国家公認魔法少女、選ばれしアイドル気分が抜けてないのも居るんよ」

「ふむ、エリュシオンやお前達を見ていると忘れそうになるが、一口に魔法少女と言っても千差万別なのだな」

「そりゃね。あんだけチヤホヤされてりゃ、昔の私含めて多かれ少なかれ調子に乗るに決まってるじゃん。やっぱエリュシオンみたいに高潔にはなれんね」

 

 なんかごめん。上手いこと神秘のベールに隠れてるだけで、残念ながら私はそんなに立派じゃないんだよ……。

 エリュシオンを褒められて誇らしげなミコトちゃんの横、私は黒い髪を隠すようにすっぽりと赤いフードを被って縮こまる。

 そんな私の姿を見て、凄くにこにこしているセレナちゃん。重い、その眼差しと皆の評価が重い。心がカタツムリになる……!

 

「特に今回はルミカ……セブンカラーズダイヤの設楽瑠美香(したらるみか)って奴がうるさくてさ。指示厨みたいにああしろ、こうしろって言ってきて、挙句は独断行動させろときた。ウチの憂鬱さの三割ぐらいはアイツのせいだね、間違いなく。アイツ絡みのトラブルだけは絶対に遠慮だよ」

 

 半ば祈るように言うリオちゃん。

 そのポケットからふわりとスマホが浮き上がり、リオちゃんの目の前で大きく振動した。

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